リリカル世界を逝く影執事   作:ラッテンフェンガー

202 / 204
第百六十八話 仇と幕開け

「『聖王のゆりかご』ですか? それは何ですか?」

「古代ベルカ戦役で聖王家の勝利を決定づけた戦艦です。古代ベルカでは空中戦艦を所持する国は他にもありましたが、中でも『聖王のゆりかご』を含む五隻は強大で、その存在はいずれも秘匿級に位置づけられているほどです」

「秘匿級、ですか」

 

戦艦といい秘匿級といい、少なくともいい印象には繋がらない単語に雄一は眉を顰めるが、ふと浮かんだ疑問を口にした。

 

「えっと、答えを聞いた身としては失礼かもしれないんですけど、これだけの理由でいきなり『聖王のゆりかご』に結びつけるのはちょっと強引じゃないか、と思うんですが」

 

先ほど話に出た戦艦の内他の四隻のどれかではないのか。

その雄一の問いに、ロベルトは我が意を得たり、と頷いた。

 

「もっともな疑問ですね。もちろん、私自身突飛に思わなくもありません。ですが根拠がないわけではありませんよ」

「というと?」

「その発掘のスポンサーです」

「スポンサー、ですか? ミッドなら管理局主導なのでは?」

 

雄一は無難な予想を上げる。

だが、ロベルトは首を横に振った。

 

「そういう場合がないわけではありませんが、基本はその次元世界が主導するのが原則です。管理局が主導するには確実性に難がありますから。それが、その時は管理局が出資に乗り出しました。それだけでなくもう一つ、別の組織が関わっていました」

「別・・・・・・まさか」

「考えているとおりでしょう。聖王教会からの出資でした。聖王教会についてはご存知で?」

「以前ちょっと関わることがあったんで、こっちも触り程度には」

「なら、一応説明しておきましょう。聖王教会はベルカ自治区に本拠を構える宗教組織で、聖王ことオリヴィエ・ゼーゲブレヒト陛下を崇拝対象としています。ベルカ市民の大部分が信仰しているだけでなく、ミッドチルダでも強い影響力を持っています」

 

ロベルトの説明に雄一は頷く。

しかし、

 

「でもちょっと待ってください。その聖王教会が何故? 確かに、聖王教会からすれば聖王縁の遺物は聖遺物といえるものでしょうが、同時に教会の神秘性を失うことになるはず。わざわざ掘り起こすには組織へのデメリットを無視できないのでは?」

 

教会など、宗教で重要なのは信仰における神秘性だ。

戦艦の発掘は、神秘という視点では無骨すぎる代物だし、過剰な武力の存在は不信に繋がる恐れがある。

それを指摘すると、ロベルトもその疑問を肯定した。

 

「当時、その懸念を抱くものもいました。ですが、それ以上に管理局や教会の関与は発掘についてプラスになるだろうという思惑から、その話を受けたのです。ただ、今から思えば少々迂闊でした」

「迂闊、ですか?」

「ええ。先ほど教会からの融資といいましたが、その実態は教会上層部の一部の独断だったのです」

 

ロベルトが言うには、教会で権力を得ようとしたタカ派が融資を基にして、あわよくば成果を掠め取るつもりだったのだそうだ。

もちろん、同様の事例は他にもあったことで、ロベルト達も警戒していたらしいが、その時は発掘の規模から来る必要予算の増大に意識が向けられていたため、疑問を抱いても声高に叫ぶことはできなかったのだという。

 

「ということは、そいつらが・・・・・・」

 

両親の仇、と雄一は拳を握りこむ。

だが、ロベルトは複雑な表情で首を横に振った。

 

「え?」

「確かに彼らも無関係とは言いません。ですが、彼らも所詮はトカゲの尻尾です。その後ろにまだ何かの影が見えているんです」

「その影については?」

「判りません・・・・・・ただ、教会や管理局の上層部を切り捨てられる立場にいる何者としか」

「そう、ですか・・・・・・」

「・・・・・・雄一君、判っていると思いますが」

「大丈夫ですよ。短慮は起こしませんから」

「なら、いいのですが・・・・・・」

 

雄一の反応に精彩がないことに、不安を覚えたロベルトが釘を刺そうとするが、先回りされそれ以上言うことができなくなった。

言葉を飲み込んだロベルトに、雄一は僅かに視線を向けたが、こちらもそれ以上聞こうとはせず、影を見せ始めた仇の存在に思いを馳せるのだった。

 

 

『あやつの話、どう思った?』

「どうって?」

 

ロベルトと別れ、雄一は海鳴に戻るためアースラの通路を歩いていた。

そんな中、カナメの問いに雄一は質問で返す。

 

『主殿の父君の研究、そして聖王教会との繋がり。前者はともかく後者を調べるのは個人では骨が折れよう。何か方策を用意せねばなるまいが、当てはあるのかの』

「さてな。話が話だからクロノ達の手は借りれないし、かといって真正面から問い質すわけにもいかない。とはいえ伝があるわけでもないし。何か建前でもいいから、尋ねる理由を作って教会内に繋がりを作る必要があるかもな」

『うむ。多少事情を知っているグレアム殿やグランガイツ殿達に話を聞いてもらえばよかろ』

「それに、まだ気になることはある」

『ふむ?』

「調査団が受けた融資の話、持ちかけたのは管理局と聖王教会の上層部の一部。それはいい。けど、まだ明かされていない存在があるだろ」

『明かされていない存在、じゃと?』

『調査団で融資を受けることに賛成した、いや推進した人物だね』

 

カナメに変わり答えるエルミナに雄一は頷きで返す。

 

「順当に考えれば、調査団の代表者なんだろうけど、ロベルトさんが隠す理由が判らない。過去の資料を調べればわかることだろうが・・・・・・まさか、そっちも?」

『マスター?』

「エルミナ、念のため資料がないか調べてみてくれ」

『少し待ちたまえ』

『主よ、念のためとはどういうことじゃ?』

 

処理にかかるエルミナは置いておき、雄一はカナメに答える。

 

「予想通りなら、無駄足だろうからだ」

『なんじゃと? それはどういう』

『検索件数0。おそらく消去されたと考えるべきだろう』

 

なんと、と驚くカナメに対して雄一はやはり、と頷いた。

 

「管理局にとって、そんな強力な遺物に関わった、なんて記録は残したくないだろう。発見できたにしろ、できなかったにしろな」

『なるほどの。だが、それでは手詰まりではないか!』

「まあな。最悪一縷の望みをかけて無限書庫を調べてみるか」

『それは、また骨が折れそうじゃの。いっそのこと、あのイタチめに事情を打ち明けて手を借りてはどうかの?』

「できる訳ない・・・・・・と言いたいけど、そういえる蔵書量じゃないんだよな。それも検討しとくか。ただ、その前にグレアムさんを通してリーゼの手を借りれるか聞いてみよう。二人も探査魔法は使えるはずだし」

『ふむ。それならば、二人に通信を繋ぐとしよう』

 

カナメがウインドウを展開し、『Calling』と表示する。

そのまましばらく待つが、

 

『む? 繋がらぬな』

「お忙しい身だし、しょうがないか。直接二人に繋げるか?」

『やってみよう』

 

リーゼ達にも通信を繋ごうとするが、結果は同じ。

ここに至って、雄一は眉を顰めた。

 

「妙だな。リーゼ達まで忙しいって事は、グレアムさんの指示で動いてるって見た方がいいだろうな」

『となると、いつ手が空くか判らぬな。その間どうする?』

「そうだな・・・・・・ひとまず海鳴に戻っておこう。後の事はそれから考えるさ」

 

そう、内心はやる気持ちを押さえ込みつつ雄一は答えるのだった。

 

 

 

 

アースラのポートを利用させてもらい海鳴へ戻ることにし、雄一はポートの機動を待つ間を思考に費やしていた。

 

(グレアムさん達に確認が取れないのは痛いが、話を聞くだけなら他の人って手もある。レジアスさんやクイントさん・・・・・・は無理だな。頼るならメガーヌさんか。どっちにしてもまずは帰ってからっ!?)

 

考え込んでいると、突然ズキンと走った痛みに雄一の体が跳ねた。

思わず手を背に回すが、何か異常があるわけではない。

 

(いや、今の痛みは前に感じたことがある!?)

 

痛みの正体に思い至り、雄一は顔を強張らせた。

それは『ジュエルシード事件』の際、<アルス・マグナ>の反動で感じたものと同じだった。

 

(だけど、俺は<アルス・マグナ>を使っていない! なのに何で!?)

『主? どうかしたのか?』

「っ、い、いや、なんでもない」

 

安否を問うカナメに咄嗟に答える。

雄一は動悸を抑えるようにゆっくりと呼吸を整える。

そうしていると、ポートが起動し、雄一の視界がアースラから海鳴の空を映し、

 

 

瞬間、桃色の光に染まった。

 

「は?」

 

それが砲撃魔法で、桃色の光が魔力光だと気づくと同時に、それに呑み込まれた雄一は意識を失った。




アミティエの魔力光って桃色でいいんでしょうか。ゲームをプレイすると桃と青の二色なんですよね。バインドは桃色だったからこっちにしたんですけど。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。