とある異能の発火能力   作:兵太郎

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禁書目録

--深夜、時刻は23時。小萌先生は銭湯に行って上条と比嘉宗、二人だけの部屋。そこに設置してあるダイヤル式黒電話の音で、比嘉宗は目を覚ました。

「はっ!いかんいかん寝てた寝てた」

さすがに5時からずっと何もしないでただ座って待つと言うのは退屈で、かといって冗談でも遊べる雰囲気では無いため、上条と比嘉宗はひたすら沈黙を貫いていたのだが、ついウトウトとしてしまった。上条が寝ているのを確認した覚えがある為、彼は自分より早く起きているだろうし電話も取ってくれるはず、と比嘉宗が他力本願を決め込むと、思った通り上条が電話に出た。電話から漏れてくる音を聞く限り、話し手は落ち着いた声の女。

上条と女はしばらくしゃべっていたが、急に上条が激昂した。

「な、めやがってーーそりゃあ裏を返せば諦めろっつってんだろ?いいか、分っかんねーようなら一つだけ教えてやる。俺はまだ諦めちゃいねぇ。いや、何があっても諦める事なんかできるか!」

上条はしばらく激昂したまま会話を続けていたが、だんだんとその声がしぼんでいく。冷静になったか、丸め込まれたか……比嘉宗が上条の様子を観察していると、上条は小さな声でポツリと言った。

「--なら、科学なら?」

そこから上条の話し相手への反撃が始まる。しかし、相手もどうあっても引かないらしく、最後は上条が「--それじゃ、潰すぜ。宿敵」と挑発し、ゆっくりと電話を置く。

 

「くそっ!」

上条は電話を置くと、畳の上に思いっきり右の拳を叩き込む。比嘉宗自身も経験したことのある、異能の力を打ち消す驚異の右手。しかし今、その拳は無駄に畳を傷めるだけだった。

上条は横を向き、女の子の顔を見た。そして彼は一度目を閉じ横になり、十数秒黙り込んだ後、腕の力を利用して起き上がった。

「科学の力を借りる……つっても俺は頭良くないから、小萌先生に話を聞かねぇとな」

そう言う上条だったが、数秒後には頭を抱えていた。

「俺、小萌先生の番号知らないじゃん!!」

上条の視線が比嘉宗へと向く。比嘉宗はそれに対し、首を振る事で応える。

「……探すか」「……おお」

比嘉宗と上条は、本やら缶ビールやら酒瓶やら灰皿やらが乱雑に置かれているゴミ屋敷の様な部屋を見回し、ため息をつきながらも行動を開始した--

 

 

 

 

--30分後。

「……お!これは!!」

比嘉宗は上条の声を聞き、そちらの方を向く。上条が持っているのは携帯電話の通知料金の明細書。そこには小萌先生の番号も書いてある!

上条はそれを手にすると、小萌先生の自宅の黒電話に飛びついた。電話番号を入力すると上条は明細書を放って両手で受話器を持つ。比嘉宗はその落ちてきた明細書を眺める。

「14万!?絶対悪質な電話に引っかかったんだろ!!」

担任の騙されやすさ……と言うよりお人好し度を半ば本気で心配していると、どうやら上条は小萌先生と回線が繋がった様で、現在の状況の説明を始めた。とは言っても、ほとんど何を言ってるかわからない、支離滅裂な話だったが。

あらかた話し終わった上条は、今度は聞き手へと回る。その受話器に比嘉宗も耳を近づけ話を共に聞く。

『……けど上条ちゃん。研究所の人間は昼夜逆転ダメ人間だとしても、能力者(がくせい)さんは流石にこの時間から呼び出すのはしんどいと思うのです。とりあえず施設だけ用意しとくです?』

「しとくです……ってダメだ先生。悪いけど一刻を争う状態なんだ、今すぐ叩き起こしてでも用意できねーのか?」

その言葉に小萌先生はけどー、と間を開けた後、

『だって、もう夜の12時ですよ?』と言った。

 

その瞬間、上条の血の気が一斉に引いていくのを比嘉宗は見た。驚愕に目を見開き、汗をダラダラと流し始める上条の急変に比嘉宗は驚く。

上条はそのままゆっくりと首を回し、女の子の方を向く。それにつられて比嘉宗も女の子の方を向いた。

 

畳の上の女の子は四肢を投げ出し、ピクリとも動かない。上条が声をかけても、何の反応も示さない。耳をすませばどうにか聞こえる様な浅い呼吸だけが、彼女がまだ生きていると何とか教えてくれていた。

 

 

その時、外からカンカンとアパートの通路を歩く音が聞こえた。小萌先生の帰宅かと比嘉宗は思ったが、どうやら音を聞く限り、二人いる。

比嘉宗が外に意識を集中させようとしたのとほぼ同時、小萌先生の部屋のドアが蹴破られた。

ドアの前にいたのは一組の男女。女の方はポニーテールにTシャツに、片脚だけ大胆に切ったジーンズという姿。その腰には優に二メートルは超えるであろう日本刀がぶら下がっている。

そして男の方は比嘉宗を見ると、驚いた様に目を少し広げたが、すぐにしかめっ面に戻ると大きく舌打ちをする。

「おい。二度と僕の目の前に現れるなと言ったよな。何故君がここにいる!」

その男の名は、ステイル=マグヌス。比嘉宗と同じ火の能力者だ。

「お前には関係ないだろ」

比嘉宗がそう言うと、ステイルは比嘉宗の胸倉を掴み、壁に叩きつけた。

 

「……お前の様な事情も知らない部外者がここにいては迷惑だ。こっちにもやる事があるんだ。時間も限られている。なぜここにいるかはもういい、聞いても時間の無駄だ。ただ……邪魔だけはしてくれるなよ」

比嘉宗は軽い痛みに小さく顔を歪めながらも立ち上がろうとするが、その腹に今度は重い衝撃が走った。

「……安心してください、峰打ちです」

鞘から刀身を出していない刀を腰に再び持っていきながらポニーテールの女がそう言うが、比嘉宗は腹へのダメージだけで意識が飛びそうになった。思考がブラックアウトしない様に何とか踏みとどまるが、足に力が入らない為立ち上がる事ができなくなってしまっている。少しすれば回復するだろうが、彼らがそれを待ってくれるはずもない。

ステイルは、呆然と立ち尽くす上条を片手で突き飛ばす。さしたる威力もなかったのに、上条は全身の力が抜けてしまったかの様に、そのまま古い畳の上に尻餅をついてしまう。

 

クロウリーの書(ムーンチャイルド)を参照。天使の捕縛法を応用し、妖精の召喚・捕獲・使役の連鎖を作る」

ステイルは比嘉宗を攻撃した女の方を向く。その顔には表情というものが微塵もなく。

そこには、たった1人の少女を助ける為に人間を辞めた、魔術師の顔があるだけだった。

 

「--神裂、手伝え。この子の記憶を殺し尽くすぞ」

比嘉宗には言っている意味がよくわからなかった。ただ、今の状況を完全に理解できず、朧げな意識を通常に戻す為深呼吸をしながら、他の三人をただ眺めるだけだった。

 

「…………ま、てよ」

しかし、当事者(上条当麻)は違った。

彼は、ステイル=マグヌスに対し、強く、訴える様に、叫んだ。

「お前達だってこんな方法は取りたかねーんだろ!心の底の底じゃ他の方法はありませんかってお祈りしてんだろ!だったらもう少し待ってくれ、俺が必ず誰もが笑って誰もが幸福な結末を探し出してみせるから!だからっ……!!」

 

 

 

沈黙。ただひたすらに沈黙。かすかな息遣いだけが響く、異様なまでの沈黙。

 

 

 

そして、訴えを聞いた裁判官(魔術師)は、ゆっくりと低く言った。

 

「言いたい事はそれだけか、出来損ないの偽善者が」

 

ステイルは上条当麻に近づいていくと、彼の髪の毛を掴み、強制的に横を向かせる。比嘉宗もそれを見て彼らの視界の先を見る。

そこにいたのは一人の少女。

「君はこの子の前で同じセリフが言えるのか!?こんな死人の1秒前みたいな人間に!激痛でもう目を開ける事もできない病人に!ちょっと試したい事があるからそのまま待ってろなんて言えるのか!!」

震えた声が部屋に響く。

「だったら君はもう人間じゃない!今この子を前に、試した事もない薬を打って顔も名前も分からない医者どもにこの子の体を好き勝手いじらせ、薬漬けにする事を良しとするだなんて、そんなものは人間の考えじゃない!

 

--答えろ能力者。君はまだ人間か、それとも人間を捨てたバケモノなのか!?」

 

上条当麻には、その問いに答える事ができない。

ましてや、部外者である比嘉宗蒼にはなおさらだ。

ステイルは上条の目の前に十字架を取り出しながら、項垂れた上条を見てつまらなそうに言った。

「準備を合わせて、最短で……午前0時15分。獅子座の力を借りて記憶を殺す」

上条は叫ぶ事も吠える事もできず、後ろにあった本棚に寄りかかり、天井を見上げながら呆然と呟く。

「……なぁ、魔術師。俺は最後に、この子になんて言ってお別れすれば良いんだと思う?」

その目から涙が零れ落ちてくるのも気にせずに発した彼の言葉を、ステイルは「そんなくだらない事に割く時間などどこにもない」と両断する。

 

そっか、と上条は呆然と答えた。

そのまま死体になってしまったかの様に、上条は小さく笑う。

 

「--アイツの背中が斬られた時もそうだけどさ、何で俺には何もできねーのかな。

これだけの右手を持っていて、神様の奇跡(システム)でも殺せるくせに。

どうして、たった一人--苦しんでる女の子を助ける事もできねーのかな」

比嘉宗はそれは違う、と言ってやりたかった。しかし、それは慰めにすぎなかった。現に今、上条の近くにいる少女は瀕死の状態で、上条にはどうする事もできないのだ。彼の右手に宿る、幻想殺し(イマジンブレイカー)では、どうにも。

ポニーテール女--神裂火織は、辛そうに目を背けようとした後、

「儀式を行う午前0時15分まで、まだ10分ほど時間があります」

凛とした、しかしどこか優しい声で告げる。

「…私達が初めてあの子の記憶を消すと誓った夜は、1晩中あの子の側で泣きじゃくっていました。そうでしょう、ステイル?」

神裂の言わんとする事がわかったステイルは、彼女を睨みつける。その目は少し泳いでいて、動揺しているのが見て取れた。

「……ッ!だ、だが。今のコイツは何をするか分からないんだ。僕達が目を離した隙に心中でも図ったらどうする?」

「それなら、さっさと十字架に触れていると思いませんか?彼がまだ『人間』だと確信したからこそ、あなたも本物の十字架を使って試したのでしょう?」

「しかし……」

なおも渋るステイルに、神裂は諭す様に優しく言う。

「どの道、時が満ちるまで儀式は行えません。ここで彼の未練を残しておけば、儀式の途中で妨害が入るという危険が残りますよ。ステイル」

ステイルは、上条と少女を見て、ギリギリと歯を噛み締める音を離れている比嘉宗の所まで響かせた後、

「10分間だ。良いな!?」

パッと、踵を返してアパートのドアへ向かった。

それに続いて神裂も部屋を出る--

 

--前に、起き上がった比嘉宗は、彼女の細いながらも筋肉のついた腕を掴んだ。

「……話が、聞きたいんだ。上やんが……あんた達が助けようとしている、その子の事を」

神裂火織は少し驚いた顔をした後、

「話してしまったら、あなたも記憶を消さなくてはなりませんよ」

その言葉に黙って頷く比嘉宗を見て、彼女は比嘉宗の腕を逆に掴み、彼を引っ張りあげる様に飛び上がると、月詠小萌宅の向かい側の家の屋根の上に彼を連れてきた。そこでは、ステイル=マグヌスが先ほど上条に見せた十字架に、細工を施していた所だった。

「神裂っ!?何をして……」「少々昔話をするだけです。あなたは作業に集中してください」

不機嫌になるステイルを背に、神裂は比嘉宗に、少女……禁書目録(インデックス)の話を始めた。

 

曰く、彼女は完全記憶能力の持ち主で、その頭の中に10万3000冊の魔導書……『禁書』を『持っている』事。

曰く、彼女はその能力の為に脳の約85%を圧迫してしまっていて、彼女が残りの容量で生きていく為には、毎年一度、禁書以外の全てのエピソード記憶を忘れないといけない事。

曰く、神裂火織やステイル=マグヌスはインデックスの同僚であり友人でもあり、これまで何度も記憶を消去する以外の解決策を考え、実行し、しかし全て失敗に終わった事。

 

全てを聞いた比嘉宗の目からは、滝のごとく涙が溢れ出る。彼は、背中を向けて黙々と作業を続けるステイル=マグヌスに向かって、土下座する。

「すまない、先日は軽々しくあんな事を言って」

ステイル=マグヌスは応えない。

「俺、お前の能力を尊敬してたんだ。強い能力だって。一生懸命努力したんだなって。そりゃ強いよな。お前には、護るものが居るんだもん」

 

ステイルが首をあげる。

 

と、そこでドン!と小萌宅から鈍いが大きな音が響く!

何だ?と三人がそちらを振り向くと、

 

轟っっっ!!!と、小萌宅の屋根の一部から、レーザー光線が飛び出す!

 

「な、に!?」「!?」「えっ!?」

シンクロしたリアクションを示した後、三人は急いで小萌宅に向かう。ドアを神裂が蹴り破って、三人は中を見る。そこに居たのは、

 

 

「あはははははははははははははははははははははははははははははははは!」

 

嬉しそうに……ただただ嬉しそうに笑う、上条当麻。そして、

 

「……」

無表情で光線を放つインデックス。

「……ど、竜王の殺息(ドラゴン・ブレス)って、そんな。そもそも何であの子が魔術なんて使えるんですか!」

神裂の悲鳴にも似た声に、上条は後ろを振り返らず言う。

 

「御託はいい!今大事なのはコイツを止める事だ!俺はどうすれば良い!?一つ残らず全部纏めて片っ端から説明しやがれ!」

逡巡する神裂に、上条は更に言葉を紡ぐ。それこそ、前提がひっくり返る様な言葉を。

 

「見りゃ分かんだろ!インデックスはこうして魔術を使ってる、それなら『インデックスは魔術を使えない』なんて言ってた教会が嘘ぶっこいてたってだけだろうが!ああそうだよ、『インデックスは一年置きに記憶を消さなきゃ助からない』ってのも大嘘だ!コイツの頭は教会の魔術に圧迫されてただけなんだ、つまりソイツを打ち消しちまえば、もうインデックスの記憶を消す必要なんかどこにも無くなっちまうんだよ!!」

「----『(セント)ジョージの聖域』は侵入者に対して効果が見られません。他の術式へ切り替え、引き続き『首輪』保護のため侵入者の破壊を継続します」

インデックスという少女は、神裂が言ったようなハキハキとした元気の良さそうな声とは程遠い、冷淡なトーンで言葉を紡いでいた。

 

「……Fortis913」

ステイルはそれらの全てを見て、ただそれだけを口にする。彼の服の中から、何万枚ものカードが飛び出し、それらは台風の様に渦を巻くと部屋中、至る所に取り付いた。

しかし、それは上条を助ける為ではなかった。

「曖昧な可能性なんて、いらない。あの子の記憶を消せば、とりあえず命を助ける事ができる。僕はその為なら誰でも殺す。いくらでも壊す!そう決めたんだ、ずっと前に」

「とりあえず、だぁ?」

ステイルのその決意を蹴っ飛ばす様に、上条当麻は声を出す。彼が言いたいのはたった一言。

 

「テメェは、インデックスを助けたくないのかよ?」

 

ステイルの動きが止まった。

「テメェら、ずっと待ってたんだろ?インデックスの記憶を奪わずに済む、インデックスの敵に回らなくて済む、そんな誰もが笑って誰もが望む最っ高に最っ高なハッピーエンドってヤツを!ずっと待ち焦がれてたんだろ、こんな展開を!英雄がやってくるまでの場つなぎじゃねえ!主人公が登場するまでの時間稼ぎじゃねえ!他の何者でも他の何物でもなく!テメェのその手で、たった一人の女の子を助けてみせるって誓ったんじゃねぇのかよ!?

ずっとずっと主人公になりたかったんだろ!絵本みてぇに映画みてぇに、命を賭けてたった一人の女の子を守る、そんな魔術師になりたかったんだろ!だったらそれは全然終わってねぇ!始まってすらいねぇ!!ちょっと長いプロローグで絶望してんじゃねぇよ!!」

 

ステイルの声が、消える。

 

「----手を伸ばせば届くんだ。いい加減に始めようぜ、魔術師!」

上条の右手からグキリ、と嫌な音が聞こえた。上条の右手が大きく弾き飛ばされる。完全に無防備になった上条を貫こうと光の柱が凄まじいスピードで突っ込んできて

 

「Salvare000!!」

光の柱が上条の目の前で大きく逸れる。それはアパートの壁から天井までを一気に持っていき、漆黒の空までも引き裂いていく……もしかしたら、大気圏の外にある人工衛星まで引き裂かれたかもしれない。

しかし、そんな事は彼らには関係なかった。

再び上条に襲いかかる光の柱、上条は小指の折れた右の手のひらを左手で支え全力で受け止めようとするが、

魔女狩りの王(イノケンティウス)!!」

間に割って入った巨大な炎の巨人が、両手を広げて真正面から光の柱を受け止める!

「行け、能力者!」

その言葉に上条は再び走り出す。

「警告、第22章第1節。炎の魔術の術式を逆算に成功しました。曲解した十字教の教義をルーンにより記述したものと判明。対十字教用の術式を組み込み中……

第1式、第2式、第3式。命名、神よ、何故私を見捨てたのですか(エリ・エリ・レマ・サバクタニ)完全発動まで12秒」

光の柱が純白から真紅へと変わっていく。それと共に魔女狩りの王(イノケンティウス)の再生スピードがどんどん弱まっていく。

更に、先ほどの光の柱の天井破壊の後に生まれた大量の光の羽が、ゆっくりと上条の頭上に降りかかろうとする。

 

上条はしかし、後ろも前も振り向かない。そこには、自分に負けない『主人公』が、何人も立っているから。

 

 

「--α座標を認定。仮の身長、体重、姿勢を設定。それに見合う炎を展開!」

 

比嘉宗 蒼は、そう言いながら、イノケンティウスの前に飛び上がる!彼は大きく四肢を広げると、全身から炎を噴出する!

 

炎は最初、比嘉宗の身体を纏う様に展開する。しかし、その炎は内側から押される様に外に広がっていき、遂にはその炎の鎧が、全長5mほどの炎の巨人--そう、それこそ魔女狩りの王(イノケンティウス)の様な--になる!

 

比嘉宗は、『火着篭利(ファイヤーアーマー)』を全身に身につける時の演算で自分の身体の大きさをわざと大きめに狂わせて計算する事で、今まで以上に巨大な鎧を着ける事に成功していた!自分だけの現実(パーソナル・リアリティ)を都合よく修正し、自分の常識を崩す事によって、超巨大な炎を見に纏ったのだった!

 

少し前よりかなり難解な演算による脳への負荷と、今まで以上に大きな炎の重量による身体への負荷を受け、鎧の中で鼻血を出しながらも、比嘉宗は笑っていた。

「上やん!俺も飛び入り参加だけどさ!主人公(ヒーロー)になれるかな!?」

 

真紅の光の柱を巨大な炎の脚で床に叩きつけ、天井から落ちてくる光の羽の大半を炎の腕で薙ぎ払いながら、比嘉宗蒼は問う。

その言葉に上条当麻は、

 

「当たり前じゃねぇか!」

 

光の柱は地を貫いており、光の羽は薙ぎ払われた。邪魔者のいなくなった上条は右手を大きく開き、大きく振り下ろす。

 

そこにあった亀裂、それを生み出す魔法陣が、あっさりと消えていく。

 

それを見て比嘉宗は、炎の鎧を脱ぐ。炎が消えた事で空中に置き去りにされた比嘉宗は、二メートル下に叩きつけられる。受け身を取る事もできず、転がる比嘉宗。耳や鼻から血をダラダラと溢れさせながらも、彼は最高のハッピーエンドの余韻に浸る。今度こそ途絶えそうな意識に抗う事をやめ、彼はそのまま目を瞑った--

 

 




--「LEVELを上げるためかは知らないけれど、無理な演算はほどほどにね?」
小太りなカエル顔の医者はそう言って比嘉宗蒼を諌める。

今の彼はベッドの中で横になっている。戦っている時はアドレナリンの循環により忘れていた痛みが、むち打ちの様な形で襲いかかってきていた。それでも、ナースさんからの一日一度のマッサージの機会をゲットした!と考える、転んでもただでは起きないポジティブシンキング比嘉宗に、カエル顔の医者は封筒を渡しながら言う。
「あの白い服を所々安全ピンで留めている少女からもらったものだ。多分、君をここに連れてきた人からの手紙じゃないかな?」
言われて、比嘉宗は差し出し人の名前を見ると確かに『炎の魔術師』と明記されていた。こんなんだから俺に厨二病なんて言われんだよ、と思いながら、比嘉宗は封を切って手紙を取り出す。

そこにあったのは二枚の便箋。その内一枚には文句や苦情がびっしりと書きつけられていた為、比嘉宗はくしゃくしゃとそれを丸めて、近くのゴミ箱へとシュートする。
もう一枚の便箋には崩し字ながらちゃんと読める日本語で、その後の端末が記されていた。
上条当麻が禁書目録の管理人になった事。
禁書目録に身体上の問題はない事。
基本はその二つだった。
比嘉宗はそれをテキトーに読み飛ばす。インデックスはこちらにいる様なので、詳しい事は彼女や上条から聞けばいいかな、などと思いながら、比嘉宗は最後の二文にたどり着く。

『それと弟子の件だけれど、僕にも弟子はいない訳じゃ無い。僕は学園都市に来る事がこれからも多々あるだろうから、その時イノケンティウスの殴られ役ぐらいなら任せてあげてもいいよ』
よっしゃー!とベッドの上で興奮する比嘉宗、それを静かにね?と注意してカエル医者は立ち去る。ボン、と何かが爆発する様な音が比嘉宗の個室から響いたが、カエル医者は気にも留めず、廊下の窓の桟に手をかけて空を見渡す。

「いい天気だ」

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