とある異能の発火能力   作:兵太郎

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窮猿投林

--病院を出てからしばらく経った。比嘉宗(ひがむね)(あおい)はどこかいつもと雰囲気の違うクラスメイトに、話しかけようと思っては躊躇、の繰り返しだった。

やがて、二人はビル群の中にある少し小さめのビルに入る。カウンターからまっすぐエレベーターに行き、箱に入って4Fのボタンを押す。ゆっくりと動き出したエレベーターの音を背景に、やっと比嘉宗は土御門元春(つちみかどもとはる)に声をかけた。

「……なぁ、つっちー。こんなよくわからん商業ビルに入って、一体何するつもりだよ?」

「……」

土御門は言葉を返す代わりに、四階に数個あるドアの内の一つを開けた。中には、何もない。緑の壁紙と青のカーペットが敷かれただけのその部屋の中央よりやや右に、名門・霧ヶ丘(きりがおか)女学院の制服を着たツインテ巨乳の女子が一人、こちらにペコリとお辞儀をしてくる。

「お待ちしておりました」「いつものところまで頼む」

その言葉と共に、土御門は比嘉宗の手首を掴み、引っ張る。

 

一瞬だった。

 

「あれ?ここ、どこだ?」

急に視界が360°全て見た事のない景色に変わっている。先ほどの緑と青の景色が、今は薄暗い中にぼんやりと見える赤や緑になっていた。

「ついて来い」

土御門は掴んでいた手首を離すと、足早に歩き始める。慌てて後を追う比嘉宗。途中何度か階段を降りたり登ったり、右に曲がったり左に曲がったりして、五分ほど更に歩いた頃。

比嘉宗の視界に、赤い水の入った超巨大なビーカーが映った。

 

そして、その中に逆さまに入っている一人の人間も。

 

比嘉宗はそれを見てギョっとするが、土御門は構わずそのビーカーの正面に回り込む。正直嫌だったが、ついて来いと言われていたため仕方なく比嘉宗もその人間の真正面に立った。

 

ビーカーの中に浮かぶのは、緑色の手術衣を着た人間。

比嘉宗にはその人間が、男にも女にも、子供にも老人にも、聖人にも囚人にも見えた。

 

「やぁ、土御門。待っていたよ」

ビーカー内の人間の口から発せられた言葉に、比嘉宗は再び驚く。ビーカーの中に入っていた人間が、生きているとは思っていなかった。

ビーカーの中に入っている人間は、それほどに。人間の最高級標本(サンプル)と言われても頷けるというほどに、人間であり人間以外の何者でもなかった。

 

人間は、不自然とも思えるほど自然な微笑みを浮かべると、こちらを見てくる。

「君が比嘉宗蒼君かい?」

問われて頷く比嘉宗。その足はなぜか震えていた。

 

「私は統括理事長、アレイスター=クロウリー。簡単に言うと、この街の最高責任者だ」

比嘉宗蒼の喉が、ゴクリと固唾を呑む。吐き気に襲われるが、お偉いさんの前で無様な真似は見せられないぞと自分に叩き込み、何とか耐える。

「今回君に来てもらったのは、君に少しトラブルがあった為だ」

土御門、と理事長が呼ぶと、土御門は写真を二枚、比嘉宗に渡した。その中に写る二人の人間は、どちらも比嘉宗の知る人物だった。

「ステイルと、神裂?」

「そう……もっと簡単に一言で言うと、『魔術師』だ」

 

土御門の言葉を聞き、比嘉宗は思わず人間から目を逸らし彼の方を見た。

「何で……それを?」

「そんな事はどうだっていい、いつだって話せる。それより……今は『魔術師』の話だ」

 

土御門曰く……世界には魔術師がたくさんいる。この日本にもいるらしい。彼らの事を魔術サイドと呼ぶ。といっても、魔術サイドにも色々な宗派はあるらしい。

それとは別に、科学サイドというものがある。その中心は、言うまでもなく学園都市。科学が外界より十年か二十年進んでいると言われるこの街と、世界中に散らばる支部を科学サイド、と言うそうだ。

魔術サイドと科学サイドは仲が悪く、これまでも何度か学園都市に個人的に侵入して来ていたようだが、土御門が秘密裏にそれを捕獲していたそうな。

「ただ、今回お前が接触したのは、魔術サイドの中でも中心を担う三柱の一つ、イギリス清教の人間だった」

あ、そういえば神裂が自分達の組織名は必要悪の教会(ネセサリウス)とか説明で言ってたな。比嘉宗は思い出す。

「魔術サイドと科学サイドの頂点に近い集団の人間が、この学園都市の表舞台で出会う……いや、戦う、なんて事は相互不干渉の暗黙の了解に反する。その点で言うと、お前のステイル=マグヌス及び神裂火織との会合は、魔術サイドにしてみれば協定破棄と見なされるかもしれん」

あれ、もしかして俺はかなりまずい事をしたのかあうあう、と自分のやった事の重みに話が始まってから震えていた比嘉宗だが、そこでやっと反論の穴を見つけ、土御門に食ってかかる。

「え!じゃあ上やん……上条当麻(かみじょうとうま)はどうなるんだよ!そんな事言ったら上やんだって接触してるし、あいつはインデックスって子と今も一緒にいるんだぜ!」

「それだよ」

え、と言葉を止められて戸惑う比嘉宗に、土御門は淡々とした声で説明。

「上やん……上条当麻には『禁書目録の管理人』という肩書きができた。ステイル=マグヌスと神裂火織が禁書目録を託した、というのはいわばイギリス清教徒が上条当麻をそう認めた、という事だからな……さぁ、ここで比嘉宗蒼。お前には一体何がある?」

言われて比嘉宗は、ステイルからもらった手紙を思い出したが、あれは読み終えた後に爆竹のように爆ぜ、チリも残さず消えてしまっていた。数秒考え、数十秒唸って、比嘉宗は掠れたように小さな声で言う。

「な……何もない……」

土御門はその言葉に呆れた様に嘆息して、話を続ける。

「そうだ、お前には言い訳もできない状況だ。このままのうのうと暮らしていたら、お前はどこかの誰かに消されていた。それは学園都市の人間かもしれないし、魔術師かもしれん。それを避ける為に……」

 

「土御門、ここからは私が話そう」

 

統括理事長、アレイスター=クロウリーが土御門の話を遮る。土御門は一瞬アレイスターを睨んだ後、話を譲った。

 

「私は今、土御門とある契約を交わしていてね。土御門の『大切なもの』を守る代わりに、彼に汚れ仕事をしてもらっている。その手の人間は自分達の住処の事を『暗部』と呼んでいるらしいが……君もそこで土御門と共に働いてもらいたいのだよ」

比嘉宗は急に出てきた話に驚く。汚れ仕事、なんて言葉は漫画で見た事はあっても実際に耳にするとは思ってもいなかった。

「君が働いてくれる対価として、私は君の『大切なもの』を守る。それは君の命かもしれないし、外にいる君の家族かもしれないし、あるいはどこかの『魔術師』かもしれない。君が『もっとも大切だ』と言えるものを、私は守ろう。一種の契約だと思いたまえ」

アレイスターは言う。その言葉から比嘉宗は感情を読み取れなかった。

比嘉宗は一つだけ、問う。

 

「汚れ仕事……って事は、人を殺す様な事もある……と言う事……ですか?」

「事もあるか?と聞かれれば頷くしかない。たとえ君に暗殺なんかの仕事が行かなくても、例えば秘密裏に荷物を運ぶ途中、敵に狙われたらその敵は殺す以外に方法はない。秘密であるものを確認されてしまっているからだ。そういう事だよ」

比嘉宗は押し黙る。まさか良かれと思ってやった行為がこんな事に繋がるとは彼は思ってもいなかった。

そんな気持ちを見透かしたかの様に、アレイスターは告げる。

「君は今、なぜこの様な事に、と思っているだろう?しかし君は今、かなり幸せな立場にいる事を覚えておいた方がいい」

アレイスターは土御門に目を向ける。

「彼が私に取りなしをしなかったら、私は恐らく君を秘密裏に処理していただろう。それを君は死ぬ事なく、この私と対等な条件で契約を結べる状況にまでなっている。これを幸福と言わず、なんと言う」

その言葉は言外にある一言を告げていた。比嘉宗はその言葉に押され、恐れて遂に口にした。

 

「わかり……ました……これからは、暗部の一員として、努めます……」

 

アレイスターはそれを聞くと、少し口角を上げる。

「土御門元春。そして比嘉宗蒼。君達は有能だ。少なくとも、暗部の中でも下部の人間とは少し違う何かを持っている。それが何であるかはどうでもいいが、私はその何かを讃え、チームネームを与えよう。

 

『グループ』。君達は今日からそう名乗りたまえ」

 




作中でも確か言われていたと思いますが、基本的に学園都市で魔術師と接触するのはNGです。なぜなら、他の派閥、あるいはフリーの魔術師達が自分も自分もと続々と学園都市に入って来るから。そう言う意味では前々回の比嘉宗君の行動は浅慮極まりないもので、正直消されても文句は言えないものです。それを土御門君がどうにか☆を説得して何とか暗部加入のみで済ませた、と言う話。暗部なら魔術師と秘密裏に触れ合う事や、倒す大義名分を楽に手に入れる事ができますし。

今回も読んでいただき、ありがとうございますm(_ _)m
これからもよろしくお願いします!
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