リリカル世界を逝く影執事   作:ラッテンフェンガー

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第百五十六話 提案と敗北

「待たせたか?」

「いいえ。それに、貴方達の会話はなかなか関心を惹かれたので。やはり、彼女は私が越えなければならない者ですね」

 

問う雄一に、マテリアルは首を横に振るとなのはへ熱い視線を向ける。

その視線の熱さを見て取った雄一は、その意図に僅かに口角をゆるめた。

 

(性格も、全く違うってわけじゃないんだな)

 

なのはと違い、冷静で合理的だと思っていたら、芯の部分はなのはに似て負けず嫌いのようだ。

オリジナルの打倒。

それが、マテリアルがなのはの挑戦を受けた理由だ、と考え、緩んだ雄一の雰囲気をマテリアルは見咎めた。

 

「何か、ありましたか?」

「い、いや何でも・・・・・・それより、本題に入ろう」

 

慌てて、雄一は余所事を考えていたことを誤魔化しながら、話の軌道を戻す。

マテリアルは、暫し半目を向けていたが、特に拘らず雄一の提案に乗った。

 

「そうですね。ただ、始める前に二つほど条件を追加していいでしょうか?」

「? 構わないが・・・・・・何だ?」

「大した事ではありませんが」

 

断り、マテリアルは二本指を立てた。

まず、一本が折られる。

 

「一つは、この応答で虚偽を伝えてはならないこと」

「まあ、いいんじゃないか」

 

マテリアルが出したのは、かつて雄一がプレシアと話したときに使った条件。

おそらく、その時の情報を元に出したものだろうが、

 

(少なくとも、デメリットは問題ない、はず)

 

そう判断し、雄一は頷くことで承諾する。

確認したマテリアルはもう一本の指も折った。

 

「二つ、ただ質問するだけでは最初に質問する方に有利ですから、一つずつ交代で質問することにします」

「なるほど」

 

こちらも特に異存は無く、その条件を飲もうとする雄一。

だが、

 

「そして、目的を達したと思えば、その時点で質問を切り上げることができるとします」

「なんだと?」

 

続いた言葉に、顔をしかめた。

この条件は正直不味い。

マテリアルの欲する情報がどれほどあるかは不明だが、こちらは求める情報が多すぎるのだ。

それを少ない質問回数で、しかもマテリアルが質問する回数を増やすように回答しなければならない。

この条件は何とか回避しなければならない、と判断した雄一は拒否しようと口を開き、

 

「なお、この条件は最低条件ですので、受け入れられなければ私も貴方の要求を呑まず、彼女との戦闘を行います」

「ちっ!」

 

すかさず挟まれた追撃に、雄一も口を閉ざすしかなかった。

主導権をすっかり握られてしまっている事を理解せずにはいられなかった。

おそらく、雄一が拒否すれば、マテリアルは言葉通りなのはとの戦闘を開始する。

そうなれば、雄一に旨味がない。

なら、今は条件を呑み、少しでも情報を得た方がいい。

 

「~~~~っ、いいだろう。その条件で構わない」

「賢明な判断ですね」

 

葛藤しながらも条件を承諾した雄一に、マテリアルは僅かに笑みを浮かべる。

彼女の言葉に、雄一はむっとするも気を取り直すことにした。

 

「なら、先手は貰うぞ」

「ええ。御随意にどうぞ」

「くっ、ならお前は何だ?」

 

あくまで余裕を崩さないマテリアルに押されながらも、言質を取った雄一はまずは相手の素性を問う。

 

「私は理のマテリアル。今は、星光の殲滅者を名乗っています」

「理?」

 

今まで現れたマテリアルは、『力』と『王』。

関連性が見出せず、雄一は困惑する。

 

「それでは私の番です。貴方方は私以外のマテリアルにも会いましたか?」

「・・・・・・ああ。力のマテリアルと王のマテリアルに会った」

「そうですか・・・・・・ここに貴方方がいるということは、二人は倒されたと見た方がいいでしょうね」

 

雄一達の素性を問わず、淡々と問うマテリアル。

なら、少しでも動揺を誘おうと雄一は他のマテリアルについて触れたが、マテリアル――星光の殲滅者は動じることなく受け止めて見せた。

 

「(不発、か)それじゃ、俺の番。そもそも、マテリアルって何なんだ?」

「私達マテリアルは、闇の書の構築プログラムです」

「構築プログラム?」

 

当てが外れたことを気に留めつつした質問への答えに、雄一は眉を寄せた。

構築プログラム。

その言い方だとまるで、

 

「まるで、お前達が闇の書を形作っていたみたいだな」

「あながち間違い、とは言い切れませんね。闇の書を『闇の書』たらしめていた闇。それを構成していた要素の一つが私なのですから」

「闇、か」

 

思い出すのは、雷刃の襲撃者の言葉。

彼女は『暖かな闇の中に還る』と言っていたが、あれは自らを含めて構築していたものの中へ戻る、ということだったのかもしれない。

 

「もういいでしょうか? ではこちらの番。我々の目的について何かご存知ですか?」

「それを聞くか?」

「ええ。理由無く戦う、ということはしたくありませんから。特に、オリジナルと戦うのなら一切の気掛かりを排除した上でやりたいので」

「・・・・・・目的、か」

 

何処まで話すか、雄一は慎重に検討を図った。

先ほど言ったように、この話題はメリットも大きいが、雄一が情報を得る前に星光の殲滅者が先に必要な情報を揃えてしまい、この会話を終わらせてしまう危険も持っている。

星光の殲滅者が提示した条件に、『情報の取捨選択』、つまり、情報の出し惜しみまでは規定されていない。

ならば、話すことの線引きが重要になる。

 

「そうだな・・・・・・逆に聞くけど、そっちは何処まで記憶しているんだ?」

「聞いているのはこちらですが?」

「そうだが、そっちがどこまで知っているかが問題だろ?」

「そちらが知っていることを話せばいいだけですね」

「二度手間は無駄だろ」

「「・・・・・・」」

 

星光の殲滅者もこの話題の重要性は理解しているため、お互い会話の主導権を握ろうと一歩も譲らない。

両者の間で火花が散った。

先に折れたのは雄一だった。

 

「マテリアルの目的は、『死と混沌を撒き散らし、闇の中へと還る事』と聞いている」

「判らないのですが・・・・・・二人がそのように言っていましたか?」

「さて、な・・・・・・ああそうだ。力のマテリアルが、『砕けえぬ闇』とか言っていたな」

 

質問に返された問いにはっきりと答えず、雄一はもう一枚カードを切る。

開かずにいた埒を開ける鍵になるかと思っての判断だった。

だが、今回はまったくの悪手だった。

 

「砕けえぬ、闇・・・・・・」

「ん? どうした?」

「・・・・・・いいえ。それより、ここまでです」

「・・・・・・何?」

 

突然の言葉に、思わず聞き返す雄一。

だが、星光の殲滅者ははっきりと繰り返した。

 

「もう十分です、と言ったんですよ。こちらが欲しい情報は手に入りましたから」

「ま、待った! いくらなんでも早すぎるだろ!」

「なんら問題はないですよね? 予め定めたルールに則っているのですから」

 

声を荒げる雄一に、淡々と返す星光の殲滅者。

その態度に歯噛みする雄一だったが、今回は彼女が正しい。

事前に定め、雄一も同意しているのだから、違反も何もない。

 

「理解できましたか? なら、貴方は下がりなさい。ここからは私達の戦いです」

「~~~~っ!! ああ、くそ! 決着がついたら、改めて問い質すぞ! なのは!」

 

反論できず、苛立ちながらもなのはを呼び、交代を伝える雄一。

そのまま、傍のビルへと飛んでいく雄一を見送り、なのはは星光の殲滅者と向き直った。

 

「お話、上手くいかなかったみたいだね」

「元々、こちらが有利な状況でしたから。彼に非は、無いとはいえませんが少ないでしょう」

「そっか・・・・・・それで、戦う理由に納得はいった?」

「ええ。ですから、これ以上言葉は無用です」

 

そう告げ、星光の殲滅者はデバイスを浅く構える。

 

「安らかな闇と破壊の混沌を呼び起こすため、この身の魔導をもって貴女を屠りましょう」

「そう。だけど、私はそれをさせるわけにはいかないから」

 

応じて、なのはも同じようにレイジングハートを構える。

 

「言葉で止まってくれたら良かったけど、止まらないよね。私なら止まらない」

「ええ。そうでしょうね」

「哀しい願いや辛い決断で力を振るう人がいる。その力が、罪や新しい悲しみを生むことがある。話して、言葉で伝えあえたら、その方がいい。判ってもらえたらそれが一番いい」

 

なのはの脳裏を過ぎるのは、初めて魔法に触れたときに出会った金色の少女。

今は親友と言える彼女(フェイト)に思いを伝えるため、というのが魔法の力を磨いた動機だった。

 

「だけど、心が伝わらないとき、判りあえないとき。それでも伝えあって判りあうために、この魔法(ちから)はあるんだ!」

「ならその思いの強さ、示して見せなさい!」

 

宣戦と共に、海鳴の空に桃色の光が奔った。

 

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