<憑黄泉>をはじめ、精霊の能力を次々と使った。
結論。
この能力、法則が全くつけられない。
<クフ・リーン><沙波>は様々な応用が利くもの。
特に<クフ・リーン>は足の位置の固定という制約はあれど、太陽の向きに左右されず影を操れるようだ。
威力も影を破壊することで本体にダメージが及ぶ上、防御法がないというチート仕様。
<沙波>は物の液状化、というイメージが掴みにくく難航したが、カナメ達が言うには、使い方によっては相手の攻撃も無効化できる、そうだ。
<バーラ・ルー>は逆に一転強化といった感じか。
視界に映る物を灰に変えられるうえに、射程に限りもないが、視界が塞がれると一気に無力化される弱点も持っており、さらに、灰に変えるまで僅かながらタイムラグがあり素早い相手には避けられるだろう。
その上、鳥目。
<ルー・グー>は威力の調節が比較的しやすいようだ。
能力は、対象の大きさに反比例するが強く、発動も早い。
移動する距離が稼げるなら上空からの爆撃だけでなく、水平方向からの奇襲にも使えそうだ。
ただ一方で、この練習の意味が薄い物もあった。
<デル・ドーレ><憑黄泉><ハヌ・マーン>だ。
<デル・ドーレ>は血液の変性による身体能力と回復力の強化だが、回復の方はわざわざ怪我をして試すつもりはなくお流れに。
<憑黄泉>は透明化には成功し、<クフ・リーン>でも匂いは察知できないとのことだった。だが、それ以上の応用が思いつかず、これまたお流れ。
<ハヌ・マーン>にいたっては制約として「目を合わせる」必要があり、相手のいない今無用の長物となっている。
一通りの考察を終えたところでカナメが切り出した。
『あらかた確認はできたようじゃな。そろそろ、魔導の方に移ろうかの?』
「そうだな」
カナメに言われて意識を切り替える。
『といっても魔導の方は、いくつかの説明と二つの術式を覚えてもらう程度じゃ』
「それだけでいいのか?」
『おぬしに必要なのは攻撃でもなければ防御でもない、移動系の術じゃ。特にこの世界で必須ともいえる念話と飛行の魔法を覚えてもらう』
「念話は想像が付くけど、え、俺飛べるのか!? ・・・・・・ん、けど待て。もしかして、飛んでる間も」
『まあ、<クフ・リーン>の能力は使えぬだろうな』
「やっぱりか。それはおいておくとして、説明ってなにについてだ?」
『おぬしとあの娘が今集めているジュエルシードについてと、この世界の魔法に付く機能「非殺生設定」についてじゃ』
非殺生設定?
攻撃に使われる魔法になぜそんな機能が?
「なあ、カナメ。その非殺生設定、とやらは攻撃用の魔法につけるんだよな」
『うむ。そのとおりじゃな』
「え、なに? 傷つけるつもりで魔法撃つのに傷つけないように、ってどういうこと?」
「言いたいことはわかる。この機能は、相手の命を奪わず、気絶に留めるというものじゃ」
「・・・・・・なんだそりゃ。どういう理屈だよ」
呆れ呟くと、カナメはそれを否定した。
『そう呆れたものでもない。この機能があるから、殺しの心配はないとして攻撃への躊躇いを無くせる。引き金を引くことに躊躇いを覚えない人間は厄介だぞ?』
「なるほど。それもそうだな。それで、その非殺生設定は俺にも使えるのか?」
『できるぞ』
「よっし! コレで戦闘も楽に」
『魔法にのみな』
「ならないのかよ、ちくしょう!?」
上げて落とされた。
いや、話を最後まで聞かなかった俺が悪いのか?
『術式の違い故か、精霊の振るう能力に非殺生設定は効果がないようなのだ。殺さないようにするなら、おぬしの発想次第じゃな』
「くそ、魔法で手加減が利くなら遠慮はいらない、と思ったのに。それで、ジュエルシードについて、ってのは?」
区切りと見て次の話題に移る。
『まず、おぬしはジュエルシードをどういうものと認識しておる?』
「生き物とかに反応して異変を起こす宝石、じゃないのか?」
『正しくは、願いに反応して願いを叶える石じゃな』
「願い? ってことは、あの黒毛玉や犬は願いの結果だって言うのか?」
『そのとおりだ。そしてそれが、ジュエルシードの存在が問題となる理由につながる。ジュエルシードは願いを叶えるためか膨大な魔力を有しておる。そして、その魔力は指向性を持たせず暴走すれば惨事につながる代物だ』
「暴走とは、穏やかじゃないな」
『事実じゃ。精霊とて対価を支払う必要があるのに、ジュエルシードを使うことにリスクは表向きはない』
表向き。
カナメがそう言った意図を悟り確認する。
「実際にはリスクがある?」
『リスク、というより欠陥といった方がよかろ。ジュエルシードは願いを歪んだ形で叶えるのだ。外に出たい、という願いに壁を壊すことで答えたり、強い体が欲しい、という願いに化け物のような姿を与えたり、とかな』
「それって!?」
『もちろん、これは想像、いや妄想といっても良いだろう。しかし、外れてはおらん、とも思っている』
思っていた異常に厄介な代物らしい。
「全部でいくつあるのか、カナメは知っているのか?」
『全部で二十一個じゃ。だが、おぬしが既に一つ破壊しておるから二十個じゃな』
「俺が一つ、なのはも一つか二つ持っているとして、残り十七か八。それだけの騒動が起きる、と」
『それだけではない。問題の大小次第じゃが、厄介なものだとこの世界そのものを揺るがしかねん』
世界を揺るがす、と言われ、ピンと来ず首を傾げる。
「どういうことだ?」
『言葉通りじゃ。ジュエルシードは魔力に反応する。たとえ封印していても、いや、封印したときこそ無用な刺激を与えてはならない。その魔力を吸収して封印を解き、封印以前よりなお強い力を振るいかねん。それこそ世界を揺るがし、穴を開けるほどの力をな』
「揺らいだ世界は、どうなる?」
『世界は意外と脆い。僅かに揺らぐことでも大きな災禍となろう。ジュエルシードの持つ、いやジュエルシードを含むロスト・ロギアの持つ魔力は大なり小なり世界を滅ぼす危険を有するものじゃ。最悪、この世界が滅ぶことになるだろうな』
「そんな厄介な。なら今のうちに壊してしまえば」
『馬鹿者。<クフ・リーン>に言われなかったか?このジュエルシードが同時に鍵でもある。それをみすみす、壊すことなどできん』
カナメに言われ思い出す。
だから、カナメの封印が必要としていたのに封印の機会がないからつい・・・・・・。
「で、その状況を少しでも有利にするのが念話と飛行魔法か?」
『うむ。念話が使えれば周囲の眼を気にせず会話できるし、飛行魔法があれば空中戦ができるようになる。制空権の重要さは知っていよう?』
「それは分かるが・・・・・・。けど、俺は契約の影響で魔法が使えないんだよな。飛行魔法はカナメ頼りだけど、制御もそうなのか?」
『最初のうちはそのつもりじゃな。もちろん回数を重ねれば制御は徐々におぬしに移していくつもりじゃ』
「それ・・・・・・大丈夫なのか?」
『問題なかろう。魔力量は年を経れば次第に増えるしな。まずは念話じゃ』
いわれ、集中しようとして、
『<――――――>』
「つっ!?」
金斬り音の様な高い音と共に脳裏に痛みが走り、頭を押さえる。
覚えがある痛みだった。
というか、ユーノを拾った時に感じたものだった。
どうやら、あれも念話だったらしい。
『どうしたのじゃ?顔を歪めて』
「なんか、頭が痛く・・・・・・」
―――たぶんだが、相棒は念話の感度が強すぎるんじゃないか?―――
『どういうことじゃ?』
カナメ同様、<クフ・リーン>の言葉が分からず首をかしげた。
―――つまり、相棒は俺含め多くの精霊を抱えているわけだが、それらが干渉しあって、外部からの魔力に過剰に反応しているんじゃないか、と思う―――
「そういうものなのか?」
『さて、どうじゃろうか?精霊、と言う存在自体それほど解明されているものではないからの』
大した考察もできなかった。
「なら、俺は念話はできないのか?」
『いや、問題がおぬしの内にあるのなら調整もできよう。時間はかかるやもしれんが、やってみよう』
カナメの力強い返事に僅かに安心する。
『なら、今のうちにもう一方の案件に移ろうかの。飛行魔法じゃ。さっきも言ったが、初めは私が起動を持つから自由に動いて感覚を掴んで見せよ』
カナメの言葉と共に、ふわり、と浮かぶ感覚に包まれる。
みれば、靴の側面から翼が広がっている。
「飛行魔法って、こういうものなのか?」
『こういうものじゃ。ほら、やってみよ』
「お、おう。っと、お、お、」
踏み出してみるが、地に足が着いてないからか感覚が頼りない。
そして、
ゴスッ!!ドサッ!
「あがっ!?」
張り出した枝に頭をぶつけ、地面に堕ちる。
『何をしておるんじゃ』
カナメが呆れたように呟きながら、再度飛行魔法を起動する。
俺も頭を押さえながら、姿勢を整え
ごんっ!!
「でっ!?」
後頭部を樹皮に打ちつけ、蹲る。
今さらながら、山の中を選んだのは失敗だったかもしれない。
障害物が多すぎる。
「せ、せめて場所を変えないか? ここじゃ、邪魔が多くて」
『何を言っておる。練習にはもってこいじゃろ。ほれ、もう一度行って来い』
「ちょ、ちょっと待」
その後、頭にたんこぶをいくつも作りながら、飛行については問題はなくなった。
<クフ・リーン>がゲラゲラと大笑いしたのは言うまでもない。
なのはが、プールで発動したジュエルシードを確保したらしい。