リリカル世界を逝く影執事   作:ラッテンフェンガー

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第百六十四話 正体と光明

「<タウロス>!」

 

先手を切ったのは盟約の守護者。

地面に手をつくと、地面から土の杭が雄一に向けて無数に生えていく。

対して、雄一も同じく地面に手をつき、<沙波>に干渉する。

 

「掻き消せ、<沙波>!」

 

途端、雄一のもとへ杭の列が伸び、後方へと伸びていく。

だが、雄一の周囲だけ、杭のない空間が出来上がった。

雄一の周囲の地面へ行われた、盟約の守護者の干渉を掻き消したのだ。

だが、盟約の守護者の攻撃はその程度では防げない。

 

「伸ばせ、<タウロス>!」

 

雄一を囲む杭から、新たに発生した杭が雄一めがけて勢いよく突き出される。

だが、雄一は地面に手をついたまま、別の能力に干渉した。

 

「突き上げろ、<ダー・ナーン>!」

 

能力が発動し、地面を突き破って生えた木の幹が雄一を空中に突き上げ、標的を見失った杭が木の幹を食い破った。

 

「逃がすか!」

 

宙にいる雄一めがけて、盟約の守護者は柱を撃ち出し追撃する。

しかし、飛行魔法もなく、宙に放り出された状態の雄一には、避ける術はない

 

かに思われた。

 

「弾けろ、<キー・アーン>!」

 

雄一は、掌から炎の小鳥を生み出すと、それを至近距離で爆発させた。

小鳥は一瞬膨れ上がると、衝撃と炎を撒き散らす。

 

「ぐっ!」

 

雄一は咄嗟に、腕で顔を護ったが、炎に焼かれる痛みと叩きつけられる衝撃に呻いた。

だが、その爆風によって、雄一は柱の射線から自身を逃すことに成功した。

 

「っ、痛ぅー・・・・・・<ダー・グッザ>!」

 

痛みに呻くが、返す刀として、銃に変えたエルミナで盟約の守護者を抜き撃った。

銃弾は盟約の守護者が創り出した土壁に阻まれ、開放された<ダー・グッザ>が土壁を圧縮した。

攻撃は不発に終わったが、盟約の守護者の追撃を潰す形になり、雄一は体勢を整えて着地した。

 

「・・・・・・うっ」

 

衝撃を受け流し着地すると、雄一は改めて両腕の火傷を検めた。

そして、目にした傷口に、少々後悔を覚えた。

炎による火傷も酷いが、爆風によって飛ばされた破片があったのだろう、腕の一部が深く切れていた。

本来ダメージを防ぐバリアジャケットだが、自爆だからか減衰が掛からなかったようだ。

 

――まったく、無茶しやがる! 一歩間違えれば、自分の能力でやられてたぞ!――

「<その意見は至極もっともだけど、緊急回避ってことで勘弁してくれ>」

 

接地したことで話せるようになった<クフ・リーン>から早速出た文句に、返事を返しつつ雄一は、<デル・ドーレ>に干渉する。

<デル・ドーレ>干渉時に受けた傷ではないため、即座に回復とはいかないだろうが、少しはマシになるはずだ。

 

「いやはや、まるで曲芸師だな。上手く避けるものだ」

「・・・・・・そうかよ」

 

賞賛を送る盟約の守護者に、雄一は苦い顔を向ける。

だが、その背に片腕をまわすと、袖口からナイフを滑らせた。

 

「そういえば、聞きそびれていたけど、なんでお前が精霊と契約できているんだ? オリジナルの俺が契約できていたから、って訳じゃないだろ?」

「ん? 時間稼ぎか?」

 

ナイフを意識させないために、会話に意識を向けさせる。

都合の良いことに、盟約の守護者は雄一のナイフに気がつかなかったのか、見当違いの推測をしていた。

だが、事実こうしている間も腕の怪我は遅々としてだが回復しているのは確かであり、質問の内容も疑問であるため、ナイフを擲つために身体を捻りつつ、雄一は会話を続けることにする。

 

「まあ、いいじゃないか。それで、どういうことなんだ?」

「・・・・・・まあいいだろ。お察しの通り、<タウロス>はお前に関係はない。これは、俺の元になった人間に宿っていた異能だ」

「ん? お前のオリジナルって俺じゃないのか?」

「ああ。リンカーコアこそお前がベースだが、俺の能力のベースは別人でな。記憶領域に残った記録を見れば、どこかの世界から紛れ込んだ次元漂流者を、俺達の製作者が研究の実験台にしたらしい」

「なん・・・・・・だと?」

 

盟約の守護者が口にした内容に、雄一の背中に怖気が走った。

マテリアルの製作者は、契約者を実験台にした?

 

『・・・・・・何ということを』

『・・・・・・惨い事をする』

――ふざけた事、しやがって!――

 

三者三様の怒りを、しかし盟約の守護者は苦笑で受け流した。

 

「俺にそう言われてもな。しかし、俺達の製作者が相当ヤバい人間だったってことは、俺も否定できないね。人間の魂なんてものを読み取って情報として記録する。もし、今の世界に生きていたら、今の技術も取り込んで、とんでもない技術を創り出していただろうよ。人道の是非は別として、だけどな」

「そんなヤバいやつだから、人体実験も已むなしだって言いたいのか?」

「いやいや。それはない。それに、誤解しているようだから言っておくけど、オリジナルだって無理やり引っ張られたわけじゃないぜ? 一応友好関係を築いた後に、お願いしてたらしいからな」

「ああ、そうかよ!」

 

聞くことは聞いた、と雄一は捻っていた身体を、一気に開放した。

腰の回転を胴体、肩、腕、指と伝播させていきナイフを擲つ。

しかし、ただ投げただけではナイフは当たらない。

投げたナイフは真っ直ぐには飛ばず、回転しながら放物線を描いて飛ぶ。

故に、投げたナイフの刃が相手に突き刺さるよう、距離を調節しなければならない。

ところが、雄一はその計算をまったくしていなかった。

なのに、雄一は当たらない、とは微塵も考えなかった。

何故なら、

 

「撃ち抜け、<ルー・グー>!」

 

干渉すると同時に、撃ち出した斥力がナイフの柄尻を捉え、一直線に加速させた。

ナイフは斥力の影響を受け、放物線を限りなく直線にし、銀光となって盟約の守護者へと奔り、

 

「っ!? くっ!」

 

辛うじて避けた盟約の守護者の肩を撃ち抜いた。

 

(・・・・・・?)

「くそっ、<タウロス>!」

 

相手が攻撃を受けたことに、むしろ戸惑う雄一に、盟約の守護者は再び土壁を発生させる。

雄一は戸惑いつつも、地中からの攻撃を容易く避ける。

だが、攻撃は一枚ではなかった。

咄嗟に下がった雄一の背後に新たな一枚が現れた。

そして、背後を振り返った瞬間、連続して左右に壁が生え、雄一を取り囲む。

 

「また押し潰すつもりか!? <沙波>!」

『違う! 主殿、避けよ!』

「っ! <クフ・リーン>!」

 

カナメの警告と同時に、周囲の壁が膨れ上がった。

一気に体積を増し、中心の雄一を押し潰そうとする壁に、雄一は素早く屈みこむと、突き出そうとしていた手で地面を巻き上げ、創り出した土のドームを<クフ・リーン>で影を拘束することで固定する。

 

壁がドームと接触し、轟音を上げる。

だが、厚さ数ミリ程度の土は、押し寄せる土壁を寄せ付けなかった。

 

<クフ・リーン>で影を括ったものは破壊できなくなる。

それを利用した防御だったが、

 

「上手くいってなによりだ」

『だが、これからどうするつもりかね?』

「ああ・・・・・・ただ、少し気になることがある」

 

雄一は一息つくが、エルミナの指摘に、緩みかけていた気を引き締める。

壁の向こうには、盟約の守護者が待ち構えているだろう。

だが、雄一の心中を埋めているのは別のことだった。

 

(さっきなんで奴はナイフを能力で防がなかったんだ?)

 

雄一の脳裏には、それが引っ掛かっていた。

<ルー・グー>で加速したとはいえ、それ自身はただのナイフ。

彼の土壁の防御なら、十分防げただろう。

 

――単純に、防ぐより避けた方が早かったからじゃないのか?――

「それならなんで避け損ねた? あいつの身体能力はクーランのものだ。銃弾ほどの速さが出るわけじゃないんだから、弾くことだってできたはずだ」

 

まして、空中戦を行う空戦魔導師は、高速機動などの急変する状況に対して対処するためか、空間認識・処理能力に秀でている傾向がある。

雄一とて、反射神経などはそうそう負けるつもりはない。

雷刃の襲撃者がフェイトの魔力変換資質を、闇統べる王がはやてに蓄積された大量の魔法を、星光の殲滅者がなのはの収束能力をそれぞれコピーしたように、その能力は盟約の守護者にもコピーされているはずだ。

 

「・・・・・・まさか?」

 

ふと、別の光景が過ぎった。

そもそも、何故盟約の守護者は雄一が構えるナイフに気がつかなかったのか。

その理由を考え、雄一の脳裏をある可能性が過ぎった。

思わず驚きながらも、雄一はその可能性を確かめる。

 

(確かに、それなら疑問は解ける。それに、あいつを倒す糸口になる)

――相棒? 何か、思いついたのか?――

「・・・・・・ああ、少し試す必要はあるけど、やってみる価値はあるはずだ」

 

雄一は<クフ・リーン>の確認に、しっかりと頷いて見せた。

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