side八神家
「・・・・・・ん」
夕日が差し込む部屋の中、ベッドに寝かされていた雄一は僅かに呻くと、ムクリと体を起こした。
寝起きの頭で、周囲を確認しようとして、部屋の紅みが朝日ではなく夕日であることに首を捻った。
「あれ、なんで夕方?」
「・・・・・・目が覚めたか」
首を捻る雄一に、壁に凭れつつ雄一を看ていたシグナムが声を掛けた。
「あ、シグナム。えっと、なんで俺」
「言いたいことは分かる。聞くが、今日何があったか思い出せるか?」
「今日か? 確か・・・・・・」
シグナムに言われ、とりあえず思い出せる範囲で思い出そうと、額に人差し指をあてて考え込む雄一。
「確か、いつものようにはやての朝食を食べた後、シグナムは剣道道場への稽古を、ザフィーラは散歩を、ヴィータは老人会の人達とのゲートボールを理由にそれぞれ蒐集に出て、残った俺とシャマルがはやての護衛兼留守番をすることになったよな? それからしばらくした頃、シャマルからシグナム達がフェイト達に見つかったって聞いて、増援に向かうよう頼まれたはず」
「そのとき、私とテスタロッサ、ザフィーラと彼女の使い魔がそれぞれ打ち合っていたが、私達の勝負に、以前雄一が警告していた仮面の男が乱入した。仮面の男はテスタロッサの不意を突き、リンカーコアを摘出。私にそれを蒐集させた」
シグナムの補足に触発されてさらに記憶が蘇ってくる。
「ああ、そうだったそうだった! それで、あいつらの片割れを生け捕りにしようとしたときに、後遺症が出ていたフェイトに気をとられた隙にあいつらを逃がしちまったんだったな。あの仮面ども、ホント余計なことをしやがって」
「他には覚えていないか?」
「それで、フェイトを治すために、契約を使ったブーストを敢行。その反動で戻ってくるなり倒れて担ぎ込まれた、と。そんなところか?」
確認を取ると、シグナムは頷いた。
雄一が覚えている限り、フェイトに異常も見受けられなかった。
だが、
「これから異常がでない保証もないか。それはヴィータも同じだけど・・・・・・そういえば、はやて達は?」
時計を見ると、大分時間が経っているようだった。
「なんでも、図書館へ行かれたそうだ。シャマルが言うには、何か口実に頼んだのだろう?」
「ああ、ドイツ語の辞典、を・・・・・・」
言葉の途中で、雄一の脳裏を先日の管制人格との会話が過ぎる。
このままでは、はやての破滅は免れられない。
「なあ、シグナム。闇の書を完成させるとどうなるんだった?」
そう思っていたら、雄一の口は勝手にシグナムに問うていた。
「何だ突然? 闇の書を完成させれば、主は大いなる力を」
「シグナム達は闇の書の完成を覚えていないのに?」
雄一の言葉にシグナムの顔色が変わる。
結果を知っていれば誰か一人は闇の書を完成させた主のことを覚えているはずだ。
その矛盾に、シグナムの目が鋭くなる。
「雄一、何が言いたい?」
「俺もちょっと整理したい。シグナム、はやてが寝てからでいい、皆を集めてくれ。話がある」
「・・・・・・分かった。それと、シャマルから連絡があった。そろそろ主はやてが戻られるそうだ」
「分かった。出迎えないとな。シグナム、先に行ってくれ」
「ああ」
部屋を後にするシグナムを見送り、ベッドに腰掛ける雄一。
(うっかり口を滑らせたけど、結果オーライと考えよう。シグナム達に現状を知らせることで管理局と手を取り合うことができればいいんだけど・・・・・・あ、そういえば)
ため息をついたところで、ふとフェイトと契約をしたことを思い出した。
(能力の確認をしないとな。結界を張って、と)
結界を張り、適当に能力を使ってみる。
だが、
「・・・・・・あれ?」
何故か、どの能力にも変化はなかった。
慌てて、鏡で背中を確認するが、背中の契約書にはフェイトの名はなかったのだった。
side管理局
「・・・・・・ん」
本局の医務室に搬送されていたフェイトは、瞼を震わせると、ゆっくりと身を起こした。
周囲を見回し、状況を確かめていく。
「ここ・・・・・・医務室? なんで、私ここに?」
フェイトが、何があったのか思い出そうとしたとき、医務室の扉を開けてプレシアが入ってきた。
プレシアはフェイトに気がつくと、フェイトの横になっているベッドに駆け寄った。
「フェイト! ああ、目が覚めたのね! 体の調子は大丈夫? どこか痛い所は」
「か、母さん・・・・・・大丈夫だから、落ち着いて?」
矢継ぎ早に安否を問うプレシアに気圧されながら答えるフェイト。
そのとき、再び扉が開き、入って来たリニスがフェイトの言葉に頷いた。
「フェイトの言うとおりですよ、プレシア。それに、診断結果も問題なしだったじゃないですか。そもそもそんなに一気に尋ねたらフェイトも答えられませんよ」
「それは、そうかもしれないけど。心配していたのだから、しょうがないでしょう?」
リニスの説教に、視線を泳がせるプレシア。
その様子を、フェイトは苦笑しながら眺めていたが、ふとプレシアが彼女を抱きしめた。
「か、母さん? どうしたの?」
「本当に貴女が無事で良かったわ、フェイト」
「<そのまま抱きしめさせてあげてください>」
突然の抱擁に戸惑っていたフェイトに、リニスが念話を繋いだ。
「<リニス?>」
「<プレシアはあなたが医務室に運ばれたのを知って飛んできたのですから。彼女にとって大切なものを失うことはトラウマです。アリシアが生き返ったのは、彼と縁を結べた奇跡があったからです。けど、その彼は今眠りについています。この状況でまた愛娘を失うようなことがあれば、プレシアは立ち直れないでしょうから>」
「<・・・・・・うん、分かった>母さん、大丈夫だよ」
リニスの念話に、フェイトはプレシアを優しく抱きしめ返した。
その二人の姿をリニスは、愛おしく思いながら見つめていた。
リニスが消えるまで、いや、つい半年前まで見られなかった、そしてずっと望んでいた光景。
それが今此処にあることに、思わず涙が流れそうになって、
「・・・・・・あら?」
ふと足りないものがあることに気がついた。
「あー、プレシア? 一つお知らせが」
「何よ、リニス? 今の幸せを邪魔しないでくれるかしら?」
「それは本当に済みませんが、こちらも貴女には重要かと」
「まあいいわ。それで何かしら?」
フェイトを名残惜しそうに離し、振り返る時には鷹揚にリニスを促すプレシア。
彼女にそれを告げたときどうなるのか、猫耳と尻尾を丸めながら、リニスは答えた。
「あのですね、私もフェイトが心配でして、取る物も取らず此処に来たわけですが、」
「ええ。中々に慌てていたわね」
「貴女に言われたくありませんが。とにかくですね。アリシアなのですが」
「アリシア? そういえば姿が見えないけど、どうしたのかしら?」
ふと、もう一人の愛娘の姿が見えないことに気がついたプレシア。
この後の医務室の被害を抑えるべく、結界の展開を準備しつつ、リニスはそれを口にした。
「実は、アリシアをリハビリルームにおいて来てしまって」
「何をしているのかしら、貴女は!?」
リニスめがけて雷が落ちるが、リニスは瞬時に結界を展開すると、雷を弾いてみせた。
「しょうがないでしょう。私もフェイトのことが心配だったんですから。倒れたと聞いたら、とても冷静でいることはできなくて・・・・・・」
「それはわかるけども、ああもう! お説教はあとよ、リニス! 貴女はフェイトを見ていて頂戴!」
「分かりました」
「フェイト、ちょっと待っててね。アリシアー・・・・・・!!」
駆け出していくプレシアの背に、フェイトは見えないと分かりつつ手を振り、
「あー、リニス? いま母様がすごい速さで走っていたけど、貴女何を言ったの?」
プレシアが開け放って行った扉から、金髪の、フェイトとよく似た少女が顔を覗かせた。
車椅子を操作して、医務室に入ってくる彼女にリニスは微笑みながら言った。
「ああ、アリシア。いえいえ、なんでもないのですよ?」