リリカル世界を逝く影執事   作:ラッテンフェンガー

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第五十三話 八神家の一日と胎動

その日も、此処しばらく続いた穏やかな日と同じ一日になるはずだった。

 

 

「何処の誰でもいい、どんな手段でもいい、この絶望の輪廻を断ち切ってはくれないか。

「あの優しい主と、一途な騎士達を救ってはもらえないか。

「神でもいい、悪魔でもいい。

「私がどうなったとしても。

「どうか・・・・・・あの子達を救ってくれ・・・・・・」

 

 

「・・・・・・ぅ?」

 

うっすらと目を開けるとこの一月ほどで慣れた、俺に割り当てられた部屋の天井が目に入った。

体に残る気だるさを伸びをして追い出しながら思い出すのは先ほど見ていた夢。

泣いている女性がいた。

彼女は涙をこぼしながら、必死に何かを祈っていた。

だが、何を祈っていたのかが思い出せない。

 

「考えていても始まらないか・・・・・・時間は、五時半か」

 

寝間着から着替えてリビングへ向かう。

まだはやても寝ているのか、リビングはシン、と静まっている。

 

「さて、今日はどうするか・・・・・・」

 

冷蔵庫を開けて、朝食のメニューを決める。

 

(御飯ははやてが昨日の内にセットしていたし、シグナム達も箸に慣れてきたことだし、和食でいくか。焼き魚と味噌汁と・・・・・・)

 

味噌汁の具を用意する傍ら、鍋に水を張って火にかける。

鍋が煮えたところで出汁を取り、具を放り込んで一煮立ちさせ、一度火を止めて味噌を溶く。

はやて達の好みに合わせて、薄口に仕上げて蓋をしておく。

皆が起き出した頃に温めればいいだろう。

焼き魚は、もう少し待つか。

後もう一品くらい、と悩んでいると誰かがリビングに入ってきた。

 

「ん?」

「あれ?」

 

顔を出すと、キッチンを覗き込もうとしていたはやてと目があった。

 

「雄君、早いなぁ。今日は私の方が遅かったんやな」

「はやても充分早いけどな。それではやて、朝食は和食で作ってあるから、魚とかは・・・・・・そうだな、シャマルやシグナムが起き出したくらいで焼き魚に火を入れてくれ」

「了解や!」

 

笑顔で了承したはやてに後を任せて、俺は靴を履くと庭先に出る。

足を向けたのは庭の一角に造った菜園。

先日、はやてに許可を貰って作ったものだ。

今は夏ということで、トマト、きゅうり、ナスを植えている。

苗に如雨露で水をかけていく。

余った水は門のあたりに撒いて打ち水の代わりにする。

最近外でじっとしていても汗ばむほど気温も上がってきたことだし、こういった手段で涼を得るのもいいだろう。

今も、僅かに滲んできた汗をぐっと拭い取り、

 

違和感を感じて、視線をそちらへ飛ばす。

 

(一瞬だったけど、何かに見られていたような・・・・・・<バーラ・ルー>が使えれば分かるのに)

 

<バーラ・ルー>なら相手の視界を盗むことで位置を特定できただろう。

せめて、視線を感じた先に何か手がかりはないかと目を凝らして、

 

「雄一、ボーっとしてどうかしたのか?」

「っ、ああ、シグナムおはよう」

 

背後からかけられた声に振り返ると、怪訝そうな顔をしたシグナムが玄関から顔を覗かせている。

 

「ああ、おはよう。それで、どうかしたのか? 何か気になっていたようだが」

「なんでもないよ。ただ、暑いな、と思ってただけだから」

 

そうか、と納得したらしいシグナムから目を先ほどの方向に向けるが、すでに視線の主は姿を消したらしく、違和感は掻き消えていた。

 

「雄一?」

「なんでもない。それよりシグナム、シャマル達は?」

「シャマルなら、主はやての手伝いをしている。ヴィータはまだ寝ているようだが、じきに起きてくるだろう。ザフィーラは」

「ここにいる」

 

振り返ると、犬「狼だ」・・・・・・狼モードのザフィーラの姿が。

 

「散歩の帰りか?」

「ああ、榊が庭園を世話しているときに出たから気がつかなかったのだろう」

「なるほど。シグナム、タオル用意してあげて。ザフィーラは足、拭いておくこと」

「分かった」

「心得ている」

 

シグナムはタオルを取りにいき、ザフィーラは玄関でおとなしくそれを待つようだ。

それを見送りつつ、考えるのは先ほどの視線について。

 

(何かが動き出した・・・・・・そう考えるべきか? その場合、何を狙って動いたのかが問題だ。ロストロギアの闇の書か、それとも主であるはやての身柄か? だったら、それを狙うのは誰か?そもそも、どうやって闇の書の起動を知ったのか、そして、闇の書の所在を知っているのか?)

 

疑問は尽きない。

だが、やることははっきりとしている。

 

(はやて達を守る。それが最優先だ。蒐集をする必要ははやてが止めたからないだろうし、大きな騒ぎもないと思うが)

 

なら、もうしばらくは様子見と決めたところで、はやてに呼ばれてリビングに戻るのだった。

 

 

 

その後起き出してきたヴィータを加え、六人で朝食を済ませる。

シグナムは最近出入りするようになった剣道道場に顔を出すらしい。

ヴィータは老人会の方々に気に入られたらしく、彼らの開催するゲートボールに参加してくるそうだ。

シャマルははやてに教えを請うて、料理の練習をするようだ。

ザフィーラは周囲の散歩に出るらしい。何か趣味はないのか?

 

「ユウ」

「ヴィータ? どうした?」

 

俺はどう過ごそうか、と考えていたところ、ヴィータに声をかけられた。

珍しく言い難そうに口ごもっていたかと思うと、

 

「ま、前に雄一が作ってくれたアイス、美味かったしまた作ってくれねえか?」

 

何事かと思えば、アイスの催促だった。

それは構わないけど、

 

「あまり食べ過ぎて前みたいに腹を壊すなよ」

「うっ・・・・・・人の過去の傷跡を抉りやがって・・・・・・」

 

視線を逸らしながら、唇を尖らせるヴィータに苦笑する。

苦笑ついでにヴィータの頭に手を伸ばす。

 

「ま、買い物のついでに材料を見繕ってきてやるよ」

「それは、ありがたいんだけどよ・・・・・・なんでお前は、人の頭に手を乗せてんだ?」

「いや、あまりにもヴィータの様子が微笑ましかったものだから」

「~~~~!! こ、子ども扱いすんじゃねー!!」

 

正直に答えると、顔を紅くして手を振り払うヴィータ。

その様子がさらに微笑ましく、笑いが深くなる。

 

「すまんすまん。バニラとチョコとイチゴで作るから、勘弁してくれ」

「み、三つも!? ふ、ふん! そ、そこまで言うなら許してやろうじゃねえか」

「ああ、ありがとうな」

「雄君、あまり作りすぎたらあかんよ? ヴィータが食べ過ぎてまうやん」

 

話に加わったはやての苦言に、ヴィータは肩を落とし俺は失笑した。

 

「うぐ、はやてまで」

「くくく・・・・・・大丈夫だよはやて。さっき俺も同じことを言ったから。それに、一度に食べないようにすれば大丈夫だろ。な、ヴィータ」

「うっ・・・・・・しょうがねえから・・・・・・我慢する」

「ん、いい子だ」

 

ポム、ナデナデ・・・・・・。

 

「だ、か、ら、子ども扱いすんじゃねー!!!」

 

 

ヴィータの剣幕に追い出される形で買出しに出ることに。

最寄のスーパーで商品を見繕っていく。

 

(さて、卵や野菜が安く手に入ったのはありがたいな。チョコもイチゴも買ったし。あ、牛乳買わなきゃな。シグナムやヴィータが飲むし、二本買っておくか)

 

値段と相談しながら次々と籠に放り込んでいく。

そのときだった。

 

「っ!?」

 

首筋に纏わりつくような視線を感じて振り返る。

一瞬で薄れたが、

 

(今朝感じたのと同じものだな)

 

そう当たりをつけて、会計を済ませて店を出ると、周囲に意識を広げる。

そして、誘導にのるように視線の弱くなる方へと足を向けていく。

たどり着いたのは、

 

「公園?」

 

はやての家からは少し距離のある児童公園。

足を踏み入れるが、アクションはない。

いや、

 

「人払いか」

 

気がつけば周囲から人影が消えていた。

こうなったら、次に来るのは。

 

「それで、お前は何者だ? 何故、はやてを監視していた?」

「・・・・・・答える必要はない」

 

姿を現せたのは、仮面を被って表情を隠した男だった。

 

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