リリカル世界を逝く影執事   作:ラッテンフェンガー

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ギリギリ、間に合わなかったー!?
でも、気にしない! 夜の間はセーフ、って事で!
では、本編!


番外編 バレンタイン特別編 その三

「次はあたしなんだけど・・・・・・あんた、はやてに何をしたのよ?」

「した、というか、どちらかと言えば、されたのは俺の方なんだけど」

「ふーん・・・・・・」

 

はやてと入れ替わりに、厨房から出てきたアリサに疑いの目を向けられ、雄一は否定するが、アリサは信じた様子はなかった。

しかし、そうしていても始まらない、と考えたようで、皿を雄一の前に置いた。

アリサの皿に盛られていたのは、

 

「ガトーショコラ、か」

「そうよ。若干、アリシアと被っちゃったところはあるけど、負けるつもりはないわよ?」

 

フフン、と胸を張るアリサの自信たっぷりの様子に、期待しながら、フォークで切り分けようとして、

 

「ふん!」

「って、いきなり何をする!?」

 

突然、アリサによってフォークをもぎ取られた。

アリサの凶行に、雄一は咎めるような目を向け、

 

「ほ、ほら! あ、あーん!」

「・・・・・・は?」

 

一口大に切り分け、フォークを突き出すアリサに、目が点になった。

 

(え、アリサが? あの気の強いアリサが? あーん、て、ええ!?)

「は、早くしなさいよ!」

「え、ああ? あ、ああ」

 

赤い顔をしながらも、フォークを向けるアリサに動揺しつつ、刺さったままだったブラウニーの欠片を口で受け止める。

 

「・・・・・・ん、美味しいぞ」

「ほ、本当!」

 

素直に言うと、アリサが顔を輝かせる。

再度頷くと、嬉しそうに笑ったが、我に返ったのか、元のツンとした雰囲気を取り繕っていた。

 

「と、当然じゃない! 私が作ったんだから!」

「そうかもな。それにしても、ビターチョコレートで作ったんだな」

「そうだけど・・・・・・もしかして、苦かった?」

「いや、そんなことはない。ただ、俺達くらいの子供なら、甘くしそうだと思ってな」

「そ、それは・・・・・・                 (そっちの方が、あんたの好みかと思って)

「ん? 何か」

「言ってない!」

 

どこかデジャビュを感じさせる光景であることはさておき、アリサの食い気味の反応に困惑しながらも雄一は、はやての失敗を取り返そうと、今度は聞いてみることにした。

 

「いや、だが、」

「うるさい! 何も言ってないって言ったでしょ!」

「いや、」

「うるさい、うるさい、うるさい!」

「・・・・・・そうか」

 

取り付く島もない様子に、諦めることになった。

アリサの方も、荒げた呼吸を落ち着けようと深呼吸を繰り返し、落ち着きを取り戻していく。

すると、

 

「二人とも、少しくらいなら構わないけど、あまり大声を出すのは感心しないわよー!」

「あ、済みま、せ、ん」

 

客に応対していた桃子に注意され、そちらへ頭を下げようとして、雄一は顔を引き攣らせた。

そう、桃子は翠屋の客に応対していたわけで、その中で雄一達は大騒ぎしていたわけで。

途端、雄一は自分達に向けられる、まるで微笑ましいものを見るような視線に気がついた。

奥まった席だが、客足は皆無ではなく、また他の店員もいるわけで。

 

「? どうしたのよ、突、然・・・・・・」

 

同じく、視線を悟ったのだろう、周囲の様子に沸騰するアリサ。

 

「あ、あ、ああ」

「あー、アリサ? その、大丈夫か?」

 

周囲の状況を認識して、気恥ずかしさからか固まってしまったアリサを気遣い、雄一は席を立つとアリサの肩に触れた。

途端、

 

「ひ、きゃぁああああ!!」

 

大声を上げながら、厨房へと駆け込んでいってしまった。

後に残されたのは、突然のことに、呆然とする雄一と。

 

『・・・・・・・・・・・・』

 

雄一に向けられる様々な視線だった。

正のものも負のものも様々なそれらに、雄一は、

 

「お騒がせしました」

 

ただ、頭を下げると店を後にするのだった。

 

 

 

 

桃子が他の店員や客に説明することで一応落ち着きを取り戻した店内。

先ほど雄一が座っていた席に、すずかが歩み寄っていく。

 

「大丈夫だった? 雄一君(・・・)

「ああ。それより、アリサは?」

 

すずかの問いに応じたのは、軍服を思わせるコートを着た青年だった。

というか、ペインの姿をした雄一だった。

先ほどの騒ぎに耐えかねての措置だったのだが、これを厨房から見たアリサはズルだと感じていたりする。

 

「アリサちゃんは、その、やっぱりまだ落ち着くには掛かるかな。なのはちゃん達が頑張っているけど」

「そうか。俺が行くのは」

「止めた方がいい、かな? 多分、火に油を注ぐことになるよ」

「むぅ・・・・・・」

 

すずかにやんわりと止められ、雄一はとりあえずアリサの件を保留しておく。

雄一が『何故アリサがあそこまで取り乱したか』を勘違いしているだろうことには、気がついているすずかは、雄一に持っていたお盆を雄一に差し出した。

 

「それじゃ、雄一君・・・・・・私のチョコ、受け取って」

「あ、ああ。判っ・・・・・・ん?」

 

すずかが雄一の前に置いたそれに、雄一は目を瞬かせた。

すずかが置いたのは、先の面々のように皿ではなく、カップ。

中には茶色い液体が注がれている。

 

「ココア、じゃないな。ホットチョコレートか」

「正解。今日みたいな寒い日にはいいかなって」

「確かに。それじゃ、早速いただきます」

 

早速、とカップに手を伸ばす雄一。

だが、その前にすずかがカップを取り上げた。

 

「えーと、もしかしてすずかも?」

「うん・・・・・・実は           (結構羨ましいなぁ、って)

「・・・・・・判った。けど、どうする気だ?」

 

今度の小声は聞こえてしまい、雄一は赤くなった頬を掻きながら質問する。

すずかは、それに答えず、カップを口元に寄せ、

 

「ふー、ふー」

『なぁっ!?』

 

息を吹きかけ冷ますすずかに、雄一だけでなく厨房から見ていた面々が仰天した。

羞恥を感じていないわけではないらしく、すずかも真っ赤になっていたが、構わずホットチョコレートを冷ましていく。

 

「え、っと、すずかさん?」

「・・・・・・ん、このくらいで大丈夫だと思うけど。はい、雄一君、あーん」

 

恐る恐る声をかける雄一に答えず、すずかはカップを差し出した。

思わず、カップの中身に無言になる雄一。

雄一のテーブルと厨房に緊張感が張り詰め、

 

「雄一君?」

「イタダキマス」

「あ♪」

『あぁー!!』

 

観念した雄一がカップに口をつけると、すずかの表情は華やぎ、厨房から絶叫が響いた。

雄一は気恥ずかしさを覚えつつ、口内の味に集中する。

 

「・・・・・・ココアと牛乳、じゃない。生クリーム?」

「うん。いつもは牛乳を使うんだけど、男の子なら飲み応えのある方がいいかな、って思って」

「・・・・・・あー」

 

つまり、雄一様にアレンジしたのだ、ということだろう。

 

「その、ありがとう。すずか」

「っ、う、ううん。大したことじゃ、ないよ」

 

礼を言う雄一を、すずかは頬を赤らめ、目を潤ませながら見詰めた。

徐々に、二人の周りの空気が変わっていく。

 

「雄、一君」

「すずか」

 

雄一も、すずかの様子に徐々に目を奪われていき、

 

『そこまでー!』

「はっ!?」

「きゃっ!?」

 

割って入った大声で、唐突に我に返った。

何事か、と理解する前になのは達が厨房から飛び出してくる。

 

「す、すずか! あんた、何しようとしたの!?」

「すずかちゃん!? 流石にあれ以上はまだ早いよ!?」

「まさか、抜け駆けるのがすずかだったとは・・・・・・思いもよらなかったわ」

「雄一の不潔・・・・・・」

「ホンマやな。雄君、自分いま何しようとしてたん?」

 

アリサ・なのは・アリシアがすずかに、フェイト・はやてが雄一にそれぞれ詰め寄った。

 

「ちょ、なのはちゃん達、乱入してくるなんて、ずるいよ! 私は皆のとき我慢したのに!」

「なっ!? そ、そんなこと、ないわよ」

「う、うん! そう、だよ、すずかちゃん!」

「どんだけ疚しいのよ、アリサ。なのは、動揺しすぎ。すずかの言わんとするところももっともだけど」

「「アリシア(ちゃん)、ずるい!」」

 

すずかの反撃に、途端掌を返したアリシア。

思わぬ裏切りにアリサとなのはは叫んだ。

一方、雄一の方は雄一の追求の様相を呈するようになっていた。

 

「それで、雄君? すずかちゃんとあんなに接近して、どういうこと?」

「ど、どうって?」

「私の時は、あんなに文句言うてた癖して、すずかちゃんとはあんな雰囲気作るなんて、説明してもらわんとなー」

「い、いや、止めたのはあくまでキス云々であって、別に密着されたことじゃ」

「雄一、言い訳は男らしくないよ?」

「フェイト!? 別に言い訳じゃ」

「というか、今の姿の雄君とすずかちゃんの組み合わせって、何か危ない気が」

「はやてさん!? その考えはちょっと待った!?」

 

再び、騒ぎに包まれる一角。

もちろん、あの人が黙っているわけもなく、

 

「皆?」

『っ!?』

 

桃子が一声掛けただけ。

ただ、それだけで騒いでいた雄一達はピタリと静められた。

錆び付いた機械のようにぎごちなく、声の元を振り返ると、桃子が笑みを浮かべていた。

綺麗な笑みだったが、周りに漂う怒気が、却ってその笑顔を不気味なものに変えていた。

 

「えーと、桃子さん?」

「ねえ、雄一君?」

「は、はい!」

 

恐る恐る声を発したことで、雄一に照準があったらしく、怒気が雄一に集中し、雄一は反射的に背を伸ばした。

まるで、蛇に睨まれた蛙の如く、汗を流す雄一に、桃子は笑いかけた。

 

「私は、騒がないで、といったと記憶していたのですが、記憶違いでしょうか?」

「イ、イエ、ソンナコトハ」

「そうよね。それなのに、どういうことかしら?」

「済みません、以後気をつけます!」

「・・・・・・まあいいでしょう。今日はなのは達が勇気を出したのですから、多目に見ましょう。それより、雄一君?」」

 

どうにか、桃子の怒りが静まったことに、胸を撫で下ろす雄一。

桃子はそれ以上言うことなく、笑みを元に戻すと雄一に提案した。

 

「よかったら、さっきのお土産を出したらどうかしら? 皆からご馳走してもらったお返しになるでしょう?」

「そ、そうですね! 桃子さん、お皿をお借りできますでしょうか?」

 

桃子の提案に、すぐに頷く雄一。

二人の遣り取りに、すっかり取り残されていたなのは達は、顔を見合わせた。

 

「雄一君? 一体何の話?」

「まあ待っててくれ。皆、座ってて」

 

なのはが雄一に聞くが、雄一は答えず皆を席に座らせると、厨房へと入っていった。

桃子は、六枚の皿と先ほど雄一が渡した箱を取り出すと、手渡した。

 

「はい雄一君。このお皿でいいかしら?」

「ありがとうございます。それより、もしかして冷蔵庫に入れてなかったんですか?」

「今日の内に振舞うことになると思っていましたから。温める時間は短くていいと思いますよ? オーブンにも火はいれてますから」

「確かにそうですけど・・・・・・桃子さん、実はこの流れが計算どおりなんてこと、ないですよね?」

「うふふふ♪」

「何か言ってください!?」

「それより、添えるのはアイスと生クリームどちらにします?」

「・・・・・・アイスで行きます」

 

すっかり桃子に翻弄され、ぐったりとしつつ雄一は箱から取り出したそれらをオーブンに入れると、全体が温まるくらいで取り出した。

それらをそれぞれ皿に空けると、桃子が差し出したバニラアイスを添えた。

そして、雄一はそれらにフォークを添えると、なのは達のもとへと運んだ。

 

「雄一君、これは?」

「今日は、大切な人にチョコを送る日、ということだから俺も用意してみたんだ」

「「「「「「――っ!?」」」」」」

 

雄一の思わぬ言葉に、なのは達は目を丸くすると、自分達の前に置かれた皿を注視した。

皿の上にあるのは、カップケーキほどの大きさの茶色いもの。

火は通っているようだが、フォークを入れると中から溶けたチョコレートがトロリと流れ出た。

 

「これって、フォンダンショコラ?」

「そうだ。加熱時間を間違えてないか不安だったが、どうやら上手くいったようで何よりだ」

 

アリサの確認に、頷く雄一。

食べてみてくれ、と促すとなのは達は目を輝かせながら、一斉に口に運んだ。

途端、

 

『美味しい!』

 

なのは達は顔を蕩かせながら言った。

 

「んー! ふわふわで美味しいの!」

「うん。本当だね」

「やっぱり、雄君の料理はバカにできひんなー」

「本当。先に出されてたら、私達の立つ瀬がなかったわよ」

「雄一君、後でレシピを教えてもらっていいかな?」

 

皆からの概ね好評な感想に、雄一は満足そうに頷くと、鞄から取り出したもう一つの箱をはやてに渡した。

 

「はやて、こっちの箱には、シグナム達の分を入れてあるから、後で渡してあげてくれ」

「ん、ええよ。ヴィータも喜ぶやろうし」

「? 喜ぶのはヴィータだけじゃないと思うけど?」

「そういう意味やないから」

「????」

 

意図するところが伝わらず、首を傾げる雄一の様子に、はやてだけでなくなのは達までも呆れたようにため息をつくと、再びフォンダンショコラに舌鼓を打つのだった。

 

 

 

 

「それで、どうなったんだい?」

 

後日、学校で顛末を話すと真一は、面白がった様子で雄一に訊ねた。

 

「何が?」

「いや、だから、誰のが一番美味しかったとか、あるじゃないか? やっぱり家庭的な八神さん? それとも、一番押していた月村さん? 家庭アピールのテスタロッサさん達? 素直になれないバニングスさん? 家がお店だけあって、お菓子作りに一番触れている高町さんかな?」

「ん? 誰のものも美味しかったけど?」

「・・・・・・」

 

雄一の回答に、眉間にしわを寄せる真一。

 

「えーと、ちょっと待ってね。雄一、確か僕はバレンタインの意味を君に教えたと思うんだけど」

「ああ、あれは助かった。『お世話になった人に、感謝を込めてチョコレートを送る日』だろう?」

「・・・・・・雄一、君ってやつは」

 

思わぬ回答に、思わず机に突っ伏す真一。

そのリアクションに首を傾げる雄一。

 

「はぁ・・・・・・ま、高町さん達も大変だな・・・・・・」

「どういうことだ?」

「自分で考えなよ!?」

 

雄一の鈍感さに、とうとう真一も匙を投げるのであった。

 

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