リリカル世界を逝く影執事   作:ラッテンフェンガー

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第六十三話 医務室の様子と新たな衝撃

「ふむ、さすが若いね。もうリンカーコアの回復が始まっている」

 

なのはの診察をしていた医者は、安心させるように微笑むと機材を片付けていった。

 

「ただ、しばらくは大規模な魔法は使えないから気をつけるんだよ?」

「はい! ありがとうございます!」

「これ、若いからで済むデータじゃないと思うわよ?」

 

先生に頭を下げるなのはに、カルテに眼を通していたプレシアが感心半分呆れ半分で言った。

今回の件で、リンカーコアへの干渉が悪影響となっていないか、別件で医務室を訪れていたプレシアにも協力してもらっていたのだ。

 

「ふむ、どういうことかね?」

「僅かとはいえ残っている魔力と、回復力の高いリンカーコア。この娘の実力なら、残っている魔力だけでも並みの局員なら倒せるでしょうね」

「・・・・・・それほどかい?」

「普通の魔導師なら再起不能になるような干渉を受けたのよ? それなのにもう回復が始まっていると言われたら、もう呆れるしかないわよ」

「にゃ、にゃははは・・・・・・」

 

プレシアの随分な評価に、なのはが乾いた笑いを上げていると、

 

「なのは!? 大丈夫?」

 

医務室にフェイトが駆け込んできた。

なのはは知るよしもないが、フェイトはあの後もペインを探し続け、撤退命令を受けてようやく帰投したのだった。

戻った直後に、なのはの意識が戻ったことを聞き、急いできたのだった。

彼女の後ろから、呆れ顔をしたクロノが合流する。

 

「だから、心配する必要はないと言っているだろ」

「だって・・・・・・心配だったから」

 

クロノにため息交じりに指摘され、フェイトが唇を尖らせながらそっぽを向く。

その様子に、医務室の空気が緩むなか、医師はクロノと話があるらしく退室していった。

 

「フェイト、アリシアはどうしたのかしら?」

「リニスと一緒にいるはず。リハビリを頑張ってたよ。それで母さん、なのはの容態は?」

「正直大したものよ。この才能が魔法文化のない世界で生まれたなんて驚きね」

 

言いながら、プレシアはフェイトにカルテを渡し、所々の言葉の意味を教えながら分かりやすく説明していった。

その姿に以前はあったぎごちなさは見られなくて、なのはは満足げに笑った。

 

「そういえば、母さんはなんで此処に?」

 

一頻り説明を受け、なのはの体調が心配ないことを理解したフェイトはプレシアに尋ねた。

 

「私は別件よ。彼の様子を見に来ていたの」

 

プレシアはある方向に目を向けた。

その先にある一角にはカーテンがひかれていて中を窺う事はできないがベッドが一つ置かれている。

そこには、榊雄一が眠り続けている。

 

「・・・・・・雄一、目覚めないのかな?」

「だ、大丈夫だよ、フェイトちゃん! 雄一君のことだから、そのうちひょっこりと目を覚ますって!」

 

ポツリと、こぼれたフェイトの弱気な呟きをなのはは強く否定した。

フェイト自身、信じてないわけではないが、半年近く眠り続ける彼を見続けることは彼女にとって辛いものだった。

なのはもそれを理解しているため、無責任な励ましはしない。

そこへ、

 

「私が今日此処に来たのは、彼の様子にちょっと変化があったの」

 

プレシアが爆弾を投げ込んだ。

 

「「え!?」」

「どういうことだ?」

「説明するから、これを見なさい」

 

驚く二人を他所に、いつの間にか戻ってきていたクロノが促すと、プレシアは端末を操作しあるデータを開いた。

それは、何かを示した折れ線グラフだが、

 

「これは、彼の脳波を示しているんだけど、此処を見て」

 

プレシアが指差した一点、そこだけが他の部分と違って大きく乱れている。

 

「これは?」

「何らかの刺激に反応したってことね。おそらく、痛覚が反応しているんだけど、この時間にこの部屋には誰も来ていないはずなのよ」

「それって?」

 

問われたプレシアは肩を竦めた。

 

「原因不明、ということね。その原因が分かれば彼を起こす手がかりになると思ったんだけど」

「このときに何があったのか、か。時間はかかりそうか?」

「そう見ておいたほうがいいでしょうね」

「なら、先にこっちの用を済ませよう。二人とも、こっちに」

「「??」」

「いってらっしゃい」

 

クロノに誘われ、なのはとフェイトが医務室を出て行くのを見送ったプレシアは表情を真剣なものに変えると、データの解析に戻っていった。

 

 

 

所移してデバイスルーム。

なのは達は一頻り再会を喜ぶと、安置されているレイジングハートとバルディッシュを見る。

 

「バルディッシュ、ごめんね。私の力不足で」

 

フェイトが罅だらけの相棒に声をかけるが、いつもの応答はない。

 

「破損状況は?」

 

クロノはコンソールを操作しているユーノに尋ねると、ユーノは難しい顔を浮かべた。

 

「・・・・・・正直あまり良くない。今は自動修復をかけているけど、基礎構造の修復が済んだら、一度再起動して部品交換とかしないと」

「・・・・・・そうか」

 

クロノもデバイス達が重症であることに表情を歪める。

 

「そういえばさ、あの連中の魔法って何か変じゃなかった?」

「あれはたぶん、ベルカ式だ」

「ベルカ式?」

 

聞き慣れない言葉に、耳を揺らしながらアルフが問う。

問われたクロノではなく。ユーノが振り返ってベルカ式について説明した。

ベルカ式とミッド式の違い。

ミッドの大魔導師のように、上位の者が呼ばれる騎士という称号。

そして、カートリッジシステムについて。

 

「・・・・・・なるほどね」

 

アルフは表情を引き締めると、デバイスを見つめる主人とその友人の背中を見つめた。

 

「そういえば、あの時何があったんだ?」

「ふぇ?どういうこと?」

 

意図が分からず首を傾げるなのはに、クロノは一呼吸挟んで、説明した。

 

「君が襲われたのは闇の書の蒐集だろう」

「闇の書?」

「第一級捜索指定遺失物ロストロギア通称闇の書。主と定めた者の下にランダムに現れ、守護騎士と呼ばれる者達に守られ、魔力を蓄積することで、力を増す魔導書。その方法がリンカーコアを蒐集することなんだ」

「それって!」

 

状況の符合に驚くなのは達にクロノは頷きで返す。

 

「ただ、だからこそ分からないことがあるこの蒐集は一人につき一度しかできない。だから、本来は限界まで蒐集するはずなんだが、なのはは余力が残っているだろ。なんでだ?」

「んー・・・・・・たぶんだけど、<クフ・リーン>さんのおかげなんだと思うの」

 

<クフ・リーン>の名に、皆の視線がなのはの影に向く。

だが、いつもは呼ばれずとも出てくる彼が現れない。

 

「実は・・・・・・あれから、呼びかけても答えてくれないの」

「それって・・・・・・」

 

万一のことがあったのでは。

緊張が走ったが、

 

『おそらく、違うじゃろう』

 

精霊について事情を知るカナメはそれを否定した。

だが、その否定は安心させるものではなかった。

 

『おそらく、<クフ・リーン>は受けた損傷を回復させておるのだろう』

「損傷?」

『遠目だったが、お主を助けにいくとき、あやつがお主の影に触れておった。おそらくその時に』

 

あやつ、とカナメが呼んだ人物の姿が皆の頭を過ぎった。

軍服を思わせる衣服に黒いコート、目元までを覆う覆面に傷だらけの顔。

ペインと名乗った彼は何者なのか。

 

「あの人もその、闇の書の守護騎士、なのかな?」

「それは違うと思う」

 

なのはの疑問をフェイトが否定した。

 

「どうしてそう思うんだ?」

「カナメがあの人のことを知っていたんだ」

「そうなのか?」

 

皆の視線がカナメに向けられるなか、カナメはなかなか喋ろうとはしない。

彼女をクロノが促す。

 

「現状、闇の書の主と思われるのはあいつだ。何か知っているのなら教えて欲しい」

『・・・・・・よかろう。あやつの名はペイン。かつて、二代前の「精杯の姫」を守ろうとして敗れ、先代を守るために戦った、最強格の契約者・・・・・・なのじゃが』

 

説明が進むに連れて、カナメの言葉が勢いを失っていく。

どうしたのかと見つめていると、彼女は衝撃的な言葉を告げた。

 

『あやつはもうおらぬはずなのじゃ。あやつはもう、死んでおるのじゃから』

「「「「「なっ!?」」」」」

 

 




・エルミナ=ヴァレンシュタイン(女)
 ヴァレンシュタイン家当主。前当主リカルドの娘。かつて、オルダー教という宗教の総本山ラチナス神聖国の住人だったが、<アルス・マグナ>の影響で起きた事件により、ロックウォールへと移った。当初は家令のドミニクと道中で拾ったアイシャの三人で暮らしていたが、次第にマルクなどが使用人として増えるに連れて、とある事情で失っていた感情を取り戻していく。本の虫で、日がな一日本を読んでいるからか、体力に乏しい。
 <アルス・マグナ>の力を使えるが、その力には波があり、攻撃を自動防御する一方で発動しなくなることもあった。とある目的のため、契約者を集めていた。『空白の契約書』の開発者でもある。


・アイシャ=クラン・ウィード(女)
 クーランの氏族の一つ、ウィードの出身。生まれて間もなく、氏族が開拓民に殺され孤児院に入れられていたが、クーランであることを理由に苛められていた。孤児院では周りに無関心でいたが、グレリオという少年には、彼が関わり続けたことで心を開いていた。だが、孤児院が謎の出火で焼失する際、<バーラ・ルー>に見入られ『視界に入るものを灰に変える』能力を得た。その際、街一つを灰に変える力を発揮したことで<鳳>と呼ばれ、四強の一人とされている。能力は強力だが、対価に『目に映るもの全てが灰色に見える』ことで、一時期目を包帯で覆っていた。そうやって生活していたとき、エルミナに拾われ、彼女のメイドとして暮らしだす。
クーラン特有の身体能力を使った体術を得意とし、能力が無くとも強力な人物だが、ドジでよくこけるなど、騒動を大きくする名人でもある。特に料理は壊滅的であり作るものは軒並み暗黒物質と化す。それを食べる羽目になるマルクはその所為で数日寝込むこともある。
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