リリカル世界を逝く影執事   作:ラッテンフェンガー

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第百六十一話 劣勢と不意打ち

「さて、何から話したものかな?」

「・・・・・・さあね」

 

地面に直接腰掛け、頬杖をつきながら白々しく問うマテリアルに、冷たく返す雄一。

しかし、その反応もマテリアルを面白がらせるだけのようで、特に気にした様子もなく手を打った。

 

「ああ、そういえば先に言っておくことがあったんだった。俺は、厳密に言えばマテリアルじゃない」

「は?」

 

予想外な事を言われ呆ける雄一に、いいか、とマテリアル?は前置きをする。

 

「俺は、闇の書の構築体とも言えなくないけど、俺の役割はとりあえず二つ。もっとも実際はあるプログラムのバックアッププログラムなんだが」

「あるプログラム? それに、バックアップだと?」

「そう。しして、そのプログラムは通称『砕け得ぬ闇』と呼ばれていた」

 

砕け得ぬ闇。

また耳にしたその言葉に、雄一は眉をひそめた。

 

「その『砕け得ぬ闇』っていうのは?」

「そうだな……簡単に言うなら、特定魔力の無限連環機構だ」

「・・・・・・?」

「よく判らないって様子だな。だが、これが闇の書を闇の書たらしめている要素だ」

「闇の書を闇の書たらしめる? それは、あの暴走体のことじゃないのか?」

「あれは、『砕け得ぬ闇』の副産物でしかない」

「なっ!?」

 

皆が全力を叩き込み、アルカンシェルまで用いてやっと倒した暴走体が副産物だと言われ、雄一は絶句した。

言葉を失う雄一に、バックアッププログラムはニヤニヤと笑みを向ける。

 

「特定魔力の無限連環機構。つまり、汲めども尽きない泉から水を汲み続けるようなものだ。なら、魔力を基にした生物がその恩恵を受ければどうなる?」

「っ!? そういうことか!」

 

答えは、常に魔力で癒え続けることになる。

それを雄一達は目にしていた。

おそらくそれが、

 

「暴走体の、無限再生の正体!」

「御明察♪ 暴走体(あれ)は、その恩恵を最大限受けるように、最適化して進化したものだ。そしてその大元こそ、『砕け得ぬ闇』ことシステム名『Unbreakable-Dark』。古代ベルカの戦乱と狂気が生み出した負の遺産だ」

「それは・・・・・・なんとも、言いえて妙だな」

 

辛うじて返すが、雄一は内心唸った。

厄介な事に、相手の方が情報を持っている以上、雄一の方が不利なのは、彼とて理解していた。

それでも、他のマテリアル同様、勝負へと雪崩れ込むものと思っていた。

だが、蓋を開けてみれば、相手の出す情報は聞き逃すには少々危険すぎるもの。

迂闊に戦端を開くわけにもいかず、雄一は始終主導権を取り返せない。

内心歯噛みしていると、バックアッププログラムは、だが、と続けた。

 

「システムの設計者は、そんな代物を創り出しても、万が一を考えた。当時には、もっとやばい物がゴロゴロしていたからな。そこで、俺達を創り出した」

「つまり、お前達(マテリアル)は、そのシステムの端末ってことか? ・・・・・・なら、お前達の目的は、砕け得ぬ闇を目覚めさせることなのか?」

 

雄一は、袖口に忍ばせたナイフを意識しながら問う。

だが、バックアッププログラムは、苦笑を浮かべた。

 

「残念だが、半分正解で半分間違っている」

「半分、だと?」

「姉さん達はそうだろうな。だから半分だ」

「待て。『姉さん』?」

 

聞き間違いかと問い直すと、マテリアルはキョトンとし「ああ」と手を打った。

 

「俺は、製造順で言えばもっとも後期のものだからな。理や力、王は俺の兄や姉に当たるだろ? それで、今回は女性型らしいし、姉さんで間違ってないだろ?」

「いや、まあ、そうなんだが・・・・・・いや、それより!」

 

思わぬ方向から一撃を入れられ、雄一は脱力し掛けるが辛うじて立て直す。

相手を睨むようにして、問いただす。

 

「まるで、その言い方だと、お前の目的は別みたいだな?」

「ん? そう言ってるだろ」

 

雄一の問いに、しかしあっさり頷くプログラム。

眉を寄せる雄一に、プログラムは取って置きの仕掛けを教えるように笑みを深くした。

 

「俺の目的・・・・・・それは、『砕け得ぬ闇』を目覚めさせないことだ」

「・・・・・・は?」

 

今度こそ、雄一は思考が止まってしまった。

プログラムが告げた目的は、他のマテリアルの真逆のもの。

しかし、それは何故だ?

 

「どういう、ことだ?」

「言葉通りさ。あれは目覚めさせれば、死と混沌を撒き散らす代物だからな。沈むことなき黒い太陽にして影落とす月。故に決して砕かれぬ闇。それこそ、何らかの理由で活動停止するまで破壊を広げるだろうよ」

 

プログラムの語る、『砕き得ぬ闇』の像に雄一は顔を険しくする。

雄一の脳裏に浮かぶ光景は破壊され荒廃した世界。

その光景を生み出すと、かつてアースラで耳にした説明から、その名を雄一は口にした。

 

「ロストロギア、か?」

「・・・・・・これまた御名答だ。永遠結晶エグザミア。それが『砕け得ぬ闇』の正体といえる。けど、今は置いておこう。それより、さっき俺は役割が二つある、って言ったよな?」

 

唐突な話題の変化。

雄一は、嫌な予感を覚えるが、話を進める。

 

「それがどうした?」

「まあ聞けって。もう一つの役割は、俺の目的とも関わってくるんだからな」

 

嫌な予感が大きくなる。

見れば、プログラムの顔は変わらぬ笑みだが、目が鋭さを増していく。

 

「俺の役割は、セキュリティウォールのようなものなんだ。『砕け得ぬ闇』へと近づく者を消し、『砕け得ぬ闇』の存在を秘匿し続けることだ」

 

そう言うと、プログラムは地面に掌で触れた。

途端、地面から壁のようなものが生え、雄一の周囲を囲い込んだ。

 

「な!?」

 

雄一は、すぐさま立ち上がろうとするが、一歩早く天井まで塞がれてしまった。

 

「何のつもりだ!?」

『言っただろうが。俺の役割は「砕け得ぬ闇」を守ること。なのに、わざわざ喋ったのは何でだ?』

「それは!?」

 

雄一は、プログラムの言葉から、最悪を想定する。

雄一からは見えないがプログラムも、その予想を肯定するように、唇を吊り上げた。

 

『喋っても構わないからだよ。どうせ、』

 

死ぬんだからな。

 

岩壁の向こうから聞こえた声に篭った殺気に、雄一は警戒心を一気に最大へと引き上げた。

箱の様に囲い込まれた今の雄一は格好の的でしかない。

そこで、雄一は防御を固めることを選んだ。

 

「耐えろ。<デル・ドーレ>!」

 

身体能力を強化すると共に、身体の筋肉を固める。

生半な攻撃なら耐えきる自信が、雄一にはあった。

だが、それは間違いだった。

突然、雄一の足元の地面が隆起し、雄一の体を押し上げた。

地面は雄一の身体を押し上げるだけに留まらず、天井へと押し潰そうとし――、

 

 

 

 

「・・・・・・あっけなさ過ぎる」

 

いまだに地面に腰掛けたまま、プログラムは拍子抜けしたように肩を落とした。

いや、落とそうとした。

その矢先に、箱の天井部分が破られなければそうしていただろう。

見れば、天井部分が飛沫の様に弾け飛び、荒い息を吐く雄一の姿があった。

 

「あ、危ねえ・・・・・・」

「なんだ。潰せるとは思ってなかったが、あっさり破られると少しショックだな」

 

肩で息をする雄一に対し、痛痒も感じない様子のプログラム。

雄一は、地面が隆起した瞬間、<デル・ドーレ>への干渉を止め、<沙波>への干渉に切り替えて、天井を液状化させたのだ。

その判断が遅ければ、雄一はあえなく潰されていただろう。

 

「やってくれる! なら、絡めとれ、<ダー・ナーン>!」

 

返すように、雄一が地面に両掌を押し付け、地面から蔓を伸ばしてプログラムを絡めとろうとする。

だが、プログラムは再び掌で地面を叩くと、今度は足元の地面を隆起させ自分の体を、跳ね上げた。

素早く体勢を整えると、蔓の合間を縫うように回避して見せた。

だが、雄一は攻撃の手を緩めない。

 

「羽ばたけ、<キー・アーン>!」

 

掌から、炎でできた小鳥を生み出し、蔓の隙間に立つプログラムへと放った。

プログラムが動けずとも、小鳥は蔓の隙間を縫ってプログラムへと迫る。

普通の相手なら、敢え無く喰らっているだろう。

だが、プログラムは並みの相手ではなかった。

 

 

ヒュボッ、と音を立てて、小鳥が弾け飛んだ。

 

「な?」

 

瞠目する雄一の目の前で、今度は鈍い音と共に蔓が打ち倒され、砂塵が舞った。

蔓を倒したものの正体は、突き出されたプログラムの拳だった。

プログラムは、拳圧で炎を散らして見せたのだ。

 

「そういえば、いつまでも名無しでいるのも据わりが悪いし、姉さん達風に名乗っておこうか」

 

砂塵の向こうから悠然と現れたプログラムは、余裕溢れた様子でゆっくりと歩きながら言った。

 

「マテリアルV、盟約(Versprechens)の守護者ってところか」

 

そう名乗り、プログラム、否、盟約の守護者は素早く地を蹴った。

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