咳は酷いわ、熱で朦朧とするわ……。
皆様、体調管理にはお気をつけください。
「ほらほら、どんどん行くぞ! <タウロス>!」
「こ、のぉ!」
盟約の守護者が笑いながら生み出す土壁を、雄一はステップでかわし続ける。
飛行魔法を展開して上空へ逃げることも考えたが、先ほど足場を延ばしてこちらの攻撃を回避して見せたことから、土壁はかなりの長さまで伸ばすことができるのだろう。
ならば、下手に上空に逃げれば四方からの集中砲火を浴びせられる。
それよりも、地上で戦うしかない。
だが、雄一とて、一方的にやられるつもりはない。
「今度はこっちの、番だ! <デル・ドーレ>!」
雄一は、すぐ傍に突き立った土壁を、根元を蹴りつけて崩す。
土壁は強化された雄一の脚力に耐え切れず、根元で圧し折れた。
その土壁を、雄一は掴むと、大きく振り上げた。
「おぉおおおお!!」
「・・・・・・それは、喰らったら洒落にならないな」
雄一が全身を使って振り下ろした土壁に、慌てず盟約の守護者は地面に触れた。
途端、彼を庇うように地面から土壁が生え、振り下ろされた土壁と衝突した。
二枚の土壁は双方砕け散ったが、雄一はすぐさま手元に残った部分を放り捨て、土壁の向こう側めがけて掬い上げるような蹴りを撃った。
だが、その蹴りは空を切り、土壁の崩壊で巻き上がった土煙を攪拌しただけだった。
「しまっ」
「残念でした♪」
慌てて、体勢を立て直そうとするが、雄一の体は反動で流れてしまっており、すぐには戻せない。
その無防備な腹めがけて、盟約の守護者の拳が突き刺さった。
最前に見た、地面に手をつくような体勢なら、雄一の蹴りは、盟約の守護者の顔面を捉えるはずだった。
だが、盟約の守護者は土壁で防御するや否や、後ろへ下がっていたのだ。
バックジャンプで距離を取ると同時に体勢を立て直すと、蹴りを空振った雄一めがけて拳を放った。
「がぁ!? ――っ、<クフ・リーン>!」
拳で、体が浮くのを感じながら、それでも雄一は、盟約の守護者めがけて影を伸ばす。
だが、盟約の守護者はそれに対して、再び地面に手をついた。
「それは受けるわけにはいかないな。<タウロス>」
再び、自分の正面に土壁を生み出すと、その後ろへと潜んだ。
その行動に眉をひそめるが、雄一は影を伸ばすと、破壊を指示する。
「噛み砕け、<クフ・リーン>!」
雄一の指示を受け、土壁の影が砕け、本体の土壁も砕ける。
それだけでなく、雄一はその奥の盟約の守護者の影の破壊も指示する。
さらに伸ばされた影は、盟約の守護者の影を捉え、
られなかった。
「なっ!? どこに?」
土壁の向こうには、盟約の守護者の姿はなかった。
だが、思い返しても横へ逃げた様子はなかったはず。
困惑する雄一。
すると、
「何処を向いている?」
「!?」
雄一の背後から、盟約の守護者の声が耳を震わせた。
振り返り様に、雄一は背後めがけて裏拳を放つ。
だが、雄一の裏拳はいなされ、カウンターで盟約の守護者の一撃が突き刺さった。
「がぁああ!?」
盟約の守護者の一撃に、雄一の体は今度こそ弾き飛ばされ、地面を数度バウンドして止まった。
「っ、ゲホッゲホッ!?」
「うーん・・・・・・やっぱり他愛無い、か?」
咳き込む雄一を見下ろし、盟約の守護者はむしろ不可解そうに眉をひそめた。
その態度に、雄一はさらに攻撃を放った。
「っ、<クフ・リ
「おっと」
否、蜘蛛の巣のように広がった影が盟約の守護者を捉えるより早く、盟約の守護者の蹴りが雄一の身体に突き刺さり、雄一の身体をさらに吹き飛ばした。
「がぁ!?」
「・・・・・・これはあれか? 油断させる作戦か何か、なのか?」
「・・・・・・何が、言いたい?」
失望を込めた盟約の守護者の言葉に、雄一は辛うじて問い返す。
だが、盟約の守護者は答えず、ぞんざいに手を振るった。
「わざわざ答えるかよ。もういいだろ?」
盟約の守護者の片足が振り上げられる。
そのまま下りれば、雄一の頭部を粉砕して見せるだろう。
「死ね」
「っ、まずい!」
頭上からの冷たい声に、雄一は身体を動かして避けようとするが、蓄積したダメージの影響か逃げ切れず、
ジャボン、と音を立てて、盟約の守護者の足が地面にめり込んだ。
「ん?」
眉をひそめて盟約の守護者は足を引き上げる。
引き上げられた足に付いた土がボロボロと落ちるのを眺め、盟約の守護者はしばし呆然とし、
「・・・・・・逃げられたか」
顔をしかめると、雄一を追いかけるでもなく再びグラウンドに腰掛けるのだった。
『マスター、無事かね?』
「辛うじて、だけど」
校舎屋上。
給水塔の裏に潜みながら、雄一はエルミナに答えた。
動けないことを悟るや、雄一は<沙波>に干渉し、グラウンドを液状化させ、踏みつけの威力を殺すと共に地中へ逃げ、ここで地上へ出たのだった。
一旦離れて、相手の能力の正体を暴くつもりなのだが、
『おそらくじゃが、あれは一種類の能力じゃな』
「冗談だろ? あれで一種類?」
カナメの推測に、雄一は壁に背中を預けながら嘆息した。
『おそらく、地面に干渉する類じゃ』
「地面に・・・・・・?」
盟約の守護者の行動を思い返してみる。
土壁の生成と、突然背後に現れた移動法。
『あの移動は、おそらく地中に潜ったのじゃろう』
『カナメの予想の通りだろう。補足するなら、彼の言う<タウロス>とは、
「カナメのはともかく、エルミナの予想の根拠は?」
『彼の格好――あれは、クーランの民族衣装だ。あれがマスターの情報から読み取ったものなのか、デフォルトなのかは判らないが、ベースの肉体はクーランのものだ。その証拠に、彼の身体能力は抜きん出ているだろう?』
エルミナの確認に、雄一は頷く。
雄一とて、<デル・ドーレ>がなくても、身体能力でなら同年代どころか大人にも引けを取らないだろう。
その雄一を捉えられる身体能力を、盟約の守護者は有しているのだ。
(圧倒するには、<デル・ドーレ>を使えばいいけど、そうすると他の方法は使えないよな)
『それに、黒野牛は、クーランにとって大地や頑強さの象徴でもある。その強化も加わっていることだろう』
「っと、それは面倒な・・・・・・だけど、能力を予想できてもどうやって倒すか、が問題だよな?」
『『・・・・・・』』
雄一の指摘に、デバイス達は言葉に詰まる。
『・・・・・・契約者が相手なら、対価や制約を衝けばよいのじゃが』
「その対価も制約も判らないんだよな?」
『いや、制約はおそらく、地面に触れることだろう』
「そうなのか?」
確かに、エルミナの言うとおり、盟約の守護者は度々地面に手を触れていた。
現状それが、制約として一番可能性が高いだろう。
ならば、打って出るかと、雄一は身体を立ち上がろうとするが、カナメが押し留めた。
『じゃが、それだけでは、主殿では勝てぬ』
「何故?」
辛口な評価に、顔をしかめながら、再び腰を下ろして静聴の構えを見せる。
『主殿の方が、能力の汎用性では勝っておる。じゃが、勝てぬのは何故じゃ?』
「それは・・・・・・俺が弱いからじゃないのか?」
『一概にそうとは言えぬ。そも、契約者の戦いは状況などに左右されやすく、優勝劣敗が当て嵌まらぬ。じゃが、主殿は能力に振り回されておる状態なのじゃ』
「能力に振り回される?」
『そうじゃな・・・・・・例えば、先ほど主殿は、あやつの影を破壊しようとしたな?』
カウンターで吹き飛ばされた時のこと、と思い至り、雄一は頷いた。
『確かに、<クフ・リーン>は強力な精霊じゃ。特に今は夜じゃからな。じゃが、その実弱点がある』
「弱点?」
『発動に時間がかかることじゃ』
<クフ・リーン>や<沙波>は、強力な反面影や地面に働きかける必要があり、<ルー・グー>や<バーラ・ルー>と比べて発動速度が遅いのだという。
『あの場合、能力を使うにしても、<ルー・グー>で弾き飛ばすなどの方法もあったじゃろう。主殿は、能力の使用に難がある。じゃから振り回されておる、と言うたのじゃ』
「・・・・・・なるほど」
カナメの言わんとするところを理解し、渋面を浮かべる雄一。
問題は判ったが、矯正するには一朝一夕とはいかないだろう。
それこそ、能力を本当の意味で自分のものとしなければならない。
「それもこれも、この戦いを乗り越えた後の話だ」
『そうじゃな・・・・・・ん?』
問題の先送りを決定した雄一に、一応の納得を示していると、カナメが何かに気がついた。
「カナメ? どうかしたか?」
『・・・・・・主殿、少々厄介な事になりそうじゃ』
「厄介?」
『先ほど、この結界に誰かが侵入したようじゃ』
「侵入? ・・・・・・ちょっと待て」
カナメの言葉に、雄一はある可能性に思い至り体を跳ね起こした。
現状、確実にアースラに戻ったのは、なのはだけで、フェイトやはやて達はまだ海鳴で戦っているわけで。
もし、その誰かと盟約の守護者が戦うことになったら、
「くそっ!?」
立ち上がると、すぐに、眼下のグラウンドを注視する。
その時、グラウンドに白光が走った。
「くっ!?」
咄嗟に、両腕で目を庇う雄一。
やがて、光が弱まると、すぐさま雄一は光源を確かめようと目を走らせ、
「っ!?」
先ほどのようにグラウンドに腰掛ける盟約の守護者と、
ぐったりと、力の入らない様子で、乱立する柱に吊り下げられた、
フェイトの姿があった。