リリカル世界を逝く影執事   作:ラッテンフェンガー

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第八十話 知る事実と見つからない解決法

警戒態勢の女性を安心させようと、雄一は両手を掲げて害意がないことを示そうとし、

 

「誰かと思えばお前か、榊雄一」

 

雄一の姿を見ると、女性は警戒を緩めた。

 

「何で俺の名前を知ってる?」

「覚えてないのか?」

 

突然の変化に戸惑いながら当雄一を怪訝そうに見る女性。

どういうことか、と問おうとする雄一の脳裏で、ふと脳裏で記憶が弾けた。

 

「つっ!?」

「どうした?」

 

突然頭を押さえた雄一に駆け寄ろうとした女性を手で制する雄一。

そのまま、よぎる記憶を整理していく。

その時の雄一は元の九歳の体で、突然現れた雄一に女性は先ほどのように警戒した。

だが、何とか経緯を話した上で、一応の納得を得たのか、僅かな時間であったが、話をしたのだ。

 

「そういえば、あのときもシグナム達の話を聞いたんだったな。管制人格さん」

「・・・・・・やはり覚えていられなかったか」

「やはり? どういうことだ?」

 

聞き咎めると、女性、闇の書の管制人格は顔を曇らせた。

 

「ここでどれほど話したとしても、その記憶は残らない。今までも幾人もの主が訪れ、私の存在を知ることなく逝った」

「・・・・・・いや、この場所のせいとは、一概に言えないと思うけど。あの時は、<アルス・マグナ>の影響で記憶が消されたんだと思うぞ。事実、こうして話して思い出せているしな」

「だが、そうではないかもしれないだろう」

 

管制人格は涙に濡れた目を細めると、雄一を睨む。

まるで、一切の希望を断つように。

その視線の暗さに、雄一は頭を掻き、別の話題を出す。

 

「それで、さっきまでは誰と話していたんだ?」

「当代の主だ。優しい人、だな」

「ああ。はやての懐の深さには俺も驚かされた。まさか、顔見知り程度の、それもいきなり現れた俺を居候させてくれるとは」

 

今の生活が始まった時を思い出して苦笑する雄一。

だが、彼は続ける。

 

「だけど、だからこそ。今までの主と違うあいつだからこそ、道は開けるかもしれないぞ?」

「・・・・・・見たのか」

 

主語のない問い。

だが、雄一は頷いた。

 

「今までの主のもとであいつらが何をしてきたか。そして、どう扱われてきたか。まさか、はやてだけが見れるものだったのか?」

「もともと、あれは覚醒する主に我らのことを知ってもらうためのものだからな」

「これも、俺と闇の書の間の繋がりだっけ? の影響か?」

「詳しいことは私にも分からないが、その可能性は高いだろう」

「そうかい。で、話を戻すけど、今回は今までと違うんだ。期待するのは構わないと思うけど?」

 

冗談めかして言う雄一。

だが、管制人格の顔はさらに曇る。

その口が僅かに動いた。

 

「・・・・・・それは・・・・・・不可能だ」

「なんでそう思う。はやてなら、」

「違う!!」

 

言い募ろうとする雄一の言葉を管制人格の叫びが遮る。

 

「違うんだ・・・・・・闇の書の主となったものに・・・・・・救いはない」

「っ、どういうことだ!?」

 

聞き捨てるにはあまりにも衝撃が大きい言葉に、雄一は管制人格の胸元を掴み上げる。

顔をしかめる管制人格に、僅かに頭を醒ますと、幾分トーンを落として問う。

 

「どういうことだ。闇の書を完成させることで、はやては救われるはずじゃないのか」

「・・・・・・お前も、闇の書を調べるなどして確証を得ようとしていたな。それは得られたか?」

「いや・・・・・・そう言うってことは、やっぱりそうなんだな?」

 

言葉なく頷く管制人格に、雄一は歯を強く噛み締める。

それは、はやての緩やかな死の宣告。

だが、

 

「なら、蒐集をやめて別の手段を考えればいい!」

 

根本の解決ではないが、それではやての命は延びるはず。

だが、その希望も打ち砕かれる。

 

「・・・・・・それも不可能だ」

「っ!? なんで」

「闇の書は、ある程度蒐集が行われなければ持ち主への浸食を早める」

「な・・・・・・なんだよ、それ・・・・・・」

 

闇の書のあまりの悪辣さに、雄一の言葉が詰まった。

収集の果ても破滅、収集しなくても破滅。

いったいどうしろというのか?

そもそも、持ち主に害をなす魔導書など誰が、

 

「そうだ! あんたに聞きたかったんだ! 闇の書、これはいったい何だ!? 所有者を破滅させる魔導書なんてどういう意図で作られたんだ!?」

「闇の書は、もとは優秀な魔導師の生み出した魔法を記録し研究するものだった。持ち主と共にあまたの世界を旅する魔導書、それが闇の書の本来の在り方、だった」

「だった? 本来だって?」

「・・・・・・・ああ。闇の書は、歴代の主の手で改悪されているんだ」

「なん・・・・・・詳しく話せ」

そして、管制人格の語った真実は雄一の心を打ちのめすものだった。

 

 

 

 

「ただいまー!」

「お帰りなさいませ、主はやて」

 

家に帰ったはやて達をシグナムが出迎えた。

シグナムとザフィーラも収集を終えて戻ってきたところだが、それをおくびにも出さずに、はやてを迎える。

と、はやてに続いてドアをくぐったヴィータ達の手に目を留めた。

 

「また、随分と買い込んできたな」

「スーパーで魚と米が特売だったんだよ」

 

ヴィータ達の手に持たれた張りつめんばかりの買い物袋に呆れ半分のシグナムに、袋の中身を示すヴィータ。

 

「シグナム、ザフィーラ! 手伝ったげて」

「あ、私は大丈夫ですよ。シグナム、はやてちゃんを」

「ああ。・・・・・・では主はやて、失礼します」

シグナムははやてを抱きかかえると、買い物袋の一つを手に持った。

「お魚いっぱい買うてしもたから今夜はご馳走やで」

「それは素敵ですね」

「シグナムの好きなお刺身もあるし、メインは鱈鍋や!」

「鍋万歳!」

「心が躍ります」

 

和気藹々とした他愛もない時間。

それを何故か、いつも以上に大切なものと思ったはやてであった。

 

 

 

「そういえば、雄君はどないしたん?」

「それが・・・・・・」

 

はやてが、姿の見えぬもう一人の家族についてシグナムに問うと、彼女は何故か苦笑を浮かべた。

苦笑するシグナムが視線を向ける先はリビング。

はやて達は顔を見合わせると、リビングを覗き込んだ。

雄一の姿はあった。

ソファで横になっている。

ただ寝ているらしく、その表情に苦悶の色はない。

 

「我々が戻ったときにはこの状態でして」

「ん~、疲れとるみたいやし、寝かしといたろか? 晩ご飯になったら起こしたれば」

「・・・・・・んん」

 

はやての言葉に紛れて聞こえた声に、皆の視線が雄一に向けられた。

雄一は、ボウッとした様子で身を起こすと、状況を確かめるように周りを見回した。

その視線がはやてに向けられると、はやてはにこやかに言った。

 

「おはようさん、雄君。よう眠れたみたいやね」

「・・・・・・はやてか?」

「そうやで? なんや寝ぼけとるん」

 

か、と続けようとしたはやてを雄一は表情を歪めたかと思うと、深く抱きしめた。

 

「・・・・・・へ?」

「ゆ、雄一!?」

「お前、はやてに何してやがる!?」

「あらら・・・・・・」

「・・・・・・」

 

抱きしめられたはやて以上にパニックになった混乱するヴォルケンリッター。

だが、雄一はそれらを気にせず、はやてをさらに強く抱きしめ肩口に顔を埋めた。

 

「ゆ、雄君どないしたんや? なんや怖い夢でも見たんか?」

「・・・・・・そういうわけじゃない」

 

顔を見せぬ雄一の、その弱々しい様子にはやて達は戸惑いを深くする。

見れば、僅かに見える顔は血色が悪い。

 

「・・・・・・怖い夢とかじゃない。ただ、しばらくこうさせてくれ」

「・・・・・・。分かった、ええよ。しばらく胸、貸したるわ」

 

何があったのか分からないが、雄一がこうなったのはただ事ではないだろう。

なら、自分は家族として、それを支えようと、はやては優しく抱きしめ返すのだった。

 

 

 

しばらくして雄一ははやてを解放した。

その顔は先ほどとは違い幾分か血色が戻っている。

 

「落ち着いたか?」

「ああ・・・・・・すまないな。あんなことして」

「構へんよ、あれくらい。それで」

 

はやては真剣な表情を作ると、雄一の顔を覗き込んだ。

 

「何があったんや? 雄君があんなになるなんてよっぽどの事やろ?」

「・・・・・・すまん。ちょっと整理しきれないから・・・・・ちょっと勘弁してくれ」

「言えへんのか?」

「すまない」

「・・・・・・しゃーないな」

「はやて、いいの?」

 

雄一が首を横に振ると、はやては苦笑しながら追求を諦めた。

ヴィータが問い詰めようと提案したが、はやては首を横に振る。

こういう以上、雄一は口を割らないだろうという判断からであり事実それは正しかった。

 

「ちょっと頭冷やしてくる」

 

雄一はそのまま立ち上がると部屋へ戻ろうとリビングの扉に手を掛けた。

その背にはやては言葉を投げた。

 

「あ、雄君! 夕飯には出てくるんやで!」

「・・・・・・分かった」

 

雄一はそのまま、振り返ることなくリビングを出て行った。

 

リビングを出た雄一は部屋に戻ると、ベッドに仰向けに倒れこんだ。

二・三度体を跳ねさせると、腕で目元を覆って深く息を吐いた。

 

「・・・・・・どうしろってんだよ、こんなの」

 

雄一の口からこぼれた言葉。

雄一は、管制人格と話した内容を記憶していた。

だが、

 

「ホント・・・・・・どうすれば、いいんだよ?」

 

守護騎士達に知らせるには重過ぎる事実に、雄一は唇を噛み締めるのだった。

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