リリカル世界を逝く影執事   作:ラッテンフェンガー

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第八十七話 家族の温もりと発覚

 

「なんでもなくないよ、リニス。姉さん、母さんは」

「ああ、ちょっと待って。フランキスカ、前進」

<Yes,Ma’am>

 

リニスを咎めてプレシアの行方を説明をしようとしたフェイトを遮り、アリシアは車椅子の手摺に据え付けられている自分のデバイス、フランキスカに命令する。

今アリシアが座っている車椅子は、まだリハビリを終了していない彼女のために作られたもので、デバイスを通して操作することができるという、プレシアとリニスの合作の品だった。

フランキスカはアリシアの命令に従って、車椅子をベッドの傍に寄せる。

 

「アリシア?」

「怪我とかは無いようね。よかった、母様達が血相を変えていくから気が気じゃなかったわ」

 

言うと、アリシアはベッドの上のフェイトに両手を伸ばした。

だが、車椅子がベッドとぶつかりそれ以上進まず、アリシアの手は届かない。

必死に手を伸ばすと、車椅子が危なく揺れた。

 

「アリシア! 危ないですよ?」

「大丈夫よ、リニス。ただフェイトを抱きしめるだけだから」

「まあ、先ほどプレシアもしていましたし・・・・・・すみません、フェイト。お願いできますか?」

 

アリシアを止めることを諦めたりニスはフェイトに任せることを選んだ。

任されたフェイトは、ベッドの端に寄ると、両腕を広げた。

アリシアは一生懸命体を伸ばすと、フェイトの体をそっと抱きしめた。

否、彼女にとって今の力が全力だった。

 

「本当に・・・・・・無事で良かった」

「うん・・・・・・心配してくれてありがとう」

「当たり前よ、姉妹なんだから」

 

抱き締めあう二人の姿に、リニスは目を細める。

 

(・・・・・・姉妹、か)

 

かつて、喪ったアリシアを蘇生させるための研究に没頭し、フェイトを顧みなかったプレシア。

愛情を向けられぬまま、それでも母の愛を信じ続けたフェイト。

二人の姿を見てきたリニスにとって、いまのこの瞬間の一つ一つが奇跡の連続といってもいい。

そうたとえ、

 

「さて、リニス・・・・・・覚悟はいいかしら?」

 

背後で主が怒気を滾らせていたとしても。

 

「プレシア・・・・・・いつの間に戻ってきたんですか?」

「ついさっきよ。リハビリルームでアリシアの居場所を片っ端から医者に問い詰めていたら、偶然知っている人がいたの。おかげで、それ以上の被害を出さなくて済んだわ」

「被害、出してきたんですね。あとで執務官に謝りに行かなくてはいけませんね」

「あら? 貴女が行く必要はないわ。私が自分で行くから。さて、そろそろいいかしら?」

「なら、一つだけ。手加減してくださいね?」

「残念。全力で行くわ」

 

 

抱き締めあっていたフェイト達は突然響いた轟音で我に返った。

何事か、と振り返ると焦げているリニスと、杖を振り切ったプレシアの姿があった。

 

「え、っと?」

「か、母様? リニス? これ、いったい何があったの?」

「あら、二人とも。何もなかったから、まだ抱き締めていていいのよ? あ、それとも私も混ぜてもらおうかしら?」

 

恐る恐る問いかけると、いい笑顔でプレシアが応えた。

 

「えっと・・・・・・」

 

どうしよう、と視線でフェイトに問うアリシア。

フェイトは、その視線に必死に考え、

 

「だ、だったら、リニスも入れて四人でやりたい、かな?」

「<そっち!? そうじゃないでしょ、フェイト!?>」

 

ずれた事を言うフェイトにアリシアは念話で突っ込む。

それが分からぬフェイトは戸惑うが、

 

「<え、で、でも・・・・・・?>」

「そう・・・・・・そうね。皆でしましょう。だから・・・・・・起きなさい、リニス」

 

フェイト達に笑顔で頷いたプレシアは、真顔でリニスに鞭を振り下ろして命令した。

二人が、え!? と驚いたときには床で倒れるリニスに鞭が迫り、

 

「つくづく思いますけど。貴女は鬼ですか、プレシア?」

 

寸前、リニスが張った障壁に止められた。

所々焦げ付きながらも、ひょいっと、ダメージを感じさせずに立ち上がるリニス。

 

「あら、あの程度じゃビクともしないでしょ? それが分かっているから、ああしたのよ?」

「ああそうですか。御自分が大魔導師の称号を持っていたことを忘れてませんか? 貴女の一撃を貰っては無事とはいきませんよ、この鬼」

 

しれっと、言うプレシアに、ため息をつきながらリニスは毒づいた。

二人の言い合いにアリシアは慌てて割り入った。

 

「ふ、二人とも! 喧嘩は駄目だって!」

「いいえ、大丈夫ですよ、アリシア。これは私達のコミュニケーションのようなものですから」

「そ、そうなの?」

「ええそうよ、フェイト」

 

リニスの言葉の真意を問うフェイトにプレシアは頷いた。

 

「そ、そうなんだ」

「そうなんですよ。それに、いまはアルフが会議に出ていますからね。あの子も待っていてあげませんと。あの子も含めてテスタロッサ家なんですから」

「「うん!!」

 

リニスの言葉にフェイト達が頷くと、穏やかな空気が流れた。

そのなか、プレシアはふと思い出すことがあった。

 

「そういえば、フェイト」

「? なんですか?」

「ちょっと背中を見せなさい」

「・・・・・・へ?」

「プレシア? いったい何を突然言い出すんですか?」

 

突然の命令に戸惑うフェイトに代わって、リニスがプレシアを問いただす。

だが、プレシアは二人を気に止めない。

 

「ちょっと気になることを聞いたの。大丈夫、確かめるだけよ」

「えっと、は、はい・・・・・・」

 

恥ずかしがりながら、フェイトはボタンを緩めると病人着を肌蹴た。

プレシアは彼女の背後に回ると、その肩を凝視した。

 

「プレシア?」

「リニス、これを見なさい」

 

様子の変わった主に、不安に思いつつリニスが声をかけると、プレシアは彼女を手招きした。

駆け寄り、プレシアの示す場所を見るリニス。

そこには、

 

「これは、何かの名前でしょうか?」

「おそらく、地球の文字ね。後で調べるけど、やっぱりあったわね」

「な、何? いったい何があったの!?」

 

自分の体に何が起こっているのか、不安がるフェイト。

彼女に、リニスは説明する。

 

「落ち着いてください、フェイト。貴女の肩に刺青のようなものが浮かんでいるんです。私にはちょっと読めませんが、こういった感じの」

 

リニスは、傍にあったメモ用紙にその文字を写しフェイトに見せた。

そこには、<沙波>の文字が書かれていた。

 

『それは<沙波>と読むのじゃ』

 

一同が首を傾げていると、傍のテーブルに置かれていた、今まで沈黙していたカナメが言葉を発した。

一同の視線がカナメに集まる。

 

「貴女はやっぱり読めるのね」

『おぬしも先ほど「やはり」と言うておったな。それについても聞かせてもらいたいの』

 

プレシアがカナメを見据えると、カナメも言葉を返した。

二人の間で火花が散るのを三人は幻視したが、その空気はすぐに治まった。

先に折れたのはカナメだった。

 

『まずはこっちから説明しよう。おぬしの予想通り、<沙波>は精霊の一柱じゃ。それが、フェイトに刻まれておるのは、おそらく「契約書」の効果じゃろ』

「『契約書』? それはいったい何なのかしら?」

『正式には「空白の契約書」という。かつて、<アルス・マグナ>を滅ぼすために作られたものじゃ』

 

<アルス・マグナ>を滅ぼす、と聞いたフェイトは顔を輝かせるが、それを読んだようにカナメは続けた。

 

『この契約書は、本来役目を全うし消滅したはずなのじゃ。だが、それらは再び世に現れたのじゃ』

「それは何処に?」

『主の背じゃ。主の背は見たことがあるかの?』

「背中・・・・・・ううん、無いよ」

『そうか・・・・・・主の背には』

フェイトが首を横に振るのを見たカナメは説明を続けようとし、

 

「・・・・・・ついさっき見たわ」

『何?』

 

プレシアの言葉に言葉を止めた。

 

「さっき見てきたのよ。あの子の背中の刺青がその『契約書』なのね?」

『その通りじゃが、いったい何があった?』

 

今度はカナメが問うと、プレシアは背を向けてドアに向かった。

 

「母さん? 何処に」

「アースラの医務室よ。実際に見ながら話したほうがいいわ。リニス、フェイトを着替えさせてあげなさい」

 

プレシアは一度引き返すと、カナメを手に取り、一足先にアースラへと足を向けた。

 




フランキスカは、フランク族が投擲用に使っていた戦斧で、刃の部分が小さく柄の部分が重くなっているのが特徴。
フェイトのハーケンセイバーなどと似ているから、使えるんじゃね、と思いこの名前に。
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