とある無人世界。
そこに収集に来ていた俺・シグナム・シャマルは狼型の魔獣の群を掃討したのち体を休めていた。
「頁はどこまで行った?」
「三百十二頁まで来たわ。もうすぐ半分ね」
「あまり稼げなかったわけだ」
「仕方ないだろう。今日の世界は格段に強い個体がいない代わりに数が多いものだったが、数を積んでも一体一体は大したことがなかったからな」
それでも不満そうに鼻を鳴らすシグナムに苦笑する。
「そこまでいうか。ただ、これで約束の三百頁を越えたから一度見せてくれ・・・・・・と言いたいところだけど、そろそろ行くか。シャマルは、ってシャマル?」
シャマルを振り返ると、彼女は何に驚いているのか、目を丸くしていた。
「シャマル、どうした?」
「っ!? な、なんでもないわ! それよりも、そろそろ一度戻りましょうか! はやてちゃんも心配なことだし!」
「ん? ヴィータもザフィーラもいるんだからそれほど心配する必要もないんじゃないか?」
「私もそう思うな・・・・・・確かに主の身は心配だが、ヴィータ達なら何があっても守るはずだ。我らは今は闇の書の収集を進めるべきだ・・・・・・ん?」
シャマルの突然の提案に、シグナムと顔を見合わせて首を傾げながら反対すると、シグナムがふと一点に目を向けると目を鋭くした。
「シャマル、」
「な、何? シグナム?」
「シャマル、お前闇の書をどうした?」
「っ!?」
シグナムが指摘すると、シャマルは顔を強ばらせた。
見ると、彼女が持っていたはずの闇の書が見あたらない。
「シャマル! 闇の書をどこにやったんだ!」
「そ、それは・・・・・・」
「・・・・・・シャマル、まさかヴィータ達か? 闇の書が転移したのか?」
「っ、そ、それは・・・・・・」
「・・・・・・そうか。くそっ、このタイミングでか!?」
シャマルを問いただすと、シャマルは目を泳がせた。
だが、顔を険しくしたシグナムが発した問いに息を呑んだ。
その反応で確信したのか声を荒げるシグナム。
だがその内容は無視できるものではなく、シグナムを振り返る。
「シグナム、それってどういうことだ? なんで、はやてを守っているはずのヴィータ達が、闇の書をいま必要とするんだ?」
「っ、それは」
シグナムは失言とばかりに顔をしかめたが、構わず問いつめる。
「いや、闇の書を必要とするのは収集のため、だよな。なら、ヴィータ達はわざわざ俺達・・・・・・いや、
俺に隠れてどこで収集をしている?」
二人を睨まんばかりに見つめると、二人は口を閉ざして目を逸らした。
それは、何よりも雄弁な答えだった。
「やっぱり・・・・・・二人は海鳴で収集をしているんだな?」
「・・・・・・そうだ」
「シグナム、いいの?」
「事ここに至っては黙っているわけにもいかないだろう。雄一、お前の言うとおり、ヴィータ達はあの街で収集をしようとしている。なんでも、ヴィータがあの街で大型の魔力反応を見つけたらしい。お前の条件もあったが、私達は主の身を優先した。どんな謗りも受けよう。だが」
シグナムは言葉を切り、深く頭を下げた。
「全ては闇の書を完成させて主はやてを救ってからにしてほしい」
「シグナム・・・・・・」
「シャマルも同じ意見か?」
シャマルに問うと彼女は僅かに逡巡したが、はっきり頷いた。
折れる様子のない二人に、俺は今まで棚上げしていた問題と直面することになってしまった。
(はやてを救うためになのは達と戦うか、なのは達を護るためにはやて達を切り捨てるか・・・・・・どっちか選ばなきゃならないのか?)
自問するが答えは出ない。
だが、迷う俺に構わず、事態は進んでいく。
「っ! 雄一君!」
「なんだ!?」
「ザフィーラから知らせが来たわ。ヴィータちゃんが戦闘に入ったわ。念のために合流してほしいらしいの」
「なんだと!?」
あの街にいる高魔力の持ち主。
そう聞いて真っ先に連想したのは、なのはの姿だった。
「シグナム、シャマル! 急いで海鳴に戻るぞ!」
「・・・・・・それは構わないが、一つ聞かせてほしい」
「なんだ!?」
焦っているというのに問うシグナムを振り返ると、彼女は真剣な目でこちらを見ていた。
「雄一の様子から、雄一が何故海鳴での蒐集をよしとしなかったのか。今ようやくその真意が分かった。その真意は、その者達と親しい間柄であり、彼らと戦いたくないから、だな」
「ああ」
「なら、」
自身の考えに自信があるのか断定するシグナムに頷いて返すと、シグナムは威圧感を強めて睨んできた。
その手はレヴァンティンの柄を握っている。
鋭い切っ先が同じく鋭い視線とともに向けられた。
「お前は、どうするのだ? お前は主の味方か? それとも、敵か?」
問いとともに、シグナムの手がレヴァンティンの柄を軋ませた。
ふと、横に視線をずらすと、シャマルが展開したクラールヴィントをこちらに向けている。
「俺は・・・・・・」
二人の視線を受けながら口を動かして思いを伝える。
「俺は、どちらも選べない」
シグナムの手元で金属が擦れ、シャマルが視線を落とす。
だが、
「俺ははやて達を大切に思っている。だけど、なのはやフェイトを斬り捨てられるか、と聞かれたら難しいだろう。あいつらだって俺の大切な人間だ」
「・・・・・・だから、一方を選べないと?」
「ああ」
「・・・・・・。優柔不断なことだ」
呆れたように呟くシグナム。
だが、
「だが、こっちも酷な事を聞いているからな。そもそも、先に契約を破ったのはこっちだ。雄一が離れても文句は言えん」
「いいのか?」
「ああ。だが、向こうにつくならこちらも手加減はしない。それを覚えていることだ。シャマル!」
俺が安堵して肩の力を抜いている間に、シグナムはシャマルに転移魔法を起動させた。
「おそらく、結界を張って戦っているはずだ。直接結界の中へ」
「分かったわ。クラールヴィント、導いて」
シャマルが展開した魔方陣で海鳴へ向かうことに。
起動を待つ間、懸案事項を念話で伝えておくことにする。
「<先に頼んでおきたいんだが、向こうに着いたら俺のことはペインで頼む>」
「<何故だ?>」
「<シグナム。向こうの人に気づかれないため、ね?>」
シャマルのフォローに頷く。
「<ああ。そういうことで頼む>」
「<分かった>」
「<二人とも、行くわよ!>」
了解をもらえたところで、シャマルが起動を促す。
シグナムと共に頷いて返すと、魔法陣が強く魔力を発し、
視界が海鳴の街の中に切り替わった。
どこかのビルの屋上らしいことをあたりを見渡して確認していると、海鳴の街の中を飛び交う三つの影があることに気がついた。
「(あれは・・・・・・ヴィータと、フェイトにアルフ!?)二対一か。どうするんだ、シグナム?」
「ヴィータなら後れはとるまい。だが、何かがあればすぐに介入するつもりだ」
なら、そのタイミングで俺も踏み込もう。
それにしても、なのはは一体何処に・・・・・・。
「ん?」
あれは・・・・・・。
なのはを探して街を見渡していると、見覚えのあるものが目に入った。
あの日ヴィータが気に入った、白いウサギの顔が付いた赤い帽子。
それはヴィータの騎士甲冑の一部であるはずのもので、空を飛ぶヴィータを見ると、確かに帽子が無くなっていた。
「シグナム、あれ!」
「ん? あれは、ヴィータの帽子か? やれやれ、油断でもしていたのか」
指差すと、シグナムも気がつき、拾ってきて魔力で元通りに戻してやっていた。
「これでいいか」
「充分だと思うよ。それで、持ち主はどうなっているか、な?」
再びヴィータの姿を探すと、フェイトのバインドに四肢を拘束されていた。
「あー・・・・・・さすがにあれは拙いかな」
「お前は無理に関わらなくてもいいんだぞ?」
こちらを気遣ってだろう、シグナムの提案はありがたかったが、
「大丈夫だ。まだ決めかねてるけど、いまは暫定こっちでいい」
「・・・・・・そうか。なら、行くぞ! シャマル!」
「分かったわ。二人とも、気をつけてね!」
再び、クラールヴィントが魔方陣を描き、俺達はヴィータ達の上空に移動していた。
一瞬、シグナムと目配せし、
「「はあああっ!!」」
呼気鋭く、空気を蹴って加速し、得物をそれぞれ振り下ろした。