リリカル世界を逝く影執事   作:ラッテンフェンガー

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第百六十話 伝わらない思いと新たな敵

「・・・・・・」

「雄一君・・・・・・終わったんだよね?」

「多分、な」

 

星光の殲滅者の消失を見届け、雄一はなのはの確認に、煮え切らない態度で頷いた。

その態度に、なのはは目を瞬かせるが、とりあえずとアースラに報告をしようと、レイジングハートに通信を繋いでもらおうとし、

 

『<大変大変、大変だよ!>』

「って、エイミィさん?」

 

突然繋がった通信とそこから流れる悲鳴に、一瞬なのはの肩が跳ねた。

映像通信の向こうのエイミィの様子は、一目見て判るほど只ならぬ様子で、尋常でない事態であることが知れた。

なのはは、真剣な表情になると、エイミィを促した。

 

「<お、落ち着いて、エイミィさん。何があったんですか?>」

『<また、マテリアルの反応が出たの!>』

「・・・・・・え?」

「ん?」

 

エイミィの言葉に雄一となのはは顔を見合わせた。

確かに、エイミィは『マテリアルが現れた』と言っていた。

だが、星光の殲滅者の言葉を信じるなら、マテリアルは三機だけではないのか。

星光の殲滅者の言葉が嘘だった、とはやはり思えない。

雄一は、通信に割り込みを掛けた。

 

「<エイミィさん、雄一です。場所は何処です?>」

『<二人の学校だよ! 聖祥大付属小学校のグラウンド!>』

「そんな!?」

「<・・・・・・了解しました。俺が向かいます。それと、なのはをアースラに収容してください>」

「雄一君!?」

 

エイミィの告げた場所に驚いた矢先に、新たな爆弾を置いた雄一になのはは抗議しようと振り返る。

だが、雄一は首を横に振って、黙っているように示した。

 

『<それは構わないけど・・・・・・どうかしたの?>』

「<なのはもレイジングハートも限界スレスレまで消耗していますから。これ以上の戦闘は、危険が大きいかと>」

「そ、そんなことないよ! 私はまだ戦えるよ!」

「・・・・・・正直に言えば、残った魔力は全部回復に回させるくらいのダメージだぞ。さっきレイジングハートとも約束したしな」

 

戦闘続行を訴えるなのはに、呆れるように諭す雄一。

 

<Master,I Think So.>(マスター、ここは受け容れて下さい)

「レイジングハートまで・・・・・・うぅ、判ったよ」

 

レイジングハートにも諭され、なのはは唇を尖らせる。

しばし反論しようとしていたが、なのはもやがて折れたのか、渋々頷いた。

 

『<えーと、話は纏まったのかな?>』

 

話の決着が見え、成り行きを見守っていたエイミィが漸う割り込む。

エイミィの確認に、雄一は頷いた。

 

「<ええ、お願いします>」

『<はいはーい。それじゃ、なのはちゃんはゲートを開くまで、そこで待機しといてね>』

 

そういうと、通信が途切れホロウインドウが閉じた。

通信が済むと、雄一は安堵の息を零してなのはを振り返った。

 

「それじゃ、なのははアースラで休んでてくれ」

「でも・・・・・・」

「なのはの一騎討ちも見届けたんだから、今度は俺の番だろ?」

「・・・・・・やっぱり、雄一君は雄一君のマテリアルがいると思うの?」

「ああ」

 

なのはの質問に、迷いなく頷く雄一。

なのは達以外に、マテリアルに流用されうるのは、残るは自分だけだからだ。

そう説明すると、なのはは雄一の手を取ると、両手で握った。

 

「なのは? 何を」

「大丈夫、雄一君なら勝てるよ!」

「・・・・・・はい?」

 

突然の応援に、首を傾げる雄一。

要領を得ない雄一に、なのははさらに叫んだ。

 

「だ、だから、私の知っている雄一君は誰にも負けないから! マテリアルにだって負けないよ!」

「――判った。ありがとう、なのは」

 

なのはの応援を雄一なりに解釈し受け止める。

言いたいこともあったが、雄一は素直に受け取ることにした。

そのまま礼を言うとなのはは笑顔を浮かべ、

 

「うん!・・・・・・あ」

「ん?」

 

突然何かに気がついたように固まった。

何を思ったのか、握っている雄一の手に視線を向けると、数度目を瞬かせ、

 

「ぅにゃああああ!?」

 

突然、握っていた雄一の手を振り払い、大声を上げながら跳び下がった。

 

「っ、ど、どうした?」

「な、なんでもない! なんでもないよ!」

「いや、だけど、」

「なんでもないってば!」

 

突然の大声に、しかし耳を塞ぐこともできずに直撃してしまい、雄一は眩む頭を押さえながら聞くが、なのはは雄一に背を向けて叫んだ。

雄一は、回り込んで顔を見ようとする。

だが、

 

「っ!?」

 

なのはは、必死に顔を隠す。

 

「・・・・・・何してるんだ?」

「だ、だからなんでもないって! ゲ、ゲートはまだ開かないのかな!?」

 

訝しむ雄一に答えず、必死に顔を隠し続けるなのは。

そんな彼女の願いが通じたのか、なのはの足元に魔方陣が広がり、光と共になのはの姿を消した。

 

「あ!? ・・・・・・行ったか。それにしても、『自分を支えるって宣言したんだから負けてもらっては困る』って、あそこまで強く応援してくるとは、なのはの負けず嫌いも相当だな」

『・・・・・・マスター、本気でそう思っているのかね』

「ん? 何か言ったか、エルミナ?」

『・・・・・・いや、なんでもない。通信が入っているよ』

 

一言言おうとしたが、無粋と考えたエルミナは言葉を呑み込み、折り良く入った通信で誤魔化した。

そんな思惑など知ることもなく、雄一は通信を受ける。

 

「<はい。どうしました?>」

『<こちら、アースラ。雄一君、なのはちゃんは収容したよー>』

「<ありがとうございます。それでは>・・・・・・カナメ」

『うむ。<Flier Fin>』

 

エイミィの報告を聞き、雄一は気持ちを切り替えると、カナメに飛行魔法を展開させると、空へと飛び上がった。

 

 

 

 

『なあ、主殿。飛びながらで構わんが、何故星光の殲滅者の言葉が嘘でないと思ったのじゃ?』

「カナメ・・・・・・今それを聞くか」

 

聖祥へ向かう道中、カナメの質問に雄一は渋面を浮かべた。

特に隠すことではないが、あまり話せるような内容でもない気がするのだ。

しかし、この場には自分以外にはデバイスしかいない、と割り切り話すことを選んだ。

 

「匂いだ」

『匂い、じゃと?』

 

人間は嘘をつくとき、特殊なホルモンを分泌するという。

その匂いを、<デル・ドーレ>の嗅覚で感知したのだ、という。

その解答に、カナメは心底呆れた様子だった。

 

『なんじゃ、それは。つまり、おんしは婦女子の匂いを嗅いでおったわけか?』

「その言い方だと、俺が物凄い変態に聞こえるんだが」

『まるで、あやつか、と思うほどの変態じゃな』

「『あやつ』? 誰だ?」

『・・・・・・いや、只の戯言じゃ。まぁ、方法は理解した。だが、それなら何故星光の殲滅者(あやつ)は主殿のマテリアルのことを知らなんだのじゃ?』

 

僅かに郷愁の滲んだ声を、誤魔化すように問うカナメ。

それに気がつきつつも、雄一はその意図を酌んで推測を語った。

 

「考えられるとしたら、俺のマテリアルが、星光の殲滅者達とは別の製作意図で作られている場合。または、星光の殲滅者達が倒されなければ発動しない場合、ってところか」

『後者は判りやすいが、前者はどういうことじゃ?』

「作戦系統が違うから、お互いの存在を隠している、とかな。そうすれば、片方が相手に捕まって情報を搾り取られても、知らないことを教えることはできないだろ?」

『情報の漏洩を恐れての処置、ということか』

「それか、星光の殲滅者達の後に製作・封入されたプログラムである場合、か。これなら知らないことも筋は通る」

『だが、それは厄介ではないかね』

 

今まで、推論に耳を傾けていたエルミナの指摘が入る。

その指摘に、雄一は頷いた。

 

「ああ。この場合、俺のマテリアルが後継機ってことになる。そういうものは大抵試作機以上の性能を持ってくる。何が起こるか、注意・・・・・・いや、もう遅いか」

 

注意を促そうとして、雄一は言葉を止めた。

話している内に、既に聖祥大学付属小学校の近くまで来ていた。

そして、雄一の強化された視界は、グラウンドにいる人影を捉えていた。

どこかの民族衣装を思わせるあちこちに幾つもの紐飾りがついた服を着た少年が、地面に胡坐をかいて座っている。

雄一は少年の正面に距離を開けて降り立ち、少年と向かい合った。

 

「お前が、俺のマテリアルでいいんだな?」

「ああ。そんなところだ。まあ、座りなよ。色々聞きたいことも在るだろ?」

 

雄一の確認に、笑みを浮かべながら、正面の地面を指すマテリアル。

その指示に雄一は、一瞬表情を引きつらせた。

これで主導権はマテリアルが握った。

どういう意図が在るのか判らないが、ここで従わなければ交渉は始まらない。

向こうがわざわざ話す気でいるのだ。

ならば、いまは乗っておいて頃合を待って食い破る。

 

(まだ勝負は始まったばかりだ・・・・・・!)

 

雄一は、二メートルほどの位置に腰掛けた。

 

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