卒論、就活、卒業展示……面倒くさいイベントだらけです。
では本編どうぞ。
「それで、どうなったの?」
「さすがに、そんなことが、あった後、ですから、続行とはいかず、に、流れましたよ! とはいえ、二人は納得しませんでしたから、改めて行いましたけど!」
模擬戦の日から数日。
雄一は管理局本局の訓練場でクイントを相手に汗を流していた。
両者ともに、武器を用いず徒手だったが、雄一の打ち込みをクイントは腕の外側で捌いていく。
「ふぅん、結果は?」
「両者相打ち、引き分けです!」
フェイトはスピードに特化しつつパワーにも優れる反面、防御が薄い。
一方、アリサは攻撃によった万能型だった。
フェイトはそのスピードを活かして撹乱し、一瞬の隙を狙った。
それに対して、アリサは無闇に仕掛けるのではなく、防御に徹してカウンターを狙った。
結果、アリサの防御をフェイトの一撃が抜く瞬間アリサの一撃がフェイトをとらえ両者相打ちとなったのだ。
これはアリサの作戦勝ちといえよう。
結果、模擬戦は一勝一敗一分けとなってしまい、勝者への権利ははやてと雄一の持つ個人のもののみとなってしまい、両チームともに肩を落とすことになったのだが。
「それは、その子達も残念だったわね」
「周りもそう言ってましたけど、命令したくなるほど、なのは達が仲が悪いはずはないんですけど」
「そう言う意味じゃないわよ」
雄一にその意味は伝わらず、クイントはなのは達への同情を深めた。
溜め息をつくクイントに、隙とみて雄一は左のジャブで顔を上げさせ右でボディを狙った。
だが、クイントはジャブを軽く捌くとボディを左手であっさり受け止めた。
「と、それよりもそろそろ終わらせましょう、か!」
「っ、しぃ!」
強さを増したクイントの気迫に、雄一は素早く縦拳をたたきつける。
横拳に比べて縦拳の一撃は拳の捻りが無いため威力は僅かに落ちるが、その分素早く打ち込むことができる。
「甘いわよ!」
だが、クイントはあっさりと拳を捌くと手首を握り、逆に肘めがけて掌打を放つ。
「くっ!」
腕を折られる危機に、雄一は拘束を振り切り腕を引き戻すと同時に、前に出るクイントの顎をめがけて蹴りを打ち上げる。
当たれば脳震盪は免れない一撃だったが、クイントはあっさりスウェーで避ける。
だが、避けられることは雄一も想定していた。
そこで、残る軸足も振り上げ、八極拳の連環腿のように本命の二撃目の蹴りを見舞おうとし、
「蹴りを簡単に出さない」
その言葉と同時にクイントの姿が雄一の視界から消えた。
「っ!?」
「蹴りは隙が大きいんだから、確実にとはいかなくても八割当てられる状況じゃないと悪手ね。さもないと、こんな風に返されるわよ」
言うや既に地を蹴っていた雄一の足に衝撃が走り、雄一の視界が急転した。
クイントが雄一の軸足を払ったのだ。
雄一の身体が背後に流れ、身体が宙に浮く。
雄一は視界の変化に、僅かに慌てたがすぐに己を取り戻すと、追撃に備えて着地と同時に体を動かす為に、受け身をとろうと地面に意識を向けた。
瞬間、
「はい、おしまい♪」
「っ、がはぁ!?」
楽しそうなクイントの声と同時に、腹を打ち抜いた衝撃に雄一は息を吐き出した。
クイントが打ち下ろした拳の勢いと地面に叩きつけられた衝撃で、雄一の身体がくの字に曲がる。
「っ!? ~~~~っ!?」
あまりの激痛に、言葉にならない悲鳴を上げ、雄一は辛うじて体勢を変えると蹲って痛みに耐えた。
蹲る雄一に、しかしクイントは間合いを僅かに開けながら言った。
「終わりなの? 終わりならそう言いなさい。罠かと思って攻撃しちゃいそうだから」
「・・・・・・い、いや・・・・・・無理ですから・・・・・・降参です」
追い討ちをあっさり宣言するクイントに、雄一が痛みを堪えながら絶え絶えに負けを認めると、ようやくクイントは警戒を解いた。
「えっと・・・・・・自分でやっといて何だけど、大丈夫かしら?」
「な・・・・・・なんとか」
「話せるなら大丈夫ね。なら気にしなくて大丈夫ね、組手なんて殴られてなんぼだから!」
辛うじてそれだけを返す雄一の姿に、あっさり胸を撫で下ろしのたまうクイント。
(いや、それにしたって、今のは下手をすれば内臓破裂くらいはしかねないんですけど)
と思う雄一だったが、それ以外できそうにない。
それを見て取ったクイントはそれ以上触れず、用意していたタオルを取りに行った。
「・・・・・・まだまだ届きそうにない、か」
腹の痛みが疼痛に変わると、雄一は再び身を転がし仰向けになると、先ほどの手合わせを思い返し、浮かび上がった粗を脳内で修正していく。
――当たり前だ、アホ――
「クフ・リーン? なんだよ」
――実際お前が戦う方法を手に入れてまだ一年も経ってないんだぞ? なのに能力どころか自分の身体も使いこなせていない人間が、格闘一本を使いこなす人間に相手の土俵で勝てるわけないだろうが――
「それはごもっとも」
<クフ・リーン>の言い分に、思わず渋面を浮かべつつ頷く。
格闘戦に身体的なポテンシャルを含めて自信があるとはいえ、クイントやザフィーラのような格闘戦型の格上には経験の差が如実に現れる。
もっと言えば、クイントの強みはローラースケート状の脚甲に、両腕に装着される手首部が回転するようになっているリボルバーナックルと呼ばれる手甲というデバイスを用いて、魔力で立体的に作った道を走行し、相手を殴りつける高機動戦にある。
その点でいえば、雄一はクイントに大いにハンデをもらっているわけだ。
――大体、こないだの嬢ちゃん達との模擬戦で出来た自分の課題を解決できてないだろうが――
「そうなんだよなぁ」
さらに、<クフ・リーン>の言う課題、それは「火力の不安定」だ。
空戦相手では<ダー・ナーン>の攻撃手段である植物は有効ではないし、広域を攻撃できる<バーラ・ルー>はクロノから魔力で抵抗|レジストできることが判り、対人には向かない。
<キー・アーン>は爆炎だけでなく爆発の衝撃による攻撃もできるし、炎を使った催眠もできるなど、応用の幅が大きいのだが、爆発までのタイムラグがあり、爆発前に鳥を落とされると不発に終わってしまう。
<憑黄泉>や<ブーリ・クリウ>、<フィン・ターン><ニーア・ブー>には直接的な攻撃手段がない。
<クフ・リーン>ならば、防御が無意味なため威力は十分なのだが、制約で足を止めなければならずむしろこっちが的になってしまう。
「一応、考えてはいるんだけどな」
ひとりごちると、雄一は荷物の内、最近身につけるようになったポーチに目を向けた。
そこには、能力の威力を上げる案のいくつかが収められている。
「それで、訓練の調子はどうだった?」
雄一が横になりながら更なる改良に意識を傾けていると、いつの間にか戻ってきていたクイントが質問を投げた。
突然の質問に、少々反応が遅れたが、雄一は体を起こすと頷いた。
「え? ああ、助かってますよ。自分より強い人相手だと、いろいろ問題が浮き彫りになりますから」
「問題って言うと、とっさの判断とか?」
「それもですけど、砲撃魔法に代わる威力の攻撃とかですね」
雄一は腕を組んで悩む。
だが、クイントは眉を顰め言い聞かせるように語った。
「その熱意は買うけど、まだ子供なんだから今は考えるくらいにしておきなさい。威力が大きいってことはそれだけ体に反動があるの。君は一般的な子に比べて成長は早いみたいだけど、体ができきってないんだから、そういう無茶をしていると、いい影響はないわよ」
「あー・・・・・・一応判っているつもりなんですけど」
どこかで聞いた言葉に、雄一は若干目を逸らしつつ答える。
居住まいを正しつつ、雄一は話題の転換を図った。
「それより、珍しいですね。クイントさんが調子を聞くなんて」
そういうのは、クイントよりもどちらかといえばメガーヌの領分のような気がするのだが。
そう思い聞く雄一に、クイントは苦笑しながら言う。
「実は、うちの子達もこのメニューで鍛えようかな、って」
「そうなんですか・・・・・・はい?」
一度流しかけ、雄一は思わず聞き返す。
ナカジマ家の二人の妹分を思い起こし、念のため聞き間違いを信じてもう一度聞く。
その反応をクイントも理解しているのだろう、繰り返した。
「だから、雄一と同じ感じで二人も鍛えようかなって」
「いやいや! スバルちゃんはともかくギンガちゃんにはキツいんじゃ!? スバルちゃんはともかく!」
「二回言うから、雄一がうちの子をどう思っているかはさておくとして。二人ともやる気よ。特にギンガの方がやる気なんだから。一つ上の君が頑張っているんだからって」
「はぁ・・・・・・大丈夫なんですか?」
「心配ないわよ。確かに、うちは旦那は魔法資質は持ってないけど、あの子達は強くなれることが判っているの」
断言に対しどこか儚い表情を浮かべるクイント。
その表情の意味が判らず、雄一は首を傾げた。
「クイントさん?」
「ん? っと!? まあ、旦那も反対してたんだけど、二人の熱意に折れることになったのよ」
「ゲンヤさんもですか? こう言ったらなんですけど、ちょっと意外でした」
クイントの夫であるゲンヤ・ナカジマは力があれば子供でも危地へ送り出す管理局の方針に難色を示していたはずだが。
「まあ、結局は二人の意志だしね」
「それは・・・・・・そうですね」
クイントに反論しようとするが、かくいう雄一達も現場に出ている身である以上、説得力がないことを思い出し言葉を引っ込めた。
とはいえ、妹分にはあまり危ない橋を渡ってほしくないものだとも思う。
そう煩悶する雄一を、クイントは微笑ましそうに見ていたが、なにやら思いついた様子で手を打った。
「なら、二人に聞いてみればいいんじゃないかしら? ついでにウチで夕御飯食べていけばいいし」
「まあ、今から準備するのは面倒だからありがたいですけど・・・・・・」
時計に目を向け、夕食を準備する手間と招待を天秤に掛けて悩む雄一に、クイントは再度促す。
「そんなに遠慮することはないわよ。むしろ、ギンガ達も喜ぶし」
「・・・・・・じゃあ、お言葉に甘えさせてもらいます」
所変わって、ミッドチルダ・ナカジマ家。
「たっだいまー!」
「お邪魔します」
勢いよくドアを開けるクイントの後に続いて敷居を跨ぐ雄一。
その二人めがけて、小さな影が飛びかかった。
「おっかえりー!」
「おっと」
「えっ!?」
影は青い髪を短く切った少女だ。
その飛びつく少女を、クイントがあっさり避けたため、雄一が対処しなければならなくなった。
つい避けそうになったが、少女の正体に気がついている身としては、そのまま地面に激突させるのは気が引けた。
ならば、と雄一は避けそうになる体を押さえ込み、少女を受け止めるため衝撃に備えた。
少女は勢いを緩めることなく、雄一の胸元に飛び込んだ。
「ぐふっ!?」
「お帰り、お母さ、ん?」
衝撃に息を詰まらせた雄一の目と、違和感を覚えた様子の少女の目があった。
「雄一にぃ?」
「げほっ、こんばんは、スバルちゃん。熱い歓迎ありがたいけど、とりあえず離れて」
「雄一にぃ、いらっしゃい!」
「再圧迫!?」
離れるかと思ったら、より圧力を増すスバルの抱擁に雄一は顔を歪める。
この少女ことスバルはクイントの血か身体能力が高い。
雄一とて鍛えているが、無防備なところに圧を掛けられ背骨が悲鳴を上げる。
クイントに助けを求めるがクイントは素知らぬ顔でいた。
いや、見れば笑いを堪えているようで、肩を震わせていた。
助けがないことに、雄一は<デル・ドーレ>で強引にでも解くことを真剣に検討する。
すると、
「こら、スバル! 入口で何してるの!」
スバルに似た、紫の髪を伸ばした少女がスバルを引き剥がした。
スバルの鯖折から解放された雄一は、息を整えながら少女に礼を言った。
「あ、ありがとう、ギンガちゃん」
「いえ、こちらこそ母とスバルがご迷惑をかけてすみません」
雄一に恐縮した様子で頭を下げるこの少女はスバルの姉のギンガ。
クイントに似て天真爛漫なスバルに対して落ち着きを見せる子、というのが雄一の印象だった。
「クイント、帰ったか」
「ただいま、あなた!」
「お邪魔します、ゲンヤさん」
「おお、雄一も来てたか。よく来たな」
二人の後から姿を現した男性ことゲンヤは雄一に気がつくと相好を崩した。
ナカジマ家の大黒柱であるゲンヤは管理局陸士108隊所属の二佐であり、こんな時間に帰れる身分ではないはずなのだが。
その疑問が顔に出ていたらしく、ゲンヤは苦笑して教えてくれた。
「元々今日は非番だからな。それに、追いかけている事件も急ぐものはないから安心して休めるってわけだ」
「なるほど。ああ、これ宜しかったらどうぞ」
挨拶もそこそこに、雄一は荷物から箱を取り出しゲンヤに渡した。
中身は来る途中で買ってきたケーキ。
それを差し出す雄一に、受け取るゲンヤは苦笑した。
「おお、ありがとよ。しかし、お前さん本当に九歳か? 如才なさ過ぎだろ」
「誉め言葉だと思っておきますよ」
「そう思っておけ。そうした方が誰にとっても幸せだ。それよりどうだ? もうすぐ夕飯なんだが、ウチで食べてくか?」
「クイントさんにも誘われてますから、そのつもりですよ。ご相伴に預からせてもらいます」
「・・・・・・ん? いつもみたいに断ると思ってたんだが、珍しいな」
言いながら、ゲンヤの目が変わった。
ゲンヤの言うように、ナカジマ家の面々から食事に誘われたのは今回が初めてではない。
だが、そのたびに雄一はそれらを断ってきた。
そんな雄一が今回招待に応じた。
職業柄かその意図を探ろうとするゲンヤを、雄一は宥めるとあっさり答えた。
「夕飯を作るのが面倒だったってのもありますけど、
「前半は聞かなかったことにしてやる・・・・・・二人がストライク・アーツを学ぶことか」
「ええ。ギンガちゃんもスバルちゃんも、学ぶのは問題じゃありません。ただ二人の場合は、学ぶ目的が管理局への入局であること」
「・・・・・・」
「お二人の背を見て育つわけですし、管理局入局についても結局は二人の意志です。ただ、なぜ、ゲンヤさんがそれを認めたのだろうと思いまして」
「・・・・・・なるほど。それを話すなら、ちょっと場所を変えるぞ。おーい、クイントにギンガ! 俺の部屋で雄一と話があるから、飯ができたら呼んでくれ!」
「「はーい!」」
「お父さん、あたしは?」
唯一指示されなかったスバルの首を傾げての問いに、ゲンヤは即断せずに宙空を見ながら言葉を選んだ。
「あー、その、なんだ。スバルは二人の指示をよく聞いて、ゆっくり待っててくれ」
「うん、判った! お母さん達の言うことを聞くね!」
「・・・・・・ゲンヤさん」
ゲンヤに言われ、笑顔でキッチンへ走っていくスバルを見送りながら、雄一は小声でゲンヤに尋ねた。
「スバルちゃん、料理とかは」
「お前の思ったとおり、すっかり食うの専門だ。ギンガの方はクイントから学んでいるんだがな」
「・・・・・・将来が不安になりそうですね」
「一応矯正はできると信じている・・・・・・できる、はずだ」
乾いた笑みを浮かべるゲンヤに、雄一はちょうど部屋に着いたこともあり、それ以上その話題を掘り下げるのは避けることを選んだ。
「それで、本題ですが。管理局の今の体制に思うところがあるゲンヤさんが、何故二人を鍛えることに同意を?」
「あいつらが望んだからだよ。『強くなりたい』ってな」
「・・・・・・それだけですか?」
ゲンヤの回答は至極あっさりしたもので、むしろ雄一の方が戸惑った。
ゲンヤは頷くと椅子に深く腰掛け、タバコを取り出した。
慣れた手つきで火を点すと深く紫煙を吸い込む。
「むしろそれで十分なんだよ。確かに、管理局が真っ白だなんて、いうつもりはねえ。けど、そこで働く局員には理念がある。次元世界を、ここミッドチルダを自分達の手で護っているっていう自負がある。そして、そのために力を求めることを間違っているって言えるか?」
「それは・・・・・・」
「それに、あくまで俺が問題にしているのは、能力があれば子供を前線に立たせるその体質だ。管理局そのものを否定する気は、
無いとは言い切らぬところに、ゲンヤも管理局に思うところはあるのだろう。
だが、それは置いておけ、といっているのだ。
「少なくとも、魔力資質のない俺と違ってあいつらはクイントに似てるんだ。使い潰されるかもしれないって不安こそあるが、それはどの局員でもいえることだ」
「・・・・・・」
暗にお前らも気をつけろ、と言われた気がして雄一は僅かに身を堅くした。
その反応に、ゲンヤは僅かに目を鋭くしたが触れずに置いておくことを選んだ。
「もちろん、二人が入局するにしてもまだ先の話だ。その間に、訓練校に行くなり、クイントが格闘をいろはから叩き込むなり、出来ることをやってからだから、あまり構える必要はねえよ」
「そう・・・・・・ですね」
思うところはあったが、雄一は口を噤んだ。
結局は、ゲンヤ達の言うように二人の意思次第だろう、と割り切ることを選ぶのだった。
「お父さーん、お話終わったー?」
雄一達の話が一段落したところで、扉を開けてスバルが顔を覗かせた。
「おいスバル。せめてノックくらいしろ」
「はーい」
「はぁ・・・・・・」
ゲンヤが窘めるが、スバルは気にした様子はなく、ゲンヤは溜息をこぼした。
溜息をこぼすゲンヤに代わり、雄一が答える。
「ちょうど終わったところだよ。どうしたんだい?」
「ご飯が出来たから、二人を呼んできなさいって、ギン姉が言ってたの!」
「判った。先に行っててくれる?」
「うん!」
早く来てね! と扉を閉めて駆けていくスバルの足音を聞きながら、雄一はゲンヤを振り返った。
「ゲンヤさんが言いたいことは理解できます。それに、全ての管理局員に問題があるわけじゃないことは判っているつもりです」
「そんだけ判ってりゃいいんだよ。それじゃ、下に行くぞ。早くしないと、飯が無くなっちまう」
「はい・・・・・・はい?」
『冷める』ではなく『無くなる』という表現に、首を捻る雄一に笑って答えず、ゲンヤは雄一の背を押し部屋を後にした。
「・・・・・・ゲンヤさん」
「なんだ?」
「今日は何かパーティーでもあるんですか? それとも誰かお客さんが?」
「そう思うのは判るが違う。これはここにいる人間の、今晩の、夕飯だ」
雄一の机の上を見ての疑問に、ゲンヤは苦笑しながら言葉を区切って言った。
ゲンヤの言葉に、雄一は信じられない思いでテーブルの上を眺めた。
テーブルについているのはナカジマ家の四人と雄一の五人。
なのに、並んだ料理は明らかにその三倍の人数を目安としている。
「えっと、管理局員も重労働ですから、お二人の食欲も納得ですけど、これは多すぎません?」
「その心配は半分正解半分不正解だ。俺の胃はあくまで人並みだよ」
「えー・・・・・・」
人並みと言うことは、ゲンヤが食べたとして二・三人前といったところだろう。
雄一の分を二人前として残る十人前の割り当てはどうなのだろう?
まさか、ほとんどをクイントが食べるのか、それとも・・・・・・。
「それじゃ、いただきます!」
「「いただきまーす!」」
煩悶する雄一に気がつかず、クイントの音頭にギンガ達も唱和し料理に箸をのばす。
その勢いは凄まじく、次々と料理が姿を消していく。
「・・・・・・うっ」
「どうした? 食わないのか?」
「・・・・・・ちょっと胸焼けが」
箸を置き、飲み物に手をのばす雄一に、無理もない、とゲンヤは苦笑し取皿を取ると雄一の分を確保してやるのだった。
(それにしても)
取皿に盛られた料理の礼をゲンヤに視線で伝えると、雄一は食事に戻るゲンヤを含めナカジマ家の様子を一歩引いて眺めた。
食事に熱中するクイントとスバル、二人の世話を焼きつつ二人に劣らぬ速さで料理を消費していくギンガ、三人の様子に頬を緩めるゲンヤ。
(父さん・・・・・・母さん・・・・・・)
四人の温かな様子に、雄一は記憶にしか存在しないかつての団欒を重ねて、無意識に痛む胸を押さえるのだった。