『あぁ、よろしく』『よろしくお願いします、インデックス』
彼女と出会ったのは、少し涼しかった8月の中頃だった。
ーー『あ、えっと……何か手伝える事とか、ないかな?私は完全記憶能力の持ち主だから、1回やり方を覚えれば何でもこなせるんだよ』
『あ、ああ……じゃあ、そこの花壇に花を植えてくれないかな?』
最初はぎこちない関係だったけど、少しずつ距離を近づけていった。
ーー『ステイル!これは凄いんだよ!新しいルーン文字を開発するなんて、歴史に名を残せるくらいの快挙なんだよ!』
『そ、そうかな?……ま、まぁ、僕ならこの1文字だけじゃなく、他にも新たなルーン文字を作成できるさ!』
君に褒めてもらったルーンは、今でも僕の誇りだ。
ーー『暖かい……穏やかで、優しい炎なんだよ……』
『インデックス。僕は、この炎に誓う。僕の命の炎が尽きるまで、僕は君を守るよ』
寒い雪のクリスマス、神の子の生まれた日に、僕は主と、そしてインデックスに誓いを立てた。その日の事は、今でも僕の頭の中に鮮明に残っている。
ーー『……だんだんと記憶を消す日が迫ってきてる……でも、私、ステイルとかおりとの日々を無かった事にしたくない!』
『あぁ、僕達もそうだ!だから絶対に、君の記憶を消さなくて良いような方法を見つけ出す!待っていてくれ、インデックス!!』
懐で泣くインデックスを抱きしめながら、彼女を助けると決意した晩春。そしてーー
ーー『ヴヮアアアア!イヤだイヤだイヤだ!2人とも、私の頭の中から消したくない!2人は、私の最高の友達だもん!』
『インデックス…!!』『ごめんなさい、あなたを助ける事が出来ずに……非力な私達で、ごめんなさい…!』
覚悟も努力も誓いも決意も虚しく、来てしまったタイムリミット。僕達は1晩中抱き合って、運命を呪いながら泣いた。
それから1日過ぎた、朝。空は皮肉なほど晴れ晴れしていた。
僕達は眠りから覚めたインデックスに尋ねた。それに対するインデックスの答えは、僕達に残酷な現実を突きつけた……
ーー『……ゴメンなさい……私、あなた達の事がわからないんだよ……ゴメンなさい……』
それが彼女との最初の別れ。そして、その時から僕達は出会いと別れを繰り返す。新たな別れはだんだんと僕達の心を壊し、新たな出会いは僕達に責任感と疲労という重圧を与えた。
そして5年目が終わった時……遂に僕達は彼女を助けるのを放棄した。どこかのヘタレな『先生』は救済を諦めてはいなかった様だったが、僕達には無理だった。
心が、ポッキリと折れてしまった様だった。
彼女の笑った顔と泣いた顔が、心に映った。
僕は考えた。『僕達との思い出』があったから、彼女は記憶との別れを苦しんだ。だから、僕達はこれ以上彼女が苦しまない様に……彼女が、記憶を消しても何も思わない様に……記憶を消したいと思う様に。彼女ができる限り幸福に……不幸を軽減して記憶を消す為に、自分達は彼女の敵になる、と。
その日から僕は……僕達は、1周目の彼女との誓い、そして2周目の彼女との約束、3周目の彼女との思い出、4周目の彼女との暮らし、5周目の彼女との日常を胸のうちに秘めながらも、彼女の為に彼女を敵に回した。
『安心して眠ると良い、たとえ君は全てを忘れてしまうとしても、僕は何一つ忘れずに君のために生きて死ぬ』
「…………!」
ステイル=マグヌスは飛び起きる。それまで見ていた長い夢を、しかし彼は頭の奥底に再び押し戻した。全身に流れる汗を自分の魔法で蒸発させようとしたが、ルーンは全て水に流された事を思い出し、眉をしかめる。
(……しかし、ここは?)
ステイルはふと思う。先程までーーもっとも気絶していた為先程、というのがどれくらい前なのかはわからないが、ステイルは屋外で戦闘をしていたはずである。しかし、今の彼は、四方八方を壁で囲まれている……とはいってもそこは石牢ではない。周りにはタンスや本棚などの日曜家具があり、漫画などの娯楽品が散らばっている。戦っていた学生寮の一部屋だろう、とステイルは推測した。自分の状態を客観的に見ると、頭の上には何か冷たいシートを貼られ、更にジャパニーズフトンの上に寝かされている。どうやら看病されている様だ、ここは病院か?とステイルが思った時、
「ん?起きたか?今お粥できたから持ってくぞ」
それは自分が先程戦った
そんな男が、部屋の奥から姿を現わす。
「!?うわぁぁぁぁぁぁぁぁあああああ!?!?!?」
ステイル=マグヌスは絶叫する。その理由は単純だった。
「ん?何だよ、1回戦っただけでトラウマか?まぁ、攻撃が効かない相手なんて、確かにトラウマ物だよな」
奥から出てきた少年、比嘉宗蒼は……裸エプロンだった。
裸エプロンだった!!
「助けてくれ!や、やめろ!やめてください!死ぬのはいい!だがそれは……僕は神に操を立てた身!清純を守らなければ死んでしまうんだ!!や、やめろ!僕の側に近寄るなぁ「ウルセェ!」ふぎっ!」
拳骨1発でステイルは布団に沈む。彼の横には、確かに比嘉宗が言った様にお粥が置かれていた。
「何だよ、せっかく看病してやったのに……つうか、そんだけよく叫べるな。水、持ってこよ」
そう言って比嘉宗は後ろを向く。ステイルはそこで比嘉宗の服装を見た。比嘉宗はエプロンの下に、どうやらタンクトップとハーフパンツを着ていたらしい。エプロンが大きい為に気づかなかっただけの様だ。
ステイルは自分の貞操の危機から脱した事に安堵する。すると比嘉宗は水を持ってきて、ステイルに差し出した。
ステイルは一瞬飲むのを躊躇ったが、自分に何かするなら気絶している間にしているだろう、と思い警戒をしながらも水を口にする。冷たい水が身体に染み渡り、ステイルは少しの爽快感を得た。
「……僕を看病して、どうするつもりだい?」
水を飲みきった後、ステイルは比嘉宗に問う。それに対し比嘉宗は、「? どうするつもりって?」と気楽に返す。
「敵である僕を殺さずに、こうして部屋に連れてきて寝かせていた意図は何だ、と聞いているんだ!」
声を荒げるステイルの前に、比嘉宗は座った。
「1つ大事な話があるんだ」
真剣な表情に、ステイルはごくりと唾を飲む。
「何だよ」と、ステイルは短く言う。
「俺に、さっきの技を教えてくれ!炎の巨人や、剣を出す技を!」
比嘉宗の言葉に、ステイルは少し黙った後、言った。
「ふざけるな!あれは僕が長年かけて創った、苦労の賜物だ!君みたいなバケモノに教える訳にはいかない!」
それに君は能力者じゃないか、という言葉をステイルは済んでの所で飲み込んだ。彼はステイルの事を能力者と思っているから、そのまま騙しておこう、と考えたのだ。外部の者が入ってきていると騒がれても都合が悪い。
「お願いします!弟子にでも何でもなるから!炊事洗濯何でもするからさ!ね!せめて炎の形状を変えるコツだけでも!」
「それだけの為とはいえ、看護してくれたのは感謝するし、だからこそ今回は見逃してやる!だが今度会った時、そして今度そんな事を口走った時は、僕の炎で君を炭にしてやる!それが嫌なら二度と僕に関わらない事だ!」
「馬鹿にした事怒ってるのか?すまない!ホントこの通り!」
比嘉宗の土下座には目もくれず、ステイルはドアを開け、部屋を出た。辺りは真っ暗闇、ニコチンが切れたステイルはイライラしながらも、もう1人の知り合いに電話をかける。それは数回のコールの後、ようやく繋がった。
『は、はひゃい!?か、神裂です!……あ、えっと違う……あ、そうだ。もしもし!』
「神裂……いい加減慣れてくれよ。今どこにいる?」
『……あの子の監視です。あの子が連れていかれた家から、回復魔法の反応がありました。もしかすると、別の魔術師の存在も否定できないかも……』
「そうか、わかった。僕もすぐにそっちに向かうよ」
そういうと、ステイル=マグヌスは闇夜に消えたーー
「……ダメか。まぁ、ダメ元だったけど」
比嘉宗はしかし少しショックを受ける。LEVEL3への……ひいてはLEVEL5への第一歩となるかもしれない、大事な交渉だったのだが、比嘉宗はそれを見事に失敗してしまった。
そして、1夜……どころか3夜が明けた。
比嘉宗のお隣さん、上条当麻はその間部屋に帰ってこなかった。あのらしくない緊迫した、恐ろしいまでに強烈なオーラを被った彼を見て以来、比嘉宗は彼と会っていなかった。
(……深刻な表情だったし、なんか問題でも起きたなら聞いてあげたいんだけどな)
そんな事を思いながらも、比嘉宗は宿題に遊びにとコロコロとやる事を変え、いつの間にか夜になっていた。シャワーを浴び、夕食の準備をしている途中で比嘉宗は気づいた。
「あ……タレ、切らしてる。買いに行かないと」
いつも隠し味に使っている焼肉のタレの枯渇に気づき、比嘉宗は大切な仕上げの数滴を求めて買い物に向かった。
時刻は午後8時20分。完全下校時刻を過ぎている為、バスや電車は動いていない。まぁ、こんな暗い中を歩いて、スキルアウトに絡まれたくもないだろうしな、なんて事を思いながら、比嘉宗は夜の街を歩く。
『----うるっせえんだよ、ド素人が!!』
罵声や破壊音が聞こえてくるが、そんなものはこの学園都市では割と日常茶飯事。恐らく
そして、更に3日が経った。上条当麻はその間も、1度として帰っては来なかった。そんな長い期間無断外泊はした事なかったはずだぞ、と流石に不安に思った比嘉宗は、上条の部屋を挟んで更に隣の、情報通な
「上やんがのたれ死んでないか?そんな、あんな水と日光だけで生きていけそうな上やんが、こんな簡単にくたばる訳ないにゃー」
「まぁ、そうだけどさ。流石に疑問に思うじゃん。何か知らない?」
「さぁ?流石に情報通の土御門さんとしても、お隣さんの日常に干渉する権利はないにゃー。ホモだとは思われたくないし」
その言葉に比嘉宗はため息をつく。
「そうだよな……仕方ない。何か色々知ってそうな、あいつに聞いてみるか……何だっけ名前?ステイル……」
「あぁ!思い出したぜよ!」
その時土御門は大声を出した。思わず比嘉宗は土御門を振り向く。
「そういえば上やん、小萌せんせーの所にお世話になってるって聞いたぜぃ。
「なるほど、そうかもな……もしそうだとしたら、
「……ちょっと俺は今回はパス。あと、小萌せんせーの所に青ピを連れて行ったら面倒くさいから、比嘉やんに全部任せるぜぃ!」
「えぇ、俺が全部やんの?」
「よっ!流石は我等がLEVEL2、いずれはLEVEL5になる男!不幸少年のピンチを颯爽と救い、いいとこ取りしてフラグを掻っ攫ってくるなんてお茶の子さいさいだぜぃ!!」
「行ってくるぅ♪」
こうして、比嘉宗はまんまと乗せられ、上条当麻のいる月詠小萌の家へと向かう。
「……まさか、比嘉やんまで魔術師と関わりを持ってしまうとは…LEVEL0の上やんと纏めて一括りにはできねぇぞ…」
〜〜〜〜〜〜〜
夕方5時。
「小萌せんせー、お邪魔しまーす。おっ!上やん!いたいた!」
比嘉宗はその後すぐに、小萌先生の家へと向かった。そこにいたのは、下を向いて項垂れている上条だった。近くには、1人の少女が横になっている。どうやら眠っている様だ。
「……比嘉宗……何しに……?」
上条は顔を上げると、比嘉宗に質問をしてきた。
「何しにって……1週間も帰ってきてないから、大丈夫かなぁと思って様子を見に……「帰ってくれ」!!」
「ここは危ない、じきに危険な奴がやってくるんだ!お前は離れとけ!」
それを聞いた比嘉宗は、しかし畳の上に腰を下ろす。
「上やん、そんな事聞いたら黙っちゃ置けないさ。今度は……その女の子を助けるんだろ?また手伝ってやるよ、今回は青ピとツッチーはいないけど」
その言葉に上条は何も答えず、ただ横を向いて眠っている少女を眺めた。
何気にインさん+神裂さん初登場!
次回、1巻最終話!
今回も読んでいただき、ありがとうございますm(_ _)m
これからもよろしくお願いします!