リリカル世界を逝く影執事   作:ラッテンフェンガー

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第五十五話 進む病と決断

「・・・・・・え?」

 

呆然と、石田先生に言われたことに返せたのはそれだけだった。

何かの間違いだと信じて、一緒に来ていたシグナムとシャマルを振り返るが、二人も表情が凍りついている。

石田先生を振り返ると、彼女も悲痛な表情を浮かべていた。

 

「せ、先生・・・・・・今、何て?」

 

血の気が下がるのを自覚しながら、石田先生にもう一度言ってもらう。

 

「はやてちゃんの症状が進行しているの。このままだと命に関わるわ」

 

 

 

 

仮面の男達の襲撃を受けてからしばらく経った。

シグナム達に話したところ、シャマルを中心に魔導的な防御を固めたらしい。

また、シグナムやザフィーラだけでなく、ヴィータやシャマルも時々ではあるが手合わせに参加するようになった。

なんでも、「いざという時に後悔したくないから」とのことだった。

もちろん、その一方ではやてにその警戒を気づかせることはしなかった。

表情に出やすいヴィータはどうなるかと思ったが、現状上手くやれていた。

そんなある日のこと、はやての定期健診でシグナム・シャマル・ヴィータと共に病院に付き添ってきた。

この三ヶ月ほどを過ごしてきた、いつも通りの日のはずだった。

診察を終え問診をしたところで、石田先生に呼び止められるまでは。

嫌な予感を覚えつつ、はやてとヴィータには先に行ってもらい、三人で石田先生のいる診察室に戻った。

そして、

 

「はやてちゃんの足は原因不明の神経性麻痺だとお伝えしましたが、この四ヶ月ほどで少しずつ麻痺が上に進んでいるんです。ここ二ヶ月の検査では特に顕著で・・・・・・」

 

二ヶ月。

その言葉が頭を何度も駆け巡った。

 

(まさか・・・・・・はやての麻痺の進行はシグナム達が関わっている?)

 

タイムラグはあれど、闇の書が起動した日が基点であることは間違いないだろう。

そう考え、慌てて打ち消した。

シグナム達がはやてを害するはずがない。

だが、現状それ以外の可能性はない。

この考えが外れていて欲しい。

そう願う間も話は続けられる。

 

「このまま進むと、内臓機能の麻痺にまで発展する危険性があるんです」

「そ、そんな!? 何か手立てはないんですか!?」

 

石田先生を問い詰めるが、答えは首を横に振ることだった。

自分でも分かっていた。

はやては長く病院に通っている。

その間、原因がつかめなかったものを都合よく治す方法などあるはずがないことは。

奇跡以外はないことは。

 

(<アルス・マグナ>が使えれば。そう思ってしまう)

 

それだけじゃない、せめて今使える異能に治療に使えるものがあれば。

呆然とする俺達を見かねたか、石田先生ははやてを待たせるべきじゃないといって、俺達を解放した。

診察室をあとにした俺達は口を閉ざしたまま通路を進み、人通りのないところで足を止めた。

 

「何故・・・・・・何故、気がつかなかった!?」

 

シグナムが壁を殴りつけ、抑えきれないのだろう激情を吐露する。

その傍、ベンチに崩れ落ちたシャマルは涙をこぼしながら、謝っていた。

 

「ごめんっ・・・・・・ごめんなさいっ、私、」

「お前にじゃない・・・・・・自分に言っている」

 

その懺悔を斬り捨て己の所為だと責めるシグナム。

その二人に問う。

 

「二人に聞くが、これに闇の書、または守護騎士は関わっているのか?」

「っ!? そ、それは・・・・・・」

「・・・・・・そのとおりだ」

「シグナムッ!?」

 

シャマルは口篭ったが、シグナムは躊躇いながらも頷いた。

シャマルが咎めるようにシグナムを振り返るが、シグナムは毅然としながら首を横に振った。

 

「雄一には話しておくべきだ。雄一、お前の想像通り、主はやてに起こっているのはただの麻痺ではない。あれは病気によるものではなく、闇の書の呪いだ」

 

「呪い?」

 

出てきた物騒な言葉に眉をひそめるが、シグナムは真剣な表情で頷く。

 

「主はやてが生まれた時から共に有った闇の書は、主の身体と密接に繋がっていた。抑圧された強大な魔力はリンカーコアが未成熟な主の身体を蝕み、健全な肉体機能どころか生命活動さえ阻害していた」

「色々聞きたいことはあるが、リンカーコアというのは?」

「大気中の魔力を取り込む、魔導師が持つ器官だ。闇の書はそれを蒐集することで力を増す。そう説明しただろう」

「そういえば、そうだったな・・・・・・呪いとは言いえて妙じゃないか」

「そう、だな・・・・・・そして、主が第一の覚醒を迎えたことでそれは加速した。それは四人の活動を維持するためごく僅かとはいえ主の魔力を使用している事も無関係とは言えないはずだった」

「・・・・・・なんだと」

 

シグナムの言葉を聞く中、聞き逃せない言葉に意識が固まった。

 

「どうした?」

「いや・・・・・・なんでもない」

 

シグナムになんとか答えるが、内心穏やかではいられなかった。

シグナム達の活動の維持に使われた魔力が、麻痺を進行させた。

なら・・・・・・俺は?

 

 

 

side第三者

 

帰宅後、その場にいなかったヴィータ・ザフィーラにもはやての現状の説明があった。

ヴィータはシャマルを責めて、シャマルは無力感に耐える。

 

「・・・・・・榊、お前の能力に主を救えるものはないのか?」

 

ザフィーラの問いに視線が集まる。

だが、

 

「すまない。不可能だ」

 

答えは否定だった。

 

「前に説明したと思うが、俺の本来の体は別にある。そっちの体にある能力なら、できなくもないだろう」

「なら、すぐに戻れば!」

 

ヴィータが叫ぶがそれはできない。

 

「その体は、たぶん管理局の艦船の中だ」

「!? それ、は・・・・・・」

 

理解して表情を曇らせるシグナム達。

俺の体を戻すには、管理局の艦船に出向く必要がある。

だが、ロストロギアを管理すると主張している管理局だ。

闇の書とその守護騎士を無事に帰すとは思えない。

おそらく、

 

「管理局と事を構えることになる」

「そんな・・・・・・それじゃあ、何もできねえのかよ! はやてが死んじまうかも知れねえのに私達はそれを黙ってみてるしかないのかよ!!」

「・・・・・・シグナム」

「・・・・・・ああ、分かっている」

 

ヴィータの叫びに、ザフィーラはリーダーを見上げる。

仲間の問いに頷いて返し、シグナムは首から外したネックレス、待機状態のレヴァンティンを手に握った。

 

「我らに出来る事はあまりに少ない。管理局と事を構えるか、それとも」

「なら、どうするつもりだ?」

「闇の書を完成させる」

「・・・・・・いいのか? はやてとの誓いを破ることになるぞ?」

「だが、このまま主を見殺しにする訳にはいかない! 救える可能性があるのなら、私はそれに賭ける!」

シグナムの覚悟に、俺も覚悟を決める必要を悟った。

 

 

 

深夜。

場所を移して、四人は己のデバイスを構えた。

 

「主の身体を蝕んでいるのは 闇の書の呪い・・・・・・」

「はやてちゃんが闇の書の主として真の覚醒を果たせば!」

「我らの主の病は消える・・・・・・少なくとも進みは止まる!」

「はやての未来を血で汚したくはしたくないから人殺しはしない・・・・・・だけど、それ以外なら何だってする!!」

「・・・・・・申し訳ありません我らが主…ただ1度だけ あなたとの誓いを破ります。我らの不義理をお許し下さい!」

 

四人の体を騎士装束が覆う。

戦闘体勢を整えた四人は、この場についてきていた雄一を振り返った。

 

「ユウ、お前は戻れ」

「はやてちゃんのことは私達に任せて」

「・・・・・・主の守護、我らの留守の間は任せたぞ」

「お前まで泥を被る必要はない。蒐集は我々の手で済ませる」

 

それぞれ、雄一まで収集に関わらせない事で一致していた。

だが、

 

「俺も蒐集に参加させろ」

 

雄一はその気遣いを切り捨てた。

 

「なんでだよ!?」

「ヴィータ、俺もこの件と無関係とは言えないからだ」

「どういうことだ?」

「シグナム、昼間言っていたな? シグナム達の活動を維持するためはやての魔力を消費したことが麻痺の進行に関わっている、って」

「ああ、だがそれが」

 

どうした、と続けようとしたシグナムはそれに気が付き、ハッと顔を強張らせた。

 

「まさか、そういうことか?」

「そう。お前達だけじゃない。闇の書に俺も繋がっているなら、俺の戦闘も無関係とは言えないだろ」

 

仮面の男達との戦い。

その際の消費の余波がはやてに及んだのだとしたら。

 

「それが俺の戦う理由だ」

 

不足か、と問う雄一にシグナム達は返す言葉を持っていなかった。

やがて、

 

「分かった」

 

シグナムは雄一の参加を受け入れた。

ヴィータが僅かに反対しようとしたが、雄一の戦力に加えるメリットを説かれて渋々引き下がった。

 

「もう問題はないな。なら急ごう。闇の書の完成させて、はやてを助けるために」

 

雄一はエルミナを杖に変えて構える。

シグナム達も表情を引き締めると、転移魔法を起動させた。

 

 

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