今回は三人称中心で。
ではどうぞ。
九月に入り、二学期になった聖祥大附属小学校も賑わっていた。
ただ、その中で僅かに翳りが見えるクラスがあった。
そのクラスでは一人生徒が行方不明となっていた。
六月頃から姿が見えなくなっていたその生徒は、姿を消す直前に休学を学校に届け出ていたが、それ以来の行方は杳として知れない。
その生徒は榊雄一といった。
賑わうクラスの中、なのはは一人溜息をついていた。
榊雄一の不在に、彼女の親友であるアリサやすずかが彼の居所を必死に探していることを知って、その努力が実らないことを知っていることと、それを説明することができないから出た溜息だった。
現在も榊雄一の体はアースラの医務室に安置されている。
彼は、なのはも関わっていた事件で力を使いすぎてその状態に陥っていたが、未だに解決策が見つからずにいることを、今でも連絡を取り合っているリンディやエイミィから聞いていた。
――また、詰まらない事考えてんのか?――
「<あ、<クフ・リーン>さん>」
脳裏に響いた声にぼんやりと返す。
この声は彼女の使う念話と異なるもので、ザワザワと脳裏に響く音のようなこの声にはなのはもしばらく慣れなかった。
<クフ・リーン>というこの声の持ち主は、なのはの影に潜む精霊・・・・・・らしい。
もとは、榊雄一の異能なのだが、彼が意識を失う直前になのはに預けられたのだった。
――何度も言ったと思うが、あれは相棒の選択だ。あそこで眠りに就く事は難度も注意していたんだからな――
「<けど、私が>」
なのはの脳裏を後悔は過ぎる。
あのサッカーの日、彼が<アルス・マグナ>を使わずに済んでいたら。
そのifはあの日から何度も考えていた。
あの一回がなければ、彼はまだ踏みとどまれていたのではないか、と。
――そんなの考えても、相棒は今も眠りについてる。なら、そんな後悔に意味ないと思うけどな――
「っ、そんな」
「なのは? どうしたの?」
思わず叫びそうになったなのははかけられた声にハッと振り返った。
振り返った先には目を丸くしたアリサ達がいた。
「あ、アリサちゃん、すずかちゃん・・・・・・ど、どうしたの?」
「いや・・・・・・あんたがどうしたのよ?」
「なのはちゃん・・・・・・悩みがあるなら聞くよ?」
「にゃっ!? だ、大丈夫だよ! ただ、雄一君のことが心配で」
「ああ。そうだね、雄一君大丈夫かな?」
咄嗟に話題に出した名前に、すずかは(なのはに都合よく)解釈した。
アリサも、表情を沈ませる。
「そうね、今頃あいつは何してるのかしら? それで、なのは。今から、私達はあいつの家を訪ねてみるつもりだけどあんたも来る?」
「雄一君の家?」
アリサの提案に、なのはは聞き返すとアリサは頷いた。
「あいつの家に鮫島を行かせたんだけど、ちょっと気になることがあるのよ」
「気になること?」
「うん。鮫島さん、雄一君の家に辿り着けなかったんだって」
「辿り着けなかった? あれ? でも、鮫島さんは・・・・・・」
すずかがアリサの言葉を継いで言った答えに、なのはは首を傾げた。
鮫島という人物はアリサの執事をしている老人なのだが、
「けど、アリサちゃんは前に雄一君を連れて来させてたよね?」
「そうなのよ。鮫島がその家の場所を知らないはずはないんだけど」
アリサも納得いかない様子で首を捻っていた。
確かに、鮫島がそんな嘘をつくとは考えられない。
「だから、一度私達で確かめてみようと思ったの」
「けど、鮫島さんも辿り着けなかったんだよね。私達でどうやって?」
「それで、あいつの家について調べたらこんな噂が見つかったの」
そういうと、アリサはポケットから紙を取り出した。
文字が書かれていることから、何かの資料をプリントアウトしたものらしい。
「これって?」
「まあいいから読みなさい。けど・・・・・・読むなら、心して読みなさい」
アリサが顔を強張らせてなのはに資料を差し出す。
なのははその様子に不穏なものを感じ、唾を飲み込んで資料を受け取った。
一枚目は噂を纏めたものらしいが、その中で特筆されているのは、
「『蜃気楼の家』?」
「そ。あいつの家が見つからないのはこれが原因じゃないかと思ったの」
詳しく記事を読んでみる。
その家に郵便などで用があるときは見つけ出せるのに、もう一度探してみると、その家は忽然となくなっているのだそうだ。
――おお、噂もバカにならねえな――
「<<クフ・リーン>さん? それってもしかして>」
――当たり、ってことだ。あいつの家は特殊な結界のようなもので覆われているのさ。もっとも、今はあそこには誰も近づけないだろうけどな――
「<それってどういう?>」
「なのは? ボーっとしてどうしたのよ?」
「ふぇっ!? な、なんでもないよ!?」
<クフ・リーン>の言葉を問い質そうとしたときに、アリサに言われて慌てて我に返るなのは。
誤魔化すように資料のページを捲って、次の紙に視線を落として、
「・・・・・・ぇ?」
その内容に言葉を失った。
確かめるようにもう一度読み、アリサ達を見ると、彼女達は言いたいことを察したのか、頷いた。
そこに書かれていたのは、以前リンディが雄一について調べた時に見つかった彼の両親の死亡記事。
だが、
「だ、だけど、それなら雄一君は今までどうして来たの?それに授業参観とか家庭訪問とか」
「それは分からないけど、家庭訪問とかはやっても、ご両親不在だったって。そのときは疑問に思わなかったらしいの」
「何それ?」
話の不自然さに眉をひそめるなのは。
だが、
――そういうものなんだよ、あそこは――
<クフ・リーン>の呟きに、なのはの脳裏に魔法の可能性が過ぎった。
だとすれば、不可解さにも説明がつくが、
(アリサちゃん達に説明できない)
魔法に関わりを持たないアリサ達を納得させることができない。
黙ったなのはにアリサ達は首を傾げたが、その手を引いた。
「とりあえず行ってみるわよ、なのは!」
「いこう、なのはちゃん」
「え、ちょ。二人とも!?」
アリサ達に手を引かれながら我に返って叫ぶなのは。
だが、三人は雄一の家に辿り着けず肩を落とすこととなった。
時空管理局所属次元航行艦八番艦アースラ艦内。
その拘束室に一人いた少女は扉の開く音に入り口を振り返った。
入り口にはその少女と似た顔つきの少女がいた。
「お帰り、フェイト。どうだった?」
「ただいま、姉さん。今日も変わらなかったよ」
声をかけるアリシアにフェイトは翳りがあるも笑顔を返した。
二人が話題にしたのは、今も医務室で眠り続ける雄一のこと。
彼女達を救うために眠りに就いた彼を二人は度々見舞っていた。
アースラのスタッフも事情を鑑みて、誰かの付き添いがあればアースラ内の移動を許可していた。
ふと、フェイトは部屋内に母の姿がないことに気がついた。
「母さんはまだ?」
「うん。今回はだいぶ紛糾しているみたい」
彼女達の母、プレシアは先の事件の件で裁判を受けていた。
実刑判決は覆せず、親子の情を再認識した矢先に離れ離れになると考えて悲しんだが、最近匿名で告発があったらしく新たな証拠が発見され問題になったらしい。
なんでも、アリシアの死の原因にもなった次元航行エネルギー駆動炉『ヒュードラ』の実験に細工があり、それが現職の局員の手によるものであることが判明したのだ。
「母さん、大丈夫かな?」
「大丈夫だよ。母様も十分な証拠があるから、あっさり覆して帰ってくるよ」
「そうじゃなくて、真犯人に何かしないか、心配で」
「・・・・・・大丈夫、だよ?」
自らのクローンであるフェイトを妹とみなしているアリシアは、姉として妹を元気付けようとしたのだが、彼女と心配している点が異なっていたこととその内容に、笑えず唇を引きつらせた。
プレシアは、彼女達の母として優しい姿を見せるが、その一方で苛烈な性格でもあり、フェイトはその苛烈さを身に染みていた。
その彼女が愛娘達を苦しめることになった原因と顔を遭わせたら・・・・・・。
(大丈夫、だよね、母様?)
まさかなぁ、と思いつつ、母に祈りを捧げるアリシアであった。
その祈りによってか、裁判が行われている部屋で騒ぎは起こらなかったらしい。