リリカル世界を逝く影執事   作:ラッテンフェンガー

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第二話 影の山犬

「んー・・・・・・」

「あんたまだやってんの?」

 

唸る俺にアリサは呆れたように言った。

あの夢を見てから数日経ったが、違和感は徐々に強くなっていた。

初めは心配そうにしていたなのは達も、今では呆れが強くなっている。

一度心療内科にも行ってもみたが、異常無しという診断だったので無理もない。

ただ、

 

「今日はそれだけじゃないんだ・・・・・・」

「何があったって言うのよ?」

「昨夜から妙に犬の鳴き声が耳につくんだ・・・・・・」

「犬?」

「犬。ウォンウォン頭に響いてて、よく眠れなくて・・・・・・」

 

途中でこみ上げてきた欠伸を噛み殺しながら答えると、アリサとすずかは怪訝そうに顔を見合わせた。

 

「現在形ってことは・・・・・・今も聞こえてるの?」

「ああ。正直うっとうしい」

「私達には聞こえないけど」

「ああ。どうやら俺だけ聞こえてるらしい」

「・・・・・・。アリサちゃん、こういう場合どう反応すればいいのかな?」

「難しいわね。否定するだけで済む問題じゃないし、此処は曖昧な肯定に留めておいて」

「そこ、聞こえてるって。一応、これ以上なんかあったらもう一回病院行ってくるつもり」

 

こそこそ話している二人にツッコミを入れるとともに補足する。

すると、

 

「―――ってー・・・・・・」

「今、何か聞こえた?」

「たぶん・・・・・・。それと、どこかデジャヴが」

「あんた達も? あたしもよ」

「待ってー!」

 

アリサ達と顔を見合わせていると、再び聞こえてくる声。

みれば必死に走っているなのはの姿があった。

確かに、前もこんな場面があったような?

 

「運転手さんに頼んでくる」

「いってらっしゃい」

「頼んだわよ」

 

二人に送り出され、他の乗客を掻き分けて運転席に近づく。

 

「すみません、もう一人来るんで待ってもらっていいですか?」

 

頼むと片手を上げることで応えてくれた。

了承とみて席に戻る。

そのまましばらく待つと、なのはがバスに乗ってきた。

声をかけてこっちに気がつかせる。

 

「なのは、こっち!」

「なのは、こっちよ!」

「なのはちゃん、こっちだよ」

 

アリサとすずかも加わった呼びかけに、気がついたなのはが駆け寄ってくる。

 

「おはよー、ふわぁ・・・・・・」

「どうかしたのか? いつもより輪をかけて眠そうだが」

 

挨拶の途中で欠伸をするなのはに問う。

なのはは欠伸で涙が滲んだ眼を擦りながら応えた。

 

「昨日は変な夢を見ちゃって・・・・・・ちょっと寝不足なの」

「なのは、あんたまで雄一みたいなこと言わないでよ」

「なのはちゃん、悩みがあるなら聞くよ?」

 

なのはの答えにアリサとすずかが真剣な顔で詰め寄った。

お前ら・・・・・・。

 

「にゃっ!? だ、大丈夫だよ! 夢って言っても、誰かに『助けて・・・・・・』って言われるっていうくらいで」

「なのは! それは夢よ! ただの夢だからね!」

「なのはちゃん! 気にしちゃ駄目だからね! ノイローゼになっちゃうから!」

「お前ら必死すぎません!? 間接的にこっちに攻撃飛ばすのやめてくれませんかねえ!」

「み、みんな! 落ち着いてー!!」

 

ギャーギャー騒ぎながらの登校となり、三人と見た目楽しそうに喋っている俺に、より強くなった殺意の視線が向けられるのだった。

 

その後の学校は何事もなく過ぎて、放課後。

今日はなのは達三人と共に帰ることに。

今は、なのはとアリサが喋っていて、その後ろで俺とすずかが本について喋っていた。

そのときだった。

 

『――――――――』

「ん!?」

「どうしたの?」

「いや、ちょっと頭痛が」

 

頭痛を感じて足を止めた俺にすずかが声をかける。

すずかに応えると前を歩いていたなのは達も足を止めていた。

 

「なのは、どうしたの?」

「ううん・・・・・・なんでもないの」

 

言いながら、釈然としない様子で首を捻っているなのは。

 

『――――――』

「痛っ!?」

「やっぱり聞こえる!」

 

俺が再び痛んだ頭を抱えると同時に、なのはが何処かへと駆け出した。

 

「ちょ、なのは! 何処行くの!」

「アリサちゃん! 雄一君が!」

 

なのはを追って駆け出そうとしたアリサだったが、すずかの声に振り返って俺を確認すると引き返して俺の様子を確かめた。

 

「あーもう! すずか、あんたは雄一を診てて! あたしはなのはを追いかけるから!」

「わかった!」

 

すずかの了承と同時にアリサが駆けて行く。

 

「すずか、俺達も行こう。俺は大丈夫だから」

「・・・・・・本当に大丈夫?」

 

心配そうに見るすずかに頷く。

事実、頭痛は治まっている。

ただ、さらに強まった違和感が告げるのだ。

この先に何かある、と。

 

「なのはの様子もおかしかったし、何か気になる。何かあるのかもしれないし、急ごう」

「・・・・・・わかったよ。けど、無理はしないでね」

 

二人してなのは達の走っていった方へ駆け出した。

お嬢様然としているすずかだが、意外にもというか運動は得意らしく走るのも速い。

その速さと同じくらいで走っていく先、なのは達と合流した。

 

「なのは、何があった!」

「にゃっ!? 雄一君!?」

「雄一! あんた大丈夫なの!?」

 

立ち止まって何かを見ていた二人が振り返る。

アリサの確認に、俺は黙って頷くと二人に問うた。

 

「問題ない、もう治まった。それより、何があった?」

 

なのは達の視線の先に眼を向ける。

そこには、首から赤い宝石のペンダントを提げたフェレットが横たわっていた。

各所に傷があり弱っているようだ。

 

「怪我をしている様だな。すずか、この辺に動物病院、あったか?」

「うん。槙原動物病院さん。場所なら知ってるよ」

「よし。すずか、案内頼んだ! こいつは俺が連れてく! 二人とも行くぞ!」

「「「は、はい!」」」

 

三人の返事とともに、フェレットを抱き抱えるとすずかの先導のもと動物病院へ急いだ。

 

 

すずかの案内した動物病院で、俺達は受付に急患であることを告げ、フェレットを預けた。

診察の結果、先生曰く安静にしていればいい、とのことで俺達は安堵した。

肝心のフェレットは、傷が深かったのか弱っていたのか、籠越しに伸ばされたなのはの指を一舐めして気絶してしまった。

それを見て、ここから先は先生に任せることにして俺達は病院を後にし、帰路に着いたのだった。

その夜。

自室のベッドに横になりながら俺は考え事をしていた。

考えるのはあのフェレットの事。

まず、記憶にあるフェレットの形があれと一致しない。

知らない種だから、といわれればその程度だが、違う気がする。

それに、フェレットの負っていた傷。

包帯は手足に巻かれていた。

牙や爪の様なものでやられたにしては手足に比べて胴体の傷が少なかった。

フェレットは基本的に手足に対して胴が長い。

犬などが相手なら胴体を咥えるくらいはしているはず。

そこまで考えて俺は我慢できず叫んだ。

 

「だぁあああ! うるせえ!」

 

叫ぶ相手は姿の見えぬ犬。

先ほどから、もっと言えばフェレットを見つけたあたりから吠える音は強くなっていた。

まるで何かを伝えるような必死さをもって、

 

―――急げ―――

「あぁ!?」

 

響いた音に驚いて身体を起こし辺りを見回すが誰の姿も無い。

 

―――急げ、相棒! 事が起こる前に早く!―――

「っ!?誰だっ!」

 

気のせいか、と思った矢先に再び響いた声に再度辺りを見回すと視界に何かが過ぎった。

それを辿った先には、

 

「影?」

 

俺の影だった。

影は俺の目の前で犬の姿を取った。

 

「な、なんだこれ?」

―――俺は精霊<クフ・リーン>。お前の相棒だよ。詳しい説明をしてやりたいところだが、事が起こる。急いでいきな、相棒―――

 

<クフ・リーン>と名乗った影に、俺は目を白黒させながらこいつの言ったことを咀嚼していく。

こいつの言っていることは分からない。

実際は俺の見ている幻覚なのかもしれない。

だが、少なくともコイツは俺に嘘は言ってない、と信じられる気がする。

 

「いいぜ。何処に行けってんだ、<クフ・リーン>?」

―――カカカ、上等だよ、相棒―――

 

俺の回答に満足したのか、笑うように影を歪ませた<クフ・リーン>が行き先を告げる。

槙原動物病院。

あのフェレットを預けた場所だった。




<クフ・リーン>・・・影の山犬の精霊。マルク・マルドゥークに憑いていた契約精霊。影を操る能力を授ける代わりに契約者は太陽光に晒されると火傷を負うようになる。
原作で一番好きな精霊です。特に最終巻での活躍はやばいです。
是非、そちらも手にとってみてください。
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