それでは、本編どうぞ
「これは?」
「空間が揺れてる? 空間振動!?」
雄一とはやては顔を見合わせた。
空間振動はジュエルシードの暴走の際にも起きた次元震の縮小版ともいえる現象だが、強力な魔力が作用すれば起こりうる現象といえる。
しかし、実際に起きることは珍しい。
条件である『強力な魔力』が問題なのだ。
ジュエルシードの暴走の際に起きた、世界を滅ぼす可能性さえあった次元震に劣るとはいえ、観測できる魔力は決して少ないものではない。
なら、今の状態でそんな状況を起こしうるものがあるのか。
「まさか、例のシステムか?」
「そやろか? せやけど、この魔力は・・・・・・?」
「我が主!」
ふと、現れた魔力に既視感を感じたはやてが首を捻っていると、離れていたリインフォースが羽を羽ばたかせ二人に合流した。
「「リインフォース!」」
「ご無事でしたか、我が主!?」
「大丈夫やよ。雄君が助けてくれたから」
「そうでしたか。雄一、ありがとう」
「構わない。それより、リインフォースが急いでいたのは、そっちもこの魔力を感じたのか?」
はやての無事に頭を下げるリインフォースに、雄一は話を変える。
雄一の確認に、リインフォースは真剣な表情で頷いた。
「ああ。そして、我々はこの魔力を知っている」
「なんだと?」
「あ! 思い出したわ! 雄君あれや、闇の欠片! マテリアルのこと!」
「マテリアル・・・・・・!?」
はやてに言われ記憶が刺激された雄一は、強くなる魔力に先日の事件で感じたものを重ねた。
(けど、このタイミングの復活・・・・・・偶然か?)
雄一は、この事態に蚊帳の外となっているであろうキリエを振り返った。
先ほどまで、「どうしよう、どうしよう」と頭を抱えていた彼女は、突然の異常事態に周囲を見渡しながら戸惑っている様子だった。
(あの反応からして、無関係か? そう判断するのは早計か?)
「っ! 雄君、あれ!」
「はやて? あれは!」
はやてが指差す先に目を向けた雄一は、そこに表れようとしている存在に頭が痛み出すのを感じた。
それは次第に輪郭をはっきりさせていき、哄笑を挙げた。
「くくく、はぁーはっはっは! 漲るぞ、パワー! 溢れるぞ、魔力! 震えるほど、暗黒!!」
哄笑とともに現れたのは紛れもなく、先日の「闇の欠片事件」で戦い、キリエが求めているシステムを持っているだろう容疑者である、マテリアルDこと闇統べる王だった。
「うわぁ・・・・・・面倒な子が面倒なタイミングで」
「そうだ、な!」
同じことを感じていたはやてに同視しつつ、袖から滑らせたナイフを抜き撃つ。
ナイフはシュっと鋭く空気を裂いて闇統べる王へ奔り、
「はっはっは、っは!?」
嗤っていた闇統べる王が咄嗟に首を反らしたため、数本の髪を巻き込んで彼方へ飛んでいった。
「ちっ、外したか」
「き、貴様!? 王たる我の帰還にいきなり横槍を入れるとは何事か!」
舌打つ雄一めがけて、動揺を隠しきれぬ様子で振り向く闇統べる王だったが、雄一達に気がつくと、冷静さを取り戻した。
「む、貴様らは・・・・・・小鴉と欠陥融合機、そして混ざり者、いや契約者だったか」
「前にも言うたけど、リインフォースは欠陥融合機なんかやあらへん! 大切な家族や!」
「ほう? だが、そういうがな小鴉よ。事実、そやつは融合機としての機能を失っておるのだろう? ならば、我の言葉に間違いはなかろう」
「なんやて!?」
「落ち着け、はやて」
ニヤリ、と口角を吊り上げる闇統べる王に、激しかけたはやてを雄一は片腕を進路上に伸ばすことで押し留めた。
「どうどう。まあ落ち着けって」
「せやけど!」
「まあまあ。それより、前と比べてずいぶんと饒舌じゃないか?」
邪魔をされ、矛先を自分に向けるはやてをなだめつつ、雄一は闇統べる王に問うた。
「なに、大したことではない。理由は判らぬが、こうして再び現界を果たせたのだからな」
「その割には、いきなり挑発を入れてくるんだな?」
「それとこれは別よ。以前、我の胸を撃ち抜いたことを忘れてはおらぬゆえな!」
「胸? よく分からないんだが、二人は――」
心当たりがなく雄一は、はやて達を振り返った。
すると、はやては口笛を吹きながら目線を逸らし、リインフォースはオロオロと雄一とはやての間で視線を彷徨わせていた。
「はやて?」
「えっとな、雄君が行ってしまった後で、まだあの子がおることに気がつかんくて、大技をもらいそうになってしまったんよ。そのとき、追いついてきたシグナムがファルケンでこう、ズドンと?」
はやてへ向ける視線の温度を下げながら聞くと、はやては観念して白状した。
雄一は呆れた目を向けるが、結果を見ればはやて達の行いは勝ちを拾うためのものだったのだから、わざわざ責めるものではないかと思い直し、
「あのー、王様? 私は」
(しまった!?)
恐る恐るといった様子で進み出たキリエに、すっかり存在を忘れてしまっていたことに気がついた雄一は、キリエが続ける前に妨害を挟もうとナイフを再度滑らし投げようと手首を返し
「頭が高いわ!」
「きゃぁあああ!?」
「は?」
闇統べる王がキリエの体を紫の魔力光を放つバインドで縛り上げたことに動きを止めた。
見間違いかとはやて達を振り返ると、二人も驚いたようで雄一に顔を向けていた。
「今のは」
「遠近自在の高速バインド、ってところやろうね」
「以前はこんな攻撃は使っていなかったはずだが」
「いや、それも気になるところだが、問題はそれじゃない、っ?」
厄介さが上がったと考え、はやてとリインフォースは顔をしかめる。
だが、雄一が気にしたのは、闇統べる王の復活に関与しただろう一番の容疑者であるキリエに、闇統べる王自身が攻撃を加えたことだ。
そのことを口にしようとし、しかし、雄一はふと先ほどの光景と記憶に違和感を覚えた。
(あいつの魔力光って、あんな色だったか?)
以前戦った際は、はやてと同じ銀色だったはず。
だが、先ほどのバインドを形作ったのは紫の魔力だった。
バインドの使用が何らかのパワーアップによるものだとしたら、魔力光の変化もその一環かもしれない。
そうはやて達に注意を促そうとした雄一に、逆にはやてから念話が繋がった。
「<なあ、雄君。あっちが揉めてる間に聞いておきたいことがあるんやけど>」
「<はやて? 構わないけど、手短かにな>」
「<ええよ。なら聞くけど、何でさっきの不意打ちで仕留めへんかったん?>」
はやての質問に、雄一はすぐに思い当たった。
「<さっきあいつが現れた時か?>」
「<せや。あのナイフ、当てようと思ったら能力使って当ててたんとちゃう?>」
「<・・・・・・正直、よく見てるな>」
雄一ははやての観察力に舌を巻いた。
確かに、能力を使えば先ほどの不意打ちはもっと強力な一撃となっていただろう。
例えば、<ルー・グー>でさらに早い一撃で打ち抜くことだってできただろう。
だが、それをしなかった。
「<て、ことは?>」
「<正解。ただ、あいつを仕留める気でやってたら、たぶんあのキリエって人が何とかしてただろう。そうなったら最悪、三対二になってた。数の上なら有利だけど、前にマテリアル相手に三人がかりだったことを考えると、最悪こっちが危ないだろうな>」
その一撃で闇統べる王を倒せればいい。
だが、倒せなかった場合、一撃を入れられて闇統べる王が黙っているはずがなく、望むシステムを持つ闇統べる王にキリエが雄一側について敵対するとは思えない。
ふざけた態度をとっているが、キリエは決して馬鹿ではない。
そうなると、危惧する三対二の構図となってしまう。
そして、闇統べる王が強化してきたとなれば、前回同様三人で当たりたい、というのが雄一の本音だった。
(せめて、あと一人。誰か手が空いていれば悩む必要もなかったんだけどな)
ままならぬ現状に舌打ちの一つもこぼしたいところだが、はやて達にも闇統べる王にもキリエにも、動揺を見せるわけにはいかず、抜いたままのナイフをそのままにエルミナを銃に変えて構える。
(ま、やれるだけやるしかないか)
「ん? どうやらやる気のようだな」
雄一の様子に気がついた闇統べる王は、バインドにしたことでキリエから興味を切った様で、三人に笑みを向けた。
(そういえば、笑顔って元をたどれば威嚇だったな)
そんな逸話を雄一が思わず思い出すほど害意が窺える笑みに、はやてやリインフォースだけでなく雄一の背も粟立たせた。
「はやて」
「何や雄君? 楽しい話題ならありがたいんやけど」
「ここで愛してる、とかいったら死亡フラグになるのか?」
「台詞自体は嬉しいはずやのに、後半で一気に台無しやな!?」
「二人とも、ふざけるのは後にしてもらえますか!」
緊張を解すため口にした冗談に、思った以上の反応を返されて戸惑う雄一と、動揺収まらぬ様子で片手で胸を抑え、もう一方の手で紅くなった顔を仰ぐはやてにリインフォースの叱責が飛んだ。
「リインフォース、冗談だって。本題はこっちだ」
そういうと、雄一はカナメをはやてに放り投げた。
「っと、このこ雄君のやろ?」
『主よ、この扱いには文句を言いたいのじゃが?』
「後にしてくれ。言いたいことは判るけど、前に使って見られてるんだ。なら、出し惜しみする余裕はない、と考えた方がいいだろ」
「なるほど・・・・・・そういうことなら、ありがたく借りるわ。よろしくな、カナメ」
『うむ』
「リインフォースははやてのフォローを。俺ははやてに合わせる形で挟撃を狙いつつ、キリエを抑えておく」
思いつく限りではこれが限界だった。
あとは、はやて達がいかに早く闇統べる王を抑えるかの勝負だ。
はやて達が頷くのを確認して、雄一はナイフとエルミナを握る手に力を込めた。
「よし、行くぞ!」
叫びと同時、地をける足に力を込め、
「待ちなさい!」
突然大声とともに両者の間に割り込んできた赤い髪の女性の姿に大きくつんのめるのだった。