では、お楽しみください!
<アルス・マグナ>の使用から一夜明けた翌日。
カナメの言うとおり、痛みは眼が覚めるころにはすっかりなくなっていた。
フェイトのマンションを訪れた俺を、アルフから聞いていなかったのだろう、フェイトは訝しげに見ていた。
アルフの招待であることを告げると、フェイトは渋っていたが、諦めたのか俺の同行を渋々ながら認めてくれた。
出発の時。
「フェイト、それは?」
フェイトが持つケーキ箱の意図を問うと、フェイトは微笑みながら答えた。
「母さんへのお土産。気に入ってくれるといいんだけど」
「あの人が喜ぶのかね?」
フェイトの嬉しそうな様子に、、アルフが苦い顔をしながら小言でつぶやいた。
やはり、フェイトの母親について、二人の認識は随分溝があるようだ。
話の流れを僅かでも変えるため、二人に問う。
「それでどうやっていくんだ?」
「転移術を使うんだよ。フェイト、お願い」
「うん。次元転移、次元座標876C44193312D6993583D1460779F3125」
フェイトが数字やアルファベットの羅列を口にすると、魔方陣が足元に展開される。
「開け、誘いの扉。“時の庭園”、テスタロッサの主のもとへ」
詠唱終了と共に、強い魔力に包まれ視界が切り替わった。
目の前には聳えるように建つ屋敷。
・・・・・・見た目なんでおどろおどろしいんだろ?
間違いじゃないのか、と願いをかけつつフェイトに問う。
「ここは?」
「ここは時の庭園。私たちがミッドチルダで住んでいた場所を、母さんがそのまま移動させているの」
「・・・・・・つくづくデタラメだな、ファンタジーすぎるだろ、これは」
「? 行くよ、雄一、アルフ」
「あいよ」
「はいはい」
先導するフェイトについて、アルフと一緒に屋敷へ足を進めた。
まずフェイトが一人で会うというので(アルフは不安そうだった)俺はアルフと話して時間を潰すことに。
最初は、俺が入らなかったことに不満だったアルフだが、頭が冷えてきたらしい。
「ねえ雄一。昨日あんたが何か慌ててたのは何だったんだい?」
「・・・・・・何のことだ?」
「今のはあたしでも嘘だって分かるよ。昨日ジュエルシードを封印するとき、あんたは背中を気にしていたじゃないか? あたしはあのとき聞こえた何かが軋むみたいな音も無関係じゃないと睨んでいるけど、」
どうだい、と見てくるアルフに、思わず苦い顔で頭を片手でガシガシと掻きむしる。
よく見ているものだ。
だが、ここは敵の本拠地ともいえる場所だ。
『空白の契約書』のことを含め、迂闊なことは言えないし、さて、どこまで話したものやら。
頭を悩ませていたそのとき、
バシィ!!
「ああぁ!!」
鋭い音と共に悲鳴が響きわたった。
「!? いまのは!?」
「フェイト!?」
問うがアルフは答える間も惜しみ、扉に駆け寄り叩くが開けずにいる。
そうする間もフェイトの短い悲鳴が上がっている。
「アルフ、何してるんだ! 早く中に!」
「駄目なんだ! あたしはこの扉を開けられないんだよ!」
俺を呼んだ意図はそれか!?
かといってアルフの腕力で破壊できないものを壊せるほどの硬さを持ったものはない、魔弾は却下。
これでいくか!
「羽ばたけ、<バーラ・ルー>!」
灰色に染まった視界。
その中、正面の扉が灰になって崩れ落ちて開いた穴から室内に飛び込む。
飛び込んで俺が見たのは、傷だらけで力無く吊り下がるフェイトとその傷を付けたであろう鞭を握る女性の姿。
女性めがけて、飛び込んだ勢いにさらに踏み込みの力を足して駆ける。
「誰!?」
異常に気がついた女性が鞭を杖に切り替え、魔法を放とうとするのが見える。
「(させるかよ!)吹き飛ばせ、<ルー・グー>!」
「!? な、」
驚きに眼を見開いた女性が勢いよく遠ざかる。
<ルー・グー>で吹き飛ばした女性が戻らぬうちに、フェイトに駆け寄る。
「フェイト、フェイト!! しっかりしろ!」
「ゆう・・・・・・いち?」
鞭のショックでか、茫洋とした様子のフェイトだったが、反応があったことに安堵する。
そして、フェイトの両腕を吊り上げているものを見る。
「これが、拘束魔法か。魔法なら・・・・・・かき消せ、<沙波>!」
カナメをデバイスに変える間も惜しんで、手刀を振るって拘束を切り裂いた。
「・・・・・・ぁ・・・・・・」
「フェイト!」
力なく倒れこむ身体を抱き止める。
それだけの衝撃でも傷が痛むのか、僅かにうめくフェイト。
ともかく、フェイトを確保した以上さっさと立ち去ろうと、
ゾクッ!!
背筋に走った悪寒に従ってフェイトを抱えたまま横にこける様に転がる。
瞬間俺たちがいた辺りを複数のフォトンランサーが貫いていった。
フェイトを一度離し、追撃で放たれたフォトンランサーを再度<沙波>を使ってかき消す。
「防ぐのではなくかき消した・・・・・・いったい何をしたのかしら?」
犯人である女性はその様子を興味深そうに眺めている。
「わざわざ、自分の手札を自慢げに語ることはないだろう。それより、一応聞いておきたいんだが、あんたがフェイトの母親なのか?」
「・・・・・・ええ、そうよ。そういう貴方は何者なのかしら?」
吐き捨てるように答えると、問いを返してきた女性。
「俺は、この娘の現地協力者だ」
「協力者・・・・・・随分面白い力を使っているようね」
そのまま、灰になった扉やかき消された拘束魔法の跡に眼を向ける女性。
(なんだ、この人・・・・・・?)
「雄一!無事かい!?」
あまりの対応の変化に戸惑っていると、アルフが部屋に駆け込んでくる。
様子の変化を察してきたのだろう。
「アルフ、フェイトを頼む。今はどこか休めるところに」
「あ、ああ。分かったよ! フェイトの部屋で休ませるけど、あんたはどうするんだい?」
「俺は・・・・・・」
ちらり、と女性に眼をやり、少し考えると、
「ちょっと話をしていくよ」
「・・・・・・。分かった。気をつけるんだよ、雄一」
アルフは俺を残すことに僅かに逡巡を示したが、フェイトを休ませることを急ぐため彼女を抱きかかえると、女性を睨んで部屋へと走っていった。
「随分と勝手なことをするのね」
「必要な処置だと思うが? 鞭による裂傷は鋭く長い痛みを与える。あれでは睡眠にも影響が出る範囲だろうからな」
十分な検分を済ませたのか、こちらを見ていた女性の声に言う。
「・・・・・・まあいいわ。今はあの娘よりも貴方の方が重要なのだから」
なんか嫌な予感がしてきましたよ?
けど、こっちも引くわけにはいかない。
「そうか。こっちもあんたに言いたいことがあった。お互い知りたいことがあるようだし、お話といかないか?」
「そう。いいわ、虚偽を交えずに話しましょう?」
「・・・・・・上等。では、こちらから。あんたの名は?」
油断のない眼をしやがる。
正直、気を引き締めてないと持っていかれそうだ。
挙句、厄介な条件もついた。
『虚偽なく』話さなければならないから、聞き方によって大きな情報を持っていかれかねない。
「プレシア・テスタロッサよ。そっちは?」
「榊雄一」
「そう。今度はこっちから。貴方、何者?」
やっぱり聞いてくるか。
けど、どう答えるか。
「まず、前提として俺は魔導師じゃない」
「でしょうね。バインドを破壊したのも、扉を灰にしたのも、現存の魔法じゃ説明がつかない未知の魔導。なら、なんなのかしら?」
「俺達は“契約者”だ」
「“契約者”?」
「精霊と契約することで異能を得た連中のことだ。さっきのはその異能。今度はこっちの番。あんたはフェイトにジュエルシードを集めさせているのに、何故彼女を傷つける?」
「あの娘は使い捨ての人形だからよ」
さらり、と言われた言葉に一瞬意識が凍った。
「人形、だと?」
「ええ。あの娘は私の目的を果たすための道具。それなのに、四つしか集められていないなんて」
「自分で“怪我”というマイナスを付けておいてよく言う。あの鞭の傷はかなり古いものもあった。つまり、それだけあの娘はあんたの攻撃に晒されてきたってことだ。あんたの代わりにジュエルシードを集めているのに何故?」
「言ったはずよ。あの娘は私の目的を果たすためのお人形。けれど、この大魔導師プレシア・テスタロッサの血をひいている以上、こなしてもらわなければならないわ。そのお仕置きよ」
「だが」
「今度はこちらの番のはずよ。貴方はジュエルシード、持っているのかしら?」
遮られて主導権が再び向こうに移る。
ただ頷くだけで返す。
「いくつかしら?」
「・・・・・・一つだ」
「そう、渡してもらえないかしら?」
「無理だな。既に砕いてしまった」
咄嗟に最初のジュエルシードの一件を引き合いに出す。
プレシアが驚き俺を見つめて虚偽じゃないか疑うが、壊したのは事実だから分からないだろう。
持っているジュエルシードが一つなのも事実だしな
「・・・・・・そう。ならいいわ、それより」
「待った。そろそろこっちに貰うぞ。といってもそろそろ終わりにしたいところでな。お互いあと二つでどうだ?」
「・・・・・・いいでしょう。それで、何を聞くつもり?」
「一つ目。あんた、何か病気を持っているな?」
「・・・・・・!?」