リリカル世界を逝く影執事   作:ラッテンフェンガー

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第六十七話 気づかぬ者と始まらない騒動

「大丈夫なん、雄君?」

「・・・・・・なんとか」

 

ボロくなりながらも生還した俺は、ソファで横になって天井を見上げながら、はやてに応える。

ザフィーラのお話には驚いた。

あれ、そう言えば何で『お話』にあんな恐怖を覚えたんだろう?

 

「というか、一番の原因は、ザフィーラを毒味役にし続けるシャマルじゃないのか? 俺って巻き込まれただけじゃね?」

「ああ、ひどーい!! ザフィーラ、うちのリーダーもアタッカーも客分もみんなしてひどいと思わない!?」

「我からすれば、お前が言うな、という心境なのだが」

「ザフィーラまで・・・・・・ひどい」

「・・・・・・」

 

同じくザフィーラのお話を受けたはずなのに、ザフィーラにすげなく扱われて崩れ落ちるシャマルを眺めつつ呆れる。

 

(何で、そんなに元気なんだよ・・・・・・)

「ふむ・・・・・・主はやての料理とは比べるべくもないが、シャマルのこれも悪くはないな」

「うん。とりあえず、腹には入るな」

「へいへい、お二人さん。何で助けてくれなかったんだよ」

 

シャマルから、こっちの気も知らずに和え物に箸を延ばす二人に、湿った目を向けると二人は苦笑する。

 

「下手につつくと、こちらにも飛び火しそうだったからな」

「藪蛇はごめんだったんだよ」

「そりゃそうかもしれないけど」

「「というか、お前が悪のりしたのが悪い」」

「・・・・・・ごもっともで」

 

あえなく迎撃され、ソファに沈んだ。

 

「さて、お風呂の準備、見てきますね」

 

崩れ落ちていたシャマルが気を取り直して、リビングを出ていくのを見送り、俺は体を起こそうと、

 

「・・・・・・できねえ」

 

起こせず、再びソファに倒れ込む。

その物音に、はやてが気がつき振り返った。

 

「あー・・・・・・動けへん? もしかして?」

「そのまさか。正直腕も動かせねえ・・・・・・」

「しゃーないな・・・・・・ん?」

 

助け起こそうとしたのだろう、腕を引こうとしたはやては、何かに気がついたように伸ばしていた腕を止めた。

 

「はやて?」

「・・・・・・ん? なんや?」

「いや・・・・・・その、やたら輝く笑顔は何なんだろうな?」

「いややな~。変なことは考えてへんよ? 今なら雄君も抵抗できへんやろーなー、なんて思ってへんよ?」

 

嫌な予感を覚えつつ問うと、楽しそうに笑いながら車椅子を操作して何かを手に持つはやて、というかその台詞は良からぬことを考えています、っていっているようなものだと思うぞ。

はやてが手に取ったものは、小鉢と箸。

 

「えーと、それをどうするつもりで?」

「自分かて、分かっとるやろ? 動かれへんのやったら、食べさせたろ、思てん」

「やっぱりか!?」

 

動かぬ体に鞭打って動こうとするがビクともしない。

それどころか、無駄な抵抗を続ける内にはやては見せつけるようにゆっくりと、和え物を箸で摘むと、こちらの口元へ近づけてきた。

 

「・・・・・・ぅ」

「はい、あーんや♪」

 

楽しそうに箸を差し出すはやてに気恥ずかしさを覚えて顔を背けようと、

ゾクッ!!

 

「っ!?」

 

背筋を駆け上がった寒気に体を固めた。

目だけをそちらへ向けると、シグナムとヴィータが剣呑な空気を発しながらこちらの様子を見ていた。

こちらが気配を悟ったことに気がついたらしいシグナムから念話が来た。

 

「<主を悲しませるな>」

「<テメエ・・・・・・そんなに嬉しいのか>」

 

シグナムのは分かりやすいけど、ヴィータさん、なぜそんなに声が据わっているんですか?

とにかく、覚悟を決めて俺は口を開いた。

俺が観念したのを見て取ったはやてが和え物を口に放り込んだ。

 

「どないや?」

「・・・・・・案外いけるな」

「そんなこと言うて、素直やないなー。ウチももう一口・・・・・・あむ」

 

苦笑すると、はやてはそのまま和え物を自分の口に運んだ。

 

「ん~、美味しいやん!」

「それはよかったな・・・・・・」

「・・・・・・他に何かないんかい」

「何か言ったか?」

「なんでもあらへん~!!」

 

僅かに頬を膨らませるはやての様子に首を傾げる。

はやての顔は僅かに赤らんでいるが、どうしたのだろうか。

 

「うぅ・・・・・・はやて、今度は私がユウに食わせてやる!」

「って、ヴィータ!?」

 

突然ヴィータが箸を手に突撃してきた。

顔を真っ赤にしながら勢いよく突っ込んでくるヴィータに嫌な予感が跳ね上がる。

 

「ちょ、ちょっと待てヴィータ! その勢いは何か嫌な予感が」

「い、行く」

 

静止も聞かず、ヴィータは勢いをつけ箸を突き出そうとし、

 

『キャァアアアア!!』

「ぞ、ってうわぁ!!」

 

駆け寄ろうとするヴィータは突然の悲鳴に足をもつれさせ倒れて、って!?

 

「うわあっ!?」

「っ!!?」

 

倒れるヴィータが握ったままでいる箸を間一髪で歯で噛み留める。

 

「す、すまねえ、雄一! 大丈夫か!?」

「っ、っっ、<分かったから早く退いてくれ!!>」

「ヴィ、ヴィータ!? はよ、どきぃ!」

「わ、分かった!」

 

はやてに言われ、ヴィータが箸を手放し飛びのくとすぐに、箸を吐き捨て大きく息を吸い込んだ。

 

「はぁ・・・・・・はぁ・・・・・・し、死ぬかと思った」

「だ、大丈夫やったか?」

「すまねえ、雄一・・・・・・」

「ああ、大丈夫だ」

 

皮肉なことに、体がさっきの衝撃で動くようになったことを確認し、安心させるように二人の頭を撫でてやる。

安心したように表情を蕩けさせるはやてに対して、ヴィータの表情は暗い。

 

「それより一体何が」

あったんだ、と続けようとした矢先、

 

「ごめんなさーい!!」

 

ドアを勢いよく開けて何かが飛び込んできた。

何事か、と身構えそうになったが飛び込んできたのがシャマルだと気がつくと、その尋常でない様子に何があったか問うた。

 

「それで、シャマル、何があった?」

「そ、それが、その」

 

問うが、シャマルはまだ落ち着かぬのか、説明しようにも要領を得ない。

仕方なく、まずはシャマルを落ち着かせようと、

 

「・・・・・・グラーフアイゼン!!」

「はぁ!?」

 

突然膨れ上がった魔力に振り返ると、ヴィータが騎士甲冑を展開していた。

その据わった眼は状況についていけずにいるシャマルに向いている。

 

「えっと・・・・・・ヴィータさん? 何してるんでしょうか?」

「ユウ・・・・・・ちょっと先に話を済まさせてくれ。今から、シャマルに言わなきゃならねえことがあるからよ!!」

<Explosion,Raketen Form>

 

据わった目つきで、カートリッジを使用するヴィータ。

そのとき、ようやくシャマルが再起動を果たし、目の前の状況を理解しに掛かる。

 

「ヴィ、ヴィータちゃん!? 一体何を!?」

「ウルセエ!! 私だって、したかったのに! それどころか、不味い事になりかけたじゃねえか!!」

「え!? 一体何の話」

「問答無用だ!! ラケーテン、ハンマー!!」

「ま、待って!! い、いやぁああああ・・・・・・!」

 

 

「雄君? 何が起こってるん?」

 

はやての目と耳を手で塞ぎ、惨劇を見せないようにしながら、俺はその惨状から目を離せないままはやてに説く。

 

「はやて、お前は見ちゃいけない。大丈夫だ。すぐに何事もなかったように戻るから。だから、はやても気にする必要はない」

「そんな風に言われたらめっちゃ気になるやん!? 何、何が起こってるんやー!!」

 

拘束を解こうと暴れるはやての抵抗を受け流しながら、ため息を一つ。

 

(ヴィータはおそらく、はやてにあーんをしようとして、できなかったから怒っているんだろうな。シャマルをはやてに見せられない状況にしてないで、はやてのフォローを頼みたいんだけど・・・・・・今は聞く耳持たないか)

 

考え込む間に、事態は収束に向かいつつあった。

 

「落ち着かんか、ヴィータ!」

 

シグナムがヴィータの鎮圧に乗り出したことでヴィータの勢いは削がれていった。

やがて、三人が息を荒くしながら座り込むのを見て、ふと何故こんなことになったのか、最初を思い出そうとする。

だが、思い出せず首を傾げる。

すると、

 

「それで。シャマルは何故、飛び込んできたのだ?」

「あ」

 

唯一冷静だったザフィーラの言葉に思い出した。

発端は確かに、シャマルが何かに悲鳴を上げ、リビングに飛び込んできたことだった。

ようやく落ち着いてきただろう、シャマルに再度何があったのか問う。

さて、何があったのやら?




・ヨハエル=パトリック(男)
 オルダー教特務機関『宣教師』のメンバー。<クーア・ルンゲ>の契約者で対価に『喜怒哀楽の哀以外』を捧げたため、常に泣きべそをかいている。カナメ、アーロンを雇って屋敷を襲撃したが一度は撤退。能力を使って水源を破壊し、ロックウォール全体を脅かす土砂崩れを起こそうと画策したが、マルクとエルミナに抑えられた。その際、エルミナの逆鱗に触れてしまい右腕を消し飛ばされた。それ以来、エルミナへの恐怖を愛情と勘違いし付き纏うようになった。うっとうしい人間だが、戦闘能力は高く、能力も合わせて厄介な相手になりうる。
 能力は『触れたものを振るわせること』。使いようによっては直接相手の体内に振動を送り込むことで破壊することも可能。また、先輩から教わった鋼糸、<魔琴>を特技としている。
 <宣教師>解散後、賞金首に。

・グレリオ=スパロウ(男)
 オルダー教特務機関<宣教師>のメンバー。ヨハエルの先輩だが、見た目は少年。対価によるもので「歳を取らないこと」。<宣教師>の間でも手口が陰湿であることを理由に嫌われている。「炎でできた爆弾を操る」能力、<キー・アーン>が彼の契約精霊だが、その炎を使って相手を催眠状態にするのが彼の十八番。
 かつて、アイシャが持つ精霊の器を狙って孤児院にいる彼女の友となった。しかし、彼女を守ろうとする意識が生まれ、任務を完遂できなかった。奪おうとした器は一度の開放で全ての力を使い果たし、孤児院のあった街を灰に変えた。残された彼は生存者ゼロと報告し、アイシャを街跡から遠ざけ
た。それで終わるはずだったが、エルミナの情報が<宣教師>に届いた際、アイシャが傍にいることに気がついた彼はアイシャを守ろうと行動するようになった。
 アイシャに手痛い敗北を刻まれた後、借金を返すため、ヨハエルともどもアルバの店でこき使われるようになる。
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