リリカル世界を逝く影執事   作:ラッテンフェンガー

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お久し振り、そして明けましておめでとう御座います。
思ったほど筆が進まず、間が空いてしまいました。
そのため、この閑話については方針を変えることにしました。
詳しくは後書きの方に。

では、本編。


閑話 思惑と失敗

(・・・・・・え?)

 

思わぬ光景に、すずかは辛うじてようやくそれだけを思えた。

雄一の様子から某かの攻撃があると考え、何がきても対応できるように、雄一の動き――特に手刀にした右腕――を注視していたのだが、

 

「すずかちゃん、見ちゃだめ!」

「・・・・・・?」

 

なのはの叫びに、僅かに意識がそちらへ向いた。

瞬間、身体が冷たくなるような重圧と共に、プロテクションを揺るがさず抜けた何かに斬り裂かれたように、首筋から血が噴き上げた。

 

「・・・・・・え?」

<お嬢様!?>

 

突然の事態にアルテミスも動揺の声を上げるが、噴き出す血に呆然とするすずかの耳には届かなかった。

失血のショックとすずかを襲った重圧――殺気――に膝が崩れ、地面に倒れそうになり、

 

「っ、すずか!」

(雄、一・・・・・・君?)

 

雄一が血相を変えて駆け寄る光景を最後に、すずかの意識は途切れた。

 

 

 

「すずか!」

 

倒れ込むすずかに、浮かべていた余裕の表情をかなぐり捨てて、雄一は駆け寄った。

すずかの体を抱き止めると、素早く首に視線を走らせ、

 

(・・・・・・よかった)

 

傷一つないことに胸を撫で下ろした。

そうしていると、安堵の余り膝が崩れかけた雄一めがけてアリサが真っ先に詰め寄った。

 

「雄一! ア、アンタは! 何てことを!」

「ユウ! 決闘じゃねえのに、相手を殺しちまうなんて! 何て事を!」

 

アリサに遅れたヴィータも、自身によくしてくれていたすずかの惨状に眦を釣り上げて雄一の襟首を締める。

見れば、事情を知るなのはとフェイト以外は雄一に険しい視線を向けていた。

 

「あー、言いたいことは判るけど、落ち着け」

 

目の前で起きた惨事に、言葉が追いつかないアリサ達を宥める雄一。

その態度に、頭に血が上ったアリサが拳を振りあげ、

 

「え?」

 

視界を掠めたすずかの白い首筋に動きを止めた。

 

「傷が、ない?」

「へ? アリサさん、何言って・・・・・・え?」

 

アリサの視線を辿ったヴィータも目を丸くした。

 

「だから落ちつけって言っただろ」

「・・・・・・どういうこと(なんだ)よ」

「順を追って説明するけど、まず言っておくのはさっきのは幻ってこと。すずか自身には傷一つつけてない」

 

雄一の言うとおり、見れば噴き出したはずの血も辺りに見当たらなかった。

信じられない思いですずかの首筋を検めていたアリサは宙を仰いだ。

 

「説明しなさい、一から十まで」

「判ってる。まず触れるのは、この模擬線で俺やなのは達側の目標についてだ」

「私達の? それってはやてちゃん達に魔法の使い方を教えることじゃないの?」

 

二回戦も終わろうかという今更なタイミングの問いに、なのはは小首を傾げながらも応えるが、雄一は苦笑を浮かべる。

 

「それも間違いじゃないけど、俺達は俺達で新しい戦い方を試すのが目標だったんだ」

 

予め言った訳じゃないけど、と続ける雄一に一同は「じゃあ、意味ないんじゃないの?」と思ったが、呑み込んで先を促す。

 

「えーと・・・・・・新しい戦い方?」

「ああ。なのはなら『より砲撃特化の戦い方』を試すこと、例えば試作段階のハイペリオンの威力を試したり、とかな」

 

むしろ、それを判ってやっていると思っていたのだが、なのは達の様子からするとその辺りは全く無自覚だったようだ。

 

「で、翻って俺の場合、契約の能力はほとんど知られているから、それを組み合わせた技を試すつもりだったんだ。もっとも、威力がどう変わるか判らなかったから、すずかのハンデのせいでほとんど試すことができなくなったけどな」

 

そうでなければ、<ダー・ナーン>で相手を昏倒させる類の毒を持つ植物を用いるなど方策はあった。

だが、それでは意味がなかったから用いなかった、と雄一はなのは達に応える。

しかし、雄一にはさらに別の目的――とはいえ、それは模擬戦中にできたものだったが――もあった。

それは、すずか自身の吸血鬼への恐れを破ること。

僅かとはいえ吸血鬼として備わる能力が、魔法という特殊な力を有するとはいえ人間である雄一達に牙を剥くのではないか。

その恐れを抱いていたすずかの思考に、その思考を何とかしようと思ったのだ。

そのために、あえて余裕を前面に出し、吸血鬼としての力を振るっても届かないすずかの上位の存在がいると、意識させたのだ。

そのため、バインドに捕らわれた時は、目論見が崩れそうになってかなり焦っていたのだが。

 

(クリスマスのアリサ達の言葉で一度は落ち着いたと思ったけど、流石に物心ついてからずっと抱いてきたものだけあって完全とはいかなかったみたいだったが)

「ほとんど? 全てではないということは先ほどの殺気はその技だと?」

「ん、ああ」

 

言葉尻を捉えたシグナムの問いに、思考に沈んでいた雄一は頷いた。

 

「<ハヌ・マーン>は知ってるよな。その能力の思考干渉を応用して、『猫騙し』の殺気を直接叩きつける、ってものだった」

「待て、その『猫騙し』とは?」

「簡単にいえば、相手に殺気を叩きつけて自分が斬られたって認識させることで戦意喪失させる技だな」

「ほう?」

「なのは達は一度見ているだろ?」

 

なにやら目を輝かせるシグナム。

だが、その様子に気づかず雄一は話をなのは達に向ける。

なのは達は顔を見合わせると、揃って頷いた。

 

「たぶん、あれだよね? 闇の書事件の時にアースラで」

「うん。管理局員に囲まれたときに使った技だよ、ね?」

「そう」

「ああ、だから、あんた達は落ち着いていたのね」

 

確認するなのは達への雄一の肯定に、アリサは先ほどの騒ぎを思い出して得心がいったと頷いた。

 

「それを応用する技を使ったんだ。ただ、この合わせ技にはちょっと問題があった」

「問題?」

「簡単に言うと、相手の意思による抵抗を<ハヌ・マーン>で抜けて100%の殺気を叩きつけるつもりが、思考を読むために繋がっているリンクから自分も殺気の影響を受けてしまうみたいなんだ」

 

<ハヌ・マーン>の弊害というか。

思考を読む中には殺気も含まれるらしい。

 

「ちょっと待ちなさいよ。それなら、なんであんたはすずかみたいになってないのよ?」

「自分がやったことだからってのもあるけど、やっぱり一番は慣れだな」

 

雄一の言葉に嘘はない。

闇の書事件の際には管理局員どころか魔法生物だって殺気を向けてきていた。

それに二ヶ月とはいえ触れていたのだから、すずかとは抵抗力に差ができても不思議はない。

とはいえ、完全に無事とはいかず煽りは受けたが。

 

「それでも、すずかは気絶。俺はこうして意識を保っている以上俺の勝ち、でいいよな?」

 

突然の雄一の勝利宣言に、え、とアリサ達が反対しようとするが、気絶しているすずかを見て言葉を飲み込んだ。

 

「む、そうね。言いたい事はあるけど、すずかは戦えないだろうし」

「せやね。それに、話を聞いてるとすずかちゃんを無理矢理起こしても、雄君とまともにやれるか判らへんし」

「それは後でフォローしなきゃならないとは思ってるけど・・・・・・なら、この次はアリサとフェイトの勝負を、っ!?」

 

雄一が気を切り替え、二人を促そうとした瞬間、雄一は総毛だった。

同時に、

 

「・・・・・・ぁ」

「・・・・・・な、ん」

「・・・・・・っ」

「っ!?」

 

なのは達が抵抗する間もなく崩れ落ちるが、そちらへ注意を払う余裕はなかった。

自身を襲った圧迫感に、反射で受身を取る余裕もなく、雄一は地を強く蹴りつけた。

飛び退りつつ袖口からナイフを滑らせ、圧迫感、否殺気の基へ放とうとし、

 

何が起きたか判らぬ様子でレヴァンティンを構えて目を白黒させたシグナムの姿に、思わずナイフを取り落とした。

 

「って、シグナム!? お前まさか、見様見真似で『猫騙し』使ったのか!?」

「た、たしかに試してみたが、まさかこうなるとは」

「当たり前だ! ヴォルケンリッターみたいに戦場の殺気を知ってるやつが、そんなもの使ってみろ! 余波だけで不味いことになりかねない!」

 

シグナムに怒鳴りつけるのもそこそこに、雄一は倒れるなのは達へ駆け寄り、手早く容態を確かめていく。

幸いなことに、脈拍にも(見える範囲で、だが)身体的にも問題は見受けられなかった。

 

「~~~~っ、はぁああああ」

 

簡単な、診察とも言えない代物だが、その結果に雄一は深く安堵をこぼすと改めて周囲を見渡した。

シグナムの猫だましの影響を受けたのはなのは達だけではなかった。

ヴィータやザフィーラ、リインフォースはさほどではなかったが、シャマルは少々顔を青褪めさせている。

その違いは、やはり前衛か後衛か、だろう。

ユーノの無事を確かめようと、頭上を仰ぐと結界は崩れずに存在していた。

 

「ユーノは・・・・・・無事のようだな」

「っ、雄一! いったい何があったの?」

 

姿を探すと、頭を振りはしたが耐えきった様子で駆けてくるところだった。

雄一はユーノが傍に来るのを待って説明をする。

 

「簡単にいうと、シグナムが無差別に殺気をばらまいて、なのは達があてられたんだ」

「ええ!?」

 

雄一の言葉に血相を変えるユーノ。

そんな彼を落ち着かせるように、彼に掌を向け数度上下させる。

 

「落ちつけ。軽く見た限りだが、怪我はない。気絶してるだけみたいだ」

「そ、そうなの? よかったぁ・・・・・・」

「といっても、この寒空の下に放置しているわけにもいかないから、アースラに運ばないといけないがな。とにかく模擬戦は中止して撤収しようと思う」

「え? けど、フェイトとアリサの模擬戦は?」

「二人とも倒れてる。やるにしても、日を改める必要があるだろ」

「そっか・・・・・・判った。それじゃ、僕は戻ってなのは達の様子を見に行くから、雄一はアースラに通信を入れてもらっていいかな」

「ああ。判った」

 

ユーノの提案に、雄一は了承を示すと、カナメを取り出し、

 

「っと、そうだ。こんな時に何だけど、ユーノに一つ頼みがあるんだ」

 

ふと、ユーノを呼び止めた。

 

「頼み? こんな時に何を」

「あまりなのは達には聞かれたくないんだ」

「? いったい何を」

「それは――――」




この閑話については、次に総括を持ってきて終了です。
というのも、この閑話へのモチベーションが尽きたんです。
もともとは、フェイト対アリサを書いて、一勝一敗一分で締めるつもりでしたが、二戦目で筆が止まりがちになっており、かといって消すには伏線を張っているからそうもいかず、ならば区切りのいいところまでは続けて、予定を繰り上げてG.O.Dに入ることにするつもりです。
では、また次回。
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