「それで、あのあとどうなったんだ?」
なのはを落ち着かせ、場所を会議室に移したところでクロノ達に問う。
「逆に聞くが、君は何処まで覚えているんだ?」
「ジュエルシードは封印した。けど、そのあと、プレシアの奇襲を受けて、防ぎきれずに直撃。ってところだな」
「・・・・・・エイミィから聞いてはいたけど、本当にプレシアのことを知っているんだな。僕らもさっきや
っと確証がもてたというのに」
ため息をつき、こっちを睨むクロノ。
情報を伝えていれば、とか考えているんだろうが。
「守秘義務はあるからな。そもそも、今回エイミィさんに渡したプレシア・テスタロッサの情報も、本来渡す気はなかったんだぞ? フェイトの扱いに文句があったから教えたけど」
「君は・・・・・・いやまあいい」
クロノは顔をゆがめると、疲れたように両目を片手で覆い深く息を吐き出した。
どうしたんだろうか?
「あの後、ジュエルシードを奪取しようとしたフェイトの使い魔、アルフが海面に魔力を叩きつけて目潰しをした上で逃走した」
気を取り直したクロノの説明に耳を傾ける。
「その際ジェエルシードを三つ奪われた」
「三つ? 残りの三つはどうした?」
「僕が確保している。アルフの逃走後、僕達は君を回収した。まったく酷い怪我だったぞ。左半身の麻痺と火傷、特に左腕と顔だな。左腕はしばらく使い物にならないだろうし、左目がやられている」
「よくそれで済んだな。やつの攻撃なら非殺生設定もかかってなかったんじゃないか?」
「そのことだが」
言い置いてクロノがテーブルに置いたのは一枚の紙。
見れば、複数のグラフや数字が描かれている。
「これは?」
「治療の際、君の血液を調べたんだが、そのときの結果だ。簡単に言うと、君の血液は変質しているんだ」
クロノの説明を自分なりに咀嚼していった結果、ある程度推察がたった。
おそらく、<デル・ドーレ>で変質した血液が影響しているのだろう。
契約精霊の能力を解除したところで能力で変質したものを消すことはできない。
例えば、<バーラ・ルー>を解除したところで、<バーラー・ルー>で灰に変えたものが戻るわけでなく、灰が残るようなものだ。
「検査していた医療スタッフも目を丸くしていたぞ。そのスタッフ曰く回復力が並外れているから、近日中には完治するだろう、とのことだ」
クロノの説明に、呆れたような視線が向けられるが知らんがな。
咳払い一つ、修正を図る。
「それで、プレシアについて分かったことは?」
「ああ。さっきから名前が挙がっているけど艦長やなのはにも説明するためもう一度話そう。エイミィ」
「はいはーい」
クロノがエイミィさんに頼みスクリーンに表示したのは、以前見たプレシアの姿。
資料は少し前のものなのか、時の庭園で会ったプレシアよりまだ健康そうだ。
クロノとエイミィさんの説明によると、元は次元航行エネルギーの開発を専門とした魔導師だったが、実験や素材の違法性が指摘されるなか、個人で研究開発していた次元航行エネルギー駆動炉『ヒュードラ』の実験が行われ、中規模時限震を起こした咎で地方に送られた。
実験に違法性はなかったことを主張したが、地方に送られた数年後行方不明になっていたらしい。
「その事故の詳しい情報は残ってないのか?」
「駄目だね。詳しい情報は見つからなかった。昔のことっていうのもあるけど、たぶん緘口令が敷かれているんだと思う」
「なんかきな臭い気がするな。それを調べることは?」
「一応やってみるよ。それとでフェイトちゃんなんだけど」
「事故の後、生まれた子供か?」
おそらく、と頷くクロノ。
「おそらく、ってのは?」
「記録が抹消されているんだ。今エイミィが中央に問い合わせているところだ」
「どれくらいかかりそうかしら?」
「二・三日で返答があるはずです」
リンディさんとクロノの会話を聞きながら、ふと振り返ると、なのはは沈痛な表情を浮かべている。
「なのは、大丈夫か?」
「うん・・・・・・ねえ雄一君、あの時フェイトちゃんは言ってたんだ、『母さん・・・・・・』って。けど、驚いているっていうんじゃなくてまるで怖がるみたいで」
怖がる、といわれて思い浮かぶのは宙吊りで鞭を振るわれるフェイトの姿。
おそらく、今頃またあのような凶行が行われているのだろうか。
首を振って想像を払いつつクロノに問うた。
「一つ質問だが、あの攻撃がプレシアの物だってわかっているんだよな?」
「ああ。登録されていたデータとさっきの攻撃の魔力波動が一致したから間違いないはずだ」
「そこまで分かっているなら、プレシアの居場所は探れないのか?」
問うが、魔導師組みは難しい表情で首を横に振った。
「普段なら、あの次元跳躍魔法から割り出すことはできたんだが、君達が攻撃されたとき、こっちもアースラに攻撃を受けてシステムがやられていたんだ」
「だから、捉えられなかった、か。その次元跳躍魔法っていうのは?」
「次元の壁を飛び越えて、相手を狙撃する魔法、とでも言おうか・・・・・・膨大な魔力を消費するから、誰でも使える魔法ってわけじゃないけど」
「膨大な魔力、ね。リンディさん、此処からどうなると思います?」
「・・・・・・雄一君はどう思うかしら?」
逆に問われ少し考える。
ジュエルシード20個は全て封印され誰かの手の中にある。
その中でフェイトがジュエルシードを手に入れるなら、誰かから奪わなければならない。
だったら、
「ジュエルシードを餌に誘き出す、ですかね。相手はなのはで」
「ふむ、その心は?」
「ジュエルシードは全て封印されている中、フェイトが新たに手に入れるには誰かから奪う必要がある。けど、管理局に特攻をかけるほど無鉄砲ではないし、力を過信していない。だとすると、考えられる標的は俺かなのはだ。けど、フェイトは俺と戦ったことがほとんどない。此処まで戦ってきたなのはに眼を向けるはずだ。その条件で、ジュエルシードをかけて勝負する」
俺の予想にリンディさんは合格、とばかりに頷いた。
一方、クロノからは反対を受ける。
「だが、リスクが大きくないか? それだと、一気にジュエルシードを奪われる可能性があるだろ?」
「フェイトが勝ったらフェイトの転移先を辿ればいいし、なのはが勝てばプレシアから横槍が入るはずだ。今度こそ逆探知してやればいい」
「・・・・・・なるほど。それならやる価値はあるか」
クロノが反対を収め賛成に票を入れたところで、リンディさんが立ち上がる。
「プレシア女史もフェイトちゃんもあれだけの魔力を放出した直後ではそう動きは取れないでしょう。こちらも中央からの返答や雄一君の怪我もありますし、アースラのシールド強化もあります。なのはさん、雄一君。貴方達は一休みしておいたほうがいいでしょう」
「え、でも」
「そうですね。なのははあまり長く学校を休むわけにもいきませんし」
「あら、貴方もよ?」
リンディさんの提案に渋るなのはを遮りリンディさんに同意する。
リンディさんは俺も含む意見だったらしいが、俺は肩をすくめ、右手で左半身を指す。
「この怪我ですからね。明日には歩くくらいはいいでしょうけど、眼と腕はごまかせませんから」
「なるほど、そうですね。わかりました。なのはさんには一時帰宅を許可します。ご家族と学校に少し顔をみせておいた方がいいわ。雄一君はアースラで休養を取り、回復を確認したうえで同じく帰宅を許可する、ということで」
「・・・・・・はい」
「分かりました」
休むことに抵抗を覚えているらしいなのはとともにリンディさんを見送り、会議はお開きとなる中、再び俺はアースラの医務室に戻されるのだった。