リリカル世界を逝く影執事   作:ラッテンフェンガー

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風邪ひきました……。
咳は酷いわ、熱で朦朧とするわ……。
皆様、体調管理にはお気をつけください。


第百六十二話 撤退と危機

「ほらほら、どんどん行くぞ! <タウロス>!」

「こ、のぉ!」

 

盟約の守護者が笑いながら生み出す土壁を、雄一はステップでかわし続ける。

飛行魔法を展開して上空へ逃げることも考えたが、先ほど足場を延ばしてこちらの攻撃を回避して見せたことから、土壁はかなりの長さまで伸ばすことができるのだろう。

ならば、下手に上空に逃げれば四方からの集中砲火を浴びせられる。

それよりも、地上で戦うしかない。

だが、雄一とて、一方的にやられるつもりはない。

 

「今度はこっちの、番だ! <デル・ドーレ>!」

 

雄一は、すぐ傍に突き立った土壁を、根元を蹴りつけて崩す。

土壁は強化された雄一の脚力に耐え切れず、根元で圧し折れた。

その土壁を、雄一は掴むと、大きく振り上げた。

 

「おぉおおおお!!」

「・・・・・・それは、喰らったら洒落にならないな」

 

雄一が全身を使って振り下ろした土壁に、慌てず盟約の守護者は地面に触れた。

途端、彼を庇うように地面から土壁が生え、振り下ろされた土壁と衝突した。

二枚の土壁は双方砕け散ったが、雄一はすぐさま手元に残った部分を放り捨て、土壁の向こう側めがけて掬い上げるような蹴りを撃った。

だが、その蹴りは空を切り、土壁の崩壊で巻き上がった土煙を攪拌しただけだった。

 

「しまっ」

「残念でした♪」

 

慌てて、体勢を立て直そうとするが、雄一の体は反動で流れてしまっており、すぐには戻せない。

その無防備な腹めがけて、盟約の守護者の拳が突き刺さった。

最前に見た、地面に手をつくような体勢なら、雄一の蹴りは、盟約の守護者の顔面を捉えるはずだった。

だが、盟約の守護者は土壁で防御するや否や、後ろへ下がっていたのだ。

バックジャンプで距離を取ると同時に体勢を立て直すと、蹴りを空振った雄一めがけて拳を放った。

 

「がぁ!? ――っ、<クフ・リーン>!」

 

拳で、体が浮くのを感じながら、それでも雄一は、盟約の守護者めがけて影を伸ばす。

だが、盟約の守護者はそれに対して、再び地面に手をついた。

 

「それは受けるわけにはいかないな。<タウロス>」

 

再び、自分の正面に土壁を生み出すと、その後ろへと潜んだ。

その行動に眉をひそめるが、雄一は影を伸ばすと、破壊を指示する。

 

「噛み砕け、<クフ・リーン>!」

 

雄一の指示を受け、土壁の影が砕け、本体の土壁も砕ける。

それだけでなく、雄一はその奥の盟約の守護者の影の破壊も指示する。

さらに伸ばされた影は、盟約の守護者の影を捉え、

 

られなかった。

 

「なっ!? どこに?」

 

土壁の向こうには、盟約の守護者の姿はなかった。

だが、思い返しても横へ逃げた様子はなかったはず。

困惑する雄一。

すると、

 

「何処を向いている?」

「!?」

 

雄一の背後から、盟約の守護者の声が耳を震わせた。

振り返り様に、雄一は背後めがけて裏拳を放つ。

だが、雄一の裏拳はいなされ、カウンターで盟約の守護者の一撃が突き刺さった。

 

「がぁああ!?」

 

盟約の守護者の一撃に、雄一の体は今度こそ弾き飛ばされ、地面を数度バウンドして止まった。

 

「っ、ゲホッゲホッ!?」

「うーん・・・・・・やっぱり他愛無い、か?」

 

咳き込む雄一を見下ろし、盟約の守護者はむしろ不可解そうに眉をひそめた。

その態度に、雄一はさらに攻撃を放った。

 

「っ、<クフ・リ

「おっと」

 

否、蜘蛛の巣のように広がった影が盟約の守護者を捉えるより早く、盟約の守護者の蹴りが雄一の身体に突き刺さり、雄一の身体をさらに吹き飛ばした。

 

「がぁ!?」

「・・・・・・これはあれか? 油断させる作戦か何か、なのか?」

「・・・・・・何が、言いたい?」

 

失望を込めた盟約の守護者の言葉に、雄一は辛うじて問い返す。

だが、盟約の守護者は答えず、ぞんざいに手を振るった。

 

「わざわざ答えるかよ。もういいだろ?」

 

盟約の守護者の片足が振り上げられる。

そのまま下りれば、雄一の頭部を粉砕して見せるだろう。

 

「死ね」

「っ、まずい!」

 

頭上からの冷たい声に、雄一は身体を動かして避けようとするが、蓄積したダメージの影響か逃げ切れず、

 

ジャボン、と音を立てて、盟約の守護者の足が地面にめり込んだ。

 

「ん?」

 

眉をひそめて盟約の守護者は足を引き上げる。

引き上げられた足に付いた土がボロボロと落ちるのを眺め、盟約の守護者はしばし呆然とし、

 

「・・・・・・逃げられたか」

 

顔をしかめると、雄一を追いかけるでもなく再びグラウンドに腰掛けるのだった。

 

 

 

 

『マスター、無事かね?』

「辛うじて、だけど」

 

校舎屋上。

給水塔の裏に潜みながら、雄一はエルミナに答えた。

動けないことを悟るや、雄一は<沙波>に干渉し、グラウンドを液状化させ、踏みつけの威力を殺すと共に地中へ逃げ、ここで地上へ出たのだった。

一旦離れて、相手の能力の正体を暴くつもりなのだが、

 

『おそらくじゃが、あれは一種類の能力じゃな』

「冗談だろ? あれで一種類?」

 

カナメの推測に、雄一は壁に背中を預けながら嘆息した。

 

『おそらく、地面に干渉する類じゃ』

「地面に・・・・・・?」

 

盟約の守護者の行動を思い返してみる。

土壁の生成と、突然背後に現れた移動法。

 

『あの移動は、おそらく地中に潜ったのじゃろう』

『カナメの予想の通りだろう。補足するなら、彼の言う<タウロス>とは、黒野牛(ケルビット)の精霊だろう』

「カナメのはともかく、エルミナの予想の根拠は?」

『彼の格好――あれは、クーランの民族衣装だ。あれがマスターの情報から読み取ったものなのか、デフォルトなのかは判らないが、ベースの肉体はクーランのものだ。その証拠に、彼の身体能力は抜きん出ているだろう?』

 

エルミナの確認に、雄一は頷く。

雄一とて、<デル・ドーレ>がなくても、身体能力でなら同年代どころか大人にも引けを取らないだろう。

その雄一を捉えられる身体能力を、盟約の守護者は有しているのだ。

 

(圧倒するには、<デル・ドーレ>を使えばいいけど、そうすると他の方法は使えないよな)

『それに、黒野牛は、クーランにとって大地や頑強さの象徴でもある。その強化も加わっていることだろう』

「っと、それは面倒な・・・・・・だけど、能力を予想できてもどうやって倒すか、が問題だよな?」

『『・・・・・・』』

 

雄一の指摘に、デバイス達は言葉に詰まる。

 

『・・・・・・契約者が相手なら、対価や制約を衝けばよいのじゃが』

「その対価も制約も判らないんだよな?」

『いや、制約はおそらく、地面に触れることだろう』

「そうなのか?」

 

確かに、エルミナの言うとおり、盟約の守護者は度々地面に手を触れていた。

現状それが、制約として一番可能性が高いだろう。

ならば、打って出るかと、雄一は身体を立ち上がろうとするが、カナメが押し留めた。

 

『じゃが、それだけでは、主殿では勝てぬ』

「何故?」

 

辛口な評価に、顔をしかめながら、再び腰を下ろして静聴の構えを見せる。

 

『主殿の方が、能力の汎用性では勝っておる。じゃが、勝てぬのは何故じゃ?』

「それは・・・・・・俺が弱いからじゃないのか?」

『一概にそうとは言えぬ。そも、契約者の戦いは状況などに左右されやすく、優勝劣敗が当て嵌まらぬ。じゃが、主殿は能力に振り回されておる状態なのじゃ』

「能力に振り回される?」

『そうじゃな・・・・・・例えば、先ほど主殿は、あやつの影を破壊しようとしたな?』

 

カウンターで吹き飛ばされた時のこと、と思い至り、雄一は頷いた。

 

『確かに、<クフ・リーン>は強力な精霊じゃ。特に今は夜じゃからな。じゃが、その実弱点がある』

「弱点?」

『発動に時間がかかることじゃ』

 

<クフ・リーン>や<沙波>は、強力な反面影や地面に働きかける必要があり、<ルー・グー>や<バーラ・ルー>と比べて発動速度が遅いのだという。

 

『あの場合、能力を使うにしても、<ルー・グー>で弾き飛ばすなどの方法もあったじゃろう。主殿は、能力の使用に難がある。じゃから振り回されておる、と言うたのじゃ』

「・・・・・・なるほど」

 

カナメの言わんとするところを理解し、渋面を浮かべる雄一。

問題は判ったが、矯正するには一朝一夕とはいかないだろう。

それこそ、能力を本当の意味で自分のものとしなければならない。

 

「それもこれも、この戦いを乗り越えた後の話だ」

『そうじゃな・・・・・・ん?』

 

問題の先送りを決定した雄一に、一応の納得を示していると、カナメが何かに気がついた。

 

「カナメ? どうかしたか?」

『・・・・・・主殿、少々厄介な事になりそうじゃ』

「厄介?」

『先ほど、この結界に誰かが侵入したようじゃ』

「侵入? ・・・・・・ちょっと待て」

 

カナメの言葉に、雄一はある可能性に思い至り体を跳ね起こした。

現状、確実にアースラに戻ったのは、なのはだけで、フェイトやはやて達はまだ海鳴で戦っているわけで。

もし、その誰かと盟約の守護者が戦うことになったら、

 

「くそっ!?」

 

立ち上がると、すぐに、眼下のグラウンドを注視する。

その時、グラウンドに白光が走った。

 

「くっ!?」

 

咄嗟に、両腕で目を庇う雄一。

やがて、光が弱まると、すぐさま雄一は光源を確かめようと目を走らせ、

 

「っ!?」

 

先ほどのようにグラウンドに腰掛ける盟約の守護者と、

ぐったりと、力の入らない様子で、乱立する柱に吊り下げられた、

 

フェイトの姿があった。

 

 

 

 

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