リリカル世界を逝く影執事   作:ラッテンフェンガー

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第四十四話 肩慣らしと対守護獣戦

『マスター、マスター』

「・・・・・・ん」

 

誰かの呼ぶ声で意識がゆっくりと浮上する。

目を擦りながら体を起こすと見知らぬ部屋。

寝ぼけた頭で経緯を思い出そうとして、

 

「・・・・・・ああ」

 

一気に目が覚めた。

此処ははやての家で、今いるのはリビング。

<アルス・マグナ>の揺り籠から出たら、なぜか此処だった。

さらに、

 

「やっぱり、変わってないか・・・・・・」

 

体に視線を落としてため息をつく。

手足は記憶にあるものより長い成人のもの。

髪の毛を摘んで目の前に引っ張ってみても、見慣れた黒ではなく色の薄い金。

ただ、服装は昨日の覆面にコートの姿から、薄いシャツにスラックスという姿に変わっていた。

 

「これは?」

『あの姿は私を展開している間のバリアジャケットだ。マスターの意識が途切れて解除された』

「この服は?」

『さすがに、九歳児の姿の服は着れないだろう。間に合わせの品だが、用意されていたらしい』

「誰が?」

『さぁ? 私にも分からない』

 

怪しい。

実に怪しいのだが・・・・・・。

 

「まあいい」

 

頭を振って疑問を振り払う。

実際服がなければ困るのは自分なのだから、この程度の不思議は甘受しても罰はあるまい。

それより、

 

「今は何時だ?」

『午前四時三十二分。まだ日は昇っていない。まだ初夏だから気温も涼しいがあと三十分もすれば上がってくるだろう』

「そうか」

 

睡眠時間約二時間という結論に、起こしてくれたエルミナに僅かに眉根を寄せるがため息一つで切り替える。いつもの癖で起きてしまったのだし、いつものように鍛錬をと思いつつ、ならば庭先でも借りようかと扉に向かい廊下に出ようとして、

 

「「・・・・・・」」

 

ザフィーラさんといったか、獣の耳の生えた男と目があった。

 

「・・・・・・おはよう」

「・・・・・・ああ」

 

挨拶すると、彼も壁にもたれ腕を組んだまま頷いて答えた。

ふと寝る前にエルミナとした会話を思い起こす。

念のため、エルミナに確認を取った。

 

「<なあ、エルミナ。昨日感じた気配って?>」

『<おそらく、マスターの考えているとおりだろう。もちろん動いていないし、変化したわけでもない>』

「<それってつまり?>」

『<彼は一晩中此処にいて、寝ずにマスターを見張っていた、ということだね>』

「<やっぱりか・・・・・・>」

「なんだ?」

 

不審に思ったらしく問うて来るザフィーラさんになんでもない、と答えつつ彼の横を抜けようとして、

ふと思いついたアイデアに足を止めて振り返った。

 

「そういえば、ザフィーラさんって武器は使わないの?」

 

昨日の対峙でも彼は武器ではなく拳を構えていた。

確認すると、ザフィーラさんはそうだ、と頷いた。

 

「我は主の身を守る守護獣。それゆえ、シグナム達の様に武器を取るのではなく、この身を盾として主を守るのみ。ゆえに、武器はこの肉体だ」

「だったら、ちょうどいい。ちょっと手合わせの相手をして欲しいんだけど」

「・・・・・・いいだろう」

 

どうか、と問うと、僅かに迷ったが頷いてくれた。

間はシグナムさん達に確認を取っていたのか・・・・・・時間も早いからそれはない、か?

 

 

庭に出ると、ザフィーラさんに断って少し待ってもらう。

だって、まだこの身体でどう動けるか、試してないし。

ゆっくりと体の各所を伸ばして、深く息を吸い込みながら目を閉じ、

 

「っ!」

 

呼気鋭くカッと目を開いた先に作った仮想敵に強く踏み込んだ。

 

「しっ!!」

 

踏み込みの勢いを乗せて放った拳を敵は容易く捌く。

だが、これは捌かれる前提。

捌かれた勢いに逆らわず、もう一方の拳が放たれる。

拳を敵はバックステップで間合いを外しにかかる。

だが、それでは不十分。

追撃とばかりに放った爪先蹴りが敵の腹に突き刺さる。

蹴りに穿たれた腹を庇いながら退がった相手の下がった頭を、膝から下で跳ね上げた蹴り足が打ち抜く。

蹴りの勢いで敵の体が伸び、視界も上を向いた。絶好の隙。

 

「はあっ!!」

 

蹴り足を引く勢いで体を捻り、勢いを殺さぬままに敵の間合いを潰し懐に入り、本命の肘撃ちを無防備になった腹に叩き込む。

叩き込まれた一撃に沈む相手を仮想して、結果に顔をしかめて一言、

 

「駄目だな」

 

と零した。

 

「何が駄目なんだ? 大した連撃だと感心したのだが?」

 

離れて一連の流れを見ていたザフィーラさんの評価に首を横に振って答える。

 

「そうでもないですよ。今回は反撃しない敵でやりましたけど、どうしても繋ぎにワンテンポ隙ができてました。元々あの流れであと二歩くらい早く決着を迎えるのが理想だったんですけど・・・・・・」

 

もう一度ため息をつく。

どうにもリーチの違いに引っ張られているようだ。

長さが変わって振り抜きにかかる時間に僅かだが差異ができている。

やっぱり、この身体で戦うことに慣れるのは時間がかかりそうだ。

 

「それで、どうするのだ? 我との手合わせは止めておくか?」

「いえ、それはやります」

 

ザフィーラさんの提案を即答で斬り捨てると、再度構えを取った。

ザフィーラさんもそれ以上は何も言わず、拳を握り、腰を低く落とした。

 

「欲を言えば主に騎士甲冑を用意していただきたかったが・・・・・・致し方あるまい」

「なんです、それ?」

「バリアジャケットのようなものだ。我らは主にそれを設定してもらい万全となる」

「なるほど・・・・・・それでも現状なら丁度いいハンデでしょう!」

 

開始の合図を待たず、強く踏み込み間合いを潰す。

その勢いのまま拳を放った。

 

side第三者

 

ストレートを放った雄一に対しザフィーラの取った行動はシンプルだった。

両の腕を交差させ、雄一の拳を受け止める、というそれだけ。

雄一の拳がザフィーラの防御に突き刺さり、雄一の体が吹き飛ばされた。

 

「っ、とっとっと!?」

 

すぐさま体勢を整え、小刻みに跳びながら、勢いを殺して地面に靴痕を刻みながら留まった。

 

「まさか、攻撃の勢い全部返されて吹き飛ぶとは・・・・・・あー。手が痛え」

「こちらも驚いたぞ。本当なら今の一合で手を破壊するはずが、後ろに吹き飛ぶことで避けられるとは思わなかった」

「怖っ!?」

 

大袈裟に驚く雄一だが、内心穏やかとはいかなかった。

 

(まずいな・・・・・・さっきの一撃で分かったけど、ザフィーラさんは言うとおり防御型。しかも万全でない状況で様子見とはいえ弾かれるとは思わなかった・・・・・・)

 

殴ったときの衝撃はまるで地にしっかりと根を張った大木を殴りつけたようだった。

それに厄介なことだが、

 

(あの一瞬で見切られたな。じゃなきゃあの一撃で手を砕くなんて反撃は無理だ)

 

ザフィーラの一撃は僅かにタイミングがずれればお互いの勢いで衝撃が相殺されるはずだった。

それなのに、衝撃は百パーセントの状態で、しかも雄一だけに流れた。

 

(確実に場数は向こうが上。防御力も上で攻撃力は未知数、その上こっちは攻撃手段は格闘に限定・・・・・・)

 

どうするかな、と悩みつつ、ザフィーラの次の手を図る。

一方、ザフィーラも雄一の動きに驚嘆していた。

 

(驚くほどしなやかな身体だ。あの一撃を瞬時の判断でかわすことから咄嗟の判断も早い。こちらから仕掛ける、といいたいところだが、先ほどの訓練の様子から察するに速さは向こうに分があるか)

 

彼が思い出すのは先ほどの雄一が見せた肘撃ち。

一連の流れのフィニッシュブローだったが、あれを受けて自分は耐えられるか。

 

(無論。我はヴォルケンリッター、盾の守護獣。ならば、全て弾いてみせるのみ)

 

ザフィーラも再び、構えを固める。

両者息を詰め、

 

「っ!!」

 

先手を仕掛けたのは雄一。

勢いを乗せた爪先蹴りをザフィーラめがけて放つ。

だが、ザフィーラは蹴りを上に弾き、カウンターで回し蹴りを放った。

雄一は咄嗟に背を大きく逸らしてかわす。

雄一の腹の上を、風を引き千切ってザフィーラの蹴りが奔った。

だが、安心するのは早かった。

追撃で放たれたザフィーラの拳が上から、バランスを崩した雄一を狙った。

対して雄一は、まだ残っていた軸足を蹴り上げると同時に体を大きく捻った。

 

「なっ!?」

「ぐぅっ!?」

 

ザフィーラは雄一が空中回し蹴りで拳を蹴りずらした事に驚き、

雄一は無理な体勢で放った蹴りに体が上げた苦痛に苦鳴を零す。

そして、立ち直りが早かったのは、

 

「っ、せいっ!」

 

雄一だった。

痛みを噛み殺しながら、体勢を整えて倒立の要領で両腕で身体を打ち上げると両足をザフィーラめがけて突き上げた。

ザフィーラも咄嗟に腕を挟もうとするが、間に合わず蹴り足はザフィーラの顔面に吸い込まれ、

バキィッ!! と激しい音を立てて、ザフィーラが張った障壁に止められた。

 

「あー、助かりましたけど、なんか納得がいかない気が」

「危機回避のためだ。それよりも、今回は我の負けだな。先ほどの肘撃ちに意識が向きすぎたのが敗因か」

 

障壁で防いだことに不満と感謝を言う雄一に苦笑しながら、地面に倒れた雄一に手を貸すザフィーラ。

 

「確かにそんな感じでしたね、てことはさっきの回し蹴りとかはむしろ追撃対策?」

「そうだ」

「なるほど、それじゃ、次はそれも踏まえて全力で戦いましょうか」

 

再び構えを取り、いざと踏み込む、

そのとき、

 

「二人とも、何してるん?」

 

突然割り込んだ第三者の声に慌てて身体を止めた。

見れば、窓を開けてはやてが首を傾げていた。

 

sideout

 

 

「はやて? すまない煩かったか?」

「ええよ、いつもこのくらいに起きてるから」

 

見れば時計は五時半ほどを指している。

 

「本当か? 実はまだ眠いなんてことは?」

「む、そんなんやあれへんよ。ただ、今日の朝ごはんはちょっと力入れようかな、って思てん」

 

確かに、はやての顔には眠そうな様子もなく張り切っているのが窺えた。

それなら、と提案する。

 

「ならはやて。俺も手伝おうか?」

「あ、それなら頼んでもええかな。けど、その前に手洗ってき。二人とも運動してたんやろ?」

「分かった。それじゃ先に戻ってますよ、ザフィーラさん」

「ああ」

 

ザフィーラさんに断り、一足先に家に戻るのだった。

 

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