桃色の光が衝突し、空気を震わせながらお互いを食い破ろうと激しく火花を散らす。
光の衝突は次第に勢いを失っていき、同時に力尽きることで決着を迎えた。
だが、光を放った両者は既に次弾の装填を終え、同時に構えた杖から撃ち放った。
「アクセルシューター!」
「パイロシューター!」
「「ファイア!」」
ツインテールにした茶色の髪と白いバリアジャケットを靡かせてなのはが撃った誘導弾十二発が、同時にマテリアルが撃った誘導弾十二発とぶつかり合う。
『――主よ』
「何だ?」
光の飛び交う空を傍のビルの屋上のフェンスに凭れるようにして眺めていた雄一は、二人から視線を外さないままカナメに応じた。
『何を考えておったのじゃ?』
「いや、あの二人の戦いを見ていたら、仮説が間違っていたか、とね」
つい先ほどはやてに語った仮説。
つまり、マテリアルがなのは達リンカーコア蒐集の被害者のコピーなのか、被害者の情報を元にして作られた器にマテリアル自身の情報を注いだものなのか、という問題だ。
雄一ははやてに言ったように前者だと考えていたから、はやてに御膳立てを整えるようにしたが、今目の前で広がっている空中戦を見ていると、どうやら、後者なのではないかと思いだしていた。
『何故そう思うのじゃ?』
「なのははここに来るまでに、何戦かやってダメージは負っているはずだし、疲れもあるはずだ。その疲れは当然魔法の出力にも影響する。それなのにマテリアルと互角って事は、あのマテリアルはなのはより基本的な出力で劣る、ってことなんじゃないか?」
言葉の途中で砲撃魔法が衝突し、今度は一方が打ち負けた。
打ち破った砲撃――なのはの砲撃はそのままマテリアルへと迫るが、マテリアルは素早く身を翻して回避してみせる。
「っ、流石にやりますね!」
「そっちこそ!」
素早く構えを取り直し、向き合うなのは達はお互いの健闘を称えるように微笑みあう。
「砲撃撃ちあって笑顔って・・・・・・何やっているんだ、あの二人は?」
しかし、その様子を見ていた雄一は、なのはもやっぱり士郎さん達の娘だな、と何処か達観しながら、先ほどのことを思い出した。
「見つけた!」
はやてと別れ、いくつかの結界で新たに発生した闇の欠片と戦い、次の結界に飛び込んだ雄一の目が、見慣れたバリアジャケットを捉えた。
「なのは!」
「雄一君!? 何でここに!?」
なのはは突然の声に驚き振り返り、雄一に問うた。
その問いに、雄一は辺りを警戒しながら応じる。
「手近なものから結界を確かめていたんだ。なのはの方は、マテリアルについては聞いているか?」
「うん。ユーノ君から聞いてるよ。今回の事件の原因だって」
「そうか・・・・・・」
頷くなのはの様子に、このなのはは本物だと判断する雄一。
事件が発生してからの情報を記憶しているのなら、コピーではないと判断していいはず。
(なら、この結界を構築した欠片やマテリアルは何処にいる?)
「っ、雄一君! あれ!」
なのはの鋭い声に、そちらへ視線を飛ばす。
なのはが指差した先、滞空している少女の姿があった。
なのはのマテリアルなのだろう、そっくりの色違いのバリアジャケットに、茶色だがショートカットの髪。
そして、レイジングハートそっくりのデバイスを手にしたマテリアルは、彼女も雄一達に気がついているのか、二人の方へ飛んでくる。
「貴方達は・・・・・・闇の書の闇を滅ぼした魔導師達、ですね?」
「へぇ? 混ざり者呼ばわりかと思っていたけど、意外にもまともだな」
「? ああ、なるほど。混ざり者とは言い得て妙と言いましょうか。私もそれに倣いましょうか、混ざり者さん」
「藪蛇だった!?」
「冗談です。契約者と呼びますよ」
「あはは・・・・・・それで、あなたは何でこんなことを?」
表情を変えぬまま淡々と返すマテリアルに、ガクリと肩を落とす雄一。
その二人のコントに苦笑していたなのはは表情を改めて問いただすとマテリアルは応えようと口を開こうとし、動きを止めた。
僅かに視線をさまよわせたマテリアルは、やがて当惑した様子で口を開いた。
「・・・・・・私は何故ここにいるのでしょう」
「・・・・・・何?」
思わぬ展開に、雄一も眉をひそめた。
雷刃の襲撃者も闇統べる王も、明確な敵意をもって向かってきた。
それに比べて、彼女はからどうにもそこまでの勢いは見受けられない。
(それに比べて殺意が薄い、と思ってはいたけど)
「貴方達は、それを知っているのですか?」
「さて・・・・・・どう答えたものかな?」
問うマテリアルに、雄一は頭を悩ませた。
このまま敵意が薄い内に仕留めればこちらの損耗も少なくて済むが、それでは情報が引き出せない。
欲を言えば、情報を引き出すまで敵意を強めるようなことにならなければいいのだが、
「それは、私と戦うためだと思うの」
「っ、なのは!?」
突然、背後からのなのはの言葉に雄一は慌てて振り返った。
まさか、いきなり戦いを申し込む、それもこちらから、という展開に、雄一は混乱しつつ、なのはを思い留まらせようと、言葉を発しようとし、
「・・・・・・」
「っ!?」
向けられたなのはの目に、口を噤んだ。
なのはの目には、動揺はなく決意で固められている。
その決意の強さに、一歩下がった雄一に代わって、マテリアルは小首を傾げた。
「貴女と戦う、ですか・・・・・・」
「そうだよ。何か問題があるかな?」
「・・・・・・いいえ」
なのはの確認に、マテリアルは傾げていた首を戻すと、スッとデバイスを構えた。
「確かに、私の魂はそう叫んでいます。眼前にいる貴女を打ち倒すことで、私はさらなる高みへ至れると」
「そう。それじゃ」
同じくレイジングハートを構えるなのは。
両者の間に緊張感の糸が張られていく。
二人は油断なく眼前の敵の所作を見つめ、先手をとろうと視線と体の動きで牽制を入れていく。
やがて、緊張の糸が張りつめていき、
「ちょっと待った!」
切れる直前、雄一が割り入った。
「雄一君、邪魔しないで!」
「同感ですね。一騎討ちのためにも貴方には下がっていてほしいものですが」
乱入者に、不機嫌さを隠さず睨めつける二人。
その視線の強さに、しかし雄一は顔をしかめる程度で下がらない。
「悪いが、決闘をする前にいくつか聞きたいことがある。こっちはお前らを倒して終わり、って訳にはいかないもんで」
「え? 何で?」
まだ不機嫌ながら聞く耳はあるのか、先を促すなのは。
その戦意に若干呆れつつ、雄一はなのはに解説する。
「今回の事件は、闇の書事件の揺り返し、って見なされているけど、その実体がどうなのかは判っていないんだ。だから、何故この事件が起きたか、何が原因か、って情報を詳しく集めておく必要があるの」
「・・・・・・判った。その間は待つの」
「というか、なのはは何でそこまでマテリアルと戦いたいんだ?」
雄一の言い分に納得を示し、構えを解くなのはに、雄一は先ほどから引っかかっていた疑問を聞く。
雄一の知る限り、なのはは理由無く戦おうとする子ではない。
フェイトの時とて、彼女と判りあうため。
ヴィータ達の時は彼女達の戦う理由を知るため。
ならば、今回も理由があると考えての雄一の問いに、なのはは雄一からマテリアルへと視線を向けると、その姿を強く見つめた。
「あの子と戦えば、私の進む道が見えると思うの」
「進む道?」
雄一になのはは語った。
彼女の経験した二つの事件。
プレシア・テスタロッサ事件と闇の書事件を経て、自分の魔法をどう生かせるか、を考えていたらしい。
「だから、私は確かめたいの! 私の魔法で何ができるのかを!」
「・・・・・・」
いつしか熱の籠もったなのはの必死の言葉に、雄一は呆気にとられた。
なのはが突然魔法に触れて、関わるようになって一年と経っていない。
それなのに、魔法で何ができるかを悩むのは早計じゃないかとも思う。
事実、命の危険がある選択をすることに、一年足らずで結論を求めるのは早計だろう。
だが、それも含めてなのはの選択だ。
なら、雄一が口を挟む問題じゃない。
それに、
(俺は、何でなのはに理由を尋ねた?)
雄一となのはの二人でマテリアルを倒す。
それが最良の策なのは、雄一の中で変わらない。
いざとなれば、<クフ・リーン>で問答の余裕さえ与えず破壊することもできる。
それでも、雄一は問答の時間をとり、なのはの判断も含めて妥協点に落とし込んだ。
それは何故だ?
(いや、決まっている。破壊するんじゃ意味がない、捕まえて目的を聞き出すのが重要だからだ。そのためにも、なのはの協力が必要だから、なのはに積極的に動いてもらうために、なのはの意見も取り入れてるんだ)
「雄一君?」
一応の結論をつけ自分を納得させる雄一に、なのはは発露した思いに反応を返さない雄一を訝しんで声をかけた。
「っ!? な、なんでもない。それより、言いたいことは判った。話が済んだら、好きにやればいい。俺は手を出さないから」
「本当!?」
「ああ、約束する。だから、ちょっと待っててくれ」
そう言うと、雄一はなのはを下がらせ、マテリアルへと向かっていった。
『君は一度自分の戦う理由を見つめ直すべきだよ』
ふと、闇の書の中で聞いた
「どうかしましたか?」
「――いや、なんでもない」
それを捉える前に、その何かは姿を消してしまうのだった。