最近眠気と疲れが取れない。何か良い方法ないですかね?
「なっ・・・・・・」
雄一の拒絶に、リインフォースは絶句した。
確かに、雄一の対応は間違いではない。
雄一が言わなければ、自分が言っていただろう。
だが、今にもこぼれそうなほどに涙を湛えているはやてを見ては、もっと言いようもあったのではないか、と思わずにはいられないのだ。
「榊雄一、主の思いも酌んでは」
「――――」
言い募ろうとしたリインフォースだったが、雄一に向けられた視線に言葉を失った。
リインフォースが勢いを無くしたことを悟った雄一は、はやてに向き直ると、声をかけた。
「はやて」
「雄君・・・・・・なんで判ってくれへんの?」
泣きそうになりながらも訴えるはやて。
その様子に、雄一は頭を掻くと、はやての両肩に手を置き、顔をのぞき込んだ。
「はやて、俺がなんで駄目だと言ったと思う?」
「・・・・・・私が弱いから、か?」
「ちょっと違う。正直に言うと、はやては現状でもそれなりの強さはある。元々の魔力量に、夜天の書に収容された多数の魔法だってある」
「それなら」
かまわないではないか、と詰め寄ろうとするはやてを、だが雄一は、だけど、と遮った。
「まず、経験が足りない。魔法に触れて一週間経ってないのに、殺生設定になっているだろう相手とやらせる訳にはいかない。次に、夜天の書の魔法が多すぎるのが問題だ」
「どういうこと?」
「聞くけどはやて、夜天の書にどんな魔法があるか、全部把握しているか?」
「っ、それは」
「まだだろうな。その中から、最適な魔法を選択するのがユニゾンデバイスの仕様だった、と俺は聞いているが」
と、雄一はリインフォースへと目を向ける。
リインフォースは視線に込められた確認に、渋々頷いた。
リインフォースの肯定に、雄一は説明を続ける。
「選択肢が多すぎるんだ。使うべき魔法を選ぶ勘はさっき言った経験で養うものだしな」
「・・・・・・」
「けど、それも相手が闇の欠片なら問題はなかった」
「え?」
「マテリアルが俺たちのリンカーコアをベースにしている、って予想はついたんだけど、俺達の力がそのままコピーされているのか、リンカーコアを核にした器にそれぞれのマテリアルの力が入っているのか。その確証がないんだ」
今のところ前者が有力だ、と言う雄一。
雄一の確認した限り、雷刃の襲撃者も闇統べる王も魔力光はフェイトやはやてと同じだったからだ。
その説明にリインフォースは雄一の言わんとする問題に思い至った。
「デバイスの有無か?」
「え?」
「正解」
同じ能力を持っているのなら、他に差を生む要因として挙がるのはデバイスだ。
だが、はやては夜天の書という巨大ストレージと杖として機能する剣十字はあれど、動作をサポートする機能を担うリインフォースの機能不全による誤差がある。
一方、マテリアルは夜天の書や剣十字そっくりのデバイスは持っているが、あれで十全なのか、、魔法の運用に斑は見られない。
スタートが同じでも、処理能力の差で、時間が経てば押し切られるのははやてだろう。
「そんな・・・・・・リインフォースが悪いんやない!私がもっと強かったなら」
「卑下するのもストップだ。はやて、一つアドバイスをするなら、その差を埋めるだけのものを用意できればいいんだ」
そういうと、雄一は肩に置いていた手を滑らせ、はやての手を取る。
そのまま、雄一ははやての手を両手で握ると、耳元に顔を寄せた。
「――――」
「え?」
「さて、」
目を丸くするはやてにかまわず、雄一はスッと身を離し、カナメに魔法を展開させる。
「それじゃはやて、ゆっくり考えるといいよ」
「さ、榊雄一!? 一体何を!?」
突然のことに、挙動が遅れたリインフォース。
その眼前ではやての姿が掻き消える。
転移魔法ではやてを結界外に出したと判断したリインフォースは、雄一を問い質す。
「榊雄一! 主はやては!?」
「雄一でいい。それで、はやてだけど安全なところに送った。問題ないだろ。はやてを危地に置いておくのはお前も反対していたんだから」
「それは! 確かにそうだが、」
雄一の指摘に、怯むリインフォース。
だが雄一は彼女の様子に構わずに、先ほどはやてがいた場所へと言葉を投げた。
「
「雄一? 何か言ったか?」
「・・・・・・いや、なんでもない。それじゃ、いくぞ!」
雄一の奇行を訝しむリインフォースをはぐらかし、雄一は身を潜めていたビルから身を躍らせた。
「ほう? 小細工は用意できたか?」
闇統べる王は、先ほどの場所で傲然と構えていた。
煙に巻かれ逃がした怒りは既に抑えられているようで、表向き落ち着いて見える。
ふと、闇統べる王は雄一達の面子が足りないことに、む、と眉をひそめた。
「ん? 子鴉はどうした?」
「さてね」
「・・・・・・」
闇統べる王の問いをはぐらかす雄一。
だが、リインフォースは表情を僅かに揺るがせ、雄一に目を向けてしまった。
闇統べる王はその反応に、雄一が何かをしたと当たりをつけた。
「どうやら、貴様が何かしたようだな? 何をした?」
この結界は施術者が解除するか、強引に破壊しない限り、内部からの脱出はできない仕様だ。
それを突破した手腕に興味が湧いたのだ。
だが、
「さあ?」
「・・・・・・ま、まあいい。我も王として、愚民の声を聞き流す度量も「というか、答えてもらえると思ってるのか? さっき同じ問答をしたっていうのに。流石王様、記憶力も俺達とは違うようで」・・・・・・」
再び誤魔化され、湧いた怒りを必死に押さえ込もうとする闇統べる王。
だが、その思惑は、その言葉に被せるように雄一が放った挑発で吹き飛んだ。
据わった目つきで、雄一達を睨むマテリアルは、杖を握る手に力を込めて杖を軋ませた。
「一度ならず二度までも、王たる我を愚弄しよって・・・・・・いいだろう! そんなに死にたいのなら、子鴉より先に貴様等を仕留めてくれるわ!」
怒声とともに、闇統べる王は杖を振るう。
杖が空気を裂くと同時に、白いベルカ式の魔法陣が展開され砲撃が雄一めがけて放たれた。
「しくじるなよ!」
「判っている!」
迫る砲撃に雄一達は左右に分かれた。
雄一は僅かに身を逸らし、砲撃を掠めるようにして避けると身を低くして一気にマテリアルめがけて間合いを詰める。
「ナイトメア!」
残ったリインフォースは砲撃を放ち迎撃する。
ナイトメアが闇統べる王の砲撃と衝突し、相殺したが衝撃が両者を襲った。
「ちぃっ!?」
「もらった!」
衝撃を防ぐため片腕を顔の前に持ってきていた闇統べる王の隙をつき、間合いを詰めた雄一が<デル・ドーレ>の能力で引き絞っていた拳を抜き撃った。
拳は闇統べる王へと迫り、しかし障壁とぶつかり轟音を上げた。
今度は雄一が舌打つ番だった。
「ちっ! どういう理屈なんだよ、この障壁は!」
「教える義理は無いわ!」
「そりゃそうだ! だから、」
応じながら、能力を<フェル・ディア>に切り替え、再度拳を障壁へと叩きつけた。
「蝕め、<フェル・ディア>!」
「ふ、無駄なことを、なに!?」
障壁の理屈を知らず殴りかかる雄一の姿を嘲笑おうとした闇統べる王は、次の瞬間砕け散った障壁に目を見張ることとなった。
予想外のことに固まった闇統べる王めがけて、雄一はさらに拳を打ち込んだ。
広域せんめつ相手に距離を取っては、格好の的になるのが目に見えている。
だから、雄一は距離を開けさせることなく、仕留めなければならない。
だが、マテリアルもすぐに我に返り回避したため、拳は袖を掠めるばかりだった。
「くっ、離れぬか!」
苛立たしげに吐き捨てた闇統べる王は腕を鋭く振るって新たな魔法を発動させる。
現れたのは大量の赤いナイフ。
闇の書の暴走体が使ったブラッディ・ダガーだった。
「っ、この!?」
触れれば爆発する性質があることを思い出し、雄一は大きく距離を取らざるを得ない。
勝機、と考えた闇統べる王はニヤリと笑んだ。
「これで終わりのようだな、塵芥! 闇へと沈め、」
「だが断るってな! 食らえ、<クーア・ルンゲ>!」
デアボリック・エミッションを発動させようとした闇統べる王に先んじるように、雄一は腕を振るいつつ叫んだ。
瞬間、マテリアルの腕が衝撃と共に弾かれた。
「ぐ、な?」
突然の衝撃に目を見張る闇統べる王。
彼女が知る<クーア・ルンゲ>は、触れたものを振動させるものであり、糸を震わせて斬り裂くといった使い道だったはずだ。
だが、今雄一は彼女から離れた位置にいる。
だから、雄一が何をしたのかマテリアルには解らず困惑した。
その困惑を衝くように第二第三の衝撃が叩きつけられる。
「くっ、調子に乗るでないわ!」
「ちっ!?」
裂帛の気合と共に噴き上げた魔力に、雄一は顔をしかめると体勢を整えた。
場が仕切り直されたことに、雄一を睨もうとした闇統べる王。
その時、彼女の視界に何かが過ぎった。
僅かな光に反射する極細の何か。
風に滔ゆたうそれを摘み上げ、闇統べる王は首を傾げた。
「? これは・・・・・・糸? ・・・・・・!?」
その正体に思い至った瞬間、闇統べる王の脳裏で先ほどの衝撃の正体が閃いた。
「衝撃の伝導か!」
「気がつかれた、か」
それが聞こえた雄一は苦い顔で、袖口から一本の針を滑らせた。
針には糸が通されている。
「一種の暗器みたいな物でな。これをさっきの接近戦のときに縫い付けていたってわけだ。ただ、まだ研究の余地がありそうだけどな」
先ほどの<クーア・ルンゲ>は、人の身体などあっさり挽肉に変えられるほどの力を篭めていたのだが、距離と糸の緩みで、大きく減衰されてしまい多少強い打撃程度の威力しか残っていなかった。
その結果に顔をしかめる雄一に対し、手段を見破った闇統べる王は鼻を鳴らし、唇を歪めた。
「だが、取って置きも破られたようだな。だが、タネは知れた。なかなか良い働きであったぞ? 今度は我の番」
「
「何?」
言葉を遮る雄一の否定。
負け惜しみかと、闇統べる王は雄一を睨むが、雄一は笑みを崩さず、
「
闇統べる王の背後へと目を向けながら言った。
「何? ・・・・・・っ!?」
その意味を悟った闇統べる王は、振り向き様杖を背後へと振り抜いた。
脳から欠落していたのは、リインフォースの存在。
最初の撃ち合いから、彼女は姿を見せていない。
てっきり、雄一に任せて回復に努めていると思っていたが。
伏兵だったのか、と杖を振り抜きながら、だが闇統べる王は笑う。
(最後に詰めを誤ったな!)
雄一の視線で背後に迫っているだろう事は読めた。
ならば、魔法を撃つよりも自分の振るった杖の方が早く相手を捉える。
確信しながら、伏兵の存在を溢した雄一の
虚空を薙いだ。
「・・・・・・え」
手応えの無さに凍りつく闇統べる王。
その時、先ほどまで雄一達が身を伏せていたビルの背後から、飛び出した影が叫んだ。
「