リリカル世界を逝く影執事   作:ラッテンフェンガー

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第七十話 新たな戦法と問題

「舞え、<キー・アーン>!!」

 

バインドで拘束したマンティコアを爆風で吹き飛ばす。

バインドの強度等を確認した後振り返って、同行していたヴィータ達に声をかける。

 

「ヴィータ、あとよろしく」

「あともなにも、もう気絶してるぞこいつ・・・・・・まあいいや、闇の書」

<Anfang>

 

呆れながら、ついてきていたヴィータが闇の書を起動する。

そのまま、闇の書を適当に開き、開いたページをマンティコアに向ける。

 

「闇の書、蒐集開始」

<Sammlung>

 

マンティコアの体から浮かび上がったリンカーコアを闇の書が蒐集する。

その間にさっきの戦闘についてエルミナと話し合う。

 

「どうだった?」

『おまけして40点といったところだろう』

「低いな・・・・・・」

 

今回やってきたのは、地表のほとんどが海に覆われた世界。

そこに僅かにあった陸地で生息していたマンティコア数匹を狩ったところだ。

辛口な評価に眉をひそめていると、エルミナは呆れたように言った。

 

『そうは言うが、マスターの目標は「非殺生設定の掛かる【この世界の魔法】を用いての戦闘」ではなかったのかね? さっきの戦闘はバインドこそ使えども、止めは<キー・アーン>による爆発だ。それでは本末転倒だろう』

「それはそうだが、な」

 

苦い顔でエルミナの評価を受け止めるが、その顔にも訳がある。

 

この世界の魔法は大きく分けて五つ。

攻撃・防御・捕獲・結界・補助だ。

さらに細かく分けて十八ほどだが、そのうち攻撃のものは実質戦闘に耐えるだけの習得はできていなかった。

その原因は、

 

「やっぱり、魔力が少ないのがネックだな」

『魔力が少ないわけではないよ。事実、魔力を測定すればマスターの魔力量はSSSにも届くだろう』

「分かってていってるだろ。その魔力の正体は契約している精霊で、俺自身の魔力はAに届くかどうか、ってところだってことは」

 

白い目でエルミナを睨むと、笑いながら『すまない』と返された。

そう。俺の魔力量は決して多くはない。

さらに問題なのが、一度に出力できる魔力が独力では、さらに落ちることだ。

エルミナの補助があるから、戦闘に耐えるだけの出力が確保できているのが現状だ。

そのため、魔力付与攻撃はともかく、広域攻撃には向かず、ディバインバスターなどの収束砲撃などは使用できない。

一方、補助に関しては回復などのインクリース系を除いて、元々カナメに師事していた移動魔法や念話だけでなく障壁破壊などのデクライン系も十分使えるようになった。

ただし、変身系は<フィン・ターン>があるため、然程重要視せず手付かずとなっている。

 

「けど、ホントふざけた話だよな」

 

蒐集を終えて戻ってきたヴィータが呆れた顔を隠さずに言う。

 

「いきなり随分だな、ヴィータ。それで、何頁分だった?」

「せいぜい一頁半ってところだ。大したやつじゃなかったしな。それより、魔法でケリをつけるから見といてくれ、って話じゃなかったのかよ?」

「攻撃に使えるものがないのはヴィータも知ってるだろうが」

「まあな。けど、それでも使えるようにしなきゃならないんじゃなかったのか?」

「・・・・・・ああ。さすがに、殺すわけにはいかないからな。ヴィータたちもそうだろ?」

 

逆に問うと、ヴィータは頷き、グラーフアイゼンを構える。

 

「当然だ。前にも言っただろ? はやての未来を血に染めたくないから、殺しはしない。だから、非殺生設定をだって掛けてる」

「だろ? ただ、障壁を抜けるだけの威力と手数が用意できないことにはな」

「けどよ、ユウのその能力、非殺生設定がついてないのは前から聞いてたけど、それでも上手く戦えてただろ。やりづらいなら、今までどうり、そっちでやればいいんじゃねえのか?」

 

ヴィータの率直な疑問に、思わず目を逸らす。

 

「そうだけどな。あっちで、うっかり相手を殺しかねないのは変わらないだろ? だったら、より可能性の低い方法をとるべきだろ?」

「そうだけどよ・・・・・・その傷つけたくない相手って、あの白い魔導師とかなんだろ?」

「ん? ああ。契約は切れているけど、一度は契約で守る、と誓った相手だからな。だったら、そいつらが傷つくのは見たいものじゃないし、まして自分の手で傷つけるなんて考えたくもねえ」

 

以前の戦闘でリンカーコアを蒐集されて倒れるなのはを思い出す。

あの時、自分に向けられた目がどうにも忘れられない。

その思考に沈んでいたのが不味かったのか、俺はヴィータの表情が不機嫌に歪んでいくのに気がつかなかった。

 

「・・・・・・そうかよ」

「? ヴィータ、何か言ったか?」

「っ、お前ははやてを助けることを選んだんだろ!? だったら、余計なこと考えてんじゃねえよ!」

「余計なことって・・・・・・相手を殺さないように、ってのは十分重要だと思うけど」

「お前は相手を気遣えるほど偉いのかよ! そんなふうに考えてんなら、ふざけんな! 生兵法で向かうほうが間違いだろうが!!」

「だったら、ヴィータは相手を殺しても構わねえってのか!?」

「そんなこと言ってんじゃねえよ!!」

「じゃあ何だよ!」

「そこまでだ、二人とも」

 

次第にヒートアップする言い合いに、ザフィーラが水を差した。

 

「っ・・・・・・すまない。熱くなった」

 

水を差されたことで、僅かに冷えた頭でザフィーラに頭を下げた。

だが、尚も熱を下げなかったらしいヴィータは顔を背ける。

ヴィータを咎めようと振り返り、

 

ゴゴゴゴゴッ!!

 

「「「!?」」」

 

突然足元を襲った振動に、すぐに飛行魔法を展開して空中に飛び上がる。

 

「なんだ!?」

 

見下ろした先、地面の一部が隆起し持ち上がっていた。

持ち上がった地面の下から四肢が伸び、頭部が伸びてこちらを睨みあげる。

それは巨大な、

 

「亀、か?」

「随分と凶悪そうな亀だな」

 

ザフィーラに淡々と応じつつ、眼下の亀? を観察する。

全長は二十メートルほどか。

四肢は太く短いから旋回には不向きだろうが周囲は海。

その不利はおそらくないだろう。

そして、亀の特徴である、頑強そうな甲羅。

大きさはもちろん隆起した岩塊が重厚さを感じさせる。

おそらく見た目どおりの強度を持っているだろう。

ザフィーラ達を振り返り尋ねる。

 

「さて、どうする? 誰か、あれに有効打を与えられるか?」

「・・・・・・我では難しいだろう。あれに徒手空拳では碌なダメージは通るまい」

 

ザフィーラが首を横に振りながら下した評価に、納得する。

ザフィーラの手甲であの甲羅を打ち抜けるだろうか。

 

「だったら、ヴィータは」

「お前らは下がってやがれ! あんなの、私一人で十分だ!!」

 

問おうとした矢先、ヴィータがグラーフアイゼンを振り上げ、飛びかかっていった。

 

「ヴィータ!?」

「アイゼン、カートリッジロード!」

<Explosion,Raketen Form!>

 

飛び出したヴィータに手を伸ばすが届くはずもなく。

その先で、ヴィータがグラーフアイゼンからカートリッジを排莢させ、ピックとロケット機構を備えた形状に変化させた。

 

「ラケーテン、ハンマー!!」

 

ロケット噴射で回転させたハンマーを甲羅の一点に叩きつける。

ズン! と鈍い音を立てて、衝撃に亀の四肢が地面にめり込み、

甲羅は砕けることなく、ヴィータの一撃を受け止めた。

亀はヴィータめがけて首を伸ばし、その体に喰らいつこうとする。

 

「ちぃっ!?」

 

ヴィータは迫る頭部をかわし、上空に下がる。

だが、状況はさらに悪化する。

ヴィータめがけて、甲羅から這い出た影が迫った。

 

「なっ!?」

「ヴィータ!?」

 

影の持つ爪がヴィータを捉える寸前、辛うじて間に合ったザフィーラが手甲で受け止めた。

受け止められたことで、影の正体が明らかになった。

それは、マンティコア。

先ほどまで戦っていたのと同様の個体だった。

どうやら、

 

「あの亀と共生関係にあった、ってことか?」

 

上空から先ほどの一幕を見ていると、いまも亀の甲羅の隙間から、マンティコアが這い出てくるのが見えた。

あと、何匹いるのか分からないが、それなりの数がいると見ていいだろう。

だが、

 

「はっ! 上等じゃねえか! 全部狩って、闇の書の糧にしてやるよ!」

「ああ、もう! やってやるよ!」

 

戦意高く向かっていくヴィータに撤退を提案する暇などあるわけなく、仕方なくエルミナを構え戦場に身を躍らせた。

 




・リカルド=ヴァレンシュタイン(男)
 ヴァレンシュタイン家前当主。オルダー教でも上位の地位の人物であり、契約者でもあった彼はその能力から【観測者】と呼ばれていた。その能力は『未来の確定』であり、見た未来は不可避のものであり、その能力の厄介さを自覚する人物。対価ゆえか、盲目であり能力で見た映像の上で周囲を知覚する。その能力ゆえに、ドミニクの暗殺も回避することができた。
 ヴィオラに惚れ込み、彼女を娶ろうとする。しかし、彼女がドミニクと心を通わせていくのも見ていたため、彼女に別れを告げられると思い、諦めようとしたが彼女の優しさに救われ、心から彼女を愛するようになった。
 ヴィオラを愛するあまり、眠り姫となったヴィオラを看続けることに耐えられなくなり心が壊れた。そして、彼女に似ているエミリオを残すため、人形として扱ったエルミナを<アルス・マグナ>に捧げようとした。彼が見た未来は「髪の長い娘が、眠り姫になる」というものだったため、エルミナの髪を伸ばし、エミリオには伸ばさせなかったが、その対応が不満だったエミリオの悪戯で歯車が狂い、彼女が眠り姫となった。彼女が眠り姫になった際、<アルス・マグナ>の暴走で命を落としたと見られている。
 かつて仕えていたペイン曰く、「元々は鬱陶しいくらいに陰鬱な厭世家だったが、ヴィオラに会ってからは色呆けになった」とのこと。

・エミリオ=ヴァレンシュタイン(女)
 エルミナの妹。先代の眠り姫。エルミナと違いおてんばな性格であり、よく彼女が寝ている部屋に木を伝って侵入していた。無邪気な願いに手を上げた父への反抗として提案した悪戯が大事となり、姉から拒絶されたことで彼女は<アルス・マグナ>に魅入られた。
 対価として「寿命以外の全て」を捧げているため、自身では能力を使用できないが、エルミナの体で目覚めた際は、屋敷の使用人総出で振り回された。契約書に記された精霊の能力を複数起動することができる。
 容赦のない性格をしており、気に入らない相手には徹底的な制裁を加えることもやぶさかではない。
 かつて、グラハムと文通する事になっていたが、自身の悪筆を恥じて、エルミナに代筆を頼んでいた。事件の後には、持ち前の行動力を使い、世界中を旅して回っていた。その際、使用人としてアイシャとヨシュアを引き抜いていった。
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