リリカル世界を逝く影執事   作:ラッテンフェンガー

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タイトルと開始数行で何が起きるかわかってしまうでしょうけど・・・・・・
で、ではお楽しみください!


第五十二話 料理と氷菓子

「・・・・・・ぅ、あ?」

 

意識が浮上するに連れて、テーブルに突っ伏していた頭を起こすと、茫洋とした意識を頭を振って醒ます。

何が起きたのかを確認しようとして、目の前の惨状に息を呑んだ。

痙攣するヴィータ、目を閉じてピクリともしないシグナム、泡を吹いているザフィーラ、オロオロとするシャマル、そして、口を押さえて悶絶しているはやて。

はやての様子から、意識が飛んでいたのは数秒だろうが、まさか一口含んだ途端に意識が飛ぶとは思わなかった。

さて、何故こんなことになったかというと話は一時間ほど前に遡る。

 

 

 

「はぁー・・・・・・」

 

家に戻った俺達はソファに身を投げ出して深く息を吐いた。

あの後、検査が終わって戻ってきたはやてによる釈明で、石田先生はある程度矛を収めたが、『今後は目を光らせます』とありがたくないお言葉を戴くこととなった。

というか、全然収めてないな。

うん、忘れておこう。

 

「さて、疲れているとこ悪いけど、そろそろええ時間やからお昼の準備をしよか」

「そうするか・・・・・・」

 

石田先生の探るような視線を思い出して背筋を寒くしてしまったので、はやての提案に乗ることでひとまず頭から消そう、そうしよう。

 

「それで、なにを作る?」

「せやなー・・・・・・」

 

車椅子を操作してキッチンへ向かったはやてが冷蔵庫をのぞき込むこと暫し。

 

「ご飯もあるし、ここは王道やけどカレーなんてどうやろ?」

「それはいいな。そろそろ暑くなってきたから丁度いいんじゃないか?」

「それならカレーで決定やな!」

「はやてー、カレーって何だ?」

 

干された布団のように、背もたれに垂れていたヴィータが身を起こしてはやてに問う。

その格好、かえって疲れないか?

 

「そやなー、簡単に言うたら、とっても美味しい料理や♪」

「ホント!? あー、待ち遠しい・・・・・・」

 

よほど楽しみなのか顔を輝かせるが、空腹も重なってすぐにガス欠を起こして再び背もたれに突っ伏すヴィータ。

その姿をシグナムが咎める。

 

「ヴィータ、だらしがないぞ。主はやての御前だ。もっとしゃんとしろ」

「えー、別にいいじゃねえか。腹減ったしよー」

 

ヴィータの気の抜けた様子にシグナムの額に青筋が浮く。

ヴォルケンリッターの将としてだろう、ヴィータを叱りつけようとして、

 

「ええよシグナム。家族なんやから、家の中では楽にしとればええんよ」

「・・・・・・主がそう仰るなら」

 

はやての支援に口を閉ざした。

微笑ましいそのやりとりが終わったのを見計らって口を挟む。

 

「それではやて、何か手伝うことはないかな? 正直今は何か作業に没頭したい」

「ど、どないしたん? それやったら、雄君にはデザートお願いしてもええ? こっちは・・・・・・シャマル、手伝ってもろてええかな?」

「わ、私ですか!?けれど、私は・・・・・・」

 

実はこのシャマル。

『八神家のお母さんキャラ』と自称するほどに、ヴォルケンリッターの中では家事の習得は早かった。

ただ一点、料理を除いて、だが。

その懸念をはやては気にせず、笑顔で誘う。

 

「大丈夫や。初めから上手なんて人はおらへんのやから。これも練習やと思って気軽にやればええねん。私がしっかり教えたるよ」

「はやてちゃん・・・・・・! 分かりました。私も全力を尽くします!!」

 

意気込むシャマルに苦笑しながら、こっちも準備を始めることにした。

 

「デザート、か。ちょっと冷蔵庫見せてね」

 

どうぞ、と車椅子をどけて場所をあけてくれたはやてに礼を言って冷蔵庫の食品を検める。

・・・・・・あれでいいかな?

 

「はやて、大口の瓶と丈夫な薄手の袋ってあるかな? 密閉できるやつ」

「んー、確かあったと思うけど・・・・・・ちょお待ってて」

 

キッチンを出て行こうとするはやてを慌てて押し留める。

それくらいなら自分でやったほうがいいだろうし。

 

「場所を教えてくれたら自分で見に行くよ」

「それなら、瓶は流しの下にあるよ。袋は・・・・・・たしか、棚に入れてあったはずや」

「了解」

 

探し物は少々時間はかかったが、はやての言う場所で見つかった。

それを手にキッチンへ戻ると、大鍋を火にかけ始めていた二人が怪訝そうな目を向けてきた。

 

「雄一君、それどうするんですか?」

「これはまだ使わないけど、たぶんはやてはすぐに分かると思う」

 

言いながら、ボールに材料を入れていく。

牛乳、卵黄、砂糖、香り付けにバニラエッセンスを少々を混ぜて混ざった溶液を、一煮立ちさせてすぐに氷水で冷ます。

その工程にぴんと来たらしい、はやてが答えを口にした。

 

「分かった! アイスクリームやね!」

「正解」

「はやてちゃん? アイスクリームってなんです?」

 

アイスクリームを知らないらしい、首を傾げるシャマルにはやてがアイスクリームがどういうものかを説明する。

それを見ながら、冷ました液体を袋に入れて密閉し、瓶に氷と大匙二杯ほどの塩と一緒に入れる。

 

「ん。これで準備は完了」

「え? 冷凍庫で冷やすんやないん?」

「それだと時間がかかるんだよ。一時間じゃまだ緩いし、大体三~四時間くらい、かな?」

「あー、それは確かに長すぎるな」

 

はやての疑問に苦笑しながら応えると、はやては納得しながら頷いた。

しかし、すぐに眉をひそめる。

 

「ん? それなら、そのアイスは夕飯のデザートにするん?」

「いや、昼のデザートにするよ。そのためのこの用意だ。氷に塩を混ぜて温度を冷やす実験、やったことないか?」

「あ、それ知っとる! けど、それでどうするん?」

「それを利用して、溶液を冷やすんだ。この瓶を振り続ければ完成」

「へえ、面白そうやな。私もやってみてもええ?」

 

目を輝かせるはやてに瓶を渡すと、早速上下に振り始める。

だが、

 

「・・・・・・さ、さすがに、ちょっときついな」

 

はやての細腕には重労働だったのか一分ほどで返してきた。

 

「これ、どれくらい振らなあかんの?」

「大体二十分くらい」

「めっちゃ大変やん・・・・・・」

「シグナム達にも手伝ってもらいましょうか?」

 

ガクッと肩を落とすはやての様子にシャマルが提案するが、その提案に首を横に振る。

 

「その心配はないよ。もっと手軽にできるし」

「どういうことですか?」

「こうするの。揺さぶれ、<クーア・ルンゲ>」

 

瓶を両手で挟み込み、能力を使う。

途端、瓶がガタガタと震えだす。

 

「あとは、これを続けるだけで完成」

「な、何という能力の無駄遣い・・・・・・」

「平和的活用といって欲しいところだな」

 

呆れるシャマルと苦笑するはやてに軽口で返しながら、能力は使い続けるが、ここでふと問題が挙がった。

これ、両手で使うから他の作業ができない。

ならば此処にいても、ただ突っ立っているだけだから邪魔になりそうだし、先にリビングに戻ることにしよう。

はやてに断って、先にリビングに戻る。

 

「ほんなら、私はサラダを用意するから、カレーはシャマルに任せるな? 味付けは任せたで!」

「はい! がんばります!」

 

そんな会話を聞き流しながら、リビングに戻るのだった。

 

 

 

 

(それで、戻ってからも能力を使うことしばし。カレーの完成に合わせて、瓶は冷凍庫に放り込んで、カレーとサラダの配膳を手伝った。それから、皆で食べようとして・・・・・・)

 

一口食べた途端、口内を襲った衝撃に意識を持っていかれたようだ。

とりあえず、原因を探ろうと、容疑者を問いただす。

 

「それで、シャマル? 一体何を入れた?」

「え、えっと、はやてちゃんから『カレーは辛ければ辛いほど美味しいんやで』って聞いたから冷蔵庫にあったこれを」

 

そう言ってシャマルが出したのは、赤い実の植物で、

 

「ってこれ、唐辛子・・・・・・じゃないな。この大きさは、まさかジョロキアか!?」

 

なんでこんなのがあるんだよ!!

ちなみに、ジョロキアとは北インドやバングラデシュに生えるハバネロを超える辛さを持つ唐辛子の一種。

ハバネロに似た実だが表面がザラザラとしており凹凸しているのが特徴か。

それほど古いものでない以上、買ったのははやてだろう。

鋭い視線を向けると、はやては目を逸らしながら犯行を認めた。

 

「その、前に激辛ブームが来たときに買い損ねて、なら今年は試そうと思って買ったんやけど、いざ使おうとしたら勇気が出んくてそのままお蔵入りに・・・・・・」

「で、それをシャマルが見つけて使ったと」

「ごめんなさ~い!!」

 

予想を斜め上に飛んでいったシャマルの失敗に痛む頭を押さえながら、はやてに目配せする。

はやても意図は察してくれたようで苦笑すると、謝り続けるシャマルの傍に行き、顔を上げさせた。

 

「シャマル」

「はやてちゃん・・・・・・私、とんでもない失敗を」

「心配あらへんよ。せやから・・・・・・次は私と一緒に作ろうな」

「はい・・・・・・え?」

 

神妙に頷いたシャマルはすぐに顔を跳ね上げた。

その顔には戸惑いが浮かんでいる。

 

「え、あの・・・・・・?私の失敗に何か罰があるんじゃ?」

「そんなの無いよ。私、言うたやん。『これも練習やと思って気楽にやればええ』って。今回失敗したなら次に気をつければええよ」

「それに、このくらいの失敗ならまだリカバリーできるだろうから、心配ないだろ」

「・・・・・・」

 

シャマルはポカンとしながら、俺達の言葉を聞いていたが、

 

「はい・・・・・・ありがとうございます。はやてちゃん、雄一君」

 

綺麗な笑顔を浮かべて頭を下げたのだった。

 

 

 

これで済めば良い話だったのだが。

その後、復活したヴィータ達もシャマルに怒り一騒動になったが、はやてが抑えに回ったことで鎮火。

その後皆で、このカレーをどう処理するかが問題になったが、これは少量ずつを再調理して味を調整することが決まった。

昼食は早速、辛さを調整しなおしたカレーを食べたが、ヴォルケンリッター達にも好評を受けた。

ただ、その後デザートに出したアイスクリームを、シャマルの『激辛カレー』の反動か、ヴィータが大層気に入ってしまい、大量に食べて腹を壊すというアクシデントまで起きるのだが、それはまた別の話であった。

 

 

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