リリカル世界を逝く影執事   作:ラッテンフェンガー

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第三十六話 強行と母親

side第三者

 

パチパチパチ、と軽い音がブリッジに響いた。

見れば雄一が手を鳴らしている。

 

「いやいや。凄いな、ミッドチルダの技術は。記憶の転写、魂の複製ができるとか、地球じゃファンタジーの領域だぞ」

「雄一! そんなことを言っている時じゃ」

 

クロノが雄一の肩を掴み振り返らせるが、雄一の顔を見て、思わず手を離した。

その顔は孤を描いた口のみが表情を作っていた。

 

「だからこそ疑問なんだが、なんでフェイトがアリシアになりうると思ったんだ?」

『どういうことかしら?』

 

プレシアの顔が不快に歪む。

もう一度雄一は疑問を繰り返した。

 

「だから、そんな技術があるのに、なんでフェイトがアリシアになると思えたんだ?」

『話を聞いていなかったのかしら? アリシアと同じ肉体でアリシアと同じ魂とアリシアの記憶を入れたのよ! アリシアにならないはずがないでしょう?』

「・・・・・・あー、それ本気で言ってる?」

 

一転して、呆れた様子でため息をつく雄一。

顔を引きつらせるプレシアに向けて、いいかと前置きを要れて説明を始める。

 

「クローンは所詮二卵生の双子、つまりよく似た人間を作るだけだ。そのものを作る訳じゃない、というか作れるわけがない。同じ人を作ろうとするなら、全く同じタイミングで全く同じ刺激を全く同じ量与える必要がある。さらにいえば、たとえそれができても、今度は受容器の反応次第だ。結論、同じ人間ができるはずはない」

『・・・・・・面白いことを言うのね』

 

そういうプレシアも雄一の言い分は認めたらしい、不快気に顰められていた。

 

sideout

 

 

「そもそも」

 

フェイトに一度目を向けて問う。

雄一にとっては、こっちの質問の比重のほうが大きい。

 

「なんでフェイトをアリシアと名付けなかった?」

『・・・・・・な?』

 

今度こそ、プレシアの表情がひび割れた。

周囲からも疑問を含んだ視線が向く。

 

「アリシアであることを望んでフェイトを生み出したんだろ? なら、フェイトと名づけず、そのものずばりアリシアと呼べばよかったんじゃないか? フェイトとして生きるよう仕向けて、フェイトとして扱っていたのに、アリシアの要素が馴染むわけがないだろ?」

『っ、それはアリシアを蘇らせる間の人形だから』

「だったら、アリシアを蘇生させるときにフェイトを破棄すればいい。いや、そもそもフェイトがアリシアとして不完全と判断した時点で破棄する選択肢も当然あったはずだ。なのに、お前はただフェイトを傷つけるだけ。科学者なら得意なはずの理性的な判断を捨ててまでフェイトを手元に置き続けた理由があるはずだ」

『それは・・・・・・私の代わりにアリシア蘇生の手段を探させるために・・・・・・』

「ダウトだ。だったら、それこそ余計な感情なんて求める必要はない。ただ命令を聞く機能があればいいんだからな。フェイトに拘る必要はない」

『ぁ・・・・・・ぅ』

 

プレシアは答えられないのか、口を開け閉めするのみ。

その顔を見据えながら再度問いを口にした。

 

「なんでフェイトを生み出した?」

 

問いにプレシアが顔を俯け・・・・・・、

 

「た、大変大変大変です!! 時の庭園に魔力反応多数! 50・・・・・・100・・・・・・150・・・・・・さらに増加中!!」

「魔力反応増大、いずれもAクラス!」

 

突然の報告が響いた。

エイミィさん達の報告が響くと同時に、映像が途切れた。

どうやら、サーチャーが破壊されたらしい。

 

「黙るか。リンディさん、プレシアはわざわざ映像を切って何をすると思いますか?」

「・・・・・・おそらく、ジュエルシードを発動させるつもりです!すぐに取り押さえなければ」

「艦長!! 次元震、来ます!?」

 

リンディさんに報告が届いた瞬間、アースラを強い揺れが襲った。

アラートが鳴り響く中、リンディさんがすぐさま指示を飛ばし、立て直しを図る。

 

「すぐにディストーションフィールドを!」

「次元震、さらに強くなっています!」

「転送可能距離を維持したまま影響の少ない空域に移動しなさい!!」

『りょ、了解!!』

 

アースラクルーが指示に従う中、クロノが駆け出す。

 

「クロノ君、何処に!?」

「僕が止めてくる! ゲート開いて!! 雄一、いますぐ出るぞ!! すぐに転送ポートに!!」

「ああ、分かっ」

 

エイミィさんに告げ、急ぎゲートに向かうクロノに続こうとして、力無くなのはに支えられているフェイトが目にとまった。

 

「・・・・・・クロノ、すまないが少し時間をくれ」

「なにを・・・・・・分かった。急いできてくれよ」

 

振り返り文句を言おうとしたクロノだったが、俺の向いた先を見て、事情を察したらしく許可してくれた。

俺はフェイトに近づき、片膝をついて目線をあわせるが、フェイトに反応はない。

 

「アルフ、フェイトは意識はあるのか?」

 

念のためアルフに確認をとると、アルフは首を縦に振った。

 

「そのはず・・・・・・だよ。だけど、凄く弱々しいんだ、フェイトの心が凄く弱ってて・・・・・・ねえ、頼むよ雄一、フェイトを・・・・・・助けて」

 

「当然」

 

フェイトの影響か、いつもの陽気が薄れているアルフに力強く答え、フェイトに視線を合わせる。

フェイトに声を駆ける。

 

「フェイト、聞こえるか?」

 

しかし、フェイトに反応はない。

それでも、聞こえていると信じて言葉を連ねる。

 

「フェイト、以前なのはに言ったらしいな。『言葉じゃ何も変わらないし伝わらない』って。けどな、俺はそうは思わない。むしろ、言葉が無ければないも伝わらないとさえ考える。だって、人間なんて言葉を介さなきゃ理解なんて生まれないんだ。なぁフェイト・・・・・・お前の母親に伝えたい言葉は、お前の中に無いのか? もしあるっていうのなら・・・・・・伝えに来い」

 

言って立ち上がり、なのはとアルフにフェイトを医務室に運ぶよう頼んでゲートに向かい、

 

「ま、待って、雄一君!」

 

なのはに呼び止められて足を止める。

振り返ると、なのはが咎める様な視線で睨んでいた。

 

「なんだ、なのは?」

「ゆ、雄一君はもっとフェイトちゃんに優しい言葉を掛けてあげるべきだよ! だって、フェイトちゃん、お母さんに捨てられちゃったんだよ! なのに、なんで雄一君がフェイトちゃんを追い詰めるようなこと言うの!?」

「・・・・・・なのは、そういえる優しさは美徳だけど、俺は今回余り手を貸すつもりは無いんだ」

「なんで!?」

「これはフェイトが自分で気がついて自分で選ばなきゃいけない、そう思うんだよ」

「自分で?」

 

よく分かってない様子のなのはは置いておき、出口に向かいゲートへ足を向けた。

 

 

sideプレシア

 

サーチャーを破壊した後、ポッドを支柱から切り離して玉座の間に戻る。

そして、待機状態のジュエルシードを開放する。

途端、膨大な魔力が吹き上がり、庭園全体を大きく揺らした。

この魔力をもってして私達は、忘れられた都アルハザードを目指す。

そして、眼を覚ましたアリシアと共に生きる。

そのはずだというのに、

 

「なぜ、躊躇っているの、私は?」

 

胸中を掻き毟られるような、長い付き合いの痛みとは別に鈍い痛みが居座っている。

正体は分からないが、原因は榊雄一といったかあの“契約者”との会話だろう。

 

『フェイトを何故生み出した?』

 

その問いがぐるぐると渦巻いている。

何故?

そんなの決まっている。

ただ、アリシアがいない寂しさを埋めるため。

だが、なぜかそれを違うと訴える部分がある。

 

ふと、かつてアリシアがまだ生きていた頃。

アリシアがした我が侭の一つが思い起こされた。

それは、妹が欲しいというもの。

アリシアくらいの子なら誰でも思うことだろう。

それに自分はどう答えたのだったか?

そしてもう一つ。

思い出すのは一年ほど前のこと。

フェイトの世話を任せていた使い魔リニスが、契約を満了して逝く前にした願い。

それを叶えた際のフェイトとの食事の場面が過ぎった。

なぜ、あの時自分はリニスの願いを拒否しなかったのか?

アリシアを蘇生させる研究を僅かに休むことになるというのに?

 

(ああ、そうか。だからだったのか・・・・・・)

 

思い出して、得心がいった。

ただ、家族と過ごす幸せを感じていたかったからだ。

今思い起こせば、親子らしからぬ会話だったが、そこには確かに温もりがあった。

リニスもフェイトもアルフも・・・・・・家族と感じていたのだ。

アリシアが欲しがった家族。

だから、フェイトと名づけたのだ。

アリシアではない、フェイトというアリシアの妹として、そして、プレシア・テスタロッサのもう一人の娘として。

やっと目を向けることができた答えに、苦い思いを噛み締めていると灼熱感が喉を迫上がった。

吐き出したそれは血。

以前、彼に指摘されたときよりも量は増えている。

次元跳躍魔法のダメージは、病と相俟って体を蝕んでいる。

思えば、この病もフェイトのことも、

 

「私はいつも・・・・・・気づくのが遅すぎる・・・・・・」

 

思わず自嘲が零れる。

この病もリニスが逝った後から酷くなっていった。

おそらく永くはないだろう。

なら、残された時間でフェイトにしてあげられる事、それは・・・・・・。

 

「・・・・・・あの娘だけでも解き放つ・・・・・・そのためにも、もう少し保ちなさい、私の体・・・・・・あの娘のために・・・・・・」

 

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