リリカル世界を逝く影執事   作:ラッテンフェンガー

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閑話 両親の足跡と期待

「はっ、はっ、はっ!」

 

雄一は、グレアムからの連絡を受け、管理局本局にあるグレアムの執務室へと急いでいた。

荒い息を吐きつつも、しかし、雄一は足を急がせる。

それほど雄一は逸っていた。

両親の知り合いならば、もしかすると死因だった火事について、そも何故両親が死んだのか、その答えを知っているかもしれないのだ。

そう思えば、雄一は急がずにはいられなかった。

 

「はっ、はっ・・・・・・つ、着いた」

 

すぐさまグレアムの執務室の前に着くと、雄一はドアの前で深呼吸を繰り返し息を整えると、

 

「榊です! グレアム提督、入ります!」

 

強い語調で踏み込んだ。

執務室の中には六人の人物がいた。

内三人は、部屋の持ち主であるグレアムと彼の使い魔のリーゼ姉妹。

ならば残りの三人が話題の人物か、と雄一はそちらへ目を向けた。

残った三人は男性一人が来客用のソファに腰掛け、副官だろう女性二人がその背後に立っていた。

三人は飛び込んできた雄一に目を向けると、それぞれ驚きを顔に浮かべ、雄一を見つめた。

三人が目的の人物であることは、この反応からも明らかだろうが、雄一は念のために聞くことにした。

 

「貴方方が、俺、じゃない。私の両親のお知り合い、ですか?」

 

確認のため、問う雄一。

それに相手が答えて話を進める

 

だけのはずだった。

雄一を凝視していた三人の内、背後の女性の片方、長い紫の髪を水色のリボンでポニーテールにした女性が雄一を見つめたまま、突然身体を震わせたかと思うとソファを飛び越え雄一を抱き締めた。

 

「わー! 隊長、本当にこの子って彰子ちゃんそっくりですね! うーん、懐かしいな! 生きててくれてよかったー!」

「・・・・・・はい?」

「あらあら。駄目よ、クイント。その子が戸惑ってるわ」

 

なにやら感動し涙を流しながら雄一を抱き締める女性に、目を白黒させる雄一。

その状況に助け舟を出したのは、控えていたもう一人の女性だった。

背にかかるほど長い紫の髪をストレートに流したその女性はたおやかな笑みを浮かべながら、相方を窘めた。

どうやら、こちらの女性よりは彼女の方が話ができそうだ、と雄一は判断する。

しかし、どういうことか、と雄一が口を開く前に、クイントと呼ばれた女性が頬を膨らませながらそちらを振り向いた。

 

「えー!? でも、メガーヌだって嬉しいでしょ? 彰子ちゃんの子供がしっかりと生きていてくれたんだから」

「それは・・・・・・そうだけど」

「でしょー! だから、もう一回ハグー!」

(丸めこまれたー!?)

 

クイントの反論にメガーヌと呼ばれた女性は、クイントの言い分に思い当たるところがあったのか、言葉を詰まらせる。

その隙にクイントは再度雄一を抱き締める腕の力を強めた。

差し出された助け舟があっさり沈められたことに、雄一はもう一人、残った男性に目を向けて・・・・・・雄一は思わず呼び出した張本人ことグレアムへと視線を向けた。

ソファに腰掛けた男性は一連の騒動に表情を大して動かさず、黙然としていたのだ。

助け舟など期待できるはずもなく、グレアムへと視線を動かした雄一を誰が責められるだろう。

一連の騒動を苦笑しながら見ていたグレアムは、視線に気がつくと苦笑を深めながらも、クイントを窘めた。

 

「そこまでにしておきたまえ。彼にとって君達は、まだ見知らぬ大人なのだから、過度のスキンシップは彼の態度を硬化させるだけではないかね?」

「うっ!? そ、それは私の望むところじゃ、ナイですし・・・・・・判りました」

 

言われ、クイントは渋々ながらも雄一を離した。

雄一は、抱き締められて皺になった服を軽く払って伸ばすと、グレアムに呆れた様子で尋ねた。

 

「で? このアーパー気味のお姉さんとかそちらのほんわかさんとかそちらのやたらどっしりと構えた偉丈夫はどういった方々で?」

「ああ、彼らは」

「我々は時空管理局首都防衛隊の者だ」

 

答えようとしたグレアムを遮り、ソファに座り沈黙していた男性が口を開いた。

 

「首都防衛隊、ですか? えっと」

「ん? ああ。ゼスト・グランガイツだ」

「ではゼストさん。それで、貴方方は両親とはどういう繋がりで?」

 

ゼストが口を開いてから、空気の重さが変わったのを感じ、雄一は姿勢を正して本題に入った。

気づけば、クイントもメガーヌもゼストの背後へと戻っている。

ゼストは、一つ頷くと懐かしむようにして話し出した。

 

「俺達が付き合いがあったのはそれほど長くじゃない。一時同じ部隊にいた、という程度だ。彰子はクイント・メガーヌと。春臣は俺ともう一人、ここにはいないがレジアスとよくつるんでいた」

「つるんでいた? ですが、母はともかく、父は管理局に入局しなかったんですよね?」

 

以前、グレアムから聞いた話はそうだったはずだ。

確認するように問うと、ゼストは頷いた。

 

「確かに、奴は入局はしなかった。だが、付き合いがなかったわけじゃない。何故か馬があったんだろうな。よく酒を飲んでは、管理局をどう思うかを語り合ったものだ。俺やレジアスとは違う、完全に外側からの視点として、春臣の言葉は印象深かった」

「彰子ちゃんとの付き合いも似たようなものだったよ」

 

ゼストの言葉に合わせるように、クイントが言った。

彼女の表情も、過去を懐かしむものになっている。

 

「私達三人も、同じ部隊だったのがきっかけだったけど、それぞれ得意とする部分が重ならなかったからかな、上手い具合に歯車が噛みあったんだ。私は接近戦型のストライク・アーツ。メガーヌは接近・遠距離もいける万能型。彰子ちゃんはミッド式が強かったから遠距離特化、て具合だね」

「だから、私達で三人一組(スリーマンセル)を組むことが多かったのよ。プライベートでもよく三人で買い物をしたり遊びに行ったりしたわ」

「・・・・・・そうだったんですか」

 

クイント、メガーヌと続けられた思い出語りに、雄一は僅かに頬を上げた。

先ほど、ゼストは浅い仲だ、と言っていたが、蓋を開けてみれば、彼らにとって両親は大切な人物だったのだろう。

こうやってぽんぽんと思い出が浮かんでくるのがいい証拠だろうから。

言葉が途切れ、室内に二人のことを悼む沈黙が下りる。

その中、ならば、と雄一は期待を抱く。

 

(やっぱり、この人達なら知っているかもしれない)

「それで。今回提督から君のことを知り、聞きたいことができた」

「? 聞きたいこと、ですか?」

 

だが、雄一より先にゼストが口火を切った。

タイミングを外された雄一は、内心顔をしかめながらゼストに視線を向け、

 

変わらずにいた表情の中、激しい色を放つ目を見て息を呑んだ。

 

「君のご両親が亡くなったときのことを聞きたい。構わないか?」

「っ、両親がですか?」

 

雄一の確認に頷くゼストの姿に、雄一の期待は失望に変わった。

彼らも情報は持っていないらしい。

だが、無碍に扱っていい相手ではないため、雄一は闇の書の内部で知ったことだ、と前置きしあの日のことを語った。

話が進むにつれ、三人の表情は険しくなり、クイントとメガーヌは堪えられないように口元を覆った。

以前話を聞いていたグレアム達も沈痛な表情を浮かべている。

ゼストは表情が険しくなったが、その手はきつく握られ血が滲んでいた。

 

「・・・・・・これが、あの日に起きたことです。そのことを俺は忘れ、両親が生きているように振舞いながらいたところで魔法に触れ、このことを思い出しました」

「そうか・・・・・・辛いことを聞いたな」

「いえ、大丈夫です。それより、私も皆さんに聞きたいことがあります」

 

ゼストの気遣いに、雄一は首を横に振り確認を取る。

 

「皆さんこそ、何か両親の死について何か御存知じゃないですか? それこそ何か小さなことでも」

「・・・・・・済まない」

 

だが、ゼストは首を横に振った。

その様子に、先ほど抱いた失望が膨れ上がるが、それなら、と雄一は一つ爆弾を投げてみることにした。

 

「一つ、考えていることがあります」

「なんだ?」

「犯人の予想です」

「「「っ!?」」」

 

雄一の言葉に、三人の表情が変わった。

詰め寄ろうとしたのだろう、クイントが身を乗り出したが、ゼストに手で制された。

だが、それで収まりがついたわけじゃない、代わりに彼が雄一に問うた。

 

「どういうことだ? いや、それは誰だ?」

「誰か、は判りませんがその背後にいるものはこれじゃないか、と思っています」

「それは?」

「時空管理局」

「なっ!?」

 

雄一の答えに、流石のゼストも言葉を失った。

自失するゼストに、雄一は以前グレアム達に話した根拠を伝えた。

雄一の話を呆然としながらも聞いていたゼストは、再起動を果たすと、鋭く雄一を見据えた。

 

「それがどういうことか、お前は判っているのか?」

「ええ。ちなみに、同じことをグレアム提督にもお話しています」

「っ、本当ですか、提督?」

「ああ。そして、私はその話に一定だが信憑性があると思っている」

 

グレアムの言葉に、ゼストは呻くと鬼気を抑えた。

そのまま、しばらく何事かを考えるように腕を組んで瞑目すると、やがてゆっくりと口を開いた。

 

「だが、やはり根拠が弱い。春臣達が何を理由に殺された?」

「判りません。ただおそらく、ロストロギアや古代兵器の類と考えています」

「何故だ?」

「管理局が危険と秘密保持を理由に動くには十分でしょう」

「だが、それはお前の想像でしかない。先ほどの話にあった発掘に参加していたスクライア族の者とコンタクトを取ることができれば」

「ええ・・・・・・ですが、それを調べきることができないんです」

 

雄一の頼みの綱はユーノだったのだが、彼は現在無限書庫の効率化に明け暮れているそうで、しばらく部族の近況を知ることはできないそうだ。

ならば、自分で調べればいいのだが、データベースへのアクセス権を雄一は持っておらず、ならば他に頼ればいいのだが、そうすると目的を明かさなければならず、管理局の目がどう動くか判らない以上、親しいクロノ達でさえ相談できない。

よって、そこで雄一の調査は途切れている。

そう説明すると、ゼストは再び何事かを考え始める。

その時、ゼストの次の言葉を待つ雄一に、メガーヌが提案した。

 

「ねえ、雄一君? 良かったら、私達が鍛えてあげようか?」

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