(・・・・・・妙だな)
土壁を操作し、中央の雄一へと圧力をかけながら、盟約の守護者は眉をひそめた。
確かに、雄一達がマテリアルを生け捕りにすることで情報を得ることを目的としていることは、盟約の守護者も理解している。
そして、雄一の扱える能力が強力すぎることも、リンカーコアから得た情報で判っている。
だが、ただ攻めあぐねているだけなのだろうか?
(時間稼ぎか?)
考えついたのは、先ほど倒したフェイトのこと。
盟約の守護者は、雄一以上になのはやフェイトなどの魔導師を警戒していた。
生け捕りが目的である以上、非殺生設定を用いることで威力を保ちつつ戦える魔導師は厄介だ。
念のため、様子を確かめるが、フェイトが意識を取り戻した様子はない。
杞憂だったか、と雄一への攻撃に専念しようと振り返り、
突然、土壁に掛かっていた抵抗が消失した。
「っ!?」
すぐに地面に手をつき、盟約の守護者は意識を集中させる。
そして、地中を動くものが在ることを悟り、その出口めがけて石柱を構える。
「・・・・・・そこか!」
感覚に従い、そちらへと石柱を伸ばす。
石柱は素早く奔り、地中から飛び出した雄一を捉えた。
だが、
「<沙波>!」
「っ、な!?」
石柱が身体を捉える寸前、雄一は身体を液状化させた。
石柱ではなく、雄一の体が液状化されたことで、予想していた手応えが無かったことに、盟約の守護者は一拍止まった。
その隙を突くように、雄一は<ルー・グー>に干渉する。
「<ブーリ・クリウ>、そして打ち上げろ、<ルー・グー>!」
石柱の欠片を手に引き寄せると、さらに斥力をかけて上空に打ち上げた。
「ちぃっ!?」
「ぶち抜け、<ルー・グー>!」
嫌な予感に従い、身を投げ出す盟約の守護者。
瞬間、彼がいたところめがけて、雄一が打ち下ろした破片が轟音と共に降り注いだ。
破片は地面にぶつかると、衝撃を撒き散らし瓦礫を巻き上げた。
辛うじて避けた盟約の守護者は、その衝撃に背筋を冷たくしつつ、回避したことに僅かに呼気を洩らし、瓦礫を受けるに任せようとし、
「がっ!?」
突然、肩に生まれた灼熱感に呻きを洩らした。
手を肩にやると、湿った感触と共に、冷たく硬い感触が伝わった。
「これは、ナイフ? いつの間に」
「さっき瓦礫に紛れる形で投げたんだよ」
動揺する盟約の守護者に、雄一はあっさりと白状した。
先ほど、石柱を避けた際、雄一は<ルー・グー>を発動する前に<ブーリ・クリウ>を用いて先読みを図った。
目的は、『破片を盟約の守護者がどのように回避するか』を知ること。
そして、盟約の守護者が止まる地点へと、瓦礫に紛れるように山なりにナイフを放ったのだ。
「それと、これでハッキリした。お前の対価は『視力』だな?」
「・・・・・・」
雄一の言葉に、盟約の守護者は答えなかった。
だが、その表情が僅かに揺らいだのを、雄一は見逃さなかった。
「おそらく、お前の感知能力はその聴力と、能力を使った地面からの振動感知だな?」
「・・・・・・そこまで気がつくとはな」
雄一の追求に、今度こそ盟約の守護者は余裕を崩した。
盟約の守護者は、視覚感知で世界を認識しているわけではない。
地面へ干渉することで、相手の踏み込みなどを察知し、空気を切る音から相手の攻撃を予測する。
当然、その方法では相手に常に先をとられることになるが、しかし盟約の守護者はその身体能力で追随し続けていたのだった。
しかし、その反面視覚による危機の順位付けができないため、先ほどのような不意打ちを受けるのだ。
(だけど、それだけだ)
盟約の守護者はすぐに同様を打ち消した。
雄一は確かに盟約の守護者の弱点を暴いた。
だが、雄一が盟約の守護者を仕留められないことに変わりはない。
その一方で、盟約の守護者にはわざわざ加減をする必要はない。
ならば、最終的に勝つのは
「圧搾しろ、<ダー・グッザ>!」
雄一が抜き撃った銃弾が、盟約の守護者の片腕を貫き、咲いた黒い花がその周囲を拉げさせた。
「がぁあああ!?」
「やっぱり、捉えきれない攻撃には反応しきれないか」
呻く盟約の守護者を見下ろしながら、雄一は呟いた。
既に、雄一には盟約の守護者の生け捕りという思惑はない。
今の雄一にあるのは、マテリアルを殲滅することで再発はない、という予想だった。
盟約の守護者の思惑は、しかしその前提を失っているのだ。
「あああああ!? 貫け、<タウロス>!」
動揺しながらも、盟約の守護者は無数の石柱を生み出すと雄一めがけて放った。
だが、雄一は掌を突き出すと、
「羽ばたけ、<キー・アーン>!」
無数の炎の小鳥を生み出して迎撃した。
小鳥は石柱にぶつかる寸前、その身を膨れさせ爆発に石柱を巻き込んでいく。
その爆発も、一羽につき一本などというわけではなく、一羽の爆発が周囲の石柱を巻き込むとともに、周囲の小鳥を触発し新たな爆発を起こしていく。
そして、石柱が尽きるのに対して、数を残していた小鳥が盟約の守護者へ殺到しその身を弾けさせた。
「がぁああああ!!」
「終わりだ。噛み砕け、<クフ・リーン>!」
爆風に吹き飛ばされつつ、炎で焼けた身体を転がしながら叫ぶ盟約の守護者めがけて雄一はナイフを抜き放つと、彼めがけてナイフを撃ち放った。
ナイフは、盟約の守護者が身を捩ったことで、彼の背後に突き立ったが、そのナイフめがけて一直線に影が伸びていた。
これで、前準備は完了。
重要なのは盟約の守護者の影を捉えていることであるため、ナイフが刺さっていなくても問題ない。
「走れ、<クフ・リーン>!」
ナイフに繋がった影を辿るように、山犬の影が走る。
「くっ、ぁああああ!」
しかし、盟約の守護者は身体を前に投げ出した。
結果、影は<魔槍>の射線から外れてしまった。
転がった盟約の守護者は、その際、地面に触れ能力を発動させる。
「この、打ち上げろ、<タウロス>!」
「打ち消せ、<沙波>」
業を煮やした盟約の守護者によってグラウンドに石柱が乱立するが、雄一が打ち消すと砂に戻って降り注いだ。
「く、このっ!?」
「無駄だっての」
再度同じことが繰り返されるが、結果は変わらず。
「なら!」
盟約の守護者は、歯噛みすると自身の足元の地面を隆起させると同時に強く踏み込んだ。
途端、クーランの身体能力も合わさり、爆発的な加速を得て雄一へと迫った。
迫る雄一めがけて、盟約の守護者は拳を放つ。
「くっ、おお!」
盟約の守護者の拳を、雄一は両腕を交差させ受け止めると、両腕を払い弾いた。
そのまま、がら空きになった胴体へ蹴りを叩き込んだ。
だが、雄一の蹴りは盟約の守護者が差し込んだ片腕に阻まれた。
お互いの体が弾かれ、間合いが広がるなか、雄一は先ほどの一幕を思い返し舌打った。
「(やっぱりあの反応速度が問題か)だったら!」
雄一は、問題の解決のために一歩危地へ踏み込むことを選んだ。
途端、雄一の身体能力がさらに上がった。
「しっ!」
「く、ぁああ!!」
先ほど以上の速さで打ち込まれた拳の、予想以上の重さに呻く盟約の守護者。
(身体能力にブーストを掛けた? いや、そうじゃない)
もっと別の何か、と盟約の守護者は推測した。
その予想は正解だった。
雄一が選んだのは、<デル・ドーレ>と<ダー・グッザ>の二重起動。
複数起動は、単一起動より個別の出力は落ちる。
だが、この二つは血液に干渉する、という点で共通する。
回復力を失う、圧縮力が小さくなるなどの、リスクに眼を瞑れば、単純な強化率はこちらの方が高いのだ。
「はっ、はぁ!」
「ぐ、つう!?」
だから、盟約の守護者に攻撃を許さないように、雄一は攻撃の手を緩めず攻め続けていく。
拳に意識を向けさせれば開いた胴に膝を、足を警戒されれば敢えて砂を踏みしめるようにしながら拳を抜き撃つ。
雄一も盟約の守護者の攻撃を受け、回復力を失った体は、所々の骨から軋みが上がっている。
だが、その痛みを噛み殺しつつ、攻撃をさらに激しくする内に、ついにフェイントを増した攻勢に、盟約の守護者の守備にも穴が空き始めた。
それを見た雄一は、声を張り上げた。
「
「なっ!?」
雄一が飛ばした合図に、盟約の守護者はすぐにフェイトが倒れていた場所へ意識を向けるが、フェイトは変わらず気絶したままであった。
しかし、盟約の守護者はこの瞬間雄一から意識を外してしまった。
それを見逃す雄一ではない。
「ぶっ飛ばせ、<ルー・グー>!」
「しまっ!?」
すぐに我に返り防御を固めようとする盟約の守護者の足が地を離れる。
盟約の守護者はそのまま、上空まで浮かばされてしまった。
「こ、これは!?」
「地面に接しなければ、能力は使えないだろ。これで終わりだ、<ルー・グー>!」
感覚を断たれ狼狽する盟約の守護者の耳に、雄一の声が聞こえた瞬間、盟約の守護者の身体を今度は下からの風が襲い、地面へと勢いよく叩きつけられた。
「ご、っは!?」
「それで、仕上げだ。<ルー・グー>!」
全身がバラバラになりそうな衝撃に、全ての空気を吐き出させられ動けずにいる盟約の守護者に、雄一は先ほどのナイフを引き寄せると、上空に放ち、一気に下降させた。
ナイフは刃を下に向けた状態で一気に加速し、
「ごっ!?」
盟約の守護者の胸を貫き停止した。