手合わせを終えたその後から、ヴォルケンリッターからの風当たりはだいぶ変わった。
特に、シグナムは「剣を交えたのだから当然だ」とのこと。
一方、まだ固さを残しているように思えるのがシャマル。
聞けば彼女はヴォルケンリッターの参謀役だったそうだから、正体不明の能力を持つ俺を警戒していてもおかしくはないだろう。
ヴィータは・・・・・・単に性格の問題なんだろうな。
ツンケンした態度は変わらないが、出会った時ほど攻撃的ではなくなったように思える。
ザフィーラ?
よく、ヴィータが朝に散歩に連れて行ってるけど・・・・・・これだけは言わせて欲しい。
犬じゃなくて狼だと言っていた君はどこへ逝ったんだ?
そんな感じで上手くやれていたんだけど、ある日問題が持ち上がった。
それは、
「病院の検査?」
「せや。私、海鳴大学病院に通ってるんよ。それで、明日検査があるんやけど」
「どうかしたのか?」
「その間、皆はどうするんやろ、と思て」
「それは・・・・・・」
言いかけて、ふと口ごもる。
ヴォルケンリッターは主の護衛として少なくとも一人二人はついていくだろう。
全員がついていくことは・・・・・・おそらくないはずだが、今度は誰がついていくのか。
おそらくザフィーラは留守を守るとか言って残るだろうから、ザフィーラ以外の三人の誰か、特にシグナムかヴィータが堅いだろう。
「ちなみに、シグナム達はどうだって?」
「まだ聞いてへんよ。雄君が一人目や」
「そうか。それで、俺の予想だけど、」
一言断り、はやてにさっきの予想を伝える。
聞き終えた頃には、はやても腕を組んで考え込んでいた。
「と、俺は予想するけど、はやてはどう思った?」
「うーん。実際はともかく、確かにあの子達はそう言いそうや。特に、ヴィータは最近べったりやし、シグナムもシャマルも気を張ってるし。ただ、そうすると、石田先生に皆をどう説明すればええんやろ?」
「・・・・・・そうだな、それも問題だな」
「雄君、他にも何か気になるんか?」
「あいつらが、妙な事を言わないように仕込んでおかないと・・・・・・例えば、外で騎士とかベルカとか言った日にはイタイ人に見られるぞ」
あ、と思い至ったはやてが固まった。
そうだな、それがなんでまずいのかも含めて説明しなければなるまいし。
シグナムあたりが、納得しそうにないのが目に浮かぶんですけど・・・・・・。
嫌な想像を振り払っていると、顔を青くしたはやてに袖を引っ張られた。
「ゆ、雄君・・・・・・ホンマにどないしよ?」
「とりあえず・・・・・・皆に事情を説明して、行くメンバーを確定、いや、今後も行くことを考えたら皆で行く方がいいか。で、設定を詰めて・・・・・・はやて、その先生とは長いの?」
「うん。結構好くしてもろてる先生やよ」
それなら安心か。
「たぶんその先生ははやてが言えば信じてはくれるとして。で、シグナム達には不用意なことを口走らないように釘を刺して、とこんなもんか?」
思いつく限りの問題と対処を列挙していき、粗方洗い出したところで確認するが、これ以上はとりあえず思いつかないから大丈夫だろう。
はやても異論はないらしく、ふむふむと頷いている。
「・・・・・・うん。それでええと思う。ほな、早速皆に話に行かんと」
「手伝うよ」
はやてを連れてリビングに入ると思い思いにくつろいでいた四人の意識がこちらに向けられた。
はやては皆に声をかける。
「皆、ちょっとええ? 実は――」
その後、改めて事情を説明したところ、予想通りザフィーラを除く三人が志願して、はやてと顔を見合わせて苦笑した。
皆で行くことを説明して、今度ははやてと俺達の関係をどう説明するかを議題に揚げた。
こちらでも予想通りなことに、シグナムが「主と騎士で良かろう」と言い出したが却下。
この世界に魔法文化がないことを中心にして、騎士を名乗ることのまずさを徹底して説き(それでも、まだ理解した様子ではなかったが)、ひとまず納得してもらった。
その後いくつかの案が生まれ話し合いは紛糾したが、結論は『はやての後見人をしているという、はやての父の親友であった、はやてがおじさんと呼んでいる「ギル・グレアム」という人物が一人暮らしであるはやてを心配して、はやての家にホームステイすることを提案した親戚達』とすることになった。
ただ、この結論で問題なのは俺の立場。
俺は日本名を名乗っているし、いざ偽名を名乗ると、ヴォルケンリッターの誰か(誰とは言わないけど)がうっかり口を滑らせそうだから却下。
それならどうするのか、考える羽目になったが面倒になって、シグナム達同様にホームステイの紹介を受けた親戚としておくことに。
今の俺の見た目は日本人離れしているから大丈夫だろう。
あとは、と考えて問題児二人に視線を向ける。
「なんだよ?」
「どうした?」
問題児二人ことヴィータとシグナムが怪訝な眼を向けてくるのに対して、なんでもないと応えながら、明日の会談で波乱が起きないことはない、むしろ碌な事にならない、と最早信頼に達しそうな二人の猪振りと嫌な予想に痛む頭を押さえた。
(やっぱり、碌な事にならなかったー!!)
「それで? もう一度言ってもらえるかしら?」
「で、ですから、私達ははやてちゃんの後見人をしている『ギル・グレアム』叔父さんに、ホホホームステイ先を紹介してもらったし親戚ですってば!」
(シャマル、そんなにどもってたら説得力ないって)
初めは上手くいっていたはずだった。
診察室についてきた俺達に石田先生は怪しむ目を向けたが、はやての説得で納得したのか受け入れてくれていた。
その後、はやてが別室で検査をすることになった際、はやての事を頼むと言われて、シグナムが『我々は主はやてを守る騎士ですから、ご安心ください』と応えてしまった。
シグナムより先に俺やシャマルが応えられていたら別だったのだろうがそうならず、『主? 騎士?』と首を傾げる石田先生に俺・シャマル・ヴィータはぎくり、と背筋を固くし、遅れて事態に気がついたシグナムが顔を青褪めさせた。
その反応が更なる悪化に一役買ってしまった。
俺達のただならぬ様子に違和感を抱いた石田先生にもう一度俺達は尋問されることになった。
問い詰められるシャマルの姿に、次は我が身と思いつつ一縷の望みをかけて、この状況を打破できる可能性のあるはやてに念話を繋いだ。
「<はやて! 検査はまだかかりそうか!?>」
『<雄君? どないしたん? 検査はまだちょっとかかりそうやけど?>』
ガッデム!
石田先生とのO☆HA☆NA☆SHIには間に合わないとは思うが一応状況を説明しておくことに。
「<シグナムが口を滑らせた! 石田先生が俺達をすっごく怪しんでる! なんとかならないか!?>」
『<あー、石田先生、私が心療内科に来て初めての長期の患者さんらしいんよ。せやから心配してくれてるんやろうけど>』
「<だから!? 何か打開策はないのか!?>」
『<んー石田先生、厳しい先生やからなぁ、ええ先生やけど>』
「<凄く聞きたくなかった、その情報!?>」
『<まぁ・・・・・・私から言える事はただ一つや。ガンバやで、雄君♪>』
そう言って逃げるように念話が断ち切られた。
切られた念話にしばらく呆然とし、やがて我に返ると心の内で叫んだ。
(あの、チビ狸ー!!)
それがまずかったらしく、俺は石田先生の目に留まってしまったらしい。
「榊さんにも詳しいO☆HA☆NA☆SHI、聞かせてもらいましょうか? ああ、残る御三方も逃げませんように」
見れば、俺をスケープゴートに壁際まで下がっていたシグナム達が見咎められて肩を震わせていた。
俺達は、視線を交わすと、
「「「「は、はい・・・・・・」」」」
おとなしく抵抗を諦めたのだった。
その後、はやてが検査を終えて戻ってくるまで、俺達四人は石田先生の尋問と圧力にただ耐えることになるのであった。