リリカル世界を逝く影執事   作:ラッテンフェンガー

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第八十五話 逃走と緊急事態

 

「がっ!?」

「ちっ、浅かったか」

 

肩から脇腹まで袈裟掛けに走った傷を押さえながら下がる仮面の男に、雄一は舌打った。

雄一が使った手は単純で、<クーア・ルンゲ>ではなく<フェル・ディア>を使って障壁を破っただけ。

本当はそこから<クーア・ルンゲ>に繋げるつもりだったのだが、

 

『<それは私がキャンセルした>』

「<エルミナ、どういうつもりだ?>」

 

デバイスの反逆ととれる行動に、雄一はエルミナを睨みつける。

だが、

 

『<なら、彼を殺しても構わなかったと?>』

「<・・・・・・>」

 

エルミナの言葉に凍り付いた。

たしかに、殺意があったのは雄一も否定はしない。

だが、殺意程度で殺していたら、その重さに雄一は耐えられなかっただろう。

 

『<それに、血に濡れた手で彼女達のもとへ戻るのかね?>』

「・・・・・・ああ、そうだったな」

 

思い出すのは、収集を始めた日のこと。

シグナム達は確かに、「はやての未来を血で汚したくないから殺しはしない」と言っていたではないか。

その誓いを自分が破っていい訳がない!

 

「<すまない、エルミナ。頭が冷えた>」

『<それはよかった>』

 

雄一はエルミナに礼を述べると、傷を押さえながら彼を睨む、仮面の男を見返す。

その白い服には徐々に赤いものが広がっている。

 

「貴様・・・・・・!」

「そう睨むなよ。一応いい知らせだ。お前の処遇は生け捕りに変わったから。良かったなあ、その程度で済んで」

「ふざけるな! この程度で」

「そうだな、その程度じゃ足らないよな」

 

男の言葉を遮り、銃に変えたエルミナを男に突きつける。

 

 

「定番だが、動くな」

「くっ・・・・・・」

「お前にはいろいろ聞きたいことがあるからな。全て、喋ってもらうぞ」

 

銃口を向けて問うが、男は無言で雄一を睨み据える。

両者に緊張が走るが、雄一はそんなチキンレースに応じるつもりはない。

一発足下に撃ち込むか、と銃口を僅かに動かし、

 

『<雄一!? 来てくれ!>』

 

背後、フェイトの様子を見ていたはずのシグナムの寄越した念話に、視線を向けようとしてしまった。

瞬間、男は拳を地面に叩きつけ地面を爆発させると、砂を巻き上げた。

 

「っ!?」

 

雄一はすぐに視線を戻すが、男の姿は既に砂塵の向こうに消えてしまっている。

 

「ちぃっ!?」

 

当てずっぽうで、数発発砲するが反応はない。

 

『魔力反応、転移魔法のようだね』

「追えるか?」

『・・・・・・すまない、反応ロストだ』

「・・・・・・そのようだな」

 

砂煙の収まった先、そこには男の姿はない。

飛んで逃げたにしては時間が短すぎる。

 

「くそ、逃げられたか」

『そう気落ちすることはない。次の機会を待つとしよう』

「そうなんだが・・・・・・」

 

はやてに後どれだけ時間が残っているのか分からない以上、次があるのかどうか、

浮かんだ不吉な想像を、頭を振って追い払う。

 

「っ、いや、そうだな次だ。それより」

 

気になるのは、シグナムの先ほどの念話だ。

普段冷静な彼女があんな声を出すとは、よほど厄介なことが起きたのだろう。

考えながら、振り返ろうとした矢先、再びシグナムの切羽詰まった声が響いた。

 

『<雄一、聞こえるか!? テスタロッサの様子が!』

「何?」

 

雄一は急いで戻る。

戻った彼が見たのは、血の気の失せた顔をしたフェイトの姿。

 

「シグナム、何があった!?」

「分からないが、リンカーコア蒐集の影響なのは間違いないだろう」

「なのはは、こうはならなかったぞ!?」

「おそらく、強引な干渉だったからだろう。我々は収集の際、相手の損傷にも気を払うが今回は違う。テスタロッサの苦しみ様から、リンカーコアに損傷が残った可能性もある」

「~~!! あの仮面ども、つくづく余計なことしやがって!?」

 

この状況はまずい。

この状況をなのはやクロノに見られて、協力を申し出れるとは、雄一には考えられなかった。

打開しようと考え込み、

 

「そうだ。シグナム、リンカーコアに魔力を補充できれば症状の改善はできるか?」

「・・・・・・可能性がある、としか言えん。そもそも、魔力は人によって様々だ。単純に受け渡しできるものではないが、どうするつもりだ?」

「それは・・・・・・」

 

シグナムに問われ、雄一は言い淀んだ。

彼が考えたのはヴィータと契約したときに起きた魔力ブーストとその魔力による回復現象。

あれが起きるなら、自分は意識を失うだろうが十分やる価値はあるはずだ。

だが、

 

(もし、あれがヴィータだけの現象だったら・・・・・・)

 

雄一が懸念するのは、個人によって起きる現象が違う場合。

その場合、フェイトと契約したとき、どんなリスクがあるか分からない。

それに、この契約で起きる効果はまだ未解明の状態だ。

ヴィータの時は不可抗力として、その状態でフェイトと契約していいのか。

 

『<マスター>』

 

雄一が頭を悩ませていると、エルミナが念話を挟んだ。

 

「<何だ、今忙しい>」

『<アルフが接近してきている。時間はあまりない>』

「<・・・・・・マジか>」

 

なにやら一番この状況を見られたら不味い相手な気がするのだが。

だが、確かに悩んでいる時間はなさそうだ。

雄一は覚悟を決めると、ナイフを一本取り出した。

そのまま、フェイトの指の腹にナイフを浅く刺して血を滲ませると、同様に自分の指に血を滲ませた。

シグナムは、雄一が何をしようとしているのか悟り、真剣な目で見つめた。

雄一は、ナイフを放り出し、ゆっくりと指をフェイトの指に近づけ血を触れさせた。

瞬間、魔力が膨れ上がり、

 

 

 

 

「っなんだい、今の魔力は!?」

フェイトの危機を感じ取りフェイトのもとへ向かう途中、強力な魔力が膨れ上がったのを感じて、アルフは毛を逆立たせた。

 

(魔力の量は、あのときのなのはの砲撃くらい・・・・・・一体何が起こってるんだい?)

 

魔力は膨れ上がったかと思いきや徐々に収まっていったが、アルフは警戒しながら飛んでいった。

精神リンクを基に、方向を調整しながら。砂漠を飛んでいくと、

 

「!? 見つけた!」

 

シグナムと雄一の傍に倒れているフェイトの姿を認めたアルフは急降下していく。

 

「フェイト! フェイト!!」

「落ち着け、アルフ」

 

駆け寄ろうとするアルフを抑える雄一。

アルフは雄一めがけて牙を剥いて怒鳴った。

 

「あんたら、フェイトに何をしたのさ!? まさか、なのはみたいに蒐集したのかい!?」

「・・・・・・シグナム?」

「・・・・・・ああ。テスタロッサのリンカーコアは蒐集させてもらった」

 

雄一が水を向けると、シグナムは淡々と肯定した。

 

「っ!?」

 

肯定され、アルフは一気に間合いを詰めてシグナムの顔めがけて拳を振るおうと、

 

「だから落ち着けって」

 

ひょいと横合いから伸ばされた手に受け止められた。

だが、主を傷つけられたアルフの感情は治まらず、もう一方の手を叩き込もうとして、

 

「フェイトは今は眠っているだけだから」

「ほ、本当かい!?」

 

その言葉に拳を止めて詰め寄った。

見れば、フェイトに苦しむ様子は無く穏やかな寝息を立てている。

 

「ああ、本当だ・・・・・・だから、ちょっと落ち着け。説明してやるから」

「え、ああ、すまないね、ってあんた! すごい顔色が悪いけど大丈夫なのかい!?」

 

アルフが驚くのも無理はなく、雄一の顔色は先ほどまでのフェイトのように白くなっており、疲労が色濃く出ている。

だが、雄一は首を振ると説明を始める。

 

「まず、フェイトの蒐集をしたのは確かだけど、こっちにも予定外のことでな。乱入者による妨害があったんだ」

「乱入? あんたがしたのかい?」

「違う。仮面を着けた男だ」

「仮面の男? なんかクロノ達がそんなのを見たって言ってたね。そいつがどうかしたのかい?」

「そいつがフェイトのコアを摘出した」

 

仮面の男達のことを教えると、アルフの目が鋭くなった。

 

「闇の書に関して、こっちとも管理局とも違う目的があるみたいだ。そして、そのためなら何でもやる連中らしい」

「そうかい・・・・・・情報に感謝するよ。こっちもあんたが闇の書の主じゃないって事をもう少しの間黙っておいたげるよ」

「・・・・・・ザフィーラか。喋りすぎだ」

「いいじゃないか? それで、その条件で構わないかい?」

 

以外に御喋りだったザフィーラに、顔を手で覆って呆れる雄一にアルフは苦笑する。

 

「ああ。構わないよ。それと、フェイトが起きたら伝えてくれ」

「? ああ、いいけど何て伝えるんだい?」

「もし、何かおかしなことが起きたら、恨んでくれて構わない、って」

「ちょ、何だい!? その不吉な伝言は!? いったいどういう」

「シグナム、転移」

「ああ」

 

アルフの追求を無視しつつ、シグナムに転移魔法の使用を頼む雄一。

シグナムもあっさりと受けると、雄一を伴って姿を消した。

 

「意味なんだい? って、説明してからいきな!」

 

一人残されたアルフの叫びが砂漠に虚しく響くのであった。

 

 

 

 

「そういえば雄一。確か、ヴィータとその契約とやらをしたときは倒れていたようだが、体は大丈夫なのか?」

 

八神家に戻ってきたとき、シグナムはふと、雄一に尋ねた。

心配するシグナムに、雄一は顔をむけると穏やかに笑うと、

 

「シグナム、此処で一つお知らせです。俺・・・・・・もう・・・・・・駄目」

 

それだけ呟くと、ガクリ、と倒れる雄一。

倒れた雄一を、シグナムは慌てて担ぎ込んだのであった。

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