「終わったか?」
『さてな。そも、生きておるのか?』
雄一の零した疑問に、身も蓋もない答えを返すカナメ。
あまりな物言いに肩を竦めると、雄一はため息をつき横たわる盟約の守護者に歩み寄ろうとし、
「っ、」
『マスター? どうかしたのかね?』
「――――いや、なんでもない」
呼吸を乱した雄一の安否を問うエルミナに、雄一は首を横に振った。
決着を迎えて気が緩んだからか、先ほどまではさほど気にしなかった身体の各所から伝わる痛みが大きさを増した。
軽いところは擦り傷や打撲程度だが、酷い所は折れているのか、灼熱感に変わりつつある。
雄一は痛みを堪えつつ、盟約の守護者の側まで行くと、傍らに腰を下ろした。
「よう、生きてる?」
「・・・・・・自分でやっておいて、言う台詞じゃ、ねえだろ」
雄一の確認に、顔をしかめながら目を開けた盟約の守護者は毒づいた。
盟約の守護者の厭味を雄一は受け流して話を進める。
「それで? 消えるまでどれくらい保つ?」
「心配しなくても、もう消える。それにしても、見事に致命傷くれやがって・・・・・・お前に躊躇いの文字は無えのかよ?」
「生憎、うちの面子に『躊躇い』とか『情け』の文字は無い」
『いや、情けはあるじゃろう』
二人の応酬にツッコミを入れるカナメ。
雄一は、その声を気にせず話を続ける。
「それはさておくとして、消える前に有用な情報の一つでも残して逝け。『砕け得ぬ闇』って何なのか。マテリアルとの関係は? 何故、マテリアルが『砕け得ぬ闇』を求める一方でお前は拒絶しているのか、とかな」
「・・・・・・はっ。どれ一つとして答えるつもりはない」
雄一の質問に、鼻を鳴らすことで答える盟約の守護者。
その態度に、雄一の額に青筋が浮かぶが、消失が近い相手に何をしても有効な尋問にはならないだろうから、必死で抑える。
雄一の様子に溜飲を下げたのか、盟約の守護者はニヤリと笑うと深く息を吐き出し脱力した。
「・・・・・・ああ。もう時間みたいだ」
「そうかよ。まったく、厄介な話しだな、おい」
盟約の守護者の言うとおり、彼の手足が崩れ始めた。
消滅が始まったことを見て取り、雄一は苦々しく思いつつ舌を打った。
確かに、マテリアルの撃退には成功したが、詳しいことは判らずじまいになってしまったのだ。
結局、秘密を守り通した盟約の守護者にしてやられたといえる。
「いいじゃないか。少なくとも、これ以上闇の書を刺激しなければ問題ないだろうさ」
「闇の書を? もう夜天の書として機能しているのにか?」
「知る必要、は・・・・・・ない」
崩壊は進んでいき、次第に盟約の守護者の口調が途切れていく。
「・・・・・・ユ・・・・・・リ・・・・・・」
「ん? いま、何か」
盟約の守護者の言葉を聞き取れず、雄一が聞き直そうとした瞬間、盟約の守護者は完全に姿を消した。
雄一は、彼が横たわっていた場所をしばし見下ろしていたが、やがて肩を落とした。
「こういう場合、末期の一言って結構重要な気がするんだが。聞き逃したのは痛かったかもな」
『何処の漫画の話じゃ。下らんことを言うておらんと、今は決着を喜ぶがよかろ』
雄一の韜晦をばっさり斬り捨てるカナメ。
しかし、カナメの言葉ももっともと思い、雄一は一息つこうとし、
昇ってきた朝日に目を留め、崩れ落ちた。
「・・・・・・疲れた。というか、徹夜かよ、おい」
呆然と呟くと、意識の手綱を手放すのだった。
『「闇の欠片事件」報告書 記録者クロノ・ハラオウン
新暦66年末に第九十七管理外世界、通称地球にて発生した本件は、先ごろ決着した「闇の書事件」の余波被害と思われる。闇の書事件の関係者の記憶などを再生し、関係者を襲撃。目的は闇の書の機能の復活と思われる。これは、闇の書の構築体を名乗る敵性存在からの証言を根拠とする。しかし、嘱託魔導師他数名の働きにより撃破された。結果、構築体の消滅を確認している。
ただし、』
「――――再発の可能性については不明である、か」
「どうだろうか。何か気になる点があったら教えて欲しい」
「そうか。それなら言わせて貰うが」
「なんだ?」
「なんで、俺は医務室で休んでいた矢先に報告書の校正を頼まれているんだ?」
身を乗り出すクロノを押し留め、雄一は半目を彼に向ける。
ここはアースラ艦内の医務室であり、雄一が横になっているのはそのベッドの上。
あの後、倒れていた雄一とフェイトは、結界の崩壊を受け飛んできたはやて達によって収容されたのだ。
そして、雄一はやはり数箇所骨折していることが判明し、<デル・ドーレ>で回復を促すにしても少々安静にする必要があるのだった。
ちなみに、フェイトは、外傷は<沙波>で、内臓は回復魔法で治癒しており、ここにはいない。
しかし、クロノは気にした様子もない。
「何だ、そんなことか? マテリアル全員に会っているのはお前だけだからだ。今回の事件で一番深く事情を持っているお前に聞かずにどうするって言うんだ?」
「・・・・・・言わんとするところは判るが・・・・・・まあいい。それで、気になるところだけど、今回の一件は『闇の書の余波被害』って確定するのか?」
前置きを挟み、本題に入る。
気になったところを挙げると、クロノは一転して苦み走った表情で頷いた。
「ああ。というか、そうでもしないと納得しない者が多いんだ。考えても見ろ。闇の書の危険はまだ残っている、なんて言ったら、ここぞとばかりにはやて諸共封印しようとするやつが出かねないからな。いまでも、はやてと守護騎士を切り離そうっていう意見もあるんだ」
「ふーん・・・・・・ところで、そいつらの顔と居場所を」
「教える訳がないだろう。何をする気だ」
「・・・・・・別に」
もちろん、囀る口を無くしてやろうと、などと言えるわけもなく、素知らぬ顔で目を逸らす雄一。
しばらく、疑わし気に見ていたが、クロノも話しを流すことにした。
「まあいい。それで、他に何かあるか?」
「そうだな・・・・・・マテリアルの目的が、『闇の書の機能の復活』って書かれているけど、どうしてそういうことに?」
「これも、意図は同じだ。お前の証言にあった『砕け得ぬ闇』やそのバックアップ、盟約の守護者だったか? そいつの存在について、詳しいところは判らずじまいだったんだから、不明瞭な情報を載せて悪戯に不和を招くよりも、そういう態にしておいたほうがいいだろう」
「なるほどな」
『ただ、少々気掛かりに思うことがある』
「カナメ?」
『あの盟約の守護者とやら。どうにも弱すぎたように思うのじゃ』
「どういうことだ?」
カナメの突然の発言に、眉をひそめ顔を見合わせる雄一とクロノ。
『あやつは、その「砕け得ぬ闇」のバックアップなのじゃろ? それにしては、使った力は地面から壁や柱を生み出しぶつける程度じゃ。バックアップというからには、その本体と同程度の力を使うはずなのに弱すぎると思わんか?』
「言われてみれば・・・・・・」
「だが、その『砕け得ぬ闇』が、実は大したことのないものだった、という可能性はないのか?」
『それはなかろ』
クロノの問いに、しかしカナメはあっさりと否定した。
にべもなく斬り捨てられたクロノは、むっ、として問い返した。
「どうしてだ? マテリアルにも『砕け得ぬ闇』についての記憶はないんだろ? なら、なんでもないただのプログラムを重要なものと思い込んだ可能性も」
『ない、と言うておろう。盟約の守護者も言うておったろうが、『砕け得ぬ闇』とは特定魔力の無限連環機構じゃと』
あ、とカナメの指摘に固まる二人。
確かに、そんな風なことを言っていたような、と記憶を振り返って納得する雄一。
クロノも、危険性に納得がいき、矛を取り下げた。
「なるほど、その増幅された魔力がマテリアルに合わないはずがないか」
「ああ。語感から察するに、たぶん魔力の増幅とかの機能を持ったロストロギアなんだろう。マテリアルの戦闘能力で魔力に限界がなくなったりしたら、正直手が付けられないだろうな」
「それほどか・・・・・・」
雄一の評価に顔をしかめるクロノ。
そんなクロノに、雄一はふと気になったことを尋ねた。
「そういえば、この件ははやてには何処まで伝える?」
事が夜天の書に関わることだから伝えない、というわけにはいくまい。
そう思っての問いに、クロノも難しい表情を浮かべた。
「そうだな・・・・・・念のため、リインフォースにもマテリアルについて聞いた上で判断するところだが・・・・・・確認するが、盟約の守護者は確かに『これ以上関わるな』と言ったんだな?」
「ああ」
「・・・・・・難しいところだな。関わらなきゃ防ぐ方法を知りようもないのに、深く関われば問題を起こす危険もある、か」
「ああ・・・・・・一応、こっちでも調べてみるが」
腕を組むクロノに、ふと雄一は思いついたアイデアを口にした。
その内容にクロノは、ん? と首を傾げた。
「どうするつもりだ? 夜天の書ははやてが持っているものだけだろう?」
「前に闇の書を解析したデータがエルミナに残っているはずだ。そこからより深く解析をかけられるだろう」
「本当か!? そのデータは確かに残っているんだな!?」
「ああ。エルミナ?」
『心配せずとも、間違いなく残っている』
光明に身を乗り出すクロノを雄一は押し留め、サイドテーブルに置かれたエルミナに確認する。
雄一の確認に、エルミナはホロウインドウを表示すると、解析データだろうそれをスクロールさせた。
それを確認すると、クロノは頷き雄一の手から報告書を取った。
「それなら、その方向でやってみよう。はやて達は、近い内に旅行に出るんだったな?」
「ああ。だから、確認はその後にしてやってくれ。不安を感じさせたまま、楽しめるとは思えないし」
年が明けてから、なのは達は家族と共に旅行に行くらしい。
雄一も誘われていたのだが、この怪我や調査のことを考えると、遠慮させてもらうことにするつもりだった。
だからこそ、なのは達には楽しんできてもらいたいところなのだ。
雄一の言葉に、判った、と頷き医務室を後にしようとするクロノ。
その背に、ふと雄一は胸中に過ぎった思いを口にした。
「この事件・・・・・・本当に終わったのか?」
「・・・・・・判らない」
雄一は答えを求めたわけではなかったが、クロノはその問いに首を横に振ることで答え、今度こそ病室を後にした。
その背を見送り、雄一は再びベッドに横になると、静かに目を閉じるのだった。
次回からは、伏線ばら撒くための閑話が続きます。
ところで、ここで質問です。
StS登場の召還師の片割れことルーテシア。
彼女の父親って、その存在について明言されていませんよね?