リリカル世界を逝く影執事   作:ラッテンフェンガー

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第百五十四話 種明かしと失策

「な、何故だ!? 何故、子鴉がここに!?」

(掛かった!)

 

思いもよらない相手が現れ、完全に思考が固まってしまった闇統べる王の姿に、雄一は策が填まった事を悟った。

何故はやてが現れたのか、そもそもここにいるのか。

だが思い出してみてほしい。

そもそもとして、雄一ははやてに転移魔法を使ったとは一言も言っていない。

雄一は、ただ安全な場所に送った、と言っただけだ。

その実、雄一がはやてに使ったのは、隠匿と防御の結界で隠すということ。

はやて自身は変わらず、ビルの陰に潜んでいたのだ。

では何故、そうしたのか。

それを説明するために、まず雄一がはやてに突きつけた、現状のはやての課題について触れよう。

雄一がはやてに突きつけた問題、実は形を成していないのだ。

 

魔法に触れて日が浅い?

同じ状況だったなのはを容認しているのだ。

今更はやてを認めないのは筋違いだろう。

 

経験が足りない?

ならば積ませればいい。

相手の状態が万全でありながら、手の内が分かっている、なんて状況が整っていることがそうあるわけがないのだ。

ならば、むしろ今の状況を利用してしまえばいい。

 

使える魔法が多すぎる?

ならば使える魔法をいくつかに絞ってピックアップしておき、検索の手間を削ればいい。

そして、用意した魔法の内、元の火力の強いものを強化して放てばいい。

 

そこまで決めてしまえば、後はどう御膳立てをするかだ。

まず結界で、はやてを隠し、エルミナを手を握る動きに紛れて手渡すことで、作戦の伝言を任せる。

そうやって、はやてから目を逸らさせるのが第一段階。

それは、はやてに十分な威力を持った攻撃を用意させるための時間稼ぎだ。

雄一とリインフォースが相手では、闇統べる王も二人を放置しはやてを狙いに行く事はない。

だが、この方法で問題になるのは、闇統べる王が同様の攻撃を放ったとき、相殺されてしまう可能性があることだった。

ならば強化してしまえばいいのだが、ここで問題になるのは強化の方法だった。

夜天の書や剣十字にはカートリッジシステムは搭載されていないのだ。

 

そこで、雄一が選んだのがはやてとの契約を利用することだった。

だが、そのためにはエルミナかカナメを渡す必要がある。

雄一としては、カナメを渡してもよかったのだが、既に闇統べる王が目にしているため、いきなり無手で出るのは不自然だろう。

そこでエルミナをはやてに渡したのだが、新たな問題があった。

まず、エルミナはカナメに比べて、サポートとしての機能に特化している。

その機能は、魔法使用の補助だけでなく、契約の異能を活かすことにも特化している。

エルミナを渡してしまったことで、雄一は鋼糸と銃を使えなくなってしまうのだ。

それを悟らせないように、暗器の糸を利用したのだが、上手くいったようだ。

 

「させるかぁ!」

 

硬直が解けるや、闇統べる王も杖を振るい魔法陣を展開すると、魔力を収束させ始める。

障壁で受けきるのではなく、おそらく同程度以上の威力をもって押し切るつもりのようだ。

 

だが、雄一も黙ってそれを許すつもりはない。

 

「だからやらせねえって」

「な!?」

 

焦りのあまり、はやて以外のことを失念していたらしい闇統べる王の背後から、雄一は彼女を羽交い締めにする。

魔力の供給が途切れ障壁が解かれる。

 

「き、貴様!? 離せ、離さぬか!」

「断る。このまま抑えておけば、こっちの勝ちなんだから」

「だ、だがこのままでは貴様も飲み込まれるのだぞ!?」

「問題ねえよ。だって死ぬことはないんだからな」

 

暴れる闇統べる王を押さえ込みながら、たぶん、と雄一は内心付け加えた。

実際雄一は死ななければ、<デル・ドーレ>で回復できる。

<デル・ドーレ>はその点では非殺生設定とは相性がよかった。

ただし、あくまで防げるのは魔力ダメージに対してであって、瓦礫などで頭部や胸部を破壊されれば、雄一とてただでは済まないため、今目の前で放たれようとしている魔力を見ていると、その自信も揺らいでいるのだが。

 

「くっ、やむをえんか!」

「何?」

 

突然弱まった抵抗に、訝しんだ雄一は眉をひそめる。

そのとき、雄一は僅かに力を緩めてしまった。

瞬間、雄一の眼前に開かれた本が突き出された。

それに驚くまもなく、雄一は弾き飛ばされていた。

 

「なっ!?」

『主殿!』

 

雄一が自分の体に掛かる力を認識するより、そしてカナメの警告を理解するより早く、雄一はビルの壁に叩きつけられた。

雄一の体はそのまま壁を突き破り、土埃を巻き上げて止まった。

だが、闇統べる王はその結果を最後まで見ずに、現状一番の脅威であるはやてへの対処を思索する。

今からエクスカリバーを展開しても、はやての魔砲以上の威力は生まれず、呑み込まれるのは闇統べる王だろう。

障壁も耐えきれず破られてしまうことは想像に難くない。

では、どうするか。

 

「こうするまでよ!」

 

闇統べる王は展開する魔法をエクスカリバーからブラッディ・ダガーへと切り替える。

威力が望めないならば、より素早い攻撃で発動を潰せばよい。

並列して行ったシミュレートでも、はやての発動に先んじて闇統べる王のブラッディ・ダガーが入る。

今度こそ勝利を確信する闇統べる王。

だが、

 

「とった!」

 

その背後から飛び出したリインフォースが闇統べる王をバインドに捕らえた。

 

「何ぃ!?」

 

リインフォースが雄一から聞かされた作戦。

それは雄一が隙を作るから、魔法に紛れて姿を隠したら何があっても冷静に見ていることだった。

聞いたときには雄一が何を意図しているのか解らずにいたが、はやてが飛び出してきたことに驚くと共に、納得がいった。

おそらく、詳しくでないとはいえ作戦の存在を聞いていなければ、闇統べる王同様に驚き、冷静さを失って姿を見せていただろう。

しかし、実際はそうはならず、雄一を下してはやてに集中することで、リインフォースのことを失念していた闇統べる王の背後を、リインフォースは簡単に取ることができたのだ。

 

「お、おのれ! 役割も果たせなくなった融合機風情がぁ!?」

「無駄だ。お前がバインドを解くより、

 

バインドを砕こうと、あがく闇統べる王を見下ろしながら、リインフォースは翼を羽ばたかせて離れる。

 

「主の方が早い」

 

ハッ、とはやてを振り向いた闇統べる王の目に、杖を振り上げたはやてが留まった。

 

「響け、終焉の笛!」

「こ、子鴉ぅうう!」

「ラグナロク!」

 

はやてが杖を振り下ろした途端。

魔法陣から迸った白銀の魔力砲が動けぬ闇統べる王を呑み込んだ。

 

 

 

 

「・・・・・・痛ぅ」

 

ビルの中。

壁に埋もれていた雄一は呻きながら身を起こした。

体の上に乗っていた瓦礫を落としながら立ち上がる。

 

『気がついたか、主殿』

「カナメ・・・・・・何があった?」

 

雄一が意識を取り戻したことに気がついたカナメが声をかけると、雄一はカナメに説明を求めた。

カナメの説明で、雄一は自分を襲った現象の正体を推測する。

雄一を襲った力。

あれはどうやら、闇の書の蒐集機能を利用したものらしく、蒐集で引き寄せた対象を異物として認識させて吐き出させるようだ。

対象は突然の視界の変化に対応しきれず、雄一も距離を空けられてしまったらしい。

 

「それで、壁を突き破った衝撃で気絶していた、と。カナメ、俺はどれくらい気を失っていた? それに、はやて達はどうした?」

『気を失っていたのは、数分程度じゃ。もう一方は』

「雄ー君ー!」

 

カナメの答えを遮った声に、雄一はビルの外へと目を向けた。

結界の夜空を背に、はやてを抱き抱えたリインフォースの姿があった。

 

「あれは?」

『さて。直接確かめればよかろ』

「そう、だな。はやて、リインフォース! こっちだ!」

「雄君、無事やったんやね! リインフォース、お願い!」

「はい、我が主」

 

雄一の声に気がついたはやては顔を輝かせると、自分を抱き抱えているリインフォースに、移動するよう頼んだ。

はやての頼みを聞き、ビルの側まで飛んできたリインフォースに、雄一は質問した。

 

「それで、どうしたんだ、はやて? その状態は」

「あはは・・・・・・実は、燃料切れといいますか・・・・・・もう、スレイプニールを維持することもできんくて」

「さっきの一撃に文字通り全力を叩き込んでいたわけだ」

 

言葉通り、疲労困憊といった様子でリインフォースに抱えられているはやてに、思わず呆れの籠もった視線を向けてしまう雄一。

その視線から、目を泳がせるはやての姿に苦笑しつつ、リインフォースは雄一に礼を言った。

 

「それより・・・・・・ありがとう、雄一。主はやての思いを酌んでくれて」

「そう言われてもな。俺も最初ははやてを遠ざけようとしたんだぞ?」

 

だが、リインフォースの礼に雄一は、唇をへの字に曲げる。

雄一がはやて達に任せようとしたのは、その方が生け捕りに都合がいいと思ったからだ。

それ以上の他意は・・・・・・多分、ない。

 

「・・・・・・まぁいい。それで、マテリアルは?」

 

渋面を浮かべたまま、雄一も話題の転換を図る。

すると、はやて達は気不味げに顔を見合わせた。

 

「あー・・・・・・そのな?」

「実は・・・・・・」

「どうした?」

 

その様子に嫌な予感を覚え、雄一が再度問うと、二人は頭を下げた。

 

「実は、やってしもたみたいで」

「・・・・・・ん?」

 

二人が言うには、

はやてのラグナロクは、バインドによってシールドを張れずにいた闇統べる王を呑み込んだ。

だが、はやては魔力の枯渇で飛べなくなりそうで、リインフォースも慌ててカバーに入ったため、彼女がどこに落ちたのか、はっきりとしなかったらしい。

とりあえず、砲撃の軌道をなぞるようにして飛んだが、それらしき痕跡は見あたらず、引き返して雄一を捜したらしい。

 

「・・・・・・そうか」

 

はやて達から経緯を聞いた雄一は、それだけをこぼした。

その言葉の少なさが、雄一の落胆を示しているようで、はやては思わず身を縮ませる。

もちろん、雄一にははやてを責めるつもりはない。

正直に言えば、リインフォースがバインドに成功した時点で、確保することもできただろう可能性を考えれば、今回の始末は失敗といえるだろう。

だが、闇統べる王は雷刃の襲撃者同様消えたことだろうが、元々このアイデアを提供したのは雄一自身だ。

当然、この事態も想定されて然るべきことであり、はやてに落ち度はない。

ならば、今回ははやての経験への授業料とでも思っておくのがマシだろう。

 

「雄君、ホンマにごめんな?」

「私からも謝らせてくれ」

 

なおも縮こまるはやて達に、雄一は気にするな、と手で示すと、気を取り直すように頭を振ってカナメに転移魔法を展開させた。

 

「それじゃ、俺は次に行くから。はやて、ここの始末は頼んでいいか?」

「判った! 私に任せてな! これ位は役に立たへんとな!」

 

力強く頷くはやてに、頷くと雄一は姿を消した。

 

 

 

 

ただ、雄一はミスを犯した。

結界が消えていないことをただのタイムラグだと考えていたこと。

彼の転移魔法が<アルス・マグナ>の影響か、変化しており、結界の影響を受けていなかったことを知らなかったこと。

それどころか、彼は転移魔法の変質についても感知していなかったこと。

 

 

「・・・・・・行ってしもたな」

「そうですね、我が主」

 

雄一の消えた痕を見つめ、二人は零した。

今回の戦いは、雄一に御膳立てを整えてもらってのものだった。

だが、次こそは、

 

「次は、私らだけでできるようにならんとな」

「きっと、いえ、主はやてなら絶対になれます」

「あはは、その期待にしっかり応えなあかんね。ほんなら、早く結界を解いて出よか」

「はい・・・・・・っ、我が主!」

 

ふと、異常を悟ったりインフォースははやてを庇うように構える。

突然の行動に戸惑うはやて。

だが、リインフォースははやてに応じる余裕も無く、辺りに目を走らせ、

 

「・・・・・・貴様等・・・・・・ただでは済まさぬ・・・・・・」

「あれは!?」

 

視界の一点、所々に傷を負った様子で姿を見せた闇統べる王を捉えた。

闇統べる王の形相は激しく、彼女の手には紫の魔力が集まっていく。

魔力が集まるにつれ、徐々に不吉な揺れが結界を揺るがせていく。

 

「な、なんや!? あの魔力!?」

「あれは! 不味い!?」

 

はやてはその魔力の大きさに驚き、リインフォースは自分では消耗したはやてを守りきれないことに歯噛みした。

その間にも、無情にも魔力は集められていく。

 

「こうなれば・・・・・・結界ごと貴様等を葬ってくれるわ!」

「くっ!」

「リインフォース!」

 

せめて、僅かでも被害を防げれば、とはやてを抱きしめ闇統べる王に背を向けるリインフォースと、彼女の行動に目を丸くしながらも、魔力の枯渇で障壁を張れないはやて。

二人めがけて、暴走させられた魔力が解き放たれ、

 

「うわぁあああああ!!??」

 

空気を切り裂いた衝撃と共に、悲鳴が響き渡った。

 




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