リリカル世界を逝く影執事   作:ラッテンフェンガー

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第六十話 影の護りと脱出

side第三者

 

「なの、は?」

時を同じく。

シグナムと退治していたフェイトはなのはの異常に言葉を失った。

結界に護られているはずの彼女の胸から腕が突き出ている。

その傍には、先ほどシグナムとともに現れた雄一が背を向けていた。

 

「っ、なのは!!」

 

異常事態に、急ぎなのはのもとに向かおうとしたフェイトの進路にシグナムが割り込み立ちふさがる。

フェイトは、シグナムの隙を窺いながら、なのはに何かしたであろう、雄一の背中を睨むのだった。

 

 

 

(な、何が起きた?)

 

一方、雄一も何が起きたのか分からず、混乱していた。

なのはの胸から突き出た腕。

その腕は何かを探すように動くと、スルスルと戻っていき、

 

「あぅ!?」

 

何かを押し出すようにして再び姿を現した。

体を異物が通る感覚になのはは呻くのを見ながら、腕がなのはから押し出したものを見て腕の目的を悟った。

押し出されたのは、小さな光の玉。

それはここしばらくの間に見慣れた、リンカーコアだった。

 

「リンカーコアを表出させたってことは蒐集する気か!? けど、誰が!?」

 

素早く、戦場に目を走らせる。

シグナムはフェイトを、ザフィーラはアルフを、ヴィータはユーノをそれぞれ押さえている。

この場にいない、残った人物は、

 

「シャマルか! 止せ!」

 

正体に気がつき、すぐに制止するが、遅かった。

リンカーコアは徐々にその大きさを減らしだした。

 

 

 

「あ、間違えちゃった!」

 

一度突き出した腕を引き戻し、今度こそリンカーコアを捉えると、闇の書を広げて構える。

 

「闇の書、蒐集開始!」

<Sammlung>

 

クラールヴィントが繋げた空間を通して、リンカーコアを闇の書が蒐集していく。

吸い上げた魔力は多く、文字が次々に頁を埋めていった。

ヴィータの見立てどおり、潤沢な魔力を秘めているらしい。

次々と捲れていくページに満足しつつ、奇襲がうまくいったことに僅かに気が緩んだ。

瞬間、突き出していた腕に激痛が走った。

 

「ぎっ!? ああああああ!!」

 

痛みに耐え切れず、シャマルは悲鳴を上げた。

痛みを堪えながら腕を引き戻すと、腕は圧し折られていた。

腕を円から引き抜くと、痛みと安堵で集中が切れて、維持されていた円が解れてもとの風景に戻った。

その一瞬、

シャマルは円の向こう側に牙を剥き出す犬の姿をした影を目にしたが、痛みに見た幻覚と割り切って、すぐさま治癒魔法を腕に発動させた。

 

 

 

 

一方、雄一も二転三転する事態に順応する事に手一杯だった。

シャマルを探しにいく間もなく、蒐集されるなのはのリンカーコア。

妨害しようにも、今まで見ていた蒐集とは明らかに異なる状況に、蒐集を中断させることで、何か危険があるのではないか、という思考が働き動けずにいた。

その矢先、ふとなのはの足元、闇夜に薄っすらと浮かんだ影が形を変えていくことに、雄一は偶然気がついた。

その影は、力を溜めるようにその身を撓ませると、突き出されたシャマルの腕の影に襲い掛かった。

その影の正体に、遅れて気がついた雄一は顔を青褪めさせながら叫んだ。

 

「よ、止せ! 戻れ、シャマル!!」

 

だが、既に遅く。

影は犬の姿を取るとシャマルの腕の影に噛み付く。

ゴキィ!! と鈍い音と共にシャマルの腕が圧し折れ、衝撃で腕が跳ねて引き戻されていった。

 

「かっ・・・・・・は、は、は・・・・・・」

「大丈夫か!?」

 

胸を押さえてしゃがみこむなのはに雄一は駆け寄ろうとするが、なのはは息も整わぬままに雄一を睨んだ。

その視線に、雄一の足が止まった。

 

「だ、騙したの!?」

「ち、違う!こっちも予想外だ!」

「そ、そんなの信じられるわけが・・・・・・ぁ」

 

否定する雄一に、なのはは問い詰めようと立ち上がろうとする。

だが、膝が俺、なのはの体はそのまま前に投げ出された。

 

「なのは!?」

 

慌てて駆け寄り、抱きとめようと手を伸ばすが、

 

「っ!?」

 

咄嗟にその手が止まった。

その指先の影の先になのはを守るように構える<クフ・リーン>がいた。

手を止めた瞬間なのはの体が地面に落ちるが、雄一はこれ以上踏み込めない。

<デル・ドーレ>なら<クフ・リーン>に噛み砕かれるダメージをおして踏み込めるが、生憎今の雄一が使える能力に回復力を持ったものはない。

だが、

 

「放っておくわけにもいかない。許せよ」

 

雄一は覚悟を決め、拳を影めがけて打ち込む。

実体のない、影の精霊である<クフ・リーン>は通常の手段ではダメージを与えられない。

<クフ・リーン>もそれを分かっているため、無駄な行いと考え突き出された腕に噛み付く。

その牙が影に突き刺さる瞬間、雄一はある異能を振るった。

 

「蝕め、<フェル・ディア>!!」

 

拳に触れんとした牙が、熱湯に触れた手のように弾かれる。

精霊にダメージを与える攻撃は少ない。

だが、存在しないわけではない。

精霊自身にダメージを与える精霊がいる。

<フェル・ディア>もそんな精霊の一柱だった。

<クフ・リーン>は弾かれるように形を失うと、消えていった。

あとにはうつぶせに倒れるなのはと元の姿に戻ったなのはの影が残されていた。

 

「なのは!」

 

駆け寄り、なのはの体に触れるが、<クフ・リーン>は反応しない。

抱き起こし、声をかけるが、なのはは意識を失っているようで反応はない。

 

「・・・・・・すまない」

 

結果的に、騙まし討ちのようになってしまったことに一言誤ると、雄一はなのはを近くの壁に凭れさせ、シグナム達に念話を繋ぐ。

 

「<シグナム、ヴィータ、ザフィーラ。今夜は此処までだ。撤退するぞ>」

『<なんでだよ! こいつらの魔力も蒐集できれば一気にページが集まるじゃねえか!!>』

「<そもそも、俺は魔導師からの蒐集には納得していないぞ>」

『<んだと!?』

『<ヴィータ! 止さないか!!>』

『<けどよ、シグナム!!>』

「<それに、それどころじゃない状況だ。シャマルが負傷した>」

 

言い合う二人の間に決定的な言葉を投げる。

 

『<なっ!?>』

『<それは本当なのか!?>』

「<間違いない。そういうわけでシャマルが心配だ。すぐに回収して、脱出する必要がある。結界の解除はどれくらいあればできる?>」

『<そんな!? シャマルの回復を待てばいいんじゃねえのか!?>』

『<ヴィータ! 負傷した者を抱えての戦闘がどれだけ厄介か説かずとも分かるだろう! すまない雄一、結界の解除は少々時間がかかる。我らもそれぞれに相手取っている現状だ>』

 

シグナムがヴィータを説き伏せながら伝えた情報に、雄一は考える。

現状、自由に動けるのは雄一のみ。

結界を破壊する手段はなくはない。

問題は、

 

(どうやって脱出するか、か)

『<やれるか?>』

 

悩んでいるとシグナムに問われ、問題なし、とだけ返した。

一応の方策はあるのだから、後はアドリブで何とかするか、と覚悟を決める。

 

「<結界を破壊する。結界が壊れたら皆はそのまま撤退しろ。シャマルを忘れるなよ>」

『<ユウ、お前はどうすんだよ? 転移魔法、使えないんだろ?>』

「<そっちは一応考えてあるから。それじゃ、また後で>」

 

念話を切ってエルミナに飛行魔法を起動させる。

そのまま、結界の縁近くまで飛ぶと足場を構築させた。

 

『それで、どうするつもりなんだい?』

「こうする。飛びたて、<キー・アーン>、圧搾しろ、<ダー・グッザ>!!」

 

炎でできた爆弾を放ち、エルミナを杖から銃へと変えて素早く四発抜き撃った。

銃弾は鳥を追い抜き、一足先に結界に食い込み、結界に黒い花を咲かせた。

黒い花はその身を広げ、結界の一点を切り抜いた。

それだけでは、結界は修復するだろう。

途端、切り抜いた一円に鳥が飛びかかり、その身を破裂させて結界を大きく揺らした。

結界に開いた穴が蟻の一穴となって、爆風が結界を食い破る。

 

「<今だ!>」

 

合図と同時に三人はそれぞれの方向に散っていく。

シャマルはシグナムが拾っていったから、問題はなし。

あとは、

 

「貴方だけでも逃がしません!」

「大人しくしなっ!」

 

バルディッシュを向けるフェイトと、牙を剥いて威嚇するアルフに視線を向けてため息をつく雄一だった。

 




<クフ・リーン>は死んでいません、念の為。
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