リリカル世界を逝く影執事   作:ラッテンフェンガー

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間話 揺り籠の見せる夢と目覚め

「・・・・・・って、なったはずだったんだけどな」

 

ぐるり、と周囲を見渡して、

 

「・・・・・・どこだ此処?」

 

気がつけば何処ともしれない場所にいた。

石造りの廊下の左右に無骨な扉が延々と続く通路。

右を見ても左を見ても同様の景色が続いている。

 

「って、あれ? 何で俺起きてるんだ?」

 

たしかに、<アルス・マグナ>を使った結果、眠りに捕らわれたはずだったのだが・・・・・・、

 

「もしかして、これがカナメの言っていた揺り籠ってやつか?」

 

正体に一応の見当をつけて平静に戻るが、現状を理解させられ僅かに凹んだ。

閑話休題。

 

「気を取り直して・・・・・・とりあえずあたりを調べてみるか?」

 

どういう意図で、こうして此処に立っているのかは分からないが、現状に<アルス・マグナ>が絡んでいる以上、此処で立ち止まっていて事態が好転することはないだろう。

手近なドアから調べていく。

繋がっているのは、意外にも子供部屋。

次の扉も同様だった。

二つとも女の子のもののようだが、何か起こることもなかったため、ある程度調べたところで、次のドアを開ける。

次の部屋は先の二つと違って、研究室だろうか、複数の実験器具が机の上に並べられている。

何か怪しいものはないか、と思って辺りを見回し、

 

「・・・・・・あれは?」

 

ふと、目を引かれたものがあった。

机の上に置かれたこの場にそぐわぬ、花のティアラ。

何か、気になってそれに手を伸ばして、

手が触れた瞬間世界がひび割れた。

 

 

 

 

「っ!? な、何だったんだ、今のは?」

 

状況を確かめようと周囲を見渡して、

 

「景色が、変わってる?」

 

先ほどは誰かの研究室のようなところにいたはずが、今は大勢の白衣の人々が忙しそうに行き交う廊下に立ち尽くしていた。

これだけでも既に頭がパンクしそうなんだが、

 

「こいつら、俺が見えていないのか?」

 

廊下の真ん中で立ち尽くす俺に誰も視線を向けない。

それどころか、ぶつかったと思っても素通りしたのは驚いた。

ただ、そのおかげでこいつらにとって俺が幽霊のような存在であることが分かった。

 

「まあ、それが分かったところでどうする、って話なんだが」

 

口をへの字に歪めながら、一応廊下の端により、壁に背を預けながら白衣の連中をなんとはなしに見つめていると、

 

「っ!?」

 

一瞬、目に入った姿に、驚いて壁から跳ね起き、すぐにその姿を探した。

幸い、その人物は立場がある人間らしく、周囲の白衣の連中が自然と離れるためあっさり見つけることができた。

記憶にある姿よりも若々しいが、さっきまで見ていた顔を見間違えはしない。

けど、

 

「プレシアがいるって、どういうことだよ?」

 

 

 

一応顔見知りとして話を聞きたかったが、声を届けられないので断念。

今は、とりあえず、プレシアの後について彼女個人の研究室にお邪魔している。

そこで彼女の研究をなんとはなしに眺めているのだけど、

 

(いったい、<アルス・マグナ>は何を見せたいんだ?)

 

頭の中ではその疑問がグルグルと渦巻いていた。

いい加減この状況が<アルス・マグナ>によるものであることは分かっている。

だが、まさか<アルス・マグナ>が宿主相手に何処とも知れぬ景色を見せる精神があるとは思えない。

 

「おそらく、何か意図があるはずなんだけど・・・・・・」

 

そこで、行き詰まった思考は置いておいて、プレシアの実験を見つめる。

すると、

 

コンコンッ!

 

「入りなさい」

「失礼します」

 

プレシアの許可を受けて一人の男が入ってくる。

神経質そうな男で、その目は陰鬱な色を宿してプレシアに向けられている。

胸元には副主任と書かれたプレートを付けている。

 

「何か用かしら?」

「実験の経過の報告です。一番から三番は順調に推移していますが、四番と六番で反応が規定値に達していません」

「そう・・・・・・不足はどれくらい?」

「およそ、7%といったところです」

「7%・・・・・・どうしたものかしら?」

「主任の手を煩わせずとも私が処理しますが」

「いえ、私がやるわ。貴方はこの書類の処理をお願い」

「・・・・・・分かりました」

 

プレシアは書類を副主任に押し付けると部屋を出て行く。

俺もそのあとを追おうと、ドアに向かって、

 

「・・・・・・あの阿婆擦れが」

 

不穏な言葉に振り向いた先、副主任が昏い目をプレシアの消えたドアに向けていた。

書類を持たぬ手は硬く握られている。

 

「主任の椅子は本来私のものだ。それを横から掠め取りおって・・・・・・今に見ていろ、明日予定されている最新型次元航行エネルギー駆動炉『ヒュードラ』の実験がお前の最後だよ、プレシア・テスタロッサ」

(『ヒュードラ』、だと?)

 

暗い笑いと共に放たれた言葉に、ジュエルシード事件中エイミィさんから聞いた話が思い出され、頭のなかでピースが嵌っていく。

 

(そうか! ここは、おそらく過去、それも、プレシアが主任を務めていたミッドチルダの第三研究所! だとしたら、<アルス・マグナ>が見せたいものは『ヒュードラ暴走の真実』といったところか?)

 

事件は、プレシアが違法性のある材料および実験を行ったとされたが、それが別の人物の手によるものだったら?

そして、その犯人は、

 

(こいつ、か)

 

副主任のネームプレートを読み取って、忘れぬよう記憶に刻み付ける。

そのとき、場面が大きく乱れだした。

 

「なんだ?」

 

テレビの画面のようにあたりの光景が激しく乱れ、像を結ばない。

やがて、その乱れが治まった時、副主任が書類を手に暗い笑みを浮かべていた。

 

「かくして、『ヒュードラ』は暴走、プレシア・テスタロッサは中規模次元震を起こした犯人として追放され、第三研究所主任の椅子が空いた。その私が椅子に座ることもカーツ中将の推薦で決まったも同然」

 

どうやら、事件が起こった後まで時間が進んだらしい。

事件を防ぐことはできなかったか。

それよりも、情報の収集に努める。

主犯はこいつだが、後ろにカーツという人物が絡んでいるらしい。

中将というくらいを持っていることから、管理局の人間とあたりをつける。

おそらく、

 

(『ヒュードラ』の暴走は、管理局上層部による圧力と内部工作によって起こされた・・・・・・こいつらのせいで、アリシアは死に、フェイトはあんな目にあったっていうのかよ・・・・・・)

 

腸が煮えくり返る思いを抑えながら、副主任を睨んでいると、クツクツと笑っていた副主任はいつの間にか笑いを治め、手元の書類を見つめる。

 

「だが、ここで下手を打てば彼らは私を容易く切り捨てるだろう。そのとき、これは重要な盾になるはず。これが表に出れば問題となるのは彼らも同じこと。表に出るリスクと秤にかけても、これが持つ重要性のほうが大きい」

 

どうやら、書類は契約書のようだ。

男はそれを箱に収めると、人を呼び出した。

遣ってきた人に箱を金と一緒に押し付けた。

 

「この箱を中央の貸し金庫に放り込んでおけ。番号はF-3145、暗証番号は*****だ」

「へい」

 

男は一つ頷くと、金を懐にしまいどこかへと走っていく。

あの手の男は、荷物を盗んだ結果がよりまずい相手に繋がることを知っているから盗むことはあるまい。

荷物は金庫に納まることになる。

古い記憶だが、まだあの書類があることを信じよう。

プレシアの病を治しても、プレシアの罪が消えるわけではない。

事件の裏を知っている人間はここぞとばかりに排除に動くだろう。

この情報を何としても、クロノたちに伝えなくては・・・・・・。

必死に、何か手はないかと考えたそのとき、

再び世界はガラスのように砕け散り、俺は暗闇に投げ出され意識は途絶えた。

 

 

 

「―――、――、――ろ!!」

 

何かが聞こえたような気がした。

 

声の主はひどく苛立っているようで蹴られているような衝撃が身体を揺らしている。

 

「おい! 起きろってんだよ!!」

「・・・・・・う?」

 

どうやら本当に蹴られていたらしい。

一際強い衝撃にうめきながら身を起こすと、

 

ジャキッ!!

 

「へ?」

 

剣とハンマーが突きつけられた。

視線を動かすと、武器を構えた二人の他に、油断なくこちらを窺うもう二人。

計四人に睨まれていました。

え、どういうことですか?

 

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