ゼスト達との邂逅、そしてクイントからの敗北から日が過ぎて。
雄一は、旅行から戻ったなのは達と共に、海鳴海浜公園を訪れていた。
「ここなら、海に出れば何も憚ることなく戦えるから存分に戦えるだろ」
「それは判ったけど、あんた怪我は大丈夫なの? つい三日前まで骨折していたのよ」
「問題ないって。俺の回復力は知っているだろ」
「でも、」
「大丈夫だって」
尚も心配するアリサを遮る雄一。
心配を無碍にされたアリサは眉を寄せたが、雄一が手刀を切って謝意を示すと、激発せず流すことを選んだ。
アリサが爆発しなかったことに、なのは達は胸を撫で下ろすと、雄一に問うた。
「それでどうするの? 詳しいルールとかは決めてなかったけど」
「一応それも考えてきた。それじゃ、説明するけど、」
・今回の模擬戦はチーム戦と個人戦の側面がある。
・チームは、A)雄一・なのは・フェイトとB)はやて・アリサ・すずかで分ける。
・BはAにハンデを要求できる。
・戦闘の結果で勝者は敗者に一つ命令できる。
「こんなところか」
「「「「「・・・・・・」」」」」
雄一の説明したルールに、五人の視線が力を増した。
素早くお互いに目配せすると、まずはやてが若干挙動不審になりながらも雄一に問う。
「そ、それにしても雄君もやっぱり男の子やったんやねー」
「? はやて、どういうことだ?」
「やって・・・・・・勝ったら命令できるなんて、男の子やったら一度は夢見るもんやろ?」
はやては、何を想像しているのか怪しい目つきをしながら科を作ってみせる。
だが、雄一はその意図に気がつかず首を傾げた。
「どういうことか判らないけど、こういうことにしておけば、皆のモチベーションに繋がるんじゃないか? ってくらいの考えだけど」
「・・・・・・さよか、そやよな」
雄一の様子に肩を落とすはやて。
見れば聞き耳を立てていたのか、なのは達も微妙な表情で肩を落としていた。
「(モチベーションの向上にはならなかったのか?)どうかした?」
「・・・・・・ううん、何でもあらへんよ。そうやな、ここは雄君に勝ってどっか遊びに連れ出したる!」
「遊びに?」
「な、何言ってんのよ、はやて!」
突然やる気を取り戻したはやてに、アリサが割って入った。
その剣幕に雄一は驚くが、はやてはニヤリと口を歪めた。
「ん~? アリサちゃん、どないしたんや?」
「な、何もあんた達だけで行くことないじゃない! あたし達も一緒に行けばいいじゃない?」
「せやけど、アリサちゃんが勝ったら、私達にそれを教えるんか?」
「うっ・・・・・・も、もちろんよ!」
「めっちゃ目が泳いでるやん」
目を逸らすアリサの頬を突くはやて。
アリサは紅くなった頬を膨らませてしばらくはやてが突くのを放っておいたが、やがて堪えかねたのか、
「~~、う、うるさい、うるさい、うるさい!」
「わー、アリサちゃんが怒ったー!」
「待ちなさい、はやて!」
爆発したアリサから逃げ出すはやてを、アリサは猛然と追い掛け回す。
その様子を雄一が眺めていると、袖をフェイトに引かれた。
「フェイト?」
「ねえ雄一、質問だけど対戦相手はどうやって決めるの? はやて達に指名させるとか?」
「いや、それだと偏る可能性もあると思うんだ。だから、これを使うつもり」
「それは?」
フェイトは雄一が取り出したものを見て、首を傾げた。
雄一が取り出したのは三本の紐。
「ただの紐。だけど、同じ紐の人同士で戦ってもらおうかと」
「そっか、それなら公平だね」
「あ、それじゃ、今度は私からいいかな?」
雄一の説明に、納得を見せるフェイトに続くように今度はなのはが手を挙げた。
「はい、なのは君」
「なんでユーノ君がここにいるの?」
なのはの指摘に、全員の視線がそちらへ向く。
その視線の先には、
「ああ、やっとこっちに話が向けられたね」
無限書庫の開拓整理に追われているはずのユーノが頬を掻きながら苦笑していた。
「ユーノには結界魔法を頼むつもりなんだ。俺が用意するよりも強力なものを張れるし」
「それはそうかもしれないけど、ユーノ君は忙しいんじゃないかな?
「あはは・・・・・・確かになのはの言う通りなんだけど、ね・・・・・・」
「?」
次第に遠い目で乾いた笑いを溢すようになっていくユーノの様子に、怪訝な表情になるなのは。
ユーノに代わって、事情を知る雄一が答えた。
「確かに、なのはの言うとおりユーノは管理局の無限書庫改善計画の要で、休みのやの字もないくらいの状況だけど、だからこそそろそろ強引にでも休ませないと、ユーノが先に参ると思ったから引っ張り出してきたんだ」
「「・・・・・・ああ」」
「「「?」」」
無限書庫の有様を知るだけに、雄一の説明に大いに納得するなのはとフェイトだったが、知る由もないアリサ・すずか・はやては顔を見合わせて首を捻った。
「えーと、なのは、フェイト? ちょっと聞くけど、もしかして管理局って結構ブラッ」
「「いやー、やめてー! 言わないで!」」
アリサの指摘に、顔を青褪めさせ動揺したなのは達が悲鳴を上げた。
その悲鳴に遮られたアリサになのはが詰め寄る。
「もしかしたらそうかな、とは思ってたけど! 思ってたけど! 改めてそう聞くと辛いものがあるから、考えさせないでアリサちゃん!」
「まぁ、一応俺達もその辺りは察しているから・・・・・・そっとしておいてやってくれ」
「・・・・・・う、うん。判った」
「えーと、ま、まあ、ユーノ君が来てるんわ、別にええやん? 私も呼んでるし」
「呼んだ? 誰を」
なのはを押し留めながらアリサに苦笑を向けると、アリサも引き下がった。
その一連の流れを外側から見ていたはやての言葉に今度は雄一が首を傾げる番だった。
そのとき、
「あ、いた! はやてー!」
「ん? あれは」
公園の入り口の方から響いた聞き覚えのある声に、雄一は振り返り眉を跳ね上げた。
「ヴィータ? それにシグナム達も」
駆け寄るヴィータ、そして、彼女に続く形でシグナム・シャマル・ザフィーラ・リインフォースが近づいていく。
「試合のこと教えたら見に行くって聞かんくてな。連れてきたんよ」
「別に隠すことじゃないから構わないけど」
「けど? 何かあるんか?」
奥歯に挟まったような物言いをする雄一にはやてが問い質す。
すると、雄一は言い難そうにしながらも言った。
「試合の展開次第では、シグナムあたりの抑えが聞かなくなるかも、と思って」
『ああ・・・・・・』
「待て、何故そのような納得をするのだ!? ああ、って何だ!?」
思わず納得する一同に不本意だと強く主張するシグナム。
もっとも、シグナムの性格を知る者は苦笑して取り合わないが。
「それより、他に何か質問はあるか?」
「あ、それじゃ私からいいかな?」
雄一の確認に、スッと手を挙げたのはすずか。
雄一は特に異存もないため促す。
「ああ、何だ?」
「この、『チーム戦と個人戦の側面がある』ってところだけど、個人戦で命令権があるってことは、チーム戦にも何かあるのかなって?」
「・・・・・・ああ、それか」
すずかの確認に、何故か苦い顔をする雄一。
その反応に怪訝な顔をする一同に雄一はため息混じりに言った。
「実は、そっちも個人戦と同じ賞品にしようと思ったんだけど、二番煎じに思えてな。かといって、他に案があるわけでもないからどうしたものか、と」
「「「「「それでいいから!」」」」」
雄一の説明に、勢いよく食いつく五人。
その反応に、むしろ雄一の方が気圧されることとなった。
「ま、まあ、皆が納得するならそれでいいけど・・・・・・それじゃ、いつまでもこうしていても始まらないし、早速相手を決めようか」
妙な予感を覚えた雄一は、これ以上薮蛇になる前に、と紐の中程を掌で挟み込むと、擦り合わせるようにして絡まらせる。
充分に混ぜたところで、なのは達に先に引かせ、残った一本を手に取った。
「それじゃ、行くぞ。せーの!」
「「「「「!?」」」」」
雄一の声と共に、一同は手に持つ紐を軽く引いた。