少し遅れてしまいましたが、一周年記念です!
この一年、拙作に御付き合い戴いた全ての読者に感謝をすると共に、これからも拙作と御付き合いをお願いする所存です。
では本編、行く前に一つ。
ヤンデレって、書いてみると難しいんですね!
ではっ本編どうぞ!
「・・・・・・ん」
意識が浮き上がってくるにつれて雄一は、大きさを増す頭の痛みに呻き声を漏らしながら、目を開ける。
しかし、目を開けて映った天井に眉をひそめた。
「あれ? 何処だ、ここ・・・・・・っ!?」
自分の家のものではない天井に、意識を失うまでの記憶を確かめながら、とりあえず身を起こそうとし、動かない四肢にその先を確かめて雄一は絶句した。
雄一からは見えないが、四肢の先、それぞれの手首足首とベッドの四隅を繋いでいるのだろう鎖と金環が辛うじて視界の端に入ったのだ。
「な、なんだこれ!? なんでこんなことに!?」
異様な状況に取り乱す雄一。
だが、雄一が落ち着きを取り戻す間もなく、入り口があるのだろう先からとの開く音と共に軽い足音が雄一の耳を震わせた。
雄一がそちらへと首を向けようとすると、それに先んじて足音の主が雄一の顔を覗きこんだ。
「あ♪ 目が覚めたんだね、雄一君」
「なのは?」
にこやかに雄一を見下ろすなのは。
まさかここはなのはの部屋だろうか、と動かせる範囲で周りに目を向ける雄一だったが、その疑問を悟ったようになのはは笑みを浮かべたまま首を横に振った。
「ここは、私の家じゃないよ?」
「? それなら、ここはどこなんだ?」
「んー・・・・・・それを教えちゃってもいいけど、もう少し待っててね。もう少ししたら来ると思うから」
「来る? 一体何が」
「え? そんなのもちろん」
「私が、だよ。雄一」
なのはの様子に雄一の胸中にざわつきが広がっていく。
それを呑み込みつつ、なのはに問うと、彼女が答える前に、新たな人物が部屋へと入ってきた。
その聞き覚えのある声に、雄一は膨れ上がる嫌な予感を必死で飲み下した。
「フェ、フェイト?」
「うん。でも、雄一。なのはと話すことがあるからちょっと待っててね」
「ん? 何かあったの? フェイトちゃん」
「シラを切るの? 抜け駆けするなんて、なのははずるいよ」
笑みを浮かべながら白々しく首を傾げるなのはに、フェイトは唇を尖らせる。
「抜け駆けなんて、人聞きが悪いよ? ただ、私の方が先にやることが済んだだけだもん。むしろ当然の権利だと思うよ?」
「こっちを手伝ってくれたって良かったんじゃないかな? それか、待っててくれても良かったと思うよ?」
「その発想はなかったかな?」
「もう、なのはったら!」
「あ~ん、ごめん、フェイトちゃん!」
いつものように笑いあい仲の良さを見せるなのは達。
そのいつも通りの様子に、雄一は固唾を呑む。
(これ、一体どうなってるんだ?)
雄一は、二人の様子に戸惑いつつ、再度手首足首に嵌められた枷に目を向けた。
もちろん、【夢幻であり再び目を向けたら消えていた】、などという展開があるわけでもなく、いまだに雄一の手足には枷が嵌まったままだ。
それなら、何故二人はその枷に戸惑うことなく、いつも通りの様子でいられるのか。
考えられるとすれば、この枷が雄一にしか感知できないか、それとも雄一が感じている通りなのか。
確かめるために、雄一は動きが悪くなった舌を必死で動かし問うた。
「な、なあ。二人とも? よかったら聞かせて欲しいんだけど、」
「あ、ごめんね雄一! ずっと起きないから心配したんだよ!」
だが、フェイトに遮られ、言葉を飲み込まざるをえなかった。
何故なら、フェイトの言い様はまるで、
「まるで、フェイトちゃんが雄一君を眠らせたみたい、だって?」
「っ!」
なのはに言い当てられ、表情を強張らせてしまう雄一。
その雄一の様子を面白そうに、なのはは見ると、言った。
「だって、雄一君を気絶させたのはフェイトちゃんだもん」
「気絶、だって?」
雄一の頭痛が徐々に強さを増していくのを堪えつつ二人に問うと、二人はにこやかに頷く。
二人の話を纏めると、
部屋の用意をなのはが、雄一の拉致をフェイトがそれぞれ担当し、雄一を拉致する際、気絶させるために後頭部を殴打したらしい。
「この部屋は、ユーノ君に教わった結界魔法やバインドの応用で造ってあるんだよ」
「ごめんね、雄一。でもこうしないと、雄一を私達のものにできない、と思って」
「お前達、何を・・・・・・いや、私達のもの、って」
雄一は動揺のあまり、疑問を纏めることができなかった。
目の前の二人が姿が似ているだけの別人のようにさえ思えてきていた。
それでも、少しでも状況を確かめるために、二人を問い質していく。
「だ、だけどなんでこんなことをする? こんなことをしても」
「「雄一(君)のことが好きだからだよ」」
「・・・・・・は?」
雄一は思わず聞き直した。
あまりにこの場にそぐわない言葉に、脳が理解できなかったのだ。
二人は、顔を紅くしながら蕩けた笑みを浮かべつつ、寝台へと歩み寄っていく。
「気がつかなかったの? 私達は雄一君のことが好きなんだよ」
「だから、何時かは雄一に選んでもらいたかった」
「けど、雄一君。私達に手を出そうとしないんだもん」
「最初は雄一から手を出すのを待とう、って思ってたんだよ?」
「だけど、雄一君のことを好きなのは私達だけじゃなかった」
「アリサやすずか」
「はやてちゃんにヴィータちゃん」
「他にもいるかもしれない」
「雄一君はそっちを選ぶかもしれない」
「そう思ったら気が気じゃなかった」
「そうしたら、こう思ったんだ」
「「誰かのものになる前に、私のものにしちゃおう、って」」
「・・・・・・」
交互に告げられるなのは達の言い分に、雄一の胃は冷たさを増していく。
言葉を発せない雄一に構わず、二人は寝台の両側にそれぞれ腰掛けると、雄一の左右に寝そべった。
「でも、一人でやるのは難しいの」
「成功しても、他の人に奪還されちゃうからね」
「だったら、協力しようって考えて、仲良しのフェイトちゃんなら、って思ったんだよ」
「アリサとすずかはもちろん、はやて達だって、私となのはなら抑えきれる」
「だから」
「だから」
「「雄一(君)は私達のものなの」」
「・・・・・・いや、好意はありがたいけど、これは行き過ぎじゃ、がっ!?」
「何か言った?」
二人の言葉に、流石に反論をしようとした雄一は突然首に走った痛みに息を詰まらせた。
見れば、なのはが笑顔のまま雄一の首を握っていた。
その笑顔の冷たさに慄く雄一。
視線を動かすことはできないから確認できないが、フェイトも同様の笑みを浮かべているだろう。
「雄一君? 何か言ったかな?」
「・・・・・・なんでもない」
なのはの再度の問いに、雄一は首を横に振ると共に言った。
その言葉を聞き、なのははあっさりと手を離すと、
「ん、れろ・・・・・・」
「っ!?」
何を思ったか、雄一の頬に顔を寄せると舐め上げた。
突然走った湿った感触に、雄一は振り払うこともできず身体を硬くした。
「あ、なのは。また抜け駆け?」
「ん・・・・・・そんなつもりはないって。それより、フェイトちゃんも」
「うん・・・・・・そうだね、ちゅっ」
「んんぅ!?」
なのはの誘いに乗ったフェイトは、雄一の頬に手を添えると、自分の方へ振り向かせ唇を塞いだ。
「ん・・・・・・ん」
「・・・・・・っ、・・・・・・!?」
「ああ! ずるい、ずるいずるいよ、フェイトちゃん! 私も!」
フェイトに雄一の顔をずらされてしまったなのはは、フェイトが何をしているのか知るや、自分もと飛びついていった。
そんな二人の口撃に、雄一は自失から立ち直ると必死で顔を逸らそうと動く。
「ちょ・・・・・・本当に、待てって、ん」
「ん、んぅ」
「ん・・・・・・あ、そうだ、フェイトちゃん。ちょっといいかな?」
交互に、雄一の身体に唇を落としていた二人だったが、ふとなのはが何かに気がついたようにフェイトを呼び止めた。
「どうしたの?」
「あのね、いま思いついたんだけど、雄一君の能力に再生能力があるよね」
「え? うーん・・・・・・あった、と思うけど、それがどうしたの?」
「あれって、腕を切っても再生するんだよね? だったら、半分に切ったらどうなるのかな?」
「それは・・・・・・え、もしかして!」
なのはが言わんとするところを知り、飛び起きるフェイトになのはは我が意を得たり、と頷いてみせる。
「そう! 半分なら、どちらも再生の核になるはず! その理屈で行けば雄一君が二人に・・・・・・」
陶然と語るなのは。
しかし、雄一はその予想に顔を青くし、必死に首を横に振った。
(ならないよ! たとえ<デル・ドーレ>を使っても、真っ二つにされたら死ぬから! 増えるどころか亡くなるから!)
<デル・ドーレ>の再生は、命令を出す脳、変容させる血液、そして血液を巡らせる心臓が不可欠なのである。
縦でも横でも、真っ二つにされてはいずれかを欠くことになり、雄一は死んでしまうだろう。
「な、なのは、フェイト! お前達が何をしようとしているかはなんとなく、予想がつくが、それはありえないから!」
「大丈夫だよ、雄一君! 魔法は信じればできるものなんだから!」
「信じれば何でもできるわけじゃないから!?」
「プラズマザンバー、セット。非殺生設定、解除」
「フェイト!? それは洒落にならないから! まずは話を聞いてくれ!」
「ん、雄一、暴れたら駄目だよ。狙いがずれちゃう」
「すっごく不安が跳ね上がったぞ、その台詞!?」
動かせる胴体を動かして抵抗を示す雄一に、なのは達は聞き分けのない子供を相手にするように取り合わずに用意を進めていく。
フェイトはカートリッジをロードさせると、バルディッシュを大剣状に変え、上段に振り上げた。
なのはは雄一の頭側に回ると、雄一の両肩を押さえ、雄一の抵抗を押し留める。
どうやら、なのは達は雄一を左右に切り分けるつもりらしい。
「さ、イクヨ?」
「待っててね、ワタシノユウイチクン?」
「あ、ああ、い、<沙波>!」
それを見て取った雄一は、暴れつつも<沙波>に干渉し、鎖とベッド、そして床を抜けて脱出を図った。
「あ、雄一!?」
「待って!」
反射的に二人は沈む雄一に手を伸ばすが、その手は空を切った。
一方、床を抜け階下に降りた雄一は着地するや否や床を蹴って手近な壁へと飛び込んだ。
壁に沿うように張られている結界を<フェルディア>で破ると再度<沙波>に干渉する。
壁も<沙波>で潜り抜けると、夕日に染まった街並みが目に飛び込んできた。
「ここは・・・・・・そうか、前にフェイトが潜んでたマンションか!」
見覚えのある景色に背後を振り返った雄一は、やはり見覚えのある廊下に叫んだ。
なのは達が雄一の監禁場所に選んだのが、以前フェイトが魔法を使いフロアを占有していたここだったのだ。
地理を得た雄一は、安堵の息を漏らすがすぐに呑み込んだ。
(まだ、なのは達から逃げきれたわけじゃない! 二人なら、すぐに立ち直って追ってくるだろう。二人を抑えられる人・・・・・・プレシアさんやリンディさんと合流して押さえてもらうか)
素早く方針を決めると、まずは連絡を取ろうとカナメを取り出そうとする。
だが、雄一の手は空を切ることとなった。
「っ!? な、ない!?」
カナメの待機状態である懐中時計が無くなっていた。
確かめると、エルミナも失われている。
考えられるとすれば、なのは達に押さえられたのだろう。
(あいつらが無いと、転移は不安があるな。けど、空を飛んだらなのは達ならあっさり補足するだろうし・・・・・・<デル・ドーレ>の強化で一気に海鳴へ戻るのが得策、か?)
一気に危険度を増した状況に、雄一は階段の側に身を潜めると、頭を抱えた。
僅かな時間だが、落ち着いて現状を乗り越えるためには必要だと判断したからだった。
だが、それは圧倒的な悪手だった。
「見つけた! 雄一君!」
「っ!? この声、なのはか!?」
突然の声に、雄一は声を振り仰ぎ絶句した。
マンションの廊下、その外壁の外側にレイジングハートを構えるなのはの姿があった。
さて、先ほど結界を破ってしまったため、なのはの姿は人の目に留まる恐れがある。
にも拘らず、飛行魔法で追ってきたことに雄一は怖気を堪えつつ駆け出そうとし、
「しまっ!?」
背後が階段であったことを失念してしまい、足を滑らせてしまったことで雄一の体が宙に浮いてしまった。
「捕まえた!」
空中で身動きできない雄一めがけてなのはが手を伸ばす。
迫る魔の手に、雄一は観念したように眼を瞑り、
先ほどの恐怖を思い出して覚悟を決めた。
「さっきまでみたいなことは御免だ!」
必死の形相で叫ぶ雄一めがけて手を伸ばすなのは。
今度こそ捉えた、今度こそ私だけのものに、と夢想しながらなのはの手は雄一の手を捉え、
ることなく、忽然と雄一の姿が消え失せた。
「え? ええ?」
「なのは!? 雄一は!?」
何が起きたのか判らず呆然とするなのはに、反対側から発見の報を聞いて飛んできたフェイトが問い詰める。
だが、なのはにも答えがあるはずもなく、しばし二人は呆然とすることとなるのであった。
浮遊感に包まれていた雄一は、感覚がはっきりした途端、背中から地面に叩きつけられることとなった。
「~~~~、っごほっ!? げほっごほっ!?」
「ちょ、雄君!? どないしたんや!?」
「は、げほ、はやて、か?」
叩きつけられた拍子に息が詰まったことで咳き込む雄一は、安否を問う声の主を振り向き、相手を知るとここが八神家のリビングであることを悟った。
(どうやら、闇の書事件で蒐集をしていたときにつけていたマーカーに跳んできたみたいだな)
「雄君、大丈夫か? ちょっとうちで休んでき?」
「げほ・・・・・・ああ、大丈夫。だけど、お言葉に甘えてもいいか?」
「もちろんに決まっとるやろ! ヴィータ! ちょお手伝うて!」
「はやて? どうかし・・・・・・ユウ!?」
はやてに呼ばれて顔を出したヴィータは、雄一の姿に気がつくと血相を変えて飛び出した。
「ユウ! 一体何があったんだ!? その様子だと相当ヤバイ状況なんだろ!?」
「や、ヤバイというか、ちょっとなのは達と色々あって・・・・・・」
「なのはちゃん、やて?」
はやての目が細まる。
だが、その様子に気がつくことなく、雄一は頷いた。
「ああ。なにか様子がおかしくなっていて、そこから逃げてきたんだ。リンディさん達と連絡を取る間でいいから、匿ってくれないか?」
「・・・・・・。ええよ。ゆっくりしてき、て言うたやん」
「本当か! ありがとう、はやて」
助けてくれる人が現れたことに、深く安堵し喜ぶ雄一。
その安堵のあまり、雄一ははやてとヴィータが素早く目配せしたことに気がつかなかった。
はやての無言の指示に、ヴィータは頷きを返すと、
「それじゃ、ユウはソファにでも座っててくれ。あたしはシグナム達に話を通しておかなくちゃいけないから」
「うん。頼んだで、ヴィータ。雄君には私がお茶を出すから」
ソファを勧められ、深く腰掛ける雄一を見ながら言葉を交わした二人はそれぞれ外と台所へと別れた。
ソファに座った雄一は、危地を抜けたことを喜ぶのに夢中で、二人におざなりに返事し深く息を吐いた。
(やれやれ・・・・・・はやてのおかげで助かりそうだ。後はリンディさん達に通信を繋いでって、あ、そういえばデバイスがないから、通信を繋いでもらわないといけないな。はやてに頼んでみるとして、なのは達のことをどう説明・・・・・・あれ?)
なのは達のことを考えようとしたとき、ふと雄一は違和感を覚えた。
(あれ? たしか、なのは達はアリサやすずかだけじゃなく、
脳裏に過ぎった可能性を必死で打ち消す雄一。
しかし、一度湧き出た不安はその姿を消すことなく、むしろ体積を増していった。
その不安に耐え切れなくなった雄一は、台所にいるはやてに気がつかれないよう、できる限り音を消して立ち上がり、
「どこ、行くん?」
「っひぃ!?」
耳元で聞こえた声に、飛び退った。
いつの間にそこにいたのか、ソファの背後にはやての姿があった。
信じられない思いで台所の方を振り返った雄一の目に映ったのは虚空に溶けるように消えるはやての偽者の姿だった。
「な!?」
「幻や。どうや、本物かどうか気がつかへんだやろ?」
「は、はやて? やっぱり、お前も」
「それより、雄君。私な、聞きたいことがあるねん」
震えだす雄一に構わず、話を切り出すはやて。
何事か、と震えを押さえようとしつつ逃げ出す隙を窺う雄一にはやては温度の篭らぬ目を向けながら、否、その目を一点に向けながら言った。
「それで、なのはちゃん達に何回くらいキスされたん?」
「っ、な、え?」
唐突なはやての問い。
本来なら、聞き流せるはずの問いに、それに心当たりのある雄一は思わず反応してしまった。
その反応に、はやての目が細まる。
「実はな、さっきから雄君の身体中からなのはちゃんやフェイトちゃんの匂いがするねん。特に口周りからな。せやから、キスされたんやろうな、とは思っとったけど、あまり面白くないなぁ」
「な、ならどうするつもりなんだよ!」
「んー、せやな。なあ雄君? 再生の能力、たしか<デル・ドーレ>言うたっけ?」
再びのはやての唐突な問い。
その突然の変調に、雄一は眉をひそめながらも頷いた。
「ああ。だけど、それがどうした?」
「いやな。それ、使っといた方がええよ、と思ったんよ。いまから、」
その唇切り落としたるから、とはやては続けた。
はやての物言いに、思わず雄一は固まってしまう。
「な、なんで?」
辛うじてそれだけを問う雄一にはやては至極当然のことを言うように説明した。
「だって、いまの雄君の唇には、散々なのはちゃん達の印が付けられてるねんで? せやけど、それ切ってできる新しい唇は文字通り新品なわけやん? それを私のものにしたるんよ」
「っ、こ、断る!」
はやての発想に、拒絶を示すと同時に窓へと駆け寄る。
窓を破ってでも逃げなければ、もっと不味いことになるという確信が雄一を突き動かした。
それに、庭へと出てしまえば、はやては車椅子では庭に降りられず、追ってはこれないだろうという予想があったのもある。
雄一の思惑通り、はやてが反応する前に雄一の身体は窓を突き破り、庭へと飛び出すことに成功した。
後は、足が地を噛んだ瞬間に駆け出せば逃げ切れる。
そのはずだった。
雄一の足が地に着いた瞬間、鈍い音と共に雄一の頭が横にぶれた。
「がっ!?」
視界に星が散り、バランスを保てなくなった雄一は地面に倒れこむ。
それでも、何が起きたのか、と見上げた先には、
「悪いな、ユウ」
アイゼンを振り抜いた姿のヴィータの姿があった。
姿が見えないと思っていたら、雄一の逃走を予想していたらしい。
「ヴィータ、お疲れ様や」
「ううん。それよりさ、はやて」
「判っとるよ。二人でたっぷりと楽しもか。ヴィータ、雄君連れてきて」
「うん!」
ハンドルを返し、リビングを後にするはやての指示に、ヴィータは満面の笑みを浮かべると倒れた雄一の足を掴み引き摺っていく。
(あ・・・・・・ああ・・・・・・)
頭部を強打された雄一は、声を出すこともできず遠ざかっていく外へと必死に手を伸ばそうとする。
だが、腕は動かず、やがて雄一の視界はぷつり、と途切れるのだった。
「う、うわぁあああああ!!??」
意識が覚醒に向かうや否や、雄一はベッドから跳ね起きると、周囲に血走った目を走らせた。
時刻は朝。
特に変わった様子のない雄一の部屋だった。
『何事じゃ、騒々しい』
『マスター? バイタルが不穏だが、何かあったのかね?』
枕元にはカナメとエルミナの姿がある。
そのことにも深く安堵を覚えつつ、雄一はただなんでもないと頭を振った。
雄一の様子に、デバイス達は不審に思いつつも深く掘り下げることはなかった。
すると、
ピンポーン、とインターホンが来客を告げた。
『ん? 誰じゃ、こんな早朝に?』
「っ、さあな? ちょっと見てくるよ」
僅かに身体を強張らせるが、雄一は立ち上がるとドアへと向かった。
レンズから外を見ると、アリサとすずかが緊張した様子で訪ねてきていた。
何事かと思いつつも、チェーンを外して二人を出迎える。
「どうしたんだ、二人とも? こんな朝早く?」
「う、うん。実は、あんたに渡したいものがあって・・・・・・」
なにやら顔を紅くしつつ言うアリサ。
すずかに目を向けると、そちらも赤い顔で頷いた。
「ふぅん? それで、何をくれるって?」
「あ、あのね! 渡すために、両手を前に出して欲しいの!」
「両手?」
「そ、そうよ! それと、眼を瞑っていなさい!」
「えーと、こうか?」
すずか達の指示に、雄一は疑うことなく両手を皿のようにして差し出し目を閉じた。
暗くなった視界の中、雄一は二人がなにやらゴソゴソとしている音を聞きつつ、手に何かが置かれるのを待ち、
ガチャリ、という硬質な音が手首で鳴った気がした。