マリユスネタバレ辺りから、主人公とモーリスの話

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雪の足跡

主人公→ユザク

マリユスのネタバレあり注意

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何時の頃からか、無理をするなと良く言われる様になった。

特に何をした自覚もなかったし、領主であった父を亡くしてからは良き領主、良き模範であろうと、気が付けば日々が過ぎて行ったから…何が無理をしているのか、なにが周りから不安に見えるのかすら分からなかったんだ。

 

 

 

 

魔女騒動から始まった王女の帰還は、気付けば時代をも動かす大きなうねりとなってオルタンシア全土を包み込んだ。長く続いた教皇の圧政に喘ぐ市民を筆頭に、正当なる王家の威光を取り戻す為、己の信念の為…理由は様々ではあったが現状を打破するべく多くの者が立ち上がり、武器を手に取ったのである。

 

まだまだ資金面では不安が残るものの王女に呼応する諸侯達は日に日に数を増し、オリヴィエ公アーデルハイドの使いが王女軍の拠点をオーベルからオリヴィエに移す提案を持ちかけたのはあるいは当然の流れだったのだろう…内地にあり交通の便も特筆出来ないオーベルよりはかつて国として存在し、広い港を擁するオリヴィエの方が莫大な人数を受け入れることが出来るのは当然の結果でもあった。

 

 

つまりそれ程に大きな戦いが起ころうとしているのだ。

このオルタンシアに住む全ての人間が、否応なく関わる大きな戦いが。

 

 

 

王女の拠点移動に向けて経路の安全確認やオリヴィエとの連絡など、雑多だが手抜かりは許されない雑事に追われる今、束の間の空白のような時間が訪れたユザクはふと、館を抜け出し丘に向かっていた。父が、妹が眠るこの丘はどこか特別な空気があるような気がして居心地がいい…まるで彼らがそこにいるかの様に。

 

(二人の遺体は結局此処には戻れなかったけどな…)

 

そんな己の思考に苦笑しつつ丘に登る。今日は随分冷え込むから雪になるかもしれないな、そんな事を思いながら登りきった丘の上には変わらない墓石と、それから思いがけない先客の姿。

 

「モーリス」

「おう、ユザクか。どうした?」

 

墓石に向き合い、静かに目を閉じていた姿が普段の彼とは違う気がして思わず声をかけると、振り返った彼はいつもの空気を纏っていて。

何か大事な空気を邪魔してしまったかと戸惑ったユザクに彼は笑みを浮かべると、墓石近くに彼を手招きする。

 

「兄貴に話か?お前も緊張してるんだな」

 

少し茶化す様にそう告げる彼もまた、隠しきれない緊張を漂わせていた…それはそうだろう、これからの戦いは今までの比ではない。教会と王女軍、信念をかけた全面対決になるのだから。

沢山の犠牲が出るだろう…だが引く事は許されないのだ。

 

そんなモーリスの気配を感じながら、ユザクは父と妹の墓に静かに目を向けると軽く黙祷し。

 

「わからない…何か話したい事は沢山ある気はするんだがいざ此処までくると何も思いつかなくて。混乱…じてるのかもしれないな」

 

苦笑の様に短い息と共にそう告げる。嘘ではなかった…何かをしたいと思ったと言うよりはふと此処に来てしまったと言うのが正しいのだろう。大きな出来事が立て続きに起きて、知らずの内に混乱していたのかもしれない。

 

「ユザク…俺はお前に謝らなきゃいけねえとずっと思ってたんだ」

「モーリス…?」

 

しばらくそんなユザクを眺めていたモーリスが、ふと静かな声でそう告げる。彼の真意がわからず見上げたユザクに彼はその顔を少しだけ歪めながら。

 

「他に手段がなかったとは言え、親を亡くしまだちいせぇのに領主を継ぐ事になったお前さんに王女と言う重しまで乗せちまった。普通の奴には背負いきれないでっけえ重しだ。俺は今でもマリエル王女をオーベルに連れてきた事を後悔はしてないし、恐らく俺の出来る最善だったと思ってる…だがお前さんに要らない重しを付けちまった事だけはずっと引っかかっててな…」

 

そう、苦しげに告げるモーリスに彼の抱えた苦しみを知った。彼もまたあの四年前の夜から進めない己を持つ者なのだ…王女もまたあの夜の呪縛に苦しんでいる、自分もまた。

 

思えばオーベルはゆりかごの様だ。傷付き、苦しみ、進めなかった者がもう一度立ち上がるための…歩き出すための。そんな事をふと思い、ユザクは苦笑の様な笑みを浮かべると。

 

「モーリスは俺に、ノンノリアに家族をくれた。マリユスもモーリスも、オーベルに来てくれて本当に感謝しているんだ…だから気に病まないでくれ」

 

そう笑うユザクに、何故かモーリスは顔をしかめる。何が良くなかったのか分からず首を傾げてしまったユザクに、彼は苦い顔のまま。

 

「お前の聞き分けの良さは美徳だが…無理はするんじゃねえぞ?」

「…よく、言われるが大丈夫だ、無理はしてないさ」

 

モーリスにも、周りの人間にもよく言われるが特に認識していないのだから仕方ない。何が危なっかしく映るのかも分からないので改善のしようがないのが事実だった。

 

「だけどそうだな…こんな雪の日は少しだけ不安になる事がある。進んだ道、選択した道に迷いは断ち切ったはずなのに、ふと今までの足跡がかき消えてしまったんじゃないかと。多分、大きな事が起こりすぎて混乱してるんだろうな…」

 

耳を澄まさないと聞こえない程小さな、吐息の様な言葉に己でも自覚していなかった不安が滲み思わず苦笑する。

大きな戦いだ…準備が終わりオリヴィエに出発すれば全てが終わるまでオーベルに戻る事はないだろう。誰一人欠けずに戻ると言う誓いが、己の中にゆっくりと重たいものとしてのしかかっているのを初めて自覚した。

 

「ユザク…」

 

そんな不安を感じ取り、モーリスが心配気な瞳を向ける。その隻眼の瞳が痛まし気に染まる様を見てユザクは苦笑した…彼にも重くのしかかるものが沢山ある、それこそ自分の比ではない事も理解していたのだから。

 

「必ず帰るさ…みんなで。そろそろ冷えてきたから戻るよ、ノンノリアに内緒で出てきたからきっと心配してる」

 

誓いの様にそう告げ、明るく声をかけた。言葉にすれば叶うと盲信する訳ではないが、言葉にしないと不安であった事も事実だ…そんな不安を押し隠して笑うユザクに、モーリスもまた苦笑し。

 

「そりゃ早く帰らないとな。俺はもう少しここに居る事にするぜ」

「モーリスも心配されない程度に帰ってきてくれ、ノンノリアの説教は怖いからな」

 

冗談めかして告げるユザクにモーリスも笑う。ようやく緩んだ空気に安堵しつついとまを告げ、ユザクは屋敷へ戻るために雪が降り出した丘をゆっくりと下りだしたのだ一一一一雪にかき消される足跡を残しながら。

 

 

 

「俺はお前のその真っ直ぐさが折れちまいそうで怖いよ…」

 

 

 

 

そう呟くモーリスの小さな声を聞きながら。

 

 

 

 

 


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