「さて、邪魔な二人は向こうに押し付けれたし、次に移るか。<シグナム、聞こえる?>」
『雄一か? 手が離せない状況なのは知っているだろう>』
念話を繋ぐと、フェイトとの勝負に水を差されたからか、僅かに機嫌を悪くしたシグナムの念話が返ってきた。
「<邪魔したのはすまん。それより、現状打開のために作戦がある>」
『<・・・・・・聞くだけ聞こう。手短に頼む>』
促すシグナムに、シグナムの元へ向かいながら先ほどの作戦を伝える。
シグナムはフェイトの相手を代わる事には、やはり難色を示したが状況は理解しているのか、渋々であったが了承した。
雄一は、丁度見つけた二人めがけて、飛ぶ速さを上げる。
鍔迫りになったフェイトを弾くと、念話を繋ぎなおすシグナム。
フェイトはすぐに体勢を整えると、バルディッシュを構え、シグナムめがけて振るった。
「<作戦は了解した。だが、どうするつもりだ? 今、お前は何処に」
「もう来てるよ」
雄一は肉声で答えながら、シグナムの肩を後ろに引っ張った。
バルディッシュをレヴァンティンで受け止めようとしたところに、突然後ろ向きの力がかかり下がったシグナムに代わって、前に出た雄一にフェイトが振るったバルディッシュが迫った。
「「なっ!?」」
二人の驚きが重なると同時に、バルディッシュの刃の軌道に手を差し込む。
フェイトは、慌てて止めようとするが間に合うはずもない。
バルディッシュは雄一の手に吸い込まれ
「<フェル・ディア>!!」
ずに、雄一の手に触れた途端、雷の刃が霧散した。
「なっ!?」
再度の驚きの声を上げるフェイトめがけて、蹴りを放つ雄一。
咄嗟に、バルディッシュで蹴りを受け止めるが、
「っ、きゃあああ!?」
その強力な蹴りを受け止められず、吹き飛ばされる。
「これで選手交代。他に問題はないだろ?」
蹴り足を戻して、雄一はシグナムを振り返った。
「あ、ああ・・・・・・だが、テスタロッサは大丈夫なのか?」
「大丈夫だろ。咄嗟にバルディッシュで受け止めてるのが見えたし、吹き飛んだ先に危険なものはないはずだ。すぐに戻ってくるだろ。いや、フェイトのスピードを考えると」
吹き飛んだフェイトが心配なのかチラチラとそちらを見るシグナムに応えてながら、雄一は考えついた予想に従ってエルミナを背後に振るった。
「っ!」
「っと」
振るったエルミナが、死角から振るわれたバルディッシュを受け止めた。
奇襲を受け止められたフェイトは、バルディッシュに力を込めると反動で距離を取った。
雄一も、それに逆らわず退がり、両者が向かい合う。
「すまんな、テスタロッサ。今日はどうやら此処までのようだ・・・・・・勝負は預ける」
「シグナム・・・・・・」
淡々としたシグナムの言葉をフェイトは複雑そうな顔で受け止めた。
「シグナムにはちょっとやってもらいたいことがあるんだ。だから、ここからは代わって俺が相手をする。文句はあるか?」
「・・・・・・いいえ。貴方にも聞きたいことがありますから」
シグナムから、雄一に視線を移し頷くフェイト。
了承を受け、雄一は適当なビルを指差した。
「分かった。なら、場所を移そう」
雄一の提案を了承し、二人は別のビルへ飛び立っていった。
残されたシグナムはそれを見送り、一人ため息をついた。
「文句を言ってもいられないが・・・・・・已むを得ん。やるぞ、レヴァンティン」
<Ja! Bogen Form!>
シグナムの指示を受け、レヴァンティンが数発カートリッジを吐き出した。
魔力を吹き上げる剣の柄に鞘を押し当てる。
すると、剣と鞘が変形し弓に変わった。
弦を引くと、吹き上げる魔力が矢を形作る。
その矢を弓に番えて結界へと向ける。
そこまで進めると、シグナムはヴィータ達に念話を繋いだ。
「<今から、結界を破壊する。結界が破れたら、すぐに脱出しろ>」
『<あいよ>』
『<心得ている>』
ヴィータ、ザフィーラから返ってきた念話にさらに弦を引き絞る。
シャマルは、雄一の作戦では既に脱出しているはず。
「いくぞ、レヴァンティン。翔けよ、隼!」
<Sturm Falken!>
シグナムの指から放たれた矢が、一条の光となって結界へと突き刺さり、直後結界が砕け散った。
「<あいよ>」
シグナムの指示に応じると、ヴィータは構えを解いた。
ヴィータの突然の行動に戸惑うなのはに構わず、ヴィータはその身を空に浮かべるとなのはを振り返った。
「ヴォルケンリッター鉄槌の騎士、ヴィータ。あんたの名は?」
「なのは・・・・・・高町なのは」
突然の名乗りに戸惑いを深めつつ、律儀に応えるなのは。
返されたその名前を言おうとして、ヴィータは顔をしかめた。
「高町なぬ、なね・・・・・・ええい、言い難い!!」
「逆ギレ!?」
理不尽な怒りに驚くなのはに構わず、
「ともあれ勝負は預けた! 次は殺すからな!! ゼッテーあいつを見返してやるんだかんな!!」
「だから何の話!?」
一方的な宣言を投げると、ヴィータは一気に身を翻した。
瞬間、一条の光が結界を砕くのを目にしたヴィータは、速度を上げ、一気に結界を抜ける。
途中、アルフを振り切ったザフィーラ、ファルケンを撃ったシグナムと合流し、海鳴からランダムに飛び立った。
場所を移した雄一はフェイトを振り返って問うた。
「それで聞きたい事って?」
「・・・・・・聞くのは私じゃありません」
『それは私から聞こうかの?』
問いに答えたのはフェイトではなく彼女の手にある、懐中時計。
雄一には見慣れたものであったそれは、彼の相棒であったカナメだ。
だが、雄一は素知らぬ顔で促す。
「デバイスがか? まあいい、何を聞きたい?」
『単刀直入に聞こう。お主、なぜ複数の能力が使える?』
カナメの問いに雄一は答えを返さない。
黙っている雄一に、さらにカナメは言い募る。
『貴様の精霊が<ダー・グッザ>であることを私は知っておる。だが、先日貴様は<ニーア・ブー>を使い、さっき貴様がバルディッシュの刃を破壊した精霊にも覚えがある。もう一度聞くが、何故お主がそれを使える?』
「・・・・・・それはお前にも分かっているだろう?」
自分以上に事情を知るカナメに下手なことを言うと気がつかれる、と考えた雄一は慎重に言葉を選び、明確な言葉を返さない。
『・・・・・・確かに思い当たる節がないわけではないの。「空白の契約書」。主殿の背にあるべき残りをお主が所持しておるな?』
「・・・・・・だったらどうする?」
『決まっておろう? 貴様を引きずってでも主殿のもとへ連れて行くまでよ!』
「だろうな。なら、捕まりたくない俺は精々抵抗すると」
「ブレイズキャノン!!」
しようか、と続けようとした雄一に砲撃が撃ち込まれた。
広がった黒煙が雄一を覆い隠す。
「ペインさん!? 一体何が!?」
思わぬ事態にフェイトが振り返ると、肩を怒らせながら杖を向けているクロノの姿が。
クロノのおかしな様子に、フェイトは恐る恐る尋ねた。
「ク、クロノ? 一体何があったの?」
「・・・・・・いや、なんでもない。ただこいつのデマに乗せられただけだ」
「そ、そう・・・・・・」
暗い目で黒煙を睨むクロノの様子に、それ以上聞くこともできず、フェイトは黒煙に視線を戻す。
そこには影が揺らぐ様子は見られない。
「仕留めたかな?」
『分からぬ。この煙では確認も取れぬし・・・・・・ええい、お主、執務官だというのなら、もっと冷静にせぬか! 空気を読まずに横槍を入れおって!』
「そうだそうだ!」
「なんだと!? あそこは隙を突いて攻撃を入れて確保するところだろう!」
「それは違う」
『それなら別にやりようがあっただろう! それこそバインドでもよいではないか!?』
「おお、いい案だ」
「さっきのを見ていなかったのか!? やつは触れたものを破壊できる! それはバインドも例外じゃない!だったら、攻撃を入れて弱らせるしかないじゃないか!!」
「おお怖い怖い」
『砲撃である必要もなかろうが!! あれじゃろ、先ほどの一撃はお主の私怨が混ざっておるじゃろう!』
「何それ酷い」
「ああそうだよ! 悪いか!?」
「『開き直るな!』」
「あ、あの二人とも。ちょっと落ち着いて、というか何かおかしくない?」
ヒートアップしていた二人はフェイトの制止に僅かに落ち着きを取り戻すと、ふとおかしなことに気がついた。
「って、誰か混ざってる!?」
『ええい、決まっておる! そんなの、あやつしかおるまい!!』
「あ、やっと気がついた」
驚く二人と一機の背後、そこにいつの間にか立っていた雄一はのんびりと転移魔法を展開しながらニヤニヤと笑った。
先ほどの遣り取りを思い出し、頭に血が上ったクロノは普段の冷静さは何処へやら、杖を構え再び砲撃を撃ち込もうとする。
だが、一歩早く雄一は、エルミナを大仰な動きで掲げた。
「残念。では、皆様。こちらを御覧あれ」
クロノ達は、雄一が掲げるエルミナに目を向けてしまい、
(しまった!?)
慌てて腕で目を覆った。
『い、いかん! あやつがしようとしておるのは』
「もう遅い! 誘え、<ニーア・ブー>!!」
――ニャァアアア――
猫の鳴き声のような音が響き、
「・・・・・・?」
それ以上何も起こらない。
意を決して辺りに目を向けるが、既に雄一の姿は跡形もなくなっていた。
「逃げられたか・・・・・・しかし、なんだったんだ今のは?」
「さあ? カナメ、知ってたら教えて?」
『・・・・・・ハァ。お主ら、見事に騙されたな』
「どういうこと?」
ため息交じりのカナメに首を傾げるフェイト。
その様子にさらに深くため息をつくと、カナメは説明を始めた。
『今のは、<ニーア・ブー>。相手の<認識を止める>能力じゃ』
「けど、僕達は確かに、あいつの杖を見ないようにしていたはずだ」
首を捻るクロノに同意してフェイトも頷く。
だが、カナメはその対処を否定した。
『残念じゃが、無意味じゃ。あの能力の鍵は、あの音じゃ』
音といわれ、思いつくのは先ほどの猫の鳴き声。
「まさか・・・・・・じゃあさっきの杖は!?」
『だから、「騙された」といったのじゃ』
「~~~~!!」
カナメの解説に、クロノは最後まで虚仮にされたことを悟り、やり場のない怒りに身悶えする羽目になるのであった。
<狭間猫>は<ニーア・ブー>の契約者である、リオの二つ名。
物語に出てくる、少女を煙に巻く猫をイメージさせるかららしい。