転移した先は一面砂の世界。
見渡す限りに広がる砂漠に、
「・・・・・・あ、暑い・・・・・・死ぬ・・・・・・」
早々に来たことを後悔し始める雄一。
『来たばかりで何を言い出す』
「だって、俺達さっきまで秋も終わり、というかもうすぐ冬ですねって気温の中にいたんだぞ? それが一転してこの気温に放り込まれたら心折れるって」
雄一の格好も、世間の例に漏れず冬服に変わっている。
少しでも涼をえようと袖を捲くるが、照りつける日光に却って肌を焼かれてしまう。
ちなみに、砂漠では肌を晒す格好は、長袖のものより水分を失いやすく体に熱も溜まりやすいので、却って危険である。
雄一は吹き出る汗に、日光から少しでも遠ざかろうと姿勢を低くしようとするが、地面の砂からの反射熱に顔を炙られすぐに膝を伸ばすことになった。
「・・・・・・もうヤダ、早く帰りたい」
『気持ちは分からなくもないが、ここに来た目的を忘れていないかね?』
目的? と首を傾げる雄一に、ため息をつきながらエルミナは口にした。
『ヴィータを手伝いに来たのではなかったのかね?』
「手伝い・・・・・・あ、あーあー、そうだった、そうだった。あまりの暑さに記憶が緩んでた。というか、何かこの暑さを和らげる方法ってないかな? 割と切実に」
『バリアジャケットでも着ればいいだろう。あれも一種の魔法だから、大気・温度その他一切のマイナスから使用者を守るだろう』
「その手があったか! エルミナ!」
『承知した。<Balier Jacket,Setup>』
バリアジャケットの展開に合わせて、雄一の服装は冬服から軍服を思わせるものへと変わった。
そのおかげか、雄一は一息つき覆面を下ろした。
「あー、楽になった。一気に暑さが遠くなったな」
『落ち着いたかね? 問題が解決したところで本来の目的に戻ろうではないか。ヴィータの居場所は何処だろうか?』
「さて、おおよそで飛んできたからな。何か痕跡でもあればいいんだが?」
とりあえず、と飛行魔法を展開して空に上がる。
上空からの方が痕跡も見つけやすかろう、という判断だ。
この手段も暑さの問題が解決したから取れる方法だ。
『痕跡・・・・・・蒐集を受けた生物かね?』
「ああ。それか戦闘痕だな。蒐集を受けると急激な魔力の消耗からか、結構なフィードバックを受ける。それに耐えられるやつの方が珍しいから、大抵のやつは気を失う。だから、ぶっ倒れてる生き物を探していけば、ヴィータに行き着くはずなんだけど」
エルミナに答えながら周囲を探索していく雄一。
すると、
「・・・・・・ん?」
周囲を見渡していた雄一の目に何かの影が掠めた。
早速生物発見か? とそちらに向けて飛んでいく雄一。
距離が縮まるに連れて、影の輪郭がハッキリしてきた。
それは巨大な虫だった。
ミミズにムカデの甲殻をつけたようなとでも言おうか、硬そうな殻を持った長大な虫だ。
その背には背びれのようになった殻が連なり、口には鋭い牙が生えているが、こいつらこの砂漠で何を食べているんだろう。
そんなワームとでもよばれそうな虫が体の所々から緑色の体液をこぼして横たわっていた。
「デカいな。何メートルある?」
『約十二メートルといったところだろうか。死んではいないようだが、このての生物は生命力が高いのが常だから問題はあるまい。それより問題は』
「これが何時のものか、だな。殻の傷からしてやったのはヴィータだけど、こいつが最初の方の獲物なのか、それともこいつは途中で、最初の方のは意識を取り戻して逃げちまったか」
この場合問題になるのは、方角と、ヴィータとどれほど距離が開いているかだ。
当然距離が広いほど移動時間が長くなる。
時間がかかると、それだけワームが目を覚ます危険性は大きくなる。
そうなると、目印が無くなり、ヴィータを探すのが困難になり、最悪すれ違う可能性もある。
とりあえず、最初の個体と仮定して再び周囲を探索する。
幸い、すぐに次の個体が見つかり、そこめがけて飛んでいった。
同じく横たわるワームを見つけたが、
「こっちの方が傷が新しいな」
どうやら当たりだったらしい。
安心して飛びあがろうとし、
何かが足に絡みついた。
「なぁっ!?」
『マスター!?』
すぐに足に絡まったものを確認し、その先を視線で辿る。
それは、ワームの体から伸びる触手だった。
見ればいつの間にやら点っていた緑眼が、こちらを見上げていた。
牙をギチギチと鳴らしながら、触手を引き寄せていく。
「こいつ・・・・・・目を覚ましやがったか!」
『ヴィータがよほど上手くやったか、蒐集のダメージが小さかったか? どちらにしろ、面倒には変わるまい』
「同感! こいつに構っている間に他の目印が起きかねん! というわけで、結論! とっとと潰して次にいく!!」
宣言すると共に、エルミナを手袋に変え、伸ばした鋼糸を触手に巻きつけ切り飛ばした。
続いて構わず突っ込んでくるワームめがけて、
「吹き飛ばせ、<キー・アーン>!!」
四羽生み出した鳥型爆弾を向ける。
鳥達はワームの頭部めがけて飛びかかり、触れる寸前でその体を膨張させ弾けとんだ。
爆轟が連続するが、ワームは僅かに動きを止めただけで再び体をくねらせ雄一に喰らいつこうとする。
「ちっ!? 硬いな、おい!」
雄一の目の先、ワームの頭部には先ほどの爆発で僅かに焦げ目がついた程度だった。
相当硬い甲殻らしく、これでは鋼糸も通らないだろう。
だが、
『なら、<フェル・ディア>を使えばいいのではないかね?』
「あれに触れろと?ご免こうむるわ。かといって、他の能力じゃ確実にオーバーキル。・・・・・・もういいや、蒐集済みだしやっちまおう」
エルミナを杖に戻すと、速度を上げて一気に突っ込む。
ワームが次々に触手を振るうが、その悉くを避けて頭部めがけて叩きつけた。
「揺さぶれ、<クーア・ルンゲ>!」
ズン、と鈍い音を立ててワームの全身が震え、眼から光が消えて砂漠に倒れ伏した。
『殺したのか?』
「さあ? 一応いつもくらいの威力だけど、虫は脳がそれほど複雑じゃないから、効いたかは分からない」
『・・・・・・そうか。まあいい。ならば急いで次に向かおう』
「ああ。急がなきゃ次のが目を」
覚ますかも、と言おうとした雄一の視線の先、砂の丘を越えた先で轟音と共に砂が噴きあがった。
『マスター!』
「分かってる!」
急いで飛行魔法を起動し、丘を飛び越えた。
その先にいたのは確かにワームだが、その周りを飛ぶ影があった。
探していたヴィータだった。
「ラッキーだな。合流できた」
『だが、まずくないかね。彼女は随分消耗しているようだが』
エルミナの言うとおりだろう。
ヴィータは大分無茶をしたのか、所々に怪我を負い、血を流す傷もある。
騎士甲冑もボロボロになっていて、右の靴が脱げ掛かっている。
両者がぶつかり合った拍子に弾き飛ばされるヴィータだったが、砂漠で踏みとどまろうとした矢先、靴が限界を迎えた。
最後の止め具が壊れ、バランスを崩すヴィータに、ワームが幾条の触手を伸ばした。
「さすがに放っとくのも不味いか。<キー・アーン>!!」
触手めがけて飛ばした爆弾で吹き飛ばし、その根元めがけて<ダー・グッザ>の銃弾を叩き込んだ。
突き出した腕、拳を握り締める。
「圧搾しろ、<ダー・グッザ>!!」
ブン、と音を立てて咲いた黒い花が触手の大本を周囲の肉ごと捻じ切った。
叫びを上げるワームを無視し、ヴィータを庇うように前に出る雄一。
「ヴィータ、無事か?」
「ユウ!? お前、なんで此処にいるんだよ!」
「あー・・・・・・はやてが戻ってきたからな。ヴィータも夕方といわず早く戻って甘えたら、と思って交代に来た」
「なんだそれ!?そんなの必要」
「無くないだろ、ほれ」
背後の気配に、雄一はヴィータを横に突き飛ばすと、反動で逆に跳んだ。
その間をワームが飛び抜けて行った。
「なっ!?」
「今のに気がつかない位弱ってるんだから、無理せず一度戻れ」
「け、けど」
「はやてに心配をかけるつもりか?」
「ぅ・・・・・・わぁったよ」
「オッケー。それじゃ、戻ってろ。俺は」
振り向いた雄一の先、獲物を逃がしたことに気がついたワームが砂を突き破って現れた。
「あれ、潰してから帰るわ」
「だ、だったら私も」
「エルミナ、強制転移」
『<Get Set>』
「ちょ、ユウ!?」
手伝いを申し出ようとした瞬間、ヴィータの姿が消える。
あとに残された雄一の手の中、エルミナはポツリと呟いた。
『あれで良かったのだろうか?』
「・・・・・・さあ?」
埒が明かずに強制転移してしまったが、やってしまうと後が怖いような・・・・・・。
「・・・・・・考えないようにしよう」
今度は<キー・アーン>をワームの口内で爆発させながら、雄一はそう逃げることにした。
その後、八神家に戻った雄一は戦闘をしたことをシグナムとシャマルから怒られ、強制転移と『夕方まで町内会の集会に出ている』はずのヴィータが家にいることに、疑問を抱いたはやてに説明することとなった苦労から、ヴィータに怒られることになるのだった。