シンシアさんですか?   作:栄光への戦い

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プロローグ

 一つ大きな発見だったのは、原作でプレイした時や、インターネットでイラストを見たときなんかは緑色のモジャモジャ頭――まるでブロッコリーのようだった()()の髪がただの寝癖だったということだ。

 櫛できちんと梳かしてやると、たしかに若干の天パぶりは残るものの、ちょうどいいさらさらなショートヘアーで……なぜ村の人たちは彼女の寝癖をそのままに放っておいたのか。いや、たしかにこの村は辺境の山奥にある村で、ほかの人の目につくとかそういうことはないんだけれども……勇者としての剣や魔法を覚えさせる以前に、人として最低限の身だしなみくらいは整えさせるべきだと思うんだ、私は。

 

 「あっ、見つけた! シンシアー!」

 

 緑髪の彼女――ソフィアが、村の中央にある花畑で寝ころんでいた私の元へ駆け寄ってくる。左腕と左脚が布で覆われた左右非対称ながらも動きやすい独特の服装が彼女お気に入りのファッション(?)だ。動きやすさを重視しているためか女の子としては中々にきわどい恰好だとは思うが……まぁ、剣の修行をする上で、ワンピースとか、そういう女の子が普通は着る服装よりはいいというのは間違いない。いや、なかなかにきわどい恰好なのだけれども(二回目)。

 

 「どうしたの、ソフィア?」

 「使えたっ! わたしもようやく使えたんだ!」

 

 むくっと、上体を起こし、私がそう問いかけると、ソフィアは若干、息を切らせながらも興奮してるのか、そう言って捲し立ててくる。うーん、主語を付け加えてくれるとありがたいんですがね…。

 

 「お……落ち着いて。使えたって何が使えたの? 言ってくれなきゃわからないよ」

 「! じゅ、呪文っ! わたしにもようやく呪文が使えたんだよ!」

 

 私の言葉に一瞬、不意を突かれたかのように目をぱちくりと瞬かせた後、ソフィアはそう言ってくる。

 

 「へぇ」

 「むっ! その様子だと信じてないなー!」

 

 ……だって、いっつもそうだったじゃん。剣術はともかく、呪文に関してはぱっぱらぱーで、いつもヒイヒイ言ってたこの脳筋娘が。前にメラ使おうとして失敗したのはどこの誰でしたっけ?

 

 「ぐぬぬ、じゃあ、見せてあげるよ!」

 

 そう言うとソフィアは、近くの小石を睨み付けると、その小石に向けて手をかざす。

 

 「≪ニフラム≫!!」

 

 凛とした叫びと共に光が溢れ出て、小石を包み込むが、それで終わり。小石はそのままだ。

 

 「ぷっ、くくく……」

 「あれっ、消えない……?」

 「ぶふぅ! あはっ、あはははははは!!!」

 

 かざした手をそのままにソフィアが途方にくれた声をあげる。私はそんなソフィアをよそに肩をぷるぷると震わせ、挙句の果てには笑い始めてしまう。

 

 「でも、さっきは本当に使えたんだ! ほ、本当だ!」

 

 必死になって弁明してくるソフィアがおかしくて、笑いが止まらない。ソフィアが使ったのはたしかに破邪系の初歩呪文である≪ニフラム≫だ。それは間違ってもないし、ソフィアは決して失敗したわけでもない。

 ただ、≪ニフラム≫というのは邪悪なるものを光の力で浄化する、言ってしまえば悪魔祓いの呪文だ。その効果は非実態系のモンスターに対し、有効で、実態的になればなるほど効果は薄れる。今、ソフィアが消そうとしたのは邪悪なる意志も持たない、そこら辺に転がってるただの石であり、≪ニフラム≫の適用範囲外なのだ。

 

 「ソフィアは本当におもしろいなー」

 「……」

 

 そう説明してやると、案の定、ソフィアは顔を真っ赤に染める。

 

 「呪文を覚えたのは本当みたいだけど、その呪文が何に対し有効なのか、しっかり把握しとかないと宝の持ち腐れだよ」

 「うぐっ」

 

 ちなみにそういった頭を使う作業はソフィアは苦手だ。魔法使いのおじいさんがきっと≪ニフラム≫をソフィアに教える際、そういった注意事項も説明しているはずだけど、きっとソフィアは覚えきれずに忘れてしまったのだろう。まぁ、ソフィアのもの覚えの悪さは今に始まったことじゃないから驚きはしないけど。

 

 「……でも、まぁ、呪文を使えるようになったのはほんと凄いよ。石は消せなかったけど、ニフラムが使えるようになったっていうのは、あの光を見て十分わかったから」

 「ほんと……?」

 「ほんとだよ」

 

 疑わしげに上目づかいにこちらを見ていたソフィアであったが、私の言葉を聞いた途端、わかりやすく顔をほころばす。その笑顔は今もこうして私たちを照らしている太陽のようで、ソフィアの明るく前向きな性格をよく表していると思う。

 こんな純真無垢な笑顔を持つ女の子が、天空人の血を引く選ばれし存在であるなんて――。

 後に訪れるでろう、過酷な運命を背負う勇者であるなんて――。

 

 「……」

 

 ……私には到底受け入れることができなかった。ゲームの画面越しではただ物語を進める上での演出として、ありのままに受け入れていた事だが、いざ現実に対面してみると、どうしても受けいることができない……否、受け入れたくないのだ。

 だって、このまま時間が過ぎ去って、この世界がゲームと同じように進んでしまうのだとしたら、私は……この村に住まうソフィア以外の人間は皆、死ぬ。それが避けられない運命なのだとしたら……この子はどんなに傷つくだろう、涙を流すのだろう。

 たしかに勇者としての才能の片鱗は見せる。呪文はまだまだだが、剣に関していえば冴えわたるものはある。それでもソフィアはまだ子供。明るくて、元気があって、他人のために涙を流すことができる心優しい女の子でしかないのだから。私にとって、世話の焼ける、血は繋がってなくともかけがえのない妹のような存在でしかないのだから。

 

 ……私は――未来の勇者であるソフィアの幼馴染にしてエルフの娘であるシンシアという名の少女は――この世に生を受けたその瞬間から、この世界のことを――()()()()()

 

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