守護騎士との戦闘の翌日。
クロノはエイミィ、ユーノを連れて本局を訪れていた。
「三人がかりで出てきたけど、大丈夫かな?」
「モニタリングはアレックスに任せてきたから。大丈夫じゃないかな」
「僕は闇の書について調査すればいいんだよね」
「ああ、これから会う二人はその辺に顔が利くからね」
それに、と続けるクロノ。
「あそこならもしかしたら、もう一つの頼みごとも見つかるかもしれないし」
「もう一つ? それは?」
「それは後にしよう。着いたぞ」
ユーノの問いかけをスルーし、クロノはある扉の前で足を止めた。
「「ん?」」
ドアの開閉音に室内にいた二人の女性が顔を上げた。
「リーゼ、久しぶりだな。クロノだ」
「お~、クロすけーお久しぶりー」
ドアを開けて部屋に入ったクロノにソファに寝そべっていた女性が機敏に飛びかかった。
管理局の制服に身を包んだ女性だった。
頭部に生えた猫耳と尻尾が目に入る。
もう一方、ソファで雑誌を読んでいる方も同様だ。
抱きついた女性はその旨にクロノの頭を埋めた。
「ロ、ロッテ! 放せ、コラ!」
クロノは必死に抵抗するが、女性の腕はビクともしない。
「なんだと、こら? 久しぶりにあった師匠に冷たいじゃんかよー?」
「っ!? あ、アリア! これを何とかして・・・・・・?」
胸元に頭を埋められながら、もう一人、ソファに座っている女性に助けを求めようとして、クロノは言葉を失った。
彼女の片足には膝下まで厳重にギブスが巻かれ、傍らには松葉杖が立てかけられている。
アリアと呼ばれたその女性は、彼がどこを見ているのか理解して苦笑している。
「何が言いたいかは分かるけど、とりあえず。久しぶりなんだし好きにさせてやればいいじゃん」
それに、と女性は両者に視線を向けると、ニンマリと口を歪めた。
「今はそのままでいてやるといい。その、まあなんだ。クロノも満更じゃないだろ?」
「そんなわけがあ」
「それじゃ、遠慮なく!!」
言葉途中でクロノが女性にソファの後ろに押し倒された。
クロノの悲鳴とともに、ソファの上端から唯一見える尻尾が楽しげに揺れる。
エイミィは苦笑しながら、ユーノはそちらを見ないよう顔を背けながら、ソファに腰掛けている女性に歩み寄った。
「リーゼアリア、お久し。その足、どうしたの?」
「エイミィ、お久し。・・・・・・実はしばらく前に大怪我してね。治癒魔法をかけたんだけど、それに頼りきるわけにもいかなくて。だから、こうしてるんだよ」
そういって、傍に立てかけてある松葉杖を指さすリーゼアリア。
「あちゃ、それはお大事に。それにしてもリーゼロッテは相変わらずだね」
「まあ、我が双子ながら、時々計り知れないところはあるね」
「ごちそうさま♪ って、お?」
二人して話していると、何をしていたのか口元を拭いながら、本人がソファの後ろから顔を出した。
目を瞬かせる彼女に、エイミィが手を振る。
「リーゼロッテ、お久し」
「おー!エイミィ、お久しだ!ん?」
ソファの背をひとっ跳びで跳び越えてエイミィの前に着地したロッテはエイミィの手を取ったがすぐに、彼女の背後に興味を向けた。
その先にいたユーノは突然の無遠慮な視線に顔が引きつった。
「なんか、美味しそうなネズミっ子がいる。どなたぁ?」
「ぅ・・・・・・」
猫撫で声で声をかけられ、思わず背筋を震わせるユーノ。
「なんで・・・・・・あれが、僕の師匠なんだ・・・・・・」
よろよろと、ソファの後ろから起きあがると、暢気に尻尾を揺らすリーゼ姉妹を湿った目つきで睨むクロノであった。
気を取り直し、ソファに座りあう五人。
「あー、なるほど闇の書の捜索ね」
「事態は父様から話は聞いている。できる限りの協力はするよ」
「父様、ですか?」
言われるまでもない、とやる気を見せる二人の言葉にユーノは首を傾げる。
首を傾げるユーノにエイミィが囁く。
「ギル・グレアム提督。あの二人のマスターだけど、二人を娘のように思っているの。歴戦の勇士で一番出世していた時で艦隊指揮官。後に執務官長だね。ちなみに、なのはちゃんと同じ地球人」
「ええ!?」
「あははは。父様が言うには、『あの世界は魔法資質こそないが突然変異として高い魔力資質を持つ者が生まれることはある』ってことらしいよ」
エイミィの説明に驚くユーノに、補足を入れるリーゼアリア。
「それに、」
エイミィはちらりとクロノに視線を向ける。
「クロノ君とはちょっとした縁があって、お世話になっていたことがあって、指導教官だったんだ。その繋がりで、二人がクロノ君を鍛えていたの。いわば、二人はクロノ君のお師匠様だね。魔法教育担当のリーザアリアと、近接戦闘教育担当のリーゼロッテ。見ての通り、素体は猫ね」
「縁、ですか?」
「それはいいじゃないか。それより、本題に入ろう」
質問を重ねようとしたユーノを遮るクロノ。
ユーノは、むっとして振り返ろうとしたが、クロノだけでなく、エイミィやリーゼ姉妹が重い表情をしているのに気がついて言葉をのみこんだ。
「二人にも、駐屯地に来てもらえると心強いんだけど、今は仕事が忙しいんだよな?」
「うん。武装局員の新人への訓練メニューが残ってて」
「それに、アリアの怪我もあって、こっちに出ずっぱりにはなれないかな」
「そうか。怪我は訓練中の事故か?」
「そんなところだね。まさか、開放骨折することになるとは思わなかった。それより、頼みってのは、そっちの戦力の強化かい?」
「いや、今回の頼みは、彼なんだ」
「食べていいの!?」
場の視線がユーノに集中した途端、目を輝かせるリーゼロッテにユーノが震え上がった。
そんな彼女に無情にもクロノは許可を出した。
「ああ。作業が済んだら好きにしていい」
「おい!? ちょっと待て!?」
肩を怒らせて立ち上がるユーノ。
だが彼以外全員冗談だったらしく、笑いがこぼれる。
「それで、頼みって?」
空気が解れたところで、アリアは本題を促した。
「リーゼ、彼の無限書庫の調査を手伝ってほしいんだ」
「・・・・・・へぇ?」
「クロノ、それがどれだけ大変か分かってる?」
二人の試すような言葉にクロノは頷いた。
「無限書庫?」
「管理局の管理を受けている世界の、あらゆる書籍やデータが集められた朝巨大データベース」
「いくつもの歴史が丸ごと詰まった、いうなれば世界の記憶を収めた場所だよ」
ただ一人事情が分からず首を傾げるユーノに、リーゼ姉妹が説明する。
その困難さを知りながら、再度クロノは頷いた。
「ああ。今回の闇の書事件の解決のために様々な資料を遡る必要があると思う。それこそ、あれが作られた背景や意図が分かれば、それが糸口になるかもしれない」
それに、とクロノはユーノに視線を向ける。
「スクライアの出の彼がいれば大分話は変わるはずだ」
「! なるほど、それなら、確かに話は別だね」
「二人とも頼んだ。それと、ユーノ。君にはもう一つ頼みたい資料がある。契約者について書かれている資料を探して欲しいんだ」
契約者のことを知らないリーゼ姉妹が首を傾げる横で、ユーノは眉をひそめた。
「契約者について? けど、契約者は地球で確認された存在だから、管理世界の資料にあるとは思えないけど」
「もちろん、そのものというわけではない。だが、似通った文化や記録がある世界のデータがあれば、雄一を起こす手がかりになるかもしれない」
それがクロノの狙いだった。
これから、さらに佳境に入ることになるだろうときに、雄一ほどの戦力を遊ばせておくわけにはいかない、と考えていたのだ。
「それはいいけど、カナメに聞けばいいんじゃないのか?」
「彼女とは別のアプローチをとってみようと思う。それこそ、契約者について纏めた本とかがあれば、あのペインについても何か分かるかもしれない、っ!?」
クロノがペインの名を口にした途端。
室内に走った敵意にクロノは咄嗟に身構えそうになった。
「「?」」
敵意に気がつかなかったユーノとエイミィが首を傾げる先。
一瞬だったが、敵意を発していたのは、
(リーゼ?)
二人が一瞬険しい顔をしたのをクロノは見た。
次の瞬間、コクリと首を傾げていたから見間違いかと思ったが、
「クロノ?」
「どうかしたかい?」
「・・・・・・いや、なんでもない」
その疑問は、彼の心中に棘の様に残ることとなった。