とある異能の発火能力   作:兵太郎

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社燕秋鴻

『禁書目録』事件(比嘉宗曰く「強化イベント」)から五日後、比嘉宗はカエル顔の医者から完治と退院許可を言い渡されていた。

「もともと派手な外傷はなく、打ち身状態だった身体もマッサージでほとんど回復した。実際この診察室まで自力で歩いて来れているし、君はもう大丈夫だね?」

「そうですかーありがとーございますー」

「君は今日中に退院する事。それもできるだけ早くに、だね?」

「えーでもやっぱりもうちょっといた方が良いような気がしてきたんだけどなー」

「もうマッサージはしないよ?」

「先生、ありがとうございました。それでは、また会う事がない事を祈ってます」

ピシィッ!と敬礼する比嘉宗にカエル顔の医者ははぁ、と息を吐く。

「荷物はこっちで君の寮へと送っておくから、君はそのまま帰るといい。病み上がりに宿泊セットは、意外と酷だろうからね?」

「あ、ありがとうございます。確かにあれ重いんですよね」

ちなみに重量の半分ほどを占めるのは、比嘉宗が暇つぶしに、と売店で買ったマンガだったりするのだが、カエル医者はそんな事をいちいち告げたりはしない。

 

と言うわけで、手ぶらで病院を出る比嘉宗蒼。一応手持ちに千円札とコインをポケットに詰めている為タクシーも呼べるのだが、リハビリも兼ねて歩くと決めた比嘉宗はその金を道中で使うのはやめておくつもりだった。

 

上やんはまだしばらく入院みたいだし、俺が治ったよーなんて言いに行くのも嫌味ったらしいかな?なんていう理由から上条当麻の個室には近寄らずに立ち去った比嘉宗。病院の前に並ぶ青々と茂った並木を眺めながらのんびりと歩いていくと、前から知人が来るのがわかった。

「よう青髪、久しぶり」「おお、比嘉やんやないの」

青髪ピアスは片手を上げて比嘉宗に挨拶する。その手には沢山のパンが入ったバスケットがあった。

「見舞いか?」と聞くと青ピは頷く。上条を遊びに誘おうとしても電話に出ない為、寮長さんに電話をかけたところ入院している、という事を知ったのが昨日らしい。

 

と、そこで比嘉宗の頭の中に、一人の少女が思い出される。上条の隣で寝ていた銀髪のシスター、禁書目録。

 

考えよう。青髪ピアスが禁書目録、更にそれに懐かれている上条当麻を見たらどうなるか。

 

『やー上やんまた女の子と一緒なんかいな。全くしょうがないなぁ、HAHAHA!』

違う、青髪ピアスはこんな紳士的でもアメリカンでもない。

『上やん、その子誰なん?良かったら紹介してくれへん?』

それもそれで面倒くさいが、多分青ピが取る行動はそうじゃない。

 

『上やんテメェ!また入院のついでに色々アレコレやってもらってる訳ですか!?おいおいおいまさか「アーン」という対病人用殿下の宝刀を早速駆使してるんじゃ無いやろうな!いくら上やんが上やんやからといって、僕が目の黒いうちはそんなフラグ進行イベは許しませんよって!』

(……うーん、アリエール。でもさすがにあの戦いの後の上やんにそれを対処させるのは悪いかなぁ?)

そこまで考える時間、わずかに二秒。比嘉宗は早速進化した演算を全く関係の無い事に使うのであった。

 

「あー、でもその……あれだよ、うん。上やんはその……色々と忙しいから。俺と違ってまだ動けないし、今行っても面会謝絶とかだと思うぞ?」

「そうなん?」と疑問顔になる青ピを見て、比嘉宗は更に畳み掛ける。

「あー、その荷物は俺が先生の所まで持ってくから、今日は帰ってまた後日来た方が良いと思うぜ」

それを聞いて青ピは、

「……わかったわ。じゃあ上やんに『はよようなれよ』って伝えて、って先生に伝えといて?」「りょーかい」

こうして青ピからバスケットを受け取った比嘉宗は、回れ右して病院に戻る。

 

病院の前までたどり着いた比嘉宗。こうなっては仕方ないし、顔出しも兼ねてさっさと上やんの所に行くか、などと思っていると、その後ろに車が止まる時のタイヤを道路で擦った音が聞こえてくる。

比嘉宗が振り向くと、そこには『学舎(まなびや)の園』専用の高級感漂うタクシーが止まっていた。しかも二台。

その二台からほぼ同時に出てくる二人の少女。片方は常盤台(ときわだい)、片方は枝垂桜(しだれざくら)学園という『学舎の園』の五つの名門校の制服を着ているのだが、どちらも見た目のせいでコスプレにしか見えない。

 

「あら、上手くあなたの周りに誤情報力を持たせて操った人達を配置しておいたのに、特に意味がなかったようねぇ」

常盤台中学の制服を着た蜂蜜色の髪をした巨乳女子が睨みながらソプラノボイスを低くした、少し相手を馬鹿にした口調で言うと、枝垂桜学園の制服を着たチョコレート色の髪の巨乳女子が睨み返しながら甘ったるい声で余裕を持った言葉を返す。

「私はあなたと違って『学舎の園』の外に寮があるのよ。つ・ま・り。私はあんたのつまんない情報なんてもらわなくても、私の足だけで情報を拾えるって事なのよ」

チョコ髪の言葉に蜂蜜髪はわざとらしく肩を竦める。それに連動する様に、持ち前の巨乳が縦にゆっくりと揺れる。

「それはそれは。まるで労働者……働きアリみたいねぇ。女王の為に蜜をひたすら集め続ける生まれながらの奴隷みたいな。あは、まさにあなたの名前にぴったりね、蜜蟻愛愉(みつありあゆ)

その言葉にチョコ髪は右手の人差し指を伸ばし、蜂蜜髪の目の前で回しながら嗤う。

「あなたこそ、下僕にばっかり働かせてるせいで運動オンチなのは治らないどころかむしろ悪化してるし、こういう風に情報を先に拾っても素早い行動ができないんじゃなくって?ねぇ、食蜂操祈(しょくほうみさき)

 

「あーあー待った待った上やんはケンカしてる二人なんて見たら困っちゃいますよー」

視線でスパークを起こしている女と女のドロドロとした昼ドラ風の戦いの間にそう言って割って入る比嘉宗。上やん、という言葉に反応した二人はフン、と言ってお互いから顔を背ける。どうにかケンカは止められた様だ、と比嘉宗は安堵する。

 

彼女達は共に精神系能力使いの大能力者(LEVEL4)で、上条当麻の知り合い(ヒロイン)である。どちらも面倒な能力と心の持ち主で、ケンカする時には持ち前の能力のうちの一つ、相手の体内外の水分を操ることによる精神操作を使って、操った手駒三十人(一般人)ほどをボードゲーム感覚で戦わせる様な奴らである。

また、どちらも上条当麻(と愉快な仲間達)によって救われた事のある、比嘉宗達が認知しているフラグの立った恋する乙女(笑)でもある。

 

(ちなみに、比嘉宗蒼は彼女らに操られはしない。彼女達が体内の水分を操作しようとする際に出す電波の様なものを、彼の能力の熱が無意識に屈折させ、別の方向に追いやってしまうからだ)

 

「あら、比嘉宗さんお久しぶりねぇ☆相変わらず暑苦しい火を見に纏ってるのかしらぁ?」

食蜂操祈は今までの事が無かったかの様ににこやかにこちらに話しかけてくる。比嘉宗もさっきまでの事を忘れたいのか、白々しいほどの笑顔でそれに応じる。比嘉宗は、お嬢様はオシトヤカなものだと未だに信じたい人間だ(眼前の二人とビリビリ短パン少女にその幻想はブチ殺されている訳だが)。

「よう、久しぶりだな食蜂……お前さん、ずいぶん変わったけど、何かしたの?」

比嘉宗は食蜂の一部分を凝視しながら呟く。それに対し食蜂は、その部分を見せつける様に弾ませながら応答する。

「企業秘密よぉ☆ただ、私が本気力を出せばこんなの余裕、とだけは言っておきましょうか」

「少し前まで貧乳属性だったくせに、何を偉そうに」

腰につけているポーチから出したリモコンを向けられ、比嘉宗は両手を上げる。目の前で他の人が操られているのを見た事がある身としては、操られないとわかっていても怖いものは怖い。

「まぁ、この為だけに二年間彼と会うのを我慢してた訳だしぃ?……もう『こんな陳腐な胸ではお姉様サポートの対象外』なんて言わせないわっ!!」

何か最後小声で早口だったせいで全く聴こえなかった。そう言う難聴(にさせる)スキルは上やんに発動してほしいと思う比嘉宗である。

 

「その点、お前さんはあんまり変わってないよな。蜜蟻さんよ」

蜜蟻愛愉はその言葉を聞いてフッと鼻で笑う。

「変化が無いって事は悪い事じゃ無いのよ。むしろ、変化しないって事はとても難しい事なの。服装・髪型・匂いはわかりやすいとして、肌の色や質感、ルージュの色、果ては眉の太さやまつ毛の長さに至るまで、私はできる限り『昔の自分』かつ『最高の自分』を振舞ってるのよ」

「え、じゃあ鼻毛の長さとかも揃えふもっふ!?」

蜜蟻さんご自慢の美脚で腹部鳩尾をシュートされ、悶える比嘉宗。

「……よし、さっさと行こうかしら。早く上条君に会いたいし」「そうねぇ」

腹を抑えてうずくまる比嘉宗の横を無慈悲にも情けの言葉の1つもかけず通り過ぎていくエリート少女達。と、そこで比嘉宗が彼女らに声を再びかけた。

「……う、あ。そうだ。ねぇねぇ君達、ここに上やんの友達お手製のパンのバスケットがあるんだけど、良かったら上やんまで届けてくんない?」

その言葉に二人はわざわざ比嘉宗の前まで戻ってくる。蜜蟻が代表する様に比嘉宗の胸ぐらを掴み、持ち上げて問う。

「答えろ、そいつは女か!女なのかー!!」

「違います男ですコイツですコイツ!」

慌てて旧型二つ折りケータイを開いてホーム画像の仲良くケンカする4バカルテットの写真を見せ、青髪を指差す。すると蜜蟻も大人しくなったが、一旦比嘉宗を地面に降ろしてから再び問いかける。

 

「そいつはホモじゃ無かったわよね」「そんな事言ったらあいつ泣くぞ」

そういえばショタはOKだったっけな?などと青ピの変態性癖演説を思い出しながら言うと、蜜蟻はやっと許してくれたのか手を服から話し、バスケットの取っ手を持った。

「じゃあこれはちゃんと渡しておくから」「任せといてねぇ」

こうして彼女らは行ってしまった。残されたのは、恋する乙女の凄みを知った哀れな男ただ一人。彼はその場で呆けていたが、しばらくして立ち上がり、今度こそ帰路につく。

 

ところで、バスケットのパンの下に敷いている新聞紙の更に下に、青髪ピアスの選り抜きR-18本が忍ばされており、そのせいで上条の病室で一悶着あるのだが、それは比嘉宗には関係ない。

彼は再びまっすぐ並木道を進む。すると、再び知り合いを見つけた。

「よう、御坂ー。お前もお見舞いか?」

手を上げて挨拶すると、話しかけられたこれまた常盤台の制服に身を包んだ少女は真似をして応える。

「よう、とミサカは貴方の挨拶の仕方に倣って復唱します」

いつもの様な抑揚の富んだ声では無く、平坦で浮き沈みの無い声がかけられた。

食蜂と同じ常盤台の制服のこの少女の名は、御坂美琴。しかし、この学園都市ではそれ以上によく知られた二つ名が彼女につけられている。

超電磁砲(レールガン)』、彼女の能力名でもあり必殺技でもあるその名は、学園都市でも三番目を揶揄し、その名を聞いた者に尊敬、あるいは畏怖の念を抱かせること請け合いである。

そう。

御坂美琴は、学園都市で六人しかいない『超能力者(LEVEL5)』の一人なのである!

 

「あれ、何か元気無いけど、病気?」

が、別に比嘉宗は彼女を尊敬も畏怖もしない。それは比嘉宗が命知らずな訳でも世間知らずな訳でもなく、彼女が年相応な、思春期真っ盛りな発達途上少女だと知っているからである。

「体温36.4℃、脈・心拍ともに異常なし。特段身体に問題は感じません、とミサカは心配無用と言い放ちます」

「あれ、そんな口調だったっけ?また何かマンガのキャラの真似でもしてるのか?」

「ミサカはお姉様(オリジナル)と違ってそんな幼稚な行為をしたりはしません、とミサカは暗にお姉様(オリジナル)を小馬鹿にしつつ訴えます」

「あ、そうですか」

あ痛たたー!!と思いながらもそっとしておいてやる比嘉宗。こういうのは本人が気づいてやめるのが一番なのだ、と自分に言い聞かせる。決してそれを指摘して砂鉄やら電撃やらが飛んでくるのが怖い訳では無い。

そういえばこいつも中学二年だったっけ、と思い出す比嘉宗。さっきあった食蜂もそうだが、彼女らは行動が子供っぽすぎる。とても中学二年には見えない……が、今日は珍しく中学二年生らしい感じだ、と比嘉宗は自分達(デルタフォース)を棚に上げて考える。

「まぁ、夏風邪に気をつけてな。暑いからって腹出して寝るなよ」

こういう時は口が滑る前に退散するに限る、と思った比嘉宗は早々に話を切り上げて別れの言葉を告げる。

 

「では、さらばです、とミサカ10027号は小さくなった背中に別れの言葉を告げます」

早々に立ち去った比嘉宗に、御坂は小さくそう言った。

 

 

 

 

 

 

 

「……また知り合いに会いそうな気がする」

そう言いながらテクテクと歩いて行く比嘉宗。すると彼の予想通り、目の前にひとの男が現れる。

 

並木道を抜けたところで金髪にサングラス、金色のネックレスという怪しい見た目をアロハシャツでさらに強化した男が比嘉宗の道を塞いだ。

「よーう比嘉やん。調子はいかが?」

土御門元春はグラサンをクイッと上げると、普段より少し低めの声で比嘉宗に言う。

 

「ちょっち一緒に来て欲しいところがあるんだけど。あ、拒否権はないぜぃ」

 

 

 




今回出てきた人達は、上条君と最後の土御門君以外は皆、LEVEL5関係だったり。

我らが女王、食蜂さんは『パラメータ・リスト』の計算上で蜜蟻さんとほぼ同じ位の計算だった為に、上層部がどちらをLEVEL5にするか決められず、どちらもLEVEL4認定のまま、という設定。逆にいえば、原作ではLEVEL3程度だった蜜蟻さんもそれだけ努力している、という感じです。ミサカさんは言うまでも無く、LEVEL5として産まれてこれなかった、18万円で造られた失敗作の欠陥電気。このSSでは妹達編には触れないつもりなので、ここで顔出しさせておきました。

次回、土御門に連れて行かれた先は……!

今回も読んでいただき、ありがとうございますm(_ _)m
これからもよろしくお願いします!
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