リリカル世界を逝く影執事   作:ラッテンフェンガー

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第五十話 鉄槌の騎士戦後編と癒し手の憂い

side第三者

 

 

 

「え?」

 

ヴィータが呆然と振り返るその先。

中空に黒い花が咲いた。

花は渦に変わって周囲の空気を呑みこみ、すぐに薄れて消える。

渦が呑み込んだ空気が流れ込む風にヴィータは我に返った。

 

「ちっ、外したか」

「ちょ、ちょっと待ちやがれ!! なんだ、今のは!?」

 

舌打ち一つ、雄一が右腕を伝う血を振り払っていると、血相を変えてヴィータが問いただす。

それを宥めて説明する。

 

「一言で言えば、あれも契約の異能。名前は<ダー・グッザ>。その能力は圧縮。人に使えば耐えきれずスタズタになる代物だよ」

 

黒い花の正体は目に見えるほどの重力場。

花は中心に向けて強力な重力をはらんでいる。

説明の非情さにヴィータは思わず口元をひきつらせる。

 

「ズタズタって・・・・・・お前、なんてヤベエもの使いやがる・・・・・・。というか、非殺生設定は?」

「そんな便利なもの付いてねえよ。とりあえず、再開するけど、先に言っておく。この能力はヴィータにとって厄介なことだが、相手に必ずしも触る必要がないんだ。サービスで教えておくけど、この能力の条件は対象に俺の血を付着させることで発動する。そして、俺は今回武器破壊で終わらせるつもりだから、積極的にそのデバイスに血を付けにいく。だから・・・・・・上手く避けろよ?」

 

忠告を投げると同時、雄一は即座に脚力をトップスピードまで跳ね上げて間合いを詰める。

 

「っ!? ちぃ!!」

 

ヴィータは反射的にアイゼンで迎撃しようとして、迫る右手に慌ててアイゼンを引き戻して代わりに障壁で防ぐ。

 

「この・・・・・・離れやがれ!!」

 

障壁を維持して右手を押さえながら、ヴィータはアイゼンを地面に振り下ろす。

打たれた地面は大量の砂を巻き上げ、二人の視界を潰した。

 

「ちっ!?」

「くっ!?」

 

両者視界の潰れた状況で動けずいる中、ヴィータは鉄球を四つ取り出す。

 

(近づけねえなら、遠くから仕留めるまでだ! 性に合わねえやり方だが、そうも言ってられねえ!!)

 

視界が晴れてくるにつれて、鉄球を持った手を少しずつ掲げてタイミングを計る。

やがて、砂煙の向こうにうっすらと影が映り、

 

「そこだ! グラーフアイゼン!!」

<Ja! Schwalhe Fliegen>

 

ヴィータは放り投げた鉄球をすぐさまアイゼンで影めがけて打ちこむ。

鉄球は誘導弾となって影に迫り、

 

「潰せ、<ダー・グッザ>!!」

 

ドゥンッ!!

轟音と共に、鉄球一つを突然包んだ黒い花が、範囲を広げて四つ全てを飲み込んだ。

 

「ちっ!(だけど、血を飛ばして打ち落としたにしても、距離からしてあの影が本体で間違いねえ!!)そこか!」

 

四つ全てが迎撃されたことには驚いたが、ヴィータは影が雄一本人であることを確信した。

一気に距離を詰めてアイゼンを影の頭頂に振り下ろし、

ゴシャ、と影の頭部を砕いて止まった。

やった、と思ったのも一瞬。

すぐに違和感が奔った。

それは人間を殴った手応えではない。

 

「な、違う!?」

 

煙の晴れた先。

アイゼンを受けて砕けているのは、雄一の身長ほどの高さの木。

だが、ヴィータの記憶では先ほどまでこんな木はなかったはずだった。

だとすれば、これも雄一の仕業のはず!

 

「狂い咲け、<ダー・ナーン>!!」

 

思い至ると同時に響いた命令に、地響きをたてて足下の砂を割って植物の蔓が飛びだした。

蔓は勢いよく伸び、ヴィータを絡めとろうと走る。

 

「な、なんだこりゃ!!」

 

ヴィータは驚きつつも、後退しながら伸びる蔓をアイゼンで迎え撃つ。

だが、蔓はその柔らかさでアイゼンを受け止めてしまった。

 

「ちっ、埒があかねえ!!」

 

絡めとられる前に空へと逃れるヴィータ。

だが、眼下を確認しようとして一瞬足を止めてしまった。

その隙を雄一は見逃さなかった。

煙の晴れた先、地上からヴィータを捉えている雄一の手には一丁の拳銃が握られていた。

照準をゆっくりとヴィータの持つハンマーの柄に向ける。

 

「抉り取れ、<ダー・グッザ>!!」

 

引金を引く。

轟音を上げて放たれた弾丸は狙い違わず、アイゼンの柄に喰らいついた。

途端、ブンっ! と異音を上げて咲いた黒い花がアイゼンを二つに食い破った。

破壊された一方、ハンマーヘッドは砂漠へと落ちていき、ヴィータからは見えなくなった。

 

「あっ!?」

 

破壊された相棒の姿にヴィータの動きが止まった。

瞬間、飛行魔法を展開して、ヴィータに迫った雄一は呆然としたヴィータの襟元を引き、その額に銃口を突きつけた。

 

「コレで俺の勝ち、だな」

 

 

 

sideout

 

 

 

決着がつき、ヴィータを支えながら降りる。

ヴィータは抵抗したが、抵抗は無視していたら大人しくなった。

 

「それでヴィータ、デバイスは大丈夫か? 一応コアは外したはずだけど」

「問題ねー。お前の言うとおりコアは無事だし、アイゼンもそんなに柔じゃねえ。それよりお前、一体何をしやがったんだ?」

「さっき説明したとおり、<ダー・グッザ>で削り取りましたよ?」

 

これが握り潰した結果、といって指差した先、それは先に落ちていたグラーフアイゼンのハンマーヘッドと小さな黒い金属の球。

その金属球を拾いヴィータに見せる。

 

「これが、<ダー・グッザ>が圧縮したアイゼンの欠片。たぶんその辺にさっきの鉄球四つ分の球も転がっているはずだ」

「滅茶苦茶じゃねーか。だけど、私はお前の血に触れてなんかいねえぞ?」

「そのタネがこれだ」

 

そう言って、雄一はエルミナを掲げてみせる。

 

「銃? って、まさか!?」

 

ヴィータがはっと気がつくと、正解とばかりに頷きエルミナの弾倉を取り出し、銃弾を一発取り出す。

 

「この弾には俺の血が封入されている。相手に着弾すると、俺の血が弾けるって寸法だ。さっき鉄球を撃ち落したのもこれ」

「さっきの衝撃はこれだったのかよ・・・・・・」

 

半ばで真っ二つになった相棒にヴィータは交互に視線を向けた。

 

「ちなみに、さっきの木と蔓も異能で<ダー・ナーン>という。植物を操る代物でかなり自由が利くから、こういう場面じゃありがたい」

「それにまんまと引っかかったってことかよ」

「まあまあ。それで、武器破壊とあの距離で銃を突きつけたんだ。俺の勝ちで文句はないな?」

「・・・・・・くそ。わぁったよ、私の負けだ。ここでごねるのはみっともねえしな」

 

問うと、ヴィータは長い間を空けたが、不貞腐れながら呟いた。

 

 

sideシャマル

 

 

「ふわー。魔法ってスゴイんやねー」

「そ、そうです、ね?(はやてちゃん・・・・・・あれが一般的な魔導師の基準と思っちゃいけませんよ?)」

 

目を輝かせるはやてに苦笑で返しながら、私は内心痛む頭を抑えた。

契約、という未知の能力をレアスキルの一種と捉えていたが、あれはレアスキルの内に収まるのかさえ今となっては揺らいでいる。

特に、ヴォルケンリッターのリーダーとアタッカーを手加減があったとはいえ、倒してみせたのだから、もし彼がはやてに牙をむいたら、戦闘向きでない自分はおそらく足手まといになるだろう。

 

『<―――、シャマル!!>』

「!?<ど、どうしたの、シグナム?>」

 

突然届いたシグナムからの念話に驚きながら応じると、彼女から呆れたようなため息が届けられた。

 

『<どうしたのじゃない。先ほどから声をかけていたのに、答えなかったのはお前だろう>』

「<あ、ごめんなさい・・・・・・それで、どうしたの?>」

『<うむ。お前から見て、あいつはどう映った?>』

「<そうねえ・・・・・・>」

 

シグナムにも言われ、彼についての印象を整理して伝える。

 

「<変わった子ね。魔力だけ見れば、SSは堅いのに攻撃はどれもBくらい。けれど、体術はかなりのものだし、判断も早い。正直、敵に回すと厄介だと思うわ>」

 

『<そうか>』

「<逆に、シグナムはどう思ったの?>」

『<私か? そうだな>』

 

僅かに考えるように沈黙したが、待たされることなく、シグナムは口にした。

 

『<私は、雄一は信用に足ると思うぞ>』

「<あら? そうなの?>」

『<うむ。私との手合わせもそうだが、先ほどのヴィータとの手合わせも、あいつが殺す気でやっていたら、もっと簡単に決着がついていただろう。だが殺さなかったのは、主はやてを気遣ったからだと私は思う。あいつは主はやてを裏切ることはするまい>』

 

(なるほど)

 

シグナムの印象に思わず納得した。

確かに、彼はヴィータちゃんにも警告するなど、こちらを気遣うそぶりも見せていたし、彼自身はやてを傷つけることはしないとも言っていたことだし、多少は信じてもいいのかもしれない。

それにしても、

 

「<しっかり榊君の事を見ているのね、シグナム♪>」

『<なっ!? 待て、シャマル!! 私は別にそんなつもりは!>』

「<隠さなくてもいいわよ。シグナムにも春が来たのかしら? はやてちゃんもヴィータちゃんもまだまだ揺れているし、此処で一気にリードしておくとか♪>」

『~~~~!! ええい、そこに直れシャマル!! レヴァンティンの錆になるがいい!!>』

「<え、ちょ、シグナム!? ウソ、冗談よね!? 待って待って、謝るから待ってええぇー!!>」

 

 

その後、シャマルを追いかけるシグナムの姿に雄一達は首を傾げるのだった。

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