アースラに搭乗した日から十日。
五つのジュエルシードが発見されたが、二つはフェイトの物となっていた。
残るは六個。
だが、五つ目を見つけてからパタリと報告はない。
「・・・・・・んー・・・・・・」
そのなか、俺は資料室だろう場所で、地図を睨んで唸っていた。
「あれ? 雄一君、こんなところで何してるの?」
背後からかけられた声に振り返る。
入ってきたのは、エイミィさんといったか通信士兼執務官補佐という女性。
彼女と話して息抜きでもするか、と振り返る。
「いえ、今までジュエルシードの発動した場所から残りの位置を絞り込めないかと思って」
へー、と言いながら彼女は地図を覗き込む。
地図には海鳴市の全景図が描かれていて、15本のピンが刺されている。
「んー、こうしてみると見事にばらばらだね。雄一君はどう思うの?」
「正直手詰まりです。ジュエルシードの周囲の魔力に反応する性質から、発動したジュエルシードの魔力を吸収することで次のジュエルシードの発動を早めていて、連鎖的に広がっているなら予想もしやすいんですが、見ての通りランダムと言っていい様子で」
ひょい、と肩をすくめて言うと、エイミィさんは苦笑した。
「けど、お姉さんとしては雄一君に頑張って欲しいなぁ。実はお姉さんもジュエルシードの発動予想をクロノ君に頼まれているんだ。だから、雄一君がやってくれるならこっちは大助かりなんだよ」
「だから、エイミィさんも此処に?」
問い返すとエイミィさんは首を横に振った。
「私は別の調べ物だよ。あ、そうだ。雄一君もちょっと話し聞かせてもらっていいかな?」
「? いいですけど?」
首を捻っているとエイミィさんがコンソールを操作した。
現れたスクリーンに映されたのは、
「フェイト?」
盗撮か、映像が歪んでいるがフェイトの姿だった。
「この娘、フェイトちゃんっていったっけ? この娘について知っていることがあったら教えて欲しいんだ」
「・・・・・・管理局は何処まで調べたんですか?」
質問で返すと、エイミィさんはさらに操作して別のファイルを開いた。
「分かっているのは正直『フェイト・テスタロッサ』っていう名前くらいだね。ただ、この『テスタロッサ』っていうのが、かつていた大魔導師と同じファミリーネームだから関連を調査中、ってところかな」
「・・・・・・なるほど」
それくらいか・・・・・・だったら何処まで話したものか。
算段を付けつつ喋っていく。
「一応契約もあるんで、深いことは言いませんが、彼女はミッドチルダの生まれだと言っていましたね。母親の名前はプレシア・テスタロッサ。血縁だからか二人とも雷を帯びた魔力弾を使いますね。犬の使い魔はアルフ。戦闘に特化しているようで逆に補助系は苦手みたいです」
「な、なんか色々あったけど、ちょっと整理させてくれるかな!? 母親がプレシア・テスタロッサって言ったけど、それどんぴしゃだよ! さっき言った大魔導師! やっぱり親子だったのかー。ん? それより、随分詳しいけど、なんでそんなに知ってるの?」
「プレシアとは一度話したからですよ。その際に魔法も叩き込まれましたから属性も知っているんです。フェイト達は友人だからですよ」
「おやおや? 実はプライベートな付き合いが?」
ニヤニヤ笑いながら肘でつついてくるエイミィさん。
なんでそんなに面白そうなのか分からないんですが。
「料理を作りに行っていたんで。その縁で仲良くなったんですよ」
「おー! 通い妻ならぬ通い婿か! 雄一君も隅に置けないなぁ!」
「いえ、二人とも料理ができなくて出来合いのものばかり食べていたんで、健康が心配になっただけです」
「・・・・・・一気に色気がなくなったね」
こっちもあっさりテンションを下げた理由が分かりませんよ、エイミィさん。
とりあえず、話題を修正っと。
「こっちからも聞きたいんですけど、プレシアって何者なんです? さっきも大魔導師とか」
「うーん、私もさっきクロノ君に聞かされた話だから胸を張れる話じゃないんだけど、だいぶ前にミッドチルダの中央都市で魔法実験の最中に次元干渉事故を起こして追放されたんだって」
「穏やかじゃないですね。事故の原因は?」
「それが不明。機材の不具合だって言われているけど、実際はどうだったのかな?」
「・・・・・・ふぅん?」
エイミィさんから聞いた話を脳裏に留め置きつつ、息抜きも終わりと地図に向き直る。
少し頭も休めたことだし、改めて見れば新しい発見が、
「ん?」
ふと、地図の偏りに気がついた。
全くピンの刺さっていない場所がある。
それは、
「海・・・・・・まさか、海中か?」
地図を確認しても、海まで近づいたのは海浜公園のくらいだ。
ジュエルシードが落下した先を地上に限らなければ何もおかしくはないはず。
いや、それ以上にまずいのは、
(同じ事に向こうも気がついて、強制発動を試みること。特に残りが密集していたら最悪六個分の魔力を持った何かとぶつかることになる!)
予想を避けるために、すぐにエイミィさんを振り返って叫んだ。
「エイミィさん! 捜索範囲を洋上に絞って」
下さい、と告げようとした瞬間。
アースラ艦内をレッドアラートが響き渡った。
「!? エイミィさん!」
「分かってる!」
すぐにエイミィさんがコンソールに指を走らせる。
「魔力反応・・・・・・雄一君の予想通り海上だね。モニター出すよ!」
近場のサーチャーを向かわせたのだろう、届いた映像がスクリーンに映し出される。
「な、何てことしてるのあの娘達!?」
それを見て、エイミィさんが悲鳴を上げる。
そこには洋上でジュエルシードの強制発動を行おうとするフェイトたちの姿があった。
「無茶なことを・・・・・・エイミィさん、ジュエルシードの反応は!?」
「六個! 残り全部一度に発動させる気だ!!」
最悪の予想が当たってしまったようだ。
「急ぎましょう! ブリッジに向かいます!」
「オッケー!」
エイミィと共にブリッジへ急いだ。
「フェイトちゃん!」
道中、なのはとユーノと合流しブリッジにたどり着くと、メインモニターに複数の竜巻と戦うフェイト達の姿が映っていた。
「あ、あの! 私、急いで現場に!」
「その必要はないよ。放っておけばあの娘は自滅する」
リンディさんに掛け合おうとするなのはをクロノが遮った。
その言葉の冷たさになのはが足を止めるが、クロノは続ける。
「仮に自滅しなかったとしても力を使い果たしたところで叩けばいい」
「でも!?」
「今のうちに捕獲の準備を」
なのはに構わず、指示を飛ばすクロノ。
彼はさておき、リンディさんに問う。
「リンディさん。クロノの言葉が管理局の総意でいいのかな?」
「そのつもりです」
即答で頷くリンディさんを見据えるがその表情は揺らがない。
「私達は常に最善の選択をしないといけないわ。残酷に見えるかもしれないけどこれが現実よ」
「そう。なら、俺は此処で離反させてもらおう」
え、とブリッジの全員の目が向けられる。
リンディさんも眼を丸くして、恐る恐ると問う。
「・・・・・・いまなんと?」
「離反させてもらう、といった。管理局のものを除いて、俺が結んだ契約は『海鳴の管理』と『フェイト・テスタロッサの守護』。貴方達の行動は彼女、フェイト・テスタロッサへの危害と判断する。また竜巻の消滅に協力しないという対応は海鳴への被害を黙認する行為であり、契約違反と判断し管理局との契約を破棄させてもらう」
「ま、待ってください!?」
「何を待てと?確かに貴方にも結んだ契約があるんでしょうけど、これが最善の方法なのよ!それを」
「俺達にとって契約は何者にも優先する絶対原則と言っていい。そもそも最善といいますけど、それは誰にとっての最善ですか?」
「そ、それは・・・・・・」
リンディさんの動きが止まる。
「答えられませんよね。管理局にとっての最善ですから。だから俺はこう答えるだけです、俺にとっての最善はこっちです、と。」
言い捨て、転送装置に向かう。
「待て! ゲートを起動させるわけには行かない!そこで止まれ!」
静止に、僅かに視線を向けると杖を構えるクロノの姿があった。
だけどクロノ、それは悪手だよ。
「管理局との契約はあくまで協力、指揮下に入った覚えはないぞ管理局。なのは」
怯んだクロノから、こちらの様子を黙ってみていたなのはに視線を向ける。
「これからフェイトを助けに行くけど、来るか?」
「!? うん!!」
なのははすぐさま頷き、こちらに駆けて来る。
さて転送ゲートの起動は、
「<僕がやるよ>」
念話と共に、ユーノがゲートを起動させる。
「大丈夫なのか?」
「大丈夫だよ。僕達も、どっちかといえば君の考えに賛成だしね。それに僕もすぐに行くから!」
「君達!?」
クロノがそれでも止めようとする中、ユーノと拳の甲を打ち合うと、ゲートに飛び込んだ。
「いくよ!」
ユーノの声と共に魔方陣が頭上から迫り、途端、浮遊感が身体を覆った。
俺達の体は海鳴の洋上、上空に放り出されることとなった。